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Another 36.28  作者: 高田 勲武
4.司教
13/27

ルーン神殿-晩餐

 自然なその動作から不意に、達也は動きを止める。


 広大なこの部屋で中央へ置かれた無意味に大きなテーブルが一つ。そんなところに座る人数が三人だけというのも却って落ち着かない。


 この部屋の壁に切り抜かれた空間が元は木製の窓であったことを記憶に留めておかなければならないだろう。それは全壊によって今の形となっているということを。


 今は日も落ち、()しくも風情ある涼しい夜風が室内を通り抜ける。


 明かりは天井から吊るされた巨大なシャンデリアとテーブルの上のローソク立てからの光……明るさとしては十分である。そのテーブルの上には、次から次へと皿や器に盛られた食糧が積まれていく。


「どうした?急に……」

 達也の正面に座るフォルティナがその一つを口に含みながら声をかける。


「もう食べないのか?」

 隣……と言っても距離は優に十メートルを超える。その遠く離れたシュウマが、まるで達也の目の前に運ばれていく食べ物を狙うかのように見つめて言った。


「い、いや……」

 達也はフォルティナとシュウマを交互に見ると、両手に持つスプーンとフォークを使って器用に目の前のものを口に運ぶ。


 手の凝った料理だからなのだろうか。


 形及び匂いではこれが何の材料から作られたものなのか皆目(かいもく)見当も付かない。どれも食べることのできるものだし、味も良い。


 三人はルーン神殿にいた。


 管理局の兵士(ソルジャー)の急襲後、この神殿の司教(ビショップ)マリアの……好意と取れば良いのか、ここへ通され、食事を振る舞わされていた。


 次から次へと料理を運んで来る薄く、シルクのような上品で滑らかな生地の服をまとう女性達。無宗教である達也でさえ神々しくも感じる。


 この人々は皆、神殿で言う神官にあたる人達。


(くつろ)いでいますか?」

 破壊尽くされたドアというドア。その一角……即興で体裁を整えるために布を被せたそこから、それをかき上げながら女性がこの部屋へと入って来る。


 一番近い席に座るのはシュウマ。そして、(そば)には他のものとは違う少々装飾が凝った椅子。女性は躊躇(ちゅうちょ)なく、この椅子へと腰を下ろす。


 周りの神官に勧められるがままに座った位置だったのだが、どうやら上座側の席であったようで、初めから決められていたようだ。


 このような待遇に慣れない彼は現状を見つめるばかりで何も言えない。


 女性が座る仕草は上品で、シュウマでなくとも見惚れてしまうに値する。


 服装も生地としては周りの神官達と同様であったが、その作りと飾り――もしかすると同じと思っていた材質自体も異なるものなのかもしれない。そう思える程に他とは位が違うとでも見せ付けているかのよう。


「どうかしました?」

 最初の問いかけにも答えず、じっと自分を見つめるシュウマに対し、女性は顔を覗き込ませながら言った。


 可愛らしさの残る笑顔と、肩の辺りまである髪は綺麗な黒だが癖毛(くせげ)のように少しウェーブが掛かる。またその肢体で、いつも水を受け止めているためか張りと(つや)のあるきめ細かい肌。水をいつも受け止める……


