十三話 新たな仲間
「よーし、ロエルー、遊びに来たぞー!」
まるで輩かと思うほどにドアをたたいた。もちろんうるさすぎないようになるべく弱く戸をたたいた。
三回ほどノックをすると「がちゃ」と音と共にドアが開いた。
そして目の前に現れたのはロエルのお母さんと思えるような女性であった。
「あなたはどなたですか?」
ロエルのお母さんは俺を軽蔑するような目で見てきた。
「すいません。私の名前は小林 廉と言います。今日はロエル君とキャッチボールをして遊ぼうと先日約束したので」
「あ~おじちゃん来てくれたの!?遊ぼ遊ぼ!」
そう言ってお母さんの隣をすり抜けるように通り去り、俺の腕を引っ張て来た。
「ちょっと待っててな。お母さんの許可ができてからじゃないといけないからな」
「何が目的なんですか?」
一寸の迷いもないような冷徹な目でこちらを見ていた。
「先日、息子さんがダンジョンに侵入していました。」
「そんな証拠どこにもありませんが?」
「証拠なら一つあります。ロエル、あのぷにぷにっとした友達持ってこれるか?」
「わかったちょっと待ってて」
そう言って家の中へ戻っていったと思うとすぐにこっちに戻ってきた。
ロエルの手には昨日見たスライムがのっかっていた。
「ぷにぷにの名前はあんぱんだよ。」
「ロエル、それは何?」
お母さんは驚いたようにロエルに尋ねた。
「これはね。ダンジョンの中にいたスライムという魔物だよ。今日の朝に色々調べたけど、雑食みたいだよ。だからお母さんが今日捨てるつもりだった生ごみを食べてもらったんだ。ありがとね、あんぱん」
「先日、あなたの息子がダンジョンで魔物に殺されかけているところを救出しました。そして失礼ですが家の事を知って、遊ばないかと思ったわけです。」
「攫うつもりなどはないんですよね。」
「そ、そんな、あるわけないじゃないですか。ただ純粋に遊んであげようと思っただけで」
「わかりました。私もこれから仕事があるので話は遊び終わった後教えて頂きます。こちらに名前と住所、そして電話番号をそして、もし攫ったときはお金を頂きますね。こちらにサインをしてください。」
事務作業のようにぽんぽんと話を進めていき、気づかぬうちにもう署名をさせられていた。
「じゃあ、ロエル、暗くなるうちには帰るのよ。楽しんでらっしゃい~」
ロエルには笑顔を向けてお身をクリをしていたが、俺と目があった瞬間冷徹な表情へと一変した。
さすがにあれは鬼もビビるほどの怖さだったと思う。
「そうだ。行く前にお母さんから何か受け取ってたよな。何をもらったんだ。」
「防犯ブザー!」
あのお母さん、ちっとも俺の事を信用してないじゃないか?
「じゃあ一番近くの公園に行ってみるか」
俺達は近所の公園まで歩いていった。
「すいませーん、ただいま謎の建造物ができたので申し訳ないですがこちらの公園は進入禁止させていただいています。」
と公園には全面黒と黄色の進入禁止のテープと中には自衛達と警察の人でごった返していた。
「何かあったんですか?」
俺は入口で見張りをしている男に尋ねた。
「ここって殺人とか事件が起こったんですかね?」
「あ~、君知らないの?ここ新しくダンジョンができてさ、今中から民間人が出てきて、結構大変なことになっているんだよね。」
俺ら以外に入ったやつらがいたのか。それにしてもよく生きて帰ってこれたな。
「そうなんですね。本当に自衛隊の方々って大変ですよね。これからも頑張ってください。」
俺は必要な情報だけ手にしてそそくさとそこを後にした。
「さぁーて、どうしたものか。この公園はダメだし、あと遊べる広い場所と言ったら河川敷とかしかないな。なあロエル、自転車って乗れるか?」
「え、乗ったことないよ!」
ロエルは自転車に乗れるかもしれないという好奇心が気持ちに出ていた。
「よし、じゃあ自転車もおじちゃんがあげちゃうぜ。」
じゃっかんかっこつけを入れて、ロエルの方へ決め顔を決めた。
「うん、じゃあ早く行こうおじちゃん。ああ、そうだな。」
そういって俺らは小林家の自宅へと赴いた。
「母さん、俺が子供のころに使っていた自転車ってどこにある?」
「あら~、それなら物置に入れて保管していたはずよ。」
お母さんの言葉で悪い予感が頭の中に走った。
俺は物置の中を確認した。するとそこはダンジョンを管理する部屋に一変していた。
