朝食で出てきた肉塊について
朝食で足が出てきた。
如希は上半身だけになっていた。
「召し上がれ」
弱アルカリ性の臭いが強い朝八時のダイニング。
雑に包帯を巻いた足からは、まだ血が滴り落ちている。
どこかにノスタルジーを感じる臭いに、思わず何かを吐き出すように口を開けた。
「お前……何を……」
ん、足を切っただけだよ。
如希はそう言い、体を傾けて微笑んだ。
如希はわざわざ車椅子を用意していた。
車椅子に乗ったあとに自分で足を切ったのだろうか。
それとも俺が寝ている間に足を切ってステーキにしていたのだろうか。
もしかしたら誰かに切ってもらったのかもしれない。
そもそも、痛みはどうなる?
現実にありえないことを目にすると、人は妄想に襲われるらしい。
「私の足なら食べられるよね?」
如希の目は至って真剣だった。
悪夢にも程度というものがあるだろう。
意味をなさない言葉を叫んで自分の頬を殴っても、やはり目覚めなかった。
これは現実だ。
如希の足は切れているし、如希は足を失った。
そして、その足を俺に食えと要求してくる。
「人間が人間を食べるのって危ないんだよ」
俺は冷静平静を装って答えた。
普段の口調より幾段と優しく、震えた声で答えた。
如希はこちらを淀みない目で見つめ、再度口を開く。
「私は足を切ったんだよ? 食べてくれたっていいじゃない」
如希は車椅子の肘掛けから手を外し、車輪部分に手を置いた。
キッチンに向かおうとした如希を、ちょっと待ってくれ、と引き留める。
如希が何をしようとしているかは明らかだった。
「わかった、食べるよ」
俺は如希に押されてばかりいる。
如希のそばは俺以外の誰であっても許せないし、俺は灯篭に篭められた燃え続ける炎のような愛を注いでいる。
だからこそ、如希を食べないわけにはいかなかった。
「やったね」
如希は白く魔法をかけるように微笑んで、窓から空を見て言った。
如希はそのまま、聴覚を失ったかのように俯いて、小さく口を開いた。
「これで私たち、ずっと一緒だね」




