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Liar Crow  作者: 結愛 稔
2/2

正体

どれだけの時間が経っただろう。

私たちは見つめ合ったまま、静止していた。


「ちょっとぉ、柑菜?何空見上げちゃってんのよ」

「…え?」


萌華ちゃんには見えてないの?

この、みょうちきりんな男が。


「早く行かないと遅刻しちゃうよ」

「う、うん…」


手に取ったはずの黒い羽は消え、

その羽を生やした男の姿も消えていた。

夢?

そんなわけない。

立ったまま夢を見るなんてありえない。

ありえないけど、羽を触った感触が離れない。

私は、これから起こる摩訶不思議な出来事を想像することもなく、

学校へと向かった。


「あ、柑菜、おはよう」

「おはよう、恵梨ちゃん」


挨拶をするのも面倒くさい。

学校に行く事も。

勉強したって、将来何の役にも立ちやしない。

特に夢を持つことなく、今まで生きてきた。

これからもきっと、夢なんて持たない。

つまらない日々の中で夢を持ったって、無駄。

そんな事を考えながら授業を受ける。


「っと…、今日の授業はここまでにして、今日は皆に新しい先生を紹介します」

「マジで?」

「男かな?女かな?」

「女だったらやっぱ、黒髪ロングに眼鏡だよな!」

「イケメンだといいなあ」


皆が自分の理想や期待を発していると、教室のドアが開いた。


「えー、こちらは、白澤…」

白澤しろさわ 侑李ゆうりだ。よろしく」

「…」


一瞬、教室のざわめきが止まり、皆が白澤先生に釘付けになった。

肩まで伸ばした白い髪、真っ白な肌、すらりとした体。

何より、目が、死んでいる。


「ねぇ、柑菜。あの人イケメンだね」

「え…」


イケメンと言うより、怖い。

だって、おかしいじゃない。

学校の先生があんな色の髪の毛してるなんて。

普通の人間でも、ヴィジュアル系の人たちくらいじゃないの。

それに、口元だけしか笑ってない。

背筋がゾッとした。


「白澤先生は音楽の担当だ。今週の音楽は、お、今日の午後にあるのか」

「では、後ほど」

「…っ!」


白澤先生が教室を出る時、私の方を見て笑った気が。


「ねぇ、今こっち見て笑わなかった?」

「し、知らないよ。見てなかったもん」

「かっこいいなぁ。でもあんなかっこいいんじゃ、彼女くらいいるよね」

「さぁ…」

「高校生のあたし達なんか、相手にしてくれるわけないかぁ」


確かに笑った。

微笑みかけるとかじゃなくて、嘲笑うかのような。

やっぱり怖い人。

授業以外では関わりたくないな。


「あの男には気を付けろ」

「言われなくたって…、え?」


登校中に出会った、あの男と同じ声。

窓も開いていない教室に、風が吹いた。

恐る恐る隣を見ると、あの羽を生やした男が立っていた。


「よっ。また会ったな」

「…う、わっ!」


思わず立ち上がり、その拍子に足元がぐらつき、転倒してしまった。


「柑菜!?大丈夫!?」

「い…ったぁ…」

「柑菜、立てる?」

「うん…いたっ!」

「やだ、足くじいたんじゃないの?保健室、保健室行こ?」

「…い、いい、独りで行ける。大丈夫…」


人の手なんて、借りてたまるか。

足くじいたくらい、どうってことない。

そんな事より、何なの?

皆は、私が足をくじいた事に動揺してたけど、

あの人が現れた事に関しては、何も言ってなかった。

どういう事?

やっぱり、私にしか見えてないの?

どうして?

保健室に入り、フラフラになりながらベッドに横たわると、

天井に張り付くように、あの男が浮いていた。


「ドジだな、お前」

「…っ!あきゃぁぁ!」

「ははっ!面白い悲鳴だな」

「な、なな…っ!」

「そんな事よりお前、あの男には気を付けろよ?」


そんな事よりって。

あの男には気を付けろって。

あんたの方がよっぽど要注意人物でしょうが。


「…あんた、誰?」

「俺か?俺は、クロウだ」


クロウ。

鴉?

黒い羽、だから?


