第一話 思い出
ドアを開ける音が静寂を切る。薄暗い部屋の中にパイプ椅子に腰を掛ける音が響く。
塔針泉水は目の下のクマを擦り、胸ポケットから写真を一枚取り出した。
「二宮葉奈。こいつが今回のターゲットだ」
その疲れきった髭の剃り残しが目立つ老け顔から容易に想像できる重く深い声が空気を揺らす。
机の上に置かれた一枚の写真。部屋の小暗がりに微かに透けて見えたのは中学生程の少女だった。
「こいつの原因調査はまだなのか?」
実牽人は少女の写真に指をさす。
泉水はため息をついて「それがな」ともう一枚の写真を取り出し、机の上に置いた。
写真に写っていたのは制服姿の少女だった。
「この制服、うちの学校の奴じゃん」
「そうだ。悪いが今回、お前には学校で二宮葉奈の原因調査。そして、結晶の回収をしてもらう」
牽人の顔が歪む。
「おっさんそれって、一から十まで全部やれってことだろ?結晶の回収ならまだしも、原因調査はまだやったこともないんだけど?」
突っかかる様に牽人は不満をたれる。
「すまん。近頃、祓い師達が動いてる。それに大勢が対処にあたっている。だから今輪と角を集められる者が少ないんだ。しかも、学校で調査できる奴はもっと少ない」
牽人はため息をつきながら続けて話を聞いた。
「調査には他の天使もサポートに付くし、そろそろ原因調査も経験しておいた方がいい。お前には悪いがどうにか頑張ってくれないか?」
泉水は疲労がたまりきった顔を緩ませ、トンと牽人の肩に手を置く。
「はぁ......で?その間おっさんは何すんの?祓い師達の調査?」
「すまんがそれは言えない。あまりお前は関わるな」
泉水はポケットからタバコの箱を取り出しながらこたえる。
「おっさん、ヤニなら喫煙所で吸えよ。臭い」
泉水は「ああ」とドアへ向かう。
「あ。牽人、さっきも言ったが近頃祓い師達が動いてる。羽を出さない限り大丈夫だと思うが、怪しい奴らには気をつけろよ」
「おっさんも気をつけてな。じゃあまた今度な、おっさん」
泉水は手で軽く返事をして部屋から出て行った。
部屋にまた静寂が訪れる。
牽人は机に置かれたままの写真見つめる。
「このままじゃよく分からないな」
牽人は自分の身体の倍大きな天使の羽を、背中から生やし広げた。羽が纏う神々しい光が部屋全体をじんわり照らす。だが、背中の影でよく見えない。
「本当に役に立たないなこの羽」
今度は頭上に羽より明るく輝く天使の輪が現れる。その天使の輪を手で掴み、写真にかざす。
「よし、これで良く見える」
少女の写真をじっと見つめる。輪の光のせいかその少女はとても輝いて見えた。白いワンピースに麦わら帽子。日光を透かす白い肌。風でなびく綺麗なストレートの長い髪。純粋無垢潔白なあどけない笑顔。
「......懐かしいな」
牽人の目に彼女が映る。こちらに優しく微笑み、『ありがとう』と言う彼女の姿が......。
............また会いたい。
初投稿!!
確認はしましたが誤字脱字ありましたらご報告して頂ければ幸いです(`・ω・´)
小説を書くのは小学生の頃以来であまり上手ではないと思いますが、この作品を読んで楽しんで頂けると嬉しいです!!
投稿頻度はなるべく頑張ります(笑)