 彼女こそここ、ルーン神殿の司教(ビショップ)マリア。


「い、いえ、何も……」

 少し頬を赤らめて落ち着かず、再び食べ物を運ぶシュウマ。


 らしくない慌てぶりに、あの達也でさえ心が和む。


「それで……」

 マリアはそのシュウマを微笑ましく眺めると、急に表情を真顔へと変えてフォルティナと達也へ振り向く。


 周りの神官達は素早く食べ物が盛られた食器を目の前に置き、コップには赤い液体が注がれる。


「あ、あのっ……」

 達也はおどおどしながらも、ここで口を開く。


 マリアは開き掛けた口を閉じて見つめ直す。――その重大さに当人だけが気付いていない。


「何ですか?」

 少し興醒(きょうざ)めした口調で小さな吐息と共に言い、マリアは目の前のコップの中の赤い液体を一口含む。


「ご、御免なさい」

 達也は落ち着きなく深々と頭を下げる。


 マリアはコップをテーブルの上に置きながら首を傾げる。


「お、俺のせいで……このようなことに……」

 達也は話を続け、辺りを見回して見せる。


 この場にいる皆がその視線を追う。壁、失ったドアと窓……マリアは悟り、少し吹き出す。


「ああ、良いのよ。貴方が気にしなくても」

 話を(さえぎ)る……無意識下ではあるが、そのようなことをしてしまった達也の無礼にも当たる行為。それをそうと全く感じさせないマリアの答え。


「それよりも……」

 マリアは睨み付ける。


 このことも含め、全てを受けなくてはならないのか。


 視線の先のフォルティナが肩を落とす。


「貴方から答えをもらっていないわ」


 それは以前に問い掛けたもの。


「いったい私に何の用なの」

 という問いである。


「ここまで私を巻き込んでおいて……」

 マリアは両手を広げ、辺りを見渡す。


「まさか、だんまりなんてことは……ないでしょうね?」

 そして嫌味にそう告げる。――まるで全ての元凶がフォルティナであると言わんばかりに。


 正確に指し示すならば、本来は達也となるのだろう。


 が、そこまでの事情を知らない……また知る必要もないマリアにとって、それよりも問題となる者をこの神殿内へと持ち込んだ……そういった意味では、やはりその判断が正解なのかもしれない。


 だが、こんな状況に立たされて、言葉だけで説明し切れる程口達者でもなく……


 フォルティナはスプーンとフォークをテーブルの上に置くと、口の中に少し残るものを赤い液体で流し込み、無造作に口の周りを拭きながら立ち上がる。その後、未だ何も言葉を発することなくマリアへと歩み寄ると、(ふところ)から何か紙切れのようなものを取り出す。


 達也でさえ初めて見るもの――それは肌身離さず持っていた……余程大事なものであることが伺える。


「これは……?」

 マリアはその紙切れを何の気なしに受け取って乱雑に広げたが……


 途中、動きを止める。


「そういうことだ」

 フォルティナは少し含み笑いを滲ませながら言った。


 しかし、それもそこまで。また口を閉ざすと元いた席へと歩き出した。


 達也はマリアが呼び止めて何か話し出すのではないかとも予想し、その行方をじっと見守っていたのだが……そういうことにはならないらしい。


 フォルティナは椅子に座り、何事もなかったかのように食事を再開させている。


 マリアは受け取った紙切れを(けわ)しい表情でじっと見つめている。


 時折(ときおり)、折れた部分に書かれている文字を読み取るために広げるが、先程とは異なり、手付きは慎重そのもの。


 全て広げるとA4ないしはB5サイズぐらいの紙切れ一枚。紙自体が古くなっているためか日焼けしており、触ることにより動く際のその音も随分と弱く、大事に扱わなければ破れてしまいそうだ。


「それで……」

 しばらくの沈黙の後、耐え切れなくなったかのように口を開いたのはフォルティナである。


 今度はマリアが無言になってしまい……それに見入ったまま身動き一つしない。


「へぇ、珍しいな。それ『紙』だろ?」

 一番近い場所で座るシュウマが、その雰囲気を感じ取ることなく覗き込みながら言った。


「あら?やはり、わかりました?」

 それには瞬時に答え、声色を使って会釈をしながら美しい顔を近付ける。――全く聞こえていないという訳でもなさそうだ。


 慌てて顔を引くショウマ。マリアは笑みを含みながらその目で追う。


「保存状態が良かったみたいね。ここまで原型を留めた『紙』は、私も見たことがないわ」

 一通り追うと満足したのか話題と視線を戻し、マリアは呟くように言った。


 達也のように遠く離れた位置からでも……その痛みは激しいが、良く知る紙であることがわかる。


「これをどこで?」

 可愛さが少し残る瞳だけを動かし、マリアはフォルティナを見る。


「エリア36.28……でね」

 フォルティナは一息吐くかのように赤い液体を一口飲み、得意気に答える。


 マリアはしばらく考え込む。


 エリア36.28。そこはこの世界へ初めて降り立った地であり、フォルティナと出会った場所。


 思い返せば、確かに不思議な出会いである。何もないあの荒野で兵士(ソルジャー)という訳のわからない者に襲われているところを偶然――それはあまりに都合が良過ぎるだろう。


