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四月一日、魔女のいたずら

作者: ラス

 三月三十一日、東京某所。

 今日も東京に巣食う極東魔女協会の面々は、いつものように暇そうにしていた。

 そんな中、一人の魔女が思いついたように喋り始める。


「明日ってエイプリルフールだよね」

「そうだねー」

「でもさ、やっぱワタシ思う訳。ウソはよくないなって」

「もうウソついてんじゃん」

「だからさ、明日はウソをついていい日じゃなくて、ウソがつけない日にしちゃわない?」

「無理でしょ私らにゃ」

「あたしらはウソなんてつかないもんね。だからつけなくなるのは東京の皆さんだよ。これを機にワシントンさんのような正直者になってもらいたいものさ」

「わー魔力やばそ」


 そんな寝言のような会話であったが、それを実現してしまえるのが魔女である。

 とはいっても、今の衰えた魔女達ではそんな大規模強制魔法は簡単には使えない。寝言をほざいた二人の魔女は、それを実現すべく奔走した。連絡の取れる魔女全てに声をかけ、足りない魔力は積み立て定期を解約してまで確保した。それでも東京都内限定一二時間のみが限界だったが、ぎりぎり可能になる人数と魔力を確保。

 協力してくれた魔女達と、わいのわいのと魔法陣が描かれた広間へと集合した。


「はー疲れたー」

「チホ、あんた頑張ったよ」

「キホもお疲れ様!やっぱ遊びは全力で行かなきゃねっ」


 ちなみに魔女の名前にはチホやキホのような、〇ホという名前が多い。マホという日本最古にして最強の魔女の名前であり、魔法という言葉の語源でもある。その名にあやかろうと子供に付ける親は多い。


 そんなポピュラーな名前をもらったチホは、その名に恥じないなかなかの魔女であり、集団魔法の調整役として一二を争う実力を持っている。そしてキホは強制魔法を得意としていた。キホを中心とした合唱魔法を、チホが調整して強引に成立させようというのが今回の算段だ。


「じゃ、いくよ」

「うん」


 合唱詠唱が始まり、それぞれの魔力が暴れそうになるのをチホが調整、段々と魔力が一つの奔流となり魔法陣をぐるぐると回りはじめる。それを見たキホが、仕上げの呪文を唱えた。

 

「ジャロッテナンジャロナー!!」


 こうして大規模集団強制魔法「ジャロ」は発動し、東京を包み込みように魔力のベールが落ちた。


 魔法の効果時間は朝七時からきっちり十二時間。

 魔女たちは汚い笑顔を浮かべながら、魔導鏡であちらこちらを見物し始めた。 

 



 

 ---

 朝七時、東京板橋のとあるマンションにて。

 羅栖村恭介は、同棲している彼女と朝食を取っていた。


「ほんと朝早くにありがとう」

「ううん、大丈夫。たいしたのは出来なかったけど」

「ほんとだね。これなんか急ぎすぎたか知らないけどクソマズイよ。……あっ」

「……はっ?」


 

 


 中野にある某高校の校門前。


「倉崎!スカートが短すぎるぞ!」

「えーそうでもないくない」

「おっぱいを揉ませてくれたら見逃してやるんだけどなあ!……あぇっ!?」

「キモっ!でもこれうまくやったら10万くらい取れるかも?ラッキー!……あっ」

 




 国会の片隅にて。


「儂は〇国の指示通りにしか動かんぞ!……ほぁっ!?」



 

 

 東京各地はまさしく大混乱に陥っていた。

 この魔法、嘘をつけないというより本音で喋ってしまうという性質のものであり、ゆえに皆普段は隠している本音をさらけ出してしあうのだ。

 うっかり本音を言ってしまったカップルが修羅場になったり、教師が問題発言をしたら他の教師や生徒までも問題発言でめちゃくちゃになったり。

 そんな中、外務大臣が爆弾級の発言をし、混乱は日本中へと波及する。完全に某国の傀儡となっていた大臣はうっかり秘密を喋り、つられて秘書も暴露。それを聞いた他の政治家が暴言と暴露。暴言と暴露の嵐で収集が付かなくなっていた。


 そんな中、一組の男女がお互いに緊張した面持ちで歩いていた。

 周りの様子を見て、これは喋ってはいけないやつだという事を直感して黙り込んだ二人。

 だが、しばらくして本音しか言えないという状況を理解すると、二人にもう一つの考えが浮かんだ。


 告白するなら、今なのでは。


 お互い好きあっている中であるが、お互いに確信が持てない。

 今告白すれば、100%本音の返事が聞けるのだ。だが、断られた場合も本音である。告白して、相手の本心が聞きたい。でも怖くて聞けない。でも聞きたい。


 日本中が阿鼻叫喚する中、その二人の回りだけは甘酸っぱいフィールドに包まれていた。

 

