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04話:小学生の頃の早見さん

「……はぁ? ……あ、これ?」

「そうそう」


 早見さんはそう言いながら自分の顔を指差してきたので、俺は首を縦に振って頷いた。


「ふうん? まるで今の私はいつもの私とは違うって言いたそうだね?」

「い、いや、そういうわけじゃないんだけどさ」


 俺の知っている早見さんのイメージは、愛嬌が良くて素直で優しい女の子という感じだった。 そしてそれは他の生徒に早見さんのイメージを尋ねてみても、俺と同じような事を言うはずだ。


 でも今早見さんと話してみると、そんなイメージとは真逆だった。 さっきから毒づいた事を頻繁に言ってくるし、普通に怒りっぽいし、脅してもくるし、馬鹿にした感じで笑ってくるし、あとは足癖も悪かったよな。 少なくとも俺のイメージしてた早見さんは、華麗なヤクザキックを放ってくるような武闘派女子では決して無い。


 でも俺が今早見さんに感じたこれらは、悪い意味で言ってるのではなくて、なんだか女子というよりも、気の合う男友達と接してるようなそんな不思議な感覚だった。


「……まぁ素の性格っていうなら、アナタに今見してるこっちが私の素よ」

「そ、そうなのか。 じゃあ今まで学校で見てきた早見さんって、つまり猫を被ってたって事なのか?」

「いや、別に全部が嘘というわけじゃないけど……まぁでも普段はなるべく愛嬌のある良い子を演じてたわね」

「そ、そうだったのか、全く気が付かなかったな……」


 それは衝撃的な発言だった。 演劇部に入ればきっと良い役者になれるんじゃないか?


「でもそれなら……なんで今は俺の前で素の性格を出してるんだ?」

「そ、それは……」


 俺は当然の疑問を早見さんに尋ねてみた。


「……だって開幕にヤクザキックで脅しちゃった時点でもう取り繕うのは無理でしょ。 それなら口止め料払って全部秘密にしてもらおうって思っただけよ」

「あ、あぁ……あはは」


 一番最初に早見さんにヤクザキックで出迎えられた事を思い出した。 昔の事のように思えるけど、つい数十分前の出来事だ。


「いやそもそもだけど、何でそんな猫被りみたいな事してたんだ? そっちの方が大変じゃないか?」

「そんなの決まってるじゃない、ユウ君に好かれるためよ」

「へ、へぇ?」


 何だか想像していた回答とは違ってよくわからなかったので、俺は生返事で返してしまった。


「いやすまん、なんでそれと黒木に好かれるのかが関係するんだ? そもそも二人は幼馴染だろ?」

「あぁそれは、えぇっと……まぁ、いっか、名瀬君にはさっきの告白見られちゃってたし、隠す事でもないか」

「え? あ、あぁ、それは……その……すまん」

「いいよ別に。 それは私も悪かったわけだし。 それで、さっきの話の続きだけど……その前に少しだけ昔話をしてもいい?」

「あ、あぁうん。 全然いいけど」


 そういうと早見さんは懐かしそうな顔をしながら空を見上げた。


「私ね、子供の頃はよく男の子と間違われてたの」

「え? 早見さんが?」

「うん。 ほら、昔から子供は風の子って言うじゃない? だから私、小学生の頃はずっと親に半袖半ズボンを着せられて遊んでたの。 スカートなんて一度も履いた事無かったわ。 それに髪もずっとショートヘアだったし」

「へぇ。 今の早見さんからは想像がつかないな」

「でしょ? しかも遊ぶ相手はクラスの女子じゃなくて、ユウ君とか男子とばかり遊んでたんだよ」


 今の早見さんはセミロングヘアでポニーテールにしてるし、服装はもちろんセーラー服だから、何処をどう見ても普通の女子にしか見えない。 それが小学生の頃はまるで男の子のようだったと言われても、俺には想像がつかなかった。


「それに当時の私は結構ガサツだったし、口調もユウ君とか男子をマネしながら遊んでたからさ、そりゃあ周りの人達も私の事を男の子だと思うよね」


 そう言うと早見さんは少し恥ずかしそうにしながら笑った。


「それでね、その頃は毎日のようにユウ君と一緒に遊んでたんだけどさ、私達が通う小学校の一学年上にガキ大将というか……いじめっ子みたいな男子がいたんだ」

「へぇ、そんなのがいたんだ」


 俺は某猫型ロボットのアニメに登場するガキ大将を頭に思い浮かべた。


「でね、そのいじめっ子がね……私達のクラスの子をイジメてた時期があったの。 何でイジメてきたのか理由はもう覚えてないけど、でもその子はよく小突かれたりして泣いてたんだ」