やっちまった!どうすればいいんだ?このままロエルの期待を壊すわけにもいかないし、どうすれば
と考えていたとき、目の前に何かが横切った。
「これが自転車というものですか。なかなか便利ですが随分こぎにくいですね。」
と小言を言いながら俺が幼少期に使っていた自転車をピースが蟹股になりながら漕いでいた。
「何やってんだ!!!?」
まさにこの状況はこの一言に尽きた。
「何といいましても、それは、人が作り出した機械の研究ですよ。いいですか、研究は実際に体験してみることが一番大事なんです、今もこうやって研究をして、人に馴染もうとしているんですよ。」
そんなことはどうでもいいんだありがとな。ピース今だけはお前に感謝したい。
「よし、おまえ、今すぐ自転車から降りろ。」
「降りろと言われても、わかりました。」
そう言ってピースは自転車を降りた。俺はその自転車を押収し、外へと出ていった。がこのままいくとピースに申し訳ないので大人用の自転車を玄関の前に置いといた。
「よし、じゃあロエル河川敷まで競争だ!」
「わかった。よーいドン」
ロエルの合図とともに二人は走り出した。
「ちょっと、マスター?、返してください。せっかく研究の途中だったのに」
そう言いながら玄関前まで歩いていくとピースは一台の自転車を見つけた。
「これはとても乗りやすいですね。」
「あらピースちゃん、ちょうど、自転車乗ってるし、お使い頼んでもいいかしら」
「いいですよ。近くのスーパーですよね。遊びのついでによって帰りますね。」
「気を付けていくんだよ。」
ピースはウキウキになりながら自転車をこいでいった。
俺とロエルはふたりでかけっこをしながら河川敷まで向かっていった。
今日は天気も良く絶好の自転車練習日和だと肌で感じた。
幸い、河川敷にはごった返すほどの人はおらず、また全エリアを牛耳っているサッカー少年、野球少年たちはいなかった。
俺達は河川敷の比較的芝生が多いところに移動して自転車の練習を始めた。
「自転車に乗るコツは恐れずに前に進み続けることだ。まあペダルをこぎ続けていればいいんだ。」
「前に進み続ける。わかった!やってみよう!」
ロエルはすぐに自転車に乗って、漕ぎ始めようとしていた。
「よし、ロエル、待ってろ、3、2、1で漕いでいくぞ。転げても大丈夫なように支えてやるからな。行くぞ!3、2、1行け!」
そう言ってロエルは地面を両足でしっかりと蹴って、漕ぎ進もうとした。が思ったようにペダルが回らずに最初の勢いはなくなってしまい、ロエルは慌てるようにその場に足をついた。俺はロエルに合わせるように走るのをやめた。
やっぱり、最初は誰だって難しいよな。俺だって子供のころは下手すぎて、小学三年生ぐらいで初めて乗れるようになったんだからな。
「よし、じゃあまずはペダルを回すことは考えないで一直線に進んでいこう。いいかロエル、ここに足を置いたままにしてな。」
「わかった。」
「よし、今日中に乗れるようになるぞ!3、2、1はい!」
俺は自分の掛け声と一緒に猛スピードで走っていった。
ロエルにとってこの風をかき分けて進むような感覚は人生で初のようだった。ロエル自身、今までに感じた事が無い感覚に驚き、そして楽しんでいるように感じた。
俺は河川敷の半分まで走り切ったところで体が悲鳴を上げたので徐々に減速し、地面に倒れ込もうとすると自転車が走り出すと同時に不意に追い風のような風が俺の後ろから吹き、俺の掴んでいた自転車がスピードを上げて、走り出した。俺は咄嗟の事にあっけにとられていたが、走り出していた自転車を見るとロエルが軽快に自転車を漕いでいるのが見えた。
「天才だ」
疲れ果てた俺の頭ではこう考えることしかできなかった。
***
ロエルと一緒に河川敷で自転車に乗る練習をした翌日、俺は今ロエルのお母さんに呼び出しされていた。
詳しいことを話すと昨日ロエルを家へ見送った後ロエルのお母さんから「明日の朝十時、ここに来てください。」と吐き捨てるように言われ、今現在、9時55分ロエルの家の前にいる。
いやー、五分前にお邪魔するのも何か失礼な気がして、インターホンを押そうにも少し気が引けるな。
と9時50分から今までずっとこんな感じで家の前で待ち続けていた。きっと近所の方にはそろそろ通報を考えている人も出てもおかしくないだろう。と思いつつもインターホンを押そうというあと一歩が出なかった。
