第十五話 一人の男
時は少し進み廉とロエルが河川敷で遊んでいる時、一つ事件が起こっていた。
その事件を引き起こした男の名は小暮 隆
のちに日本のダンジョン産業を牽引する人物である。
年は43、年相応に若さを失いかけた肌、そして少し生えたひげ、そして寝ぐせなのかわからない少しはねた髪。どこにでもいる、社会に順応した男という雰囲気を醸し出している男だ。
そんな男は今日も仕事帰りに少しでも早く帰宅しようと公園を突っ切って、ショートカットをしている最中であった。
男がふと気づくと何かの障害物にぶつかっていた。男は長身の男であり、古くからゲームやスマホに勤しんでおり、老人ほど曲がってはいないが人や電柱にぶつかることがよくあった。そのため、男は当初は人に当たったのだろうと思い、反射的に「すいません」と顔を上げるとそこには人影が見られず、一つの建物が立っていた。自身の身長より高くマンションの二階以上の高さはなく、この近代的な文明とはかけ離れているような建造物であった。
男は咄嗟の事に不思議に思い、その建物のあたりを調べると地下へとつながる階段があった。
男はこの異様な光景に一つだけ既視感があった。
「これはもしかしてダンジョン?」
ダンジョンであるかもしれないという仮説に男の心拍数が徐々に高くなっていった。
こんなにも非現実的なものを目の前にしても心が高鳴っていても、男の頭の中は冷静であった。
これは間違えなくダンジョンである可能性が高い。もちろんダンジョンは死が伴う危険がある。そんなことは百も承知である。闇雲に進むのは危険だ。一度家に帰って装備を整えて、出直した方がいいか?いや、それだと入口が封鎖されて中に入ることができなくなる。ということはこの中に入れるのはしばらく後になる可能性が高い。
男の冷静な頭が出した結論はさも当たり前かのように答えを出した。
「入るか」
男は一歩また一歩とダンジョンへと歩いていった。
***
ダンジョンの中は隆の想像していたものとは異なっていた。
「本当にここはダンジョンなのか?」
今だに現実をとらえることができなかった隆は夢を見るかのようにダンジョンを眺めていた。
隆は右も左もわからないまま、先へ進んでいった。が隆には銃や剣と言った武器と言えるようなものは一つも存在しない。ましてや廉のようにスライムの存在を知り、海水を持っているわけでもない。隆が持っているのは会社用の鞄だけ、中に戦闘になるものなど入っているわけもない。
右手に鞄を持ち、そしてネクタイを緩めている時、最初の魔物に遭遇する。
これからダンジョンへと尋ねてくる大量の人類を最も殺すであろう魔物、ラノベなどでは初心者キラーと言われているがそう言われているのも納得の雰囲気をスライムは醸し出していた。
隆には絶体絶命という言葉がぴったりである。
隆は初めての魔物に恐怖を隠すことができず、足をまるで生まれたての小鹿のようにガクブルと震えさせながら後ずさっていた。
なんでだろう。めちゃくちゃ怖い。おかしいだろ。たかがスライムだろ。おい、隆、動けよ。このまま逃げたら、負け犬だぞ。女子に告白したときも先生に怒られたときもここまで恐怖を感じなかっただろ。
隆は本能的恐怖を感じていた。確かに精神は戦おうという意志を持っていたが、本能的な恐怖のせいで体が動かず、後ずさりしてしまう。
そしてこの一定の距離を保ったままのろのろと移動していると不意に視界からスライムが消え、気づくとダンジョンの空が隆の視界に映っていた。
隆は慌ててスライムの方へ向くと、もう目と鼻の先のところまでスライムが近づいていた。
とにかく!なにか!!武器を!