「そ、そんな酷い事があったのか」

「うん。 でさ、そんなの……ユウ君が見逃すわけないよね。 そこからユウ君はそのいじめっ子と何度も喧嘩をすることになったんだよ」

「え!? す、凄いなアイツ! その頃から黒木はヒーローみたいな奴だったんだな」


 黒木の事は前々から主人公みたいな奴だなって思ってたけど……本当にやってる事は主人公そのものじゃないか。


「あはは、うん、そうなんだよ。 ユウ君は昔から弱い子を助ける正義の味方だったんだ。 ……本当は弱っちいクセにね」

「……え? よ、弱っちい?」

「うん、ユウ君は腕っぷしは弱かったんだよ。 元々ゲームとかが好きなインドアタイプだしね。 なのに困ってる人がいたらさ、必ず助けに行っちゃうような子だったんだ」


 そういえば確かに黒木って体育の成績そんなに良くなかったな。 何でも出来る凄い奴だと思ってたけど、意外な弱点を知って俺は少しだけビックリした。


「全くさ……弱っちいくせに喧嘩しに行くなんて怖い事しないでほしいよね、あはは。 だからさ……あの頃は私がユウ君を守ってあげたんだよ」

「へぇ……え? それはどういう……?」

「ふふ、それはね……よっと!」

「え?」


 そう言って早見さんは立ち上がってから片足を上げだした。 そして……


「ふんっ!」


―― ビュンッ!!


「うわっ!?」


 それは空を切る音だった。 早見さんは片足を上げたかと思ったら、一瞬で上段を蹴り上げていた。 それはいわゆるハイキックという蹴り技だ。 柔軟性と体幹がしっかりしてないと出来ない蹴り技なのだけど、早見さんはバランスを崩すことなく綺麗な蹴りを披露してくれた。


「ふふ、どうよ?」

「す、凄いな……! え!? 早見さんって何か格闘技やってたの?」

「ううん、何もやってないよ。 これは自己流。 小学生の頃にToutubeで蹴り技の練習講座動画をひたすら見て覚えたの」

「え!?」

「それに、私は体を鍛えてるわけじゃないから対した威力はもう出ないわよ。 武道で言う所の“型”が出来るってだけだね」


 早見さんは笑いながらそう答えた。


「で、でも……どうしてそんな事してたんだ?」

「さっきも言ったでしょ、ユウ君を守るためだって。 いじめっ子と喧嘩になってもユウ君だけじゃ勝てなかったから、私も一緒に戦ったのよ。 これはその頃に私の戦う武器として覚えた蹴り技よ」


 そう言ってもう一度中段に蹴りを入れてみせた。


「昔に何かの本で読んだんだけど、蹴りの威力はパンチの3倍もあるって書いてあったからさ、女の子の私がイジメっ子に勝つにはこれしかない! って思って当時の私はひたすらと蹴りの練習だけしてたの」

「な、なるほどな……」


 早見さんは子供の頃から中々に合理的な考えを持っていたんだな、やってる事は普通に怖いけど。


「まぁそんな感じで、あの頃の私とユウ君は頻繁にそのガキ大将に戦いを挑みに行ってたんだ。 あはは、今思うと何してるんだって感じだけどね」


 そう言いながら早見さんは楽しそうに笑っていた。 何だか昔を懐かしんでいるようにも見えた。


「は、はは……なんというか、二人は中々にアグレッシブな子供時代を過ごしてんだな」

「そうね、でも最終的にはそのガキ大将とも和解したし、イジメられてた子達にもちゃんと謝罪させたのよ?」

「え!? そうなのか!? そ、それは凄い事を成し遂げたんだな」

「ふふ、凄いでしょ。 あの頃のユウ君は本当に皆のヒーローだったなぁ」

「い、いや早見さんも十分凄いって」


 俺は早見さんも凄いと思ってそう言ったのだけど、当の早見さんは自分の事は何とも思ってないようだった。


「……とまぁそんな感じで私達の小学校には平和が訪れたのであったとさ、おしまい」


 早見さんが“おしまい”と言ったので、俺はなんとなく早見さんに向かって拍手をした。


「でも、そっか……早見さんの小学生時代は中々にお転婆な“女の子”だったんだな」

「……」

「うん? どうかしたか?」

「え? あぁ、えぇっと……あはは、そんなに意外だった?」

「あぁうん、そりゃあ凄い意外だよ。 今はもう新しい蹴り技とかの練習はしてないのか?」

「うん、もうやってないよ、だって今の私にはもう必要無いからね。 あ、でも……時々ストレス発散で今みたいに昔やってた蹴りの素振りをする時はあるかな」

「なるほど……あ、だからあんなに綺麗なヤクザキックを放てたのか」


早見さんはその言葉を聞くと笑いながら喋り出した。


「ふふ、いいでしょアレ。 遅く帰ってきた弟を叱る時にあの蹴り便利なのよ。 いい感じに脅せるからね」

「あ、あはは……確かにな」


 最初に出会った時にブチかまされたヤクザキックを思い出しながら俺は乾いた笑みで応えた。 そしてあの脅しの蹴り技の餌食になっている“クソ生意気な弟”がちょっとだけ可哀そうだなとも思った。


「……どう? この話を聞いてわかったんじゃないかな?」

「え? な、なにが?」

「なにがって……さっき名瀬君が聞いてきたんじゃないの」


 俺がそう聞き返すと、早見さんは少し呆れた表情でこちらを見てきた。


「何で私が愛嬌のある良い女子を演じていたかの理由についてよ」

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