テレビの無い旅館
休暇中に旅に出た私はある旅館に泊まった。部屋に入ってみると、あることに気が付いた。それはこの部屋にはテレビが無いのだ。フロントに行き、部屋にテレビが無い旨を伝えたところ、旅館の御主人が「最近はテレビを見る人が少ないから置いてないんです。」と応えた。仕方く大広間の共同テレビを見ていたところ、御主人が「そんなに見たかったらテレビが有る部屋に替えてあげますよ。」と言った。どうしても見たい番組が有ったので替えて貰うこととした。その部屋は旅館の一番奥にあり、他の部屋から大分離れた所に位置していた。ベッドや布団がかなり粗末なものだったがテレビがあるのだから仕方がないと思い我慢することとした。
深夜、一人でテレビを見ていると男が一人入って来た。その男は無愛想で私の斜め前に座りテレビを見始めた。「誰ですか。」と声を掛けたが返事は無かった。そのうちその男はベッドで寝てしまった。御主人に苦情を言おうとしたが既に寝ていたため言うことが出来なかった。そのうち、女性2人が入って来た。入れ替わるように男は部屋を出ていった。二人の女性は小声で何か話していたが良く聞こえなかった。女性達に話しかけたが二人共反応しなかった。2時間程経過した後、白髪の老人が入って来て、女性2人は出ていった。一晩中このようなことが繰り返された。結局、一睡もすることが出来なかった。
翌朝、私は御主人にこのことを伝え、「料金は半額しか払う気はない。」と強い口調で言った。すると御主人は「料金を貰うつもりは毛頭ありません。この旅館は、従業員の休憩所に泊まったお客様からは料金は頂かないこととなっていますから。」と応えた。御主人によると私が泊まったのは従業員の休憩所であり、私が声を掛けても反応しなかったのは、従業員は客との私語を禁じられていたからであった。旅館を出る時、昨日の従業員達が旅館の前に並び、「いってらっしゃいませ。」と大きな声で私を見送ってくれた。食事をしてマッサージまで頼んだのに、なぜ無料なのか不思議だった。