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流転の騎士  作者: KEN
一章
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第一節 近衛騎士アレン・バックノーリス5


 アレンの腕の力が弱まる。不意に自由になった男の右腕が、男の犯した罪を噛み締めた。


「今ここで貴方を捕まえれば、確実に不幸になる子供がいる。誓って下さい。子供の為という言葉で罪を正当化しないと。そうすれば、貴方を捕らえるような事はしません」


「俺を逃がせばお前は罪に問われる事になるんだぞ?」


「構いません」


 そう答えて眼差しを向ける。信用とは基本的に目で得るものであるとアレンは考えているのだ。その言葉に嘘偽りはなかった。たとえアレンが窃盗幇助の罪に問われようとも、救える命を救わなくして、騎士であると胸を張れないのだ。それがアレンの信念だった。


 男の腕を引いて立ち上がらせる。想像以上に軽い事に気付いて、貧困街の暮らしが脳裏に過ぎった。


「……お前は他の騎士とは違うのか?」


 男の問いを肯定する事も否定する事もアレンには出来なかった。アレンがしている事は騎士としては間違っているからだ。


 貧困街の苦しみを記憶しているからこそ、男を真っ当な道に戻したい。アレンがそう出来たように、男にも切っ掛けがあればまだ引き返せるだろう。アレンにとっては目の前の男も『護るべき民』の一人であるのだ。


 路地の脇に積まれた酒樽の足元。そこに投げ捨てられた婦人用の手提げを拾い上げる。破損していない事を確認して、アレンは一つ息を吐いた。乱雑な中身は男が必死に逃げ回ったからだろう。それ以外に問題は無かった。


「これは自分が持ち主に返します。盗品は取り返したものの、犯人には逃げられた。それだけの事です」


「しかし、それではお前が……」


 歯切れの悪い男に対して、アレンは真剣な眼差しを向ける。


「貴方には護るべき人が居るはずだ。ここで捕まれば二年は牢獄の中です。その後もまともな奉公先が見つかる保障はありません。世間の目というものは元罪人というだけで冷ややかになる。そんな状況で貴方は戦えますか?」


 言葉を呑み込んだ男の顔にはアレンに対する感謝の念が表れていた。信仰する神を見つめるような瞳に、気恥ずかしさを覚えてアレンは頬を掻いてから話題を変える。


「知人に腕の良い鍛冶師が居るのですが、その方に貴方を紹介しようと思います。如何(いかが)ですか? 俸給の方も自分が口添えします」


 鍛冶師という職業は個人経営の職業の中でも高収入なのだ。その理由は簡単で、アースライド帝国では平民の武装が認められない。武器だけではなく、防具であっても所持するだけで重罪になる。それは帝国(この国)独自の法である。しかし、平民の武装は認められないのだが、王族や貴族の中には鑑賞用の武器を蒐集(しゅうしゅう)する者が多く、権力や財力の象徴として高額の依頼が鍛冶師の元に舞い込むのだ。


 アレンが騎士の誓いを立てた際に附与(ふよ)された剣は、実用性と見栄えを兼ね備えた物であったが、一介の騎士が持つのは実用性に重きを置いた物である事が多い。鉱山都市とも呼ばれるアースライド帝国の武具は上質な事でも有名であり、一介の騎士が持つような武具ですら高価なのだ。


 騎士にとって武具とは魂とも呼べる誇りの象徴である。私生活に支障を来たしたとしても、それに金を掛けるのはごく自然の事であった。


「いいのか? そんな事まで面倒を見てもらって?」


 男の言葉に頷いて見せたアレンの瞳に迷いは微塵も感じられなかった。



第一節はこれで終了となります。この時点で主人公であるアレンの事を少しでも理解していただければ、目的は果たせたということでしょう。


しかし、全てを語り尽くしたわけではないので、これからも読んでいただければKENが泣くほど喜びます。


第二節のあとがきでお会いできる事を祈ります。


それでは、お体に気をつけて下さいね。


――KEN

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