 あの時、目的を持ってあの場所にいた。


 マリアが見入っている紙切れ一枚……たかが紙切れ一枚かもしれないが、それの入手のためにあの辺境に|赴いて……それでも偶然の域を脱していないとは思うが、何の目的もない「偶然」よりも、いくらか信憑性も上がるというもの。


 フォルティナに確認した話だが、この世界ではものを書く対象は紙ではなく「布」が主流であるようだ。


 紙の場合、その材料は既知の通り、木となるのだが、資源としての再生には時間が掛かる。その点「布」とした場合は、材料は農業として毎年生産されるものであり、資源の再生に掛かる時間としては随分と短くなるという利点がある。


 かと言って、この世界で木は全く使わないのかと言えば嘘となり、例えば窓はガラス製ではなく木製……つまりは環境負荷が低い方が主流となっているのだ。


 布だと、どんなにきめ細かく編もうとも表面がざらざらするといった致命的な欠点を思い浮かべそうなものだが、そこへ書くためのインクの開発。それにより(にじ)みや引っ掛かりを解消するといった技術進歩。


 手間を惜しまない。


 こんな世界でも環境を第一に考慮することに気付かされた達也には、何とも耳の痛い話である。


「文字は(かす)れて読み取り切れないものや、私にもわからない文字があるから何とも言えないけれど……」


 どうやらこの紙には何かが書かれているようだ。


「ここに書かれているのは、間違いなく古代文字のようですね」

 マリアは一つ咳払いをすると、赤い液体を飲み干す。


 近くの神官が即座にそのコップへ赤い液体を注ぎ足す。


「それで実際のところ、どうなんだ?」

 いつまでも確信に迫らないマリアに業を煮やし、フォルティナは不機嫌な声を上げた。


「どう……とは?」

 マリアは振り向くという動作と共に、フォルティナを睨み付けながら低い声で答え、

「貴方が聞きたいのは、これが『ピース・オブ・オリジン』かどうかということかしら?」

 と、付け足す。


 その言葉……取り分け「ピース・オブ・オリジン」に、フォルティナは強い反応を示す。あからさまに言うと気が引けてしまうが、知りたいのは……


 それに対するYESかNOか。


「それとも、この紙切れがピース・オブ・オリジンの『手掛かりかどうか』ということかしら?」


 最悪そうであったとしても苦労は報われる。


 そうなのかとフォルティナは期待を胸に身を乗り出すが……


「私では全てを解読できないと言っているでしょ?」

 初っ端から出鼻を(くじ)かれ……マリアは冷たくあしらい、手に持つ紙切れを叩き付けるかのようにテーブルの上に置く。


 フォルティナは虚脱感(きょだつかん)をその態度で表現すると、立ち上がって再び歩み寄り始める。


「だいたい、ピース・オブ・オリジンは管理局が見定めるもの」

 それは如何に司教(ビショップ)と言えど、立ち入ることはできないと弁解しているかのよう。


「それこそ先程までいた管理局のヴァーモスにでも、鑑定してもらえれば良かったのに」

 と、マリアは無感情に言った。


 理由や目的はさておき、そういう選択肢だってあった筈だ。


 直接、瞳の中に納めることはなかったが、やはりその動きには気が付いていたのだろう。マリアはそこにいて、それをしていることがさも当然である態度でフォルティナを見る。


 当の彼女はちょうどテーブル上の紙切れを丁寧に拾うところ。


「まあ、それができなかったとしても……もし仮にピース・オブ・オリジンの手掛かりかどうかを知るためだけだとしても……」

 マリアは目の前の赤い液体を飲み干し、片肘を付く。


 間髪入れず、赤い液体が注がれる。


「私に聞くより、もっと良い人選もあるでしょ?」

 やけに絡み付き、気分を苛立たせる言い方。


 達也にはそうとしか聞こえない。


