ズレた天気予報
「できたよー!」
朝の光が差し込むアパートの一室。
JKが二人で住むには、少し余白のある部屋。
真ん中に置かれたちゃぶ台の上には、白米、味噌汁、目玉焼き2枚と、ほうれん草のサラダが置かれていた。
見た目だけなら、いつも通りの朝ごはんだった。
「……」
向かいに座ったよもぎは、何も言わずに目玉焼きを見ていた。
「なに、その顔」
「あずき」
「はい」
「昨日、冷蔵庫に卵はいくつあった」
「……」
嫌な予感がした。
「1個」
「今、何個ある」
「2個、ですね、。」
あずきは気まずそうに作り笑顔をした。
「いやでも!便利だったから!」
そう言ってみたが、よもぎの考えは変わらなかったようだ。
「魔力を無駄遣いするな。必要な時に使えなくなるだろ。」
2人は、朝ごはんを食べながらまだ言い合いをしている。
「はー!?そんなこと言ったらよもぎだってこの前星の色変えて遊んでたじゃーん!」
「それはただの娯楽。」
「…何が違うの。」
「コンビニに行って買えばいいだろ。別に生活に魔法を使うなとは言わないよ。」
「???」
あずきはイマイチピンと来ていなさそうだ。よもぎは続けた。
「生活を便利にすることと、放棄することを履き違えるなって言ってるんだよ。」
「…。」
あずきは何も言い返せない。
「コンビニまで徒歩3分。」
「…知ってます。」
「何か言うことある?」
「ないです…。」
「なら飯食うことに集中しろ」
あずきは完全に言い負けてしまった。休日の朝から説教を受けて、あずきはいい気はしなかった。
ザーーーザーーー
『速報です。〇〇県〇〇区に、大雨注意報が発令されました。今後、雨雲の状況によっては警報に変わる可能性もあるので、なるべく外出は控えるようにしてください。』
ラジオから聞こえてきた、6月のある土曜日の天気。梅雨入りする季節では、よくあることだ。
でも、ココ最近、注意報や警報が出されることが昔よりも多いと感じていた。
あずきは嫌な顔をしていた。
よもぎは立ち上がった。
「何してんだ。早く外行くぞ。」
「え、ほんとに言ってる?まだ食べてるんだけど」
こうなったらよもぎを止めることはできない。
「そんなの帰ってきてから食えばいいだろ。」
「え、えぇ…。まぢすか、」
よもぎはレインコートだけ着て家を飛び出した。
「ちょ、バディ置いていくとかありえないんですけど!??」
「うるさい。早く来ないのが悪い。」
あずきは置いていかれかけた。
ザァァァーーー。
たしかに大雨だった。周りに人はいない。みんな家の中に入ったのだろう。
「止むの待った方が良くね?」
「絶対やだ」
「…はーい。」
(別にこれ私たちがやんなくても雨なんてそのうち止むじゃん。)
内心そう思っていた。よもぎは、そんなあずきの心を読んだかのように話し始めた。
「この程度だったら、私たちが手を出す必要はない。」
あずきは驚いた。仕事熱心なよもぎがそんなこと言い出すと思わなかった。
「じゃあ───」
「でも、」
よもぎはあずきの言葉を遮って話を続けた。
「私たちは止むまで待つ人じゃない」
──人を災害から守る──
「魔女の使命があるから」
珍しくよもぎが笑っていた。まるで、初めて魔法を使った無邪気な子供のように。
よもぎはあずきの方をみた。こんなに大雨が降っているのに、聴こえるのはよもぎの少し低い声だけだ。雨の雑音なんて、ちっとも聞こえない。これも、よもぎが使った魔法なのだろうか。
よもぎはずるい。結局あずきは、いつもそんなよもぎに言い負かされてる。
「あーもう。わかったよ。使命なんですよね?わかりました。魔女ですもんね私たち!で!どーすんの。雨消せんの?」
呆れたようにあずきは言った。もうどーにでもなれーって思ってる。
「消すのはむり。だから、」
「だから?」
よもぎは雨雲を見上げ、小さく息を吐く。
「──色を抜く」
手からキラッと光が出て、額縁が現れた。反対の手で持っていた筆で、ゆっくりと額縁の中の雨雲をなぞる。
額縁の向こうで、黒かった雲がゆっくりと色を失っていく。
墨を一滴ずつ水で薄めるように。
重たく垂れ込めていた雲は灰色へ変わり、激しかった雨音も少しずつ穏やかになった。
「おぉー!雨弱まったー!」
「雨の色の採集もできたし、一石二鳥だな。」
よもぎは小さなインク瓶の中に、雨の色を入れていた。いつか使うのだろうか。
「…空はやったから、陸地の方は任せたぞ」
「アイアイサー!」
(不安だな。)
あずきの身軽さに、よもぎは不安がよぎった。
スッ
あずきは、濡れた地面にそっと手を置く。そして、ポケットから取り出した懐中時計に、魔力を込める。キラッと光ったかと思えば、懐中時計の針はものすごい速さで進み始めた。
あずきの手を添えた地面は、だんだんと乾いて行った。あずきの触れた地面は早送りされ、濡れた地面も乾いたのだ。
「…石ころ」
「え?」
あずきは小石を拾い、人が通らなさそうな方に投げた。
「誰かが転ぶかもしれないから…、雨で流れたんだよ。」
なんだかとてもあずきは落ち着いていた。魔力を使うと、気持ちが落ち着くらしい。
家に帰ると、冷めた朝ごはんが仕事帰りの2人を待っていた。
「…とても悲しい。」
冷めたことを気にしていたのはあずきだった。
「温めればいいだろ」
「魔法で?」
「レンジで。」
チーン。
「暖かい、。美味しいわ。魔女なのに、レンジに負けた気分。」
「文明はすごいからな。」
ザーーーザーーー
『以上、気象管理局からのお知らせでした。』
ラジオが切れる。
窓の外では、
さっきまでの雨が嘘みたいに弱くなっている。
歩き始める人。
子どもの笑い声。
あずきがぼそっと、
「……予報、ズレたね。」
読んでいただきありがとうございました。
次回は「お隣さん」です。アパートならではの問題ですね。お楽しみに。




