8時起き
「……今何時?」
布団から出て、私はぽつりと呟いた。
「げ、やっと起きた。奏、今日は新作コンクールに出すんだろ、ほら送ってくから急いで着替えて。」
少しずつ目が覚めていく。と共に、彼の言葉をゆっくりと理解する。
「そうだった!どーしよ!!??」
「……俺は起こしたからな。」
私は慌てて髪を整え、それなりな服を着て、原稿の入ったファイルを抱える。私より遅く準備を始めたはずの彼が私より早く玄関にいることが心底疑問だが、
彼のやけに可愛い色をした車に乗り込む。
「ほら、着いたよ。頑張っておいで。」
それに答えるまもなく、私はコンクール主催の幸栄社へと駆け出した。
幸い開始まであと5分残っていた。しかし、10分前にはとうに席に着く他の応募者や審査員たちは戸を勢いよく開けた私を白い目で見る。
「……失礼します。」
『086番さん「もり と あおぞら」。お願いします。』
私は自分の番が回ってくるまで緊張で頭が真っ白になっていた。幸栄社は4度目の応募のはずなのに、この時間は簡単に慣れるものじゃない。前の人がどのようなスピーチをしたか、さっぱり聞いていなかった。変な汗が頬をつたい、手が小刻みに震え出す。
「……資料39ページをご覧ください。」
礼を忘れた。
「絵本、もり と おおぞ……あっ!あおぞらについて…」
言い間違えた。噛んだ。
私の調子は右肩下がりになり、自分の無力さが恨めしく思えた。
それでも、自分の作品を知って欲しかった。
「この作品はヨーロッパに古くから伝わる水彩の技法を用いて描いています。この技法にはただ淡く、美しい雰囲気があるだけでなく、色盲や、そのほか色の見え方に違いがある人にも印象が伝わりやすく、ユニバーサルデザインに近しい効果が得られます。」
私の作品は私の人生そのものだ。絵本を描くことは、私の持てる最大の武器で、スピーチのスキルも、コミュニケーションも本当はなにも要らない。必要なのは、自分の思いの強さだけだ。