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02話:幼馴染が負けヒロインなんて誰が決めた

「えぇっと……そ、その……弁解を……」

「名瀬君、誰が喋って良いって言ったの?」

「いえ……すいません……」


 俺は給水タンクを背にしながら正座をしていた。 そして目の前には早見さんが腕を組みながら仁王立ちしていた。 あの温厚で優しい早見さんがメチャクチャキレてるのを初めて見たので、内心かなりビビっていた。


 ちなみに俺が早見さん達の事を知っていたように、早見さんも俺の事を知っている。 何故なら俺も彼女達と同じクラスの生徒だからだ。


「……たら……」

「え? な、何だって?」

「誰かにバラしたら殺す……」

「そ、そんなことしねぇって!」


 流石に冗談だと思いたいんだけど、早見さんの目は完全に笑ってなかった。 これは絶対に殺る目つきだと思ってしまった。


「ふふ、そんなの……簡単には信用できないよね」

「そ、そんな!? じゃ、じゃあどうすればいいんだよ?」

「もう手っ取り早くさ……痛みを味合わせるとかどうかな? 指一本くらい折ってさ。 それでもし誰かに喋ったら……残りの指も全部折るとか……どう?」

「ちょっ!? 発想が完全にヤクザじゃねぇか!」


 華麗なヤクザキックを放ってきたのは伊達じゃなかったようだ。 いやそんな上手い事言ってる場合じゃない。


「い、いやいやいや! 勘弁してくれって! 俺は何も悪い事は……いや盗み聞きは悪い事なんだけどさ……でも落ち度はそっちにもあるのも確かだろ!?」

「まぁ……それはそうだけど」


 早見さんは少しだけたじろいだ。 あ、良かった……ちゃんと対話には応じてくれるようで助かった。


「じゃあ、お互いに落ち度があったという事でさ、今日の所はお互いに何も見なかったという事には……」

「……」

「……には出来ないよな……」


 早見さんは怖い目つきでこちらを見てきた。 いやまぁ……流石にそれは無理があるよな。 俺は何とか早見さんと手打ちに出来る方法を全力で考えた。


「……わ、わかった。 じゃあさ……口止め料ってわけじゃないけど、今度1度だけ早見さんが俺に飯を奢るってのはどうだ?」

「奢る?」

「あぁ、学食でもファミレスでもマク〇ナルドでも安い物でいいからさ。 流石に俺は人に貰った恩を仇で返すような酷いマネは絶対にしないから……これでどうか納得して貰えませんか?」


 俺は深々と土下座をしながら早見さんにそう提案した。 