03話:早見さんの愚痴大会
「そういえばさ、早見さんと黒木って幼馴染だったんだよな?」
「えぇ、うん、そうよ。 私の家のお隣さんがユウ君の家だからね。 だからユウ君とは物心がつく前からずっと一緒に育ってきたのよ」
ちなみに早見さんと黒木が幼馴染だという事は同じクラスの生徒だったら全員知っている。 だって普段から早見さんと黒木はとても仲が良かったし、本人達も幼馴染だというのは公言していたから。
「へぇ、そんなに昔からの付き合いだったのか。 二人が仲が良いのは知ってたけど、まさか物心がつく前の頃からの付き合いだったとはな」
「えぇ。 だからお互いの事は何でも知っているわ。 それに小中高も全部一緒の学校だったしね」
「え!? 学校も全部一緒だったのか?」
「えぇそうよ。 だから今まで学校がある日はユウ君と毎日一緒に登下校してたし、休みの日はユウ君の家で一緒にゲームをしたり勉強したりして過ごす日々を送っていたわ」
「ほ、本当に毎日一緒だったんだな。 そりゃあお互いの事は何でも知ってるわな」
「でも私の好意だけはちっとも気づいてくれなかったけどね、ふふふ……」
「あ……」
やばい、地雷を踏んでしまった……! このままだと早見さんはまた暗黒面に落ちてしまうかもしれないので、俺はなんとかして話題を反らした。
「い、いやでも凄いよなー! 俺は幼馴染とかいないからそういう関係性のある友達がいるのは羨ましいな!」
「ふぅん、そうなんだ。 名瀬君は子供の頃からの付き合いがある友達はいないの?」
「あぁ、俺は子供の頃は親の都合で引越しする事が多くてさ。 だから子供の頃の友達はあんまりいなかったな」
「へぇ、引越しばかりだったのは大変だね。 両親のお仕事の都合とかだったのかな?」
「え!? あ、あぁ……えぇっと、まぁ、そんな感じだな」
「う、うん? そうなんだ?」
「あ、あはは……」
引越しの理由はあまり良い話じゃないし、こんな時に早見さんと暗い話をするのもあれなので、俺は笑って誤魔化した。
「俺にも幼馴染がいたら早見さん達みたいな感じだったのかな。 あ、でも、それだけ一緒にいたらさ……喧嘩とかは全然しなかったのか?」
「喧嘩? ううん、ユウ君とは一度もした事はないわ。 クソ生意気な弟とはしょっちゅうしてるけど」
「へ、へぇ……」
早見さんに弟がいる事は知らなかった。 うんざりそうな顔をしながら“クソ生意気な弟”って言ってるから、多分ヒエラルキーは姉>>>弟なんだろうな。
「でもそれは凄いな。 俺だったらそれだけ距離が近すぎる相手だと、嫌な所とかが見えてきて普通に喧嘩しちゃいそうだけどな。 早見さんは黒木の嫌な所とかは無かったのか?」
「は、はぁ? 嫌いな所なんてあるわけ無いじゃない! いつも気を使ってくれるし、優しいし、本当に素敵な人なんだから!」
「そ、そうか、そりゃそうだよな、すまん……」
早見さんが恐ろしい目つきでこちらを睨んできた。 いや好きな男の嫌いな部分とか無かったのか? って聞くのは流石にデリカシーが無さすぎだ……これは俺が完全に悪いのですぐに謝った。
「別にいいわよ。 でもさ……ユウ君の事はずっと大好きだったし、この関係はずっと続いていって……それでいつか、きっと恋人にもなれるって思っていたのにさ……それなのに……それなのにあの泥棒猫ぉ……!」
「お、落ち着いて早見さん!」
あと、早見さん結構な頻度でどす黒い雰囲気を出してきてメチャクチャ怖い。 なんだか俺の知っている早見さん像がどんどんと崩れていってる気がした。
「ふん、落ち着いてるわよ」
「……そ、そうか」
まぁそんな感じで俺は早見さんの愚痴をずっと聞いていったんだけど、その途中でちょっと……というか、かなり疑問に思う事が一つあったんだ。 でもそれを聞くのは流石にデリカシー無さすぎる気が……
「……別に聞いてもいいけど?」
「え!? な、なんで!?」
って思っていたらまさか早見さんがそんな言葉を口にした。 まだ何も言ってないのに、どうして早見さんにそんな事を言われたのかわからなくて俺はかなり焦った。
「わかるわよ、だってアナタの顔に書いてあるもの。 “メチャクチャ気になる!”って顔に出てるわよ?」
「そ、そんな馬鹿な!?」
「ふふ、きっと名瀬君は嘘とか付けない性格なんだろうね。 それで? 聞かなくていいの? アナタには愚痴を聞いてもらってるし、別にそれについても聞いてくれていいのよ?」
そう言って早見さんはクスクスと笑いだした。 ふん、どうせ俺はわかりやすい性格だよ。
「じゃあ早見さんの言葉に甘えて聞かせてもらいたいんだけどさ……そもそも何でもっと早くに告白しなかったんだ?」
ということで俺はさっきから思っていたデリカシーの無さすぎる疑問を早見さんに投げかけた。
いやだって俺含めてクラスの連中は全員、早見さんと黒木はいつか絶対に付き合うと思っていたから。 昼食を早見さんと黒木が一緒に食べてるのはよく見かけたし、朝に二人で仲良く登校してる姿とかもよく見かけたりしたしな。