隆はひたすら自分のポケットに入ってる何か武器に入っているものを探した。そして胸ポケットに手を当てたとき、今までとは少し違う、少し、硬さを感じる物を感じた。隆は慌てて胸ポケットに手を入れると、中から万年筆が出てきた。
なぜここに入っているのか記憶をさかのぼる時間も惜しいと思い、すぐに万年筆を手に取り、戦闘態勢をとった。と同時にスライムが隆の身長を超えるほど大きくなり、彼を呑み込んだ。
隆は一瞬のことに驚きを隠せなかったがすぐに状況を理解した。
視界がよく見えないがスライムは核を壊せば倒すことができる。とにかく赤い何かを探そう。
隆はスライムの中を必死に探し回った。
視界が水色に支配されている中一つの赤い球状の物が隆の目に止まった。
「あれだ!」
運よく核を見つけることができた隆は手や足を必死にバタバタさせながら、核の方へと向かった。
よし、もう目と鼻の先だ。あとはこのペンで突き刺せば!?
隆が核を突き刺そうとしたその時、核がひとりでにスライムの体の中を移動したのだ。
核が移動してまた隆から離れた場所に移動した。
隆の残りの酸素の量を考えるとあそこにある核を壊すことができなければ隆はこのスライムの中で酸素不足で死んでしまうだろう。
ここまできたら倒してすげえスキルとってヒーローになってやるよ。
そういってまた犬かきのように進んでいった。
言動と行動が異なり、無様に見えるかもしれないが、隆の心の強さのようなものを感じた。
隆は犬かきをし、赤い核の近くまでたどり着いた。が一つ問題が起こった。隆の息が持たなくなったのだ。隆はうろたえそうになりながら必死に万年筆を核の方へ向けた。そして最後の最後に万年筆を手から離し、人差し指だけを動かし、デコピンのように万年筆をはじいた。
俺はただ強く願った。当たれと
万年筆はロケットのように一直線に核の方へ向かい、そして核に突き刺さった。
核に万年筆が突き刺さった次の瞬間俺はついにスラインの体内から救出された。
俺がその場から立ち上がろうとしたとき、不意に何かが手に触れたのを感じた。
それは隆が待ちわびていたスキルブックであった。
隆はすぐにスキルブックを手に取り、開いた。すると本が魔法のように消えていったのだ。
隆は最初焦っていたが思い出したかのように大きな声でこういった。
「ステータス!!!!!」
俺が大声で言うと目の前にステータス画面が表示された。
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[名前]小暮 隆
[年齢]43
[身長]176
[ユニークスキル]吸収
[スキル]ダーツ
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正直、レベルアップがないことにがっかりしたが今はこのステータスが表示されているだけでありがたい、そしてユニークスキルまでもらえているなんていち早く入ったかいがあった。が問題はどうやってこの吸収というスキルを使うかだ。このスキルはラノベで言うにはスキルを吸収して使えるようにするかもしくはスピードなどの能力値を吸収するかのどっちか、いやどっちにしても最強なのは変わらない。
隆は何となくスライムから落ちた魔石を手に取り、
「吸収」
と言ってみた。すると魔石の中から取り出すかのように魔石の色が抜け落ちていき、自身に何かが入ってくるのを感じた。
何だったんだ?今のは?
俺はだしっぱにしていたステータスをもう一度眺めた。が何も変化は起きていなかった。
魔石を吸収してもステータスに変化は生じられなかったと考えると、変わったのは能力値と考えるのが妥当。
ためしに俺は思いっきりジャンプをしてみた。が特に変わった変化はない。
俺は考えるのをやめた。
「まあ、いっか、とにかくスキルを手に入れただけで収穫だろ。帰ろ帰ろ」
そう言って鞄を探したが見つかったのは取っ手だけ、スライムに消化されてしまったようだった。
俺はブルーな気持ちになりながらダンジョンの階段を昇った。
外は陽が落ちて真っ暗になっていた。俺は帰ってビールで喉の渇きを紛らわそうと考えてながら地上へと出るとそこにはたくさんの迷彩服の人でいっぱいだった。
「これはビールはお預けかもしれないな。」