「た、単純な名前ね…」

「っんだよ!良いだろ別に!」

「何で…あたしにつきまとうのよ」

「お前が俺の、次期相棒だからだ」

「…は?」

「だから、お前が俺の」

「ちょっと待って。あたし、お前って名前じゃないんだけど」


男は首を傾げ、私の横に降り立った。


「だってよ、お前の名前知らねぇもん」

「あたしは、柑菜。黒木柑菜」

「そうか。じゃあ柑菜。柑菜は、あれ持ってんだろ?」


あれ?

あれって何?

私が持ってるのは、携帯と財布と、教科書にノートにペンケース。

これと言って変わった物は持ってない。


「これだよ、これ」


クロウは私の首元にあるネックレスを指先でちょいと上げてみせた。

顔が近い。

近くで見ると、綺麗な顔立ち。

登校中に出会った時のように、また見つめてしまった。


「なんだよ、俺に惚れたか?」

「…このネックレスが、何なの?」

「柑菜って…、俺の質問を毎回無視するよな」


クロウは溜め息を吐きながら、ベッドの上に座った。


「そのネックレスは、鴉の証。それを持ってる奴は、言うなれば、勇者だ、勇者」

「やっぱり鴉なのね」

「わりぃかよ」

「別に。…ん?鴉の証って、あたし鴉じゃないし。人間だし」

「だからおかしいんだよ」

「何が?」


クロウは再び立ち上がり、腕組みをして首をかしげた。


「それは、普通の人間には手に触れることさえできない。鴉の証だからな」

「でも、あたしは現に手に触れることができてるじゃない」


ネックレスを外し、太陽の光を当てキラキラと光らせてみせた。


「それは、最初に手にした者からその子供へ、その子供の子供、子供の子供の子供っていう風に、

 受け継がれていくんだ。だから」

「だから、最初に手にした者はもちろん鴉だから、受け継ぐ相手も鴉ってこと?」

「お前飲み込み早いな」

「だけど私は鴉じゃないのよ?」

「いや…」


クロウはニヤニヤしながら私に近付いてきた。


「気付いてないだけかも?」

「…やめてよ、気持ち悪い」

「き、きも!?」


そうよ。

私は今まで普通に生きてきた。

羽だって生えてない。

生ごみだってあさらない。

だから、鴉じゃない。


「じゃあ聞くけど、その鴉の証はどうやって手に入れたんだ?」

「おばあちゃんよ。あたしの母親は、あたしが3歳の時に死んで、死ぬ間際におばあちゃんに渡したら しいの。物心がついた頃に、あたしに渡してくれって」

「そのババァは、手に触れてお前に渡したのか?」

「…受け取ったのは中学の時で、箱に入ったまま手渡されたわ。おばあちゃんも、一度もネックレスに 触れてないと思う」

「決まりだな」

「何が?」

「やっぱり柑菜は、鴉だ」

「そんな…だ、だって、羽だって生えてないし…」

「あぁ、今はな。羽は20歳を超えてからしか生えてこない」


そんなことって、ありなの?

母親が、鴉?

アルバムで見た母親にも、羽なんて生えてなかった。

だけど、考えれば考えるほど、本当に鴉なんじゃないかって思えてくる。


「黒木さん?いるの?」

「ひえっ!…は、はいっ!クロウ!隠れて!」


極力小さな声でクロウに命じた。


「何で?」

「何でって!あんたみたいなみょうちきりんな奴が学校に侵入してるって知られたら…っ!」

「入るわよ?」

「…っ!」

「どうしたの?そんな驚いたような顔して…。ちょっと足見せてもらうわね」

「…?」


クロウはニヤニヤしながら天井をくるくる回っている。


「腫れてるわねぇ。転んだの?」

「…いえ、立ち上がる時にバランス崩して…」

「そう。とりあえずシップ貼って、様子見ましょうか」

「はい…」


クロウの顔を見ると、まだニヤニヤしながら天井をくるくると回っていた。


「俺の姿は、普通の人間には見えない。だから、今朝会ったあの女にも、教室に居た奴らにも、俺が見 えなかった。だろ?」


そうだった。

何故だか分からないけど、こいつの姿は他の人には見えないんだったわ。

それにしても、私が、鴉。

なんだか、変なことに巻き込まれそう。

色んな事を一気に考えすぎて眩暈がした。

そして私は、頭痛と眩暈がすると保健の先生に伝え、休むことにした。


…お母さん…。


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