「……本当になんでだろうね、もっと早くに告白しろよって話だよね。 でもさ、告白したからと言って……それが成功してたとは限らないでしょ?」
「いやでもあんだけ仲が良かったら普通は成功する気がするんだけど」
「さっき振られたんですけど?」
「そ、それはタイミングが圧倒的に悪すぎたというかなんというか……」
そりゃ篠原灯という最強のヒロインが半年前に爆誕しちゃったから。 あれは誰であっても太刀打ち出来ないと思う。 逆に篠原さんが登場する前だったら早見さんの告白は成功していたとは思うのだけど。
「ふんっ、そうよ全部私が悪いのよ……! 他の子達にも散々と言われてたしね。 早く告白した方がいいよ……ってさ。 でも仕方ないじゃない……告白って、凄い勇気がいるのよ」
「早見さん……」
「それにね……名瀬君はわからないかもしれないけど、ユウ君って結構モテるのよ?」
「いや待てその冒頭の言葉いるか? あと黒木がモテるってのはなんとなくわかるけどさ」
なんか突然早見さんに「お前はモテないだろうからわからないだろうけど」って言われたような気がするんだが? 早見さんって結構毒づくタイプなんだな。
それと、黒木がモテるってのもなんとなくわかる。 だって黒木は見た目は清潔感があってカッコ良いし、生徒会に入ってるから生徒や先生からの信頼も厚い男だったから。
「でもね、ユウ君は今まで女子から告白をされた事は無いし、私以外からバレンタインにチョコを貰った事だって一度も無いんだよ。 ねぇ、どうしてかわかる?」
「へぇ、それは意外だな。 いやわからないけど、一体どうしてなんだ?」
「ふふ、それはね……私が常にユウ君の傍にいたからだよ」
「あ、あぁ、なるほど」
黒木はモテそうなのに変な話だなって思ったけど、言われてみれば当たり前すぎる回答だったのですぐに納得してしまった。
「私は今までずっと根回してきたのよ? 私とユウ君は幼馴染だって皆にオープンにしてきたし、ユウ君との仲の良さも周りの子達にずっとアピールしてきた。 それでいて私は害の無い愛嬌のある女の子でい続けるようにして、周りの女子から嫌われる事が無いように細心の注意も払ってきたし」
「あぁ確かに……って、え!? それって全部他の女子へのけん制だったのか!?」
「当たり前でしょ。 私だって今までずっと……ユウ君を他の子に取られないために必死だったんだから!」
でもその効果は抜群に出ていた。 だって周りの生徒は皆、早見さんと黒木がくっつくと思っていたわけだし、そりゃそんな状況で黒木に手を出そうとする女子は現れるわけもないよな。 早見さんは中々の策士だったんだな。
「まぁそんな努力の成果もあって、私がユウ君の傍にいれば、他の女子達は皆空気を読んでくれてたのよ。 それどころか他の女子達は皆、私の事を応援してくれてたのよ? 頑張って、応援してるよ! ってさ、本当に皆優しくしてくれたのよ……!」
「あ、あぁ……」
「それでさ、もうこれでユウ君を狙っているライバルは全員排除出来たわけだから……後は私が頃合いを見てユウ君に告白をするだけだって思ってたの……それなのに……それなのに……!」
早見さんはわなわなと体が震え出した。
「それなのに……なんなの篠原さんって一体!? あんなチート級の化物が突然転校してくるなんて聞いてないわよ! しかも同じクラスだし!」
「は、早見さん?」
「私がユウ君と一緒にご飯を食べてる時でも気にせずこっちに来て一緒にご飯食べだすし……! ユウ君と一緒に帰ろうとした時でも躊躇せずにユウ君を呼び止めてくるし……! もう本当になんなのあの子! 空気を一切読もうとしないなんて……あんなの対策立てようが無いわよ!」
「ま、まぁ確かに篠原さんって空気は読まなそうな雰囲気はあるけど。 あ、もちろん良い意味で」
「空気を読まない事に良い意味なんてあるかバカー!!」
「お、落ち着いてくれ! あと目つきが怖いって!」
俺は激怒しそうになった早見さんをなんとかなだめた。 これで今日何回目の激怒かはもうわからない。
「はぁ……はぁ……ごめん、取り乱したわ……」
「い、いや大丈夫だ……」
何とか早見さんは怒りを沈めてくれた。 軽々しく愚痴に付き合うなんて言わなければ良かったなぁと若干後悔しつつも……まぁでも怒りで悲しみを紛らわせるなら、それはそれで良いのかなと思ったりもした。 それと……
「な、なぁ……ちょっと早見さんに聞きたい事が出来たんだけどさ」
「うん? 今度はどうしたの?」
俺はどうしても早見さんに聞きたい事がもう一つだけ出来てしまった。 いやこれもメチャクチャ失礼な質問だから聞くのはアレなんだけど……
でももう散々とデリカシーの無さすぎる質問をしてきたし、もうここまで来たら聞きたい事は全部聞く事にした。 そして最後にまとめて早見さんに怒られよう。
「早見さんって……一体どっちが素の性格なんだ?」
「……はぁ?」
俺がそう言うと早見さんは怪訝そうな顔で俺の方を見てきた。