郵便受けと2枚の封筒
私は数日間、コンクールの結果を悶々として待っていた。夕方アルバイトから帰ってきては郵便受けを覗き、「来てないか……」
とつぶやく日々だ。
6日ほど経っただろうか。郵便受けには2枚の封筒が入っていた。ひとつは幸栄社からのもの、もうひとつは
「西小林脳神経外科……?」
直樹くんに宛てられた赤い色の堅苦しい手紙を、私は何故か開いてしまった。
「二次検査のお知らせ
讓様のお身体に重大な疾患の恐れがあります。
今月中に当院にお越しくださり、二次検査をお願い致します。予約に関しては…」
何も考えられなくなった。自分の夢を応援してくれた、自分のことを好きだと言ってくれた、最愛の直樹くんが、私に嘘をついてまで何かを隠している。
もしかして何か命に関わるものなのでは。
途端に不安になった。早く直樹くんから話を聞きたかった。怖い。直樹くんがいなくなったら。これは私の我儘なのかもしれない。でも私からは何も聞けない。私は封筒をそっと糊付けして郵便受けに戻した。
「086番さん、落選のお知らせ」
そんなものはどうでもよかった。
次の週、直樹くんはおそらく二次検査に出かけて行った。それまで私は何となく寝る時直樹くんにすりよってみたり、一緒に紅茶を飲みながら映画を見たり、不安を埋めるのに必死だった。直樹くんは少しずつ痩せていったが、その体温は温かく、私の頭を撫でる骨ばっているはずの手は泣きそうになるほど柔らかかった。
さらに数日。二次検査の結果が届いたようだった。
私はまたこっそりと直樹くんより先に手紙を読む。
「特定指定難病、急性脳幹萎縮症(ラース症)と診断されました。進行を食い止められても完治はせず、初期症状として激しい記憶障害が起こる可能性があります。急速な免許の返納等を推奨します。」
ラース症。テレビで以前目にしたことがある。
その患者は、発症から2年半で死んだそうだ。
ボロボロと涙を流しながら、私は自動車学校に通うために予約の電話を入れた。