 マリアの容姿が更なる拍車を掛けているのかもしれない。が……その感情に気が付いたのか、不意に目が合ったフォルティナが含み笑いをする。


 ピース・オブ・オリジン。それはこの世界の古の遺産――わかり易く言えば古代文明の遺跡。それも世界の創造に関わるものの一欠片(ひとかけら)の総称をそう呼んでいる。


 原点の欠片ピース・オブ・オリジン


 誰がそう呼び出したのか、それを特別視するようになったのかわからないが、


「現在、管理局は原点の欠片ピース・オブ・オリジンの収集に力を入れているんだ」

 達也が知らないことをこの場にいる誰よりもわかっているフォルティナが説明口調で、対面の席へ座りながら口を開く。


原点の欠片ピース・オブ・オリジンを手に入れ、それを管理局へ寄付すれば一生涯の生活保障……つまり一生に掛かる費用の現金支給。さらには今までの、どんな罪をも許される」


 それこそ子供でも知る当たり前の決まり事。


 あえて語ることもないだろうと、やる気のない声でマリアが説明に加わる。


 確かに何とも気の抜けた……行き掛かり上とも思える言い方であったが、それは「管理局が見定める」という事象が(あなが)ち大袈裟ではないことも伺える。


 いや、原点の欠片ピース・オブ・オリジンが管理局にとってどれ程重要で、力を入れているかがわかろうというもの。世界をもっと知る必要のある達也にとっても、原点の欠片ピース・オブ・オリジンは予想以上に重要な意味を持つものなのかもしれない。


「そんなに優遇(ゆうぐう)されるものだから……」

 シュウマも加わる。


 後頭部へ両手を回し、背伸びをしながら……

「実際、トレジャーハンターの最終目標は原点の欠片ピース・オブ・オリジンであると言っても過言ではないな」

 と、軽い口調で。


原点の欠片ピース・オブ・オリジン入手のため、手段を選ばない輩がいるのは事実」

 フォルティナも同様に被せると、赤い液体を一口飲む。


 確かに入手さえしてしまえばそれまでの犯罪全てがリセットされるのだから、手段どうこうというよりも、それを入手することが「正義」となるだろう。


 単純に考えてトレジャーハンターのモラルというものは低下するだろうし、関わりたくない人種とさえなり得ることも容易に予想できる。


 ただ、達也がこの話を受け、即座に理解できるのは……


「あ、貴方、まさか……!」

 それを割り、マリアが何かに気が付いたかのように目を見開き、顔を上げてフォルティナへ責め入る。


「これは私が決死の覚悟で、エリア36.28の遺跡から入手したものだ!」

 途中で止められたその言葉であったが、意を()み取ったフォルティナが飲み掛けの赤い液体の入ったコップをテーブルへ叩き付け、後生大事に持つ紙切れをちらつかせながら声を荒げる。


「いくら私でも、最低限の分別ぐらいはある」

 フォルティナは言って心外とばかりに、不機嫌に外を向いてしまった。


「あ、あの……」

 達也がそんな雰囲気を打ち消すかのように恐る恐る……そして弱々しくではあるが小さく手を上げて名乗りを挙げる。


 強引に割って入ってでも聞きたかったこと。


「遺跡から出土されるものと原点の欠片ピース・オブ・オリジンの違いは何なの……かな?」

 部外者である達也にとって、どうしてもその違いが理解できない。


 遺跡は元々いろんな用途……様々な目的があるのだろうが、少なくとも前時代のものであり、その造りや精度から当時の文明を()(はか)るものに他ならない。


 そう言った意味ではどの遺跡であっても今の文明の原点――原点(オリジン)なのだ。


 その一欠片(ひとかけら)原点の欠片ピース・オブ・オリジンと呼べるものではないのだろうか。そう捉えることが単純であり、そう考えると、普通の遺跡と原点の欠片ピース・オブ・オリジンの区別が付かなくなってしまう。


 あえて原点の欠片ピース・オブ・オリジンを特別視する理由は何なのか。


「正確には私達にもわからないわ」

 その質問に答えたのはマリア。


「繰り返しになるけど原点の欠片ピース・オブ・オリジンを見定める……決めるのは管理局」

 それを言わなくてはならない面倒臭さ……必然的にどうしても嫌気一杯の感情が込められてしまう。


「ただ、それはどう見ても原点の欠片ピース・オブ・オリジンそのものではないでしょうけど……ね」

 その後、その矛先は紙へと向けられる。


 あまりに目に余るとし、フォルティナが牙を()き出しにするかのように口を開きかけるが……


「少なくとも、その紙に書かれていることは完全に把握する必要があるわ」

 突然冷静な口調に戻し、さらに言ったマリアの言葉により(なだ)められる。


 それには皆……百パーセントの理解を得ることのできない達也でさえ納得できた。


 その紙切れが何を示し、何を意味しているのか。それを知らずして、原点の欠片ピース・オブ・オリジンかどうかなど、論ずることすらおこがましい。


「クレストへ行きましょう」

 マリアは瞳を輝かせ、いきなりシュウマへとその身を乗り出して提案する。


 ――「行きましょう」と言っても、司教(ビショップ)である彼女がそれに属するルーン神殿より外へ出られるとは思えないが。


「い、いや、俺に言われても……」

 そこには深く触れずしても、ギルドで行ったパーティの契約上……フォルティナをリーダーとするパーティ構成から、決定権のないシュウマは身を引き、狼狽(うろた)えるばかりで何も言えない。


「クレスト……『魔導の村クレスト』か?」

 何故その名が出たのか疑問に駆られたフォルティナが確認する。


 「魔導の村」とはまた、物々しい名前が付けられたものだと、どうしても観点のずれてしまう達也はそこに感心してしまう。


「そうよ」

 マリアが再度振り向く。


「クレストには『知識の塔』もあるし……」


 知識の塔。――今まで培ってきた歴史や技術……この世界の文字通り「知識」の全てが集められた塔。そのようなものが存在するならば、もっと早くに教えて欲しかったと不満さえ覚える。


 フォルティナはなるほどと言わんばかりにその手を打つ。


「それにそのクレストの村長は『知識』に関して、私の恩師に当たる方なの」

 その後に言ったマリアの言葉が、そこへ向かうことに対しての正当性を裏付ける。


 魔力を統括するには、どうしても必要なものが知識。――よって司教(ビショップ)ともなると、それこそ人一倍の教養が必要となるのだ。


 フォルティナがこのような相談を司教(ビショップ)であるマリアへ持ち掛けたのは、単に知人だからといった何も考えなしに行った行為などではなく、そう考慮してのことであると彼女の名誉のためにも強調しておきたい。


「わかった。まずはこれの……」

 フォルティナは興奮気味に手に持つ問題の紙切れを見せ、

「完全解読が優先だな」

 と、言うと共に、達也にも届かない自分の懐へと忍ばせる。


「次の目的地は魔導の村クレスト」


 それは学問と知識、魔法の村クレスト。


 フォルティナはもう片方の手でコップを(かか)げる。――この動作は自分にも求められているのだろう。


 達也は慌てて自分の目の前にもあるコップを持ち、肩の高さ辺りまで持ち上げる。フォルティナはそれを横目で確認し、口元を(ゆる)ませる。


「我らに魔導、あらんことを」


 それは何かの決め台詞だろうか。


 それが合図となり、フォルティナはコップを少し上へ持ち上げた後、中身を飲み干す。


 フォルティナは喉を鳴らして口に含んだ液体を全て飲み込み、含み笑いをしたまま会釈している。――これがこの世界での乾杯の仕来りなのか。


 達也は自分のコップの中にある赤い液体を覗き見る。


 一口飲んでもかっと熱くなるその液体。一気に飲み干すなど……シュウマとマリアを見ると、二人共既に飲み終わり、一息を吐いている。


 それをしないことに気付かれ始め……好奇と疑念の目を向けられ、達也だけがやり過ごすことなんてできる筈もなく……


 達也は意を決してコップ内に多く残るその赤い液体を勢い良く飲み干した。

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