 

 そんな甘酸っぱい二人を、マホとキホが汚い笑顔で見守っていた。

 この二人、なんだかんだと恋愛話が好きであり、覗くものも恋愛に関するもめごとを起こしている人達を中心に楽しんでいた。そんな中見つかってしまったのが上記の二人である。

 もじもじとお互いを見つめながらも、何もしゃべれない。そんな二人に、魔女二人のポテチ消費が止まらない。


「やっぱさーカレシのホンネってやつ?怖いけど聞きたいよね」

「カレシいた事ないけどやっぱ聞きたいよねー」

「私の本音は今すぐお前らをブチ殺したい、ですね」

「「んっ??」」


 気付けば。

 二人の間に、一人の魔女が座っていた。


 彼女の名前はマホ。最強最古の魔女であり、今を生きる悠久の魔女。

 一体いつから存在していたのかすら、本人すらも分かっていない。


「私がいない時にとんでもない事をしやがってくれましたね。七大連盟のお歴々にめちゃくちゃイヤミ言われました」

「「ごめんなさい」」

「向こう十年は覚悟して下さいね」

「「ナニヲデスカ!?」」


 彼女も魔女であり、いたずら好きである。だが、やってはいけないラインというのもわきまえている。殆どの魔女がわきまえていない中、悠久の魔女には他の者より少し常識があった。


 先に顛末を述べるならば、マホによる大規模記憶操作魔法にてなんとか収拾は収まり、日本は今日も平和となった。

 代わりに魔女協会はただでさえ低い立場を更に下げ、七大連盟から外そうかという話にまで発展しかける程度には立場をマズくした。だが彼女たちが真に反省する事は無い。ヒマつぶしが人生の全てなのだから。


 

 そして話は上記の二人に戻る。

 まごまごしている内に、マホによって「ジャロ」は解除された。だがすぐには気付けない。うっかり変な事を言わないように黙ってしまっているからだ。

 

「あ、あのさ!」

「う、うん!」

「な、なんでもない!」

「うん……」


 煮え切らない男と、言葉を待つ少女。

 限界を先に迎えたのは、彼女の方だった。


「……はっきり言って!私の事好きなの!?」

「は、はい!好きです!」

「じゃあ付き合いたいの!」

「は、はい、付き合いたいです!!」


 言った。

 好きだ、付き合いたい。本音しか言えないなら、この人は私の事が好きなのだ。

 彼女は思った。もっと色々聞きたいと。


「私のどこが好きなの!?」

「か、かわいいし、話してて楽しいし、あとおっぱい大きいし!」

「え!?あ、そ、そうなんだ!」

「小さめのシャツ着てるとすごいエロいなって思ってた!」

「へ、変態!おまわりさんこの人です!」

「ご、ごめん!!じゃ、じゃあ俺の事どこが好きなんだよ!」

「え!?えっと、一緒にいて落ち着くとこと、笑顔がかわいいとこと、手がエロいとこ!」

「手が!?」

「手が!」


 何か吹っ切れたように、お互いは一生言わなかったであろう恥ずかしい本音を暴露しあう。 

 ひとしきり聞きあった二人は、なんだか笑えてきてしまい、二人で笑った。

 そしてひとしきり笑った後、男が緊張気味に言った。


「じゃ、じゃあ、付き合うって事でいいよな?」


 そう改めて言われると、照れてしまう。

 乙女心は複雑らしいのだ。


「ど、どーしよっかなー。柳田先輩も気になるしー」


 とっさにそんな事を言ってしまったが、せいぜいモテそーな人だなという程度の感情しか彼女は持っていない。

 つまり、彼女はウソをついたのだ。

 彼女は数舜後、自分がウソをつけた事に気付く。

 だが男の方は気付いていないようで、非常に焦った様子であった。


「え?え、そうなの?」

「あーうん、ってか告白されたし」

「え!あの柳田先輩に!?」

「正木君にも」

「正木も!?」

「小久保先生にも」

「小久保!?あいつ今年53だろ!??」


 メチャクチャうろたえている彼を見て、思わず吹き出してしまう。

 本当であったら、とんだ魔性の女子高生だ。

 

 尊敬すら混じったような眼を向ける彼に、彼女は楽しそうに言った。


 

「ウソだよっ!」

 

 

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