またしても俺は五分ほどその場で立ち尽くしていた。
そして、10時00分ちょうどになったとき俺はついにインターホンに手を触れた。
すると「はーい」という声がし、しばらく待つと、ドアが開き、少し開いたドアからロエルがあの一時期大ブレークした芸人のようににひょっこりと顔を出した。
「おじちゃん、中入っていいよ。」そう言ってロエルはすたすたと中に入っていった。
俺はロエルの言葉を信じ、ゆっくりとドアを開けた。一度来たことがあった風景だがその時にはなかった空気感を感じ、少し萎縮して俺は中に入っていった。
俺はどうしていいかもわからず、立ちすくんでいるとロエルのお母さんが顔を出した。
「すいません。わざわざ訪ねて頂き。家には何もないですけどどうぞお入りください。あとこちらのスリッパをお履き下さい。」
前回あったときは氷に覆われているように冷酷だったが、今はそんな雰囲気はあまり感じなかった。ただ優しい雰囲気が彼女の周りにまとわれていた。
俺は彼女に言われるがまま、靴を脱ぎ、スリッパを履き、リビングの方へと歩いていった。
俺はリビングの方へ行くと、お茶とお菓子が用意された机に案内された。俺が座った椅子の向こうにロエルのお母さんが座った。ロエルも座るのかと思ったけれど、ロエルはお母さんにあんぱん(スライム)と遊んできなと言われたようで、今は目に見えるところで遊んでいる。
「さて」
とロエルのお母さんがいい、俺はロエルのお母さんの顔を見た。
「この度は息子と遊んだ頂き本当にありがとうございます。」
開口一番飛んできた言葉は俺の想像してきた。冷酷な言葉ではなかった。
「てっきり、お叱りの言葉を受けるものだと思ってました。」
「最初は疑問こそあったものの自転車も下さり、ここまでたくさんの事をしていただいた方を卑下するようなことはしません。実は息子は昔から人見知りで、人と話すことが上手ではなかったんです。私も仕事があって、平日は学童に入れさせていたんですが、その時も友達と話すことはなく、ずっと一人で本を読んでいると先生もおっしゃっていて、そんなときにあなたが現れて、いきなりの事で息子と私たちを騙そうとしているのではと思っていたのですが息子に自転車まで譲っていただいて、本当にありがとうございます。あと、少しですがこれを」
とロエルの事情を聴いた。そして話の終わりに一つの封筒をもらった。
「これは?」
と中を開けて確認するとお金が中に入っていた。俺はそっと、封筒をロエルのお母さんの方へ置くと
「自転車を見ず知らずの人にただでもらおうとするほどお金には困っていません。少しですが受取下さい。」
そう言って、かたくなに受け取ろうとしなかった。
そういえばロエルのお母さんの名前は一度も聞いたことないな。
少し失礼かもしれないが俺はロエルのお母さんに鑑定をした。
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[名前]荒川 汐音
[年齢]36
[身長]163
[ユニークスキル]
[スキル]経営術 契約術 リスクマネジメント
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俺は想像もしていなかったステータスを見て思わず二度見した。
ロエルのお母さん、汐音さんは経営などお金稼ぎができるという今の俺らに最も必要な人材であり、俺らが充実した生活をすることができる。
なんとかして引き込もうという思考に俺はなった。
「本当にこのお金は結構です。代わりに一つ頼みたいことがあります。」
「何でしょう。」
「実は私の友人に歌のうまい女性がいまして、その人が歌う俗にいう歌ってみた動画というものを投稿して稼いでいこうと思っているのですけれどその手伝いをしてほしいんです。もちろん!報酬も支払います。来週の土日でもいいです。」
「わかりました。手伝わせて頂きます。」
よし、これでとりあえず実力拝見という感じだな。
そのあと俺達は今後ロエルとどうかかわっていくかについて話した。
やはり俺としてもロエルに同世代の子供ができて欲しいし、何よりイケメンだからもっと世界を知ってほしいと思っている。なので遊びすぎるようなことはせず、俺達は週に三日程度ほど遊ぶようにしようということになって、お昼ご飯をごちそうしてもらい、お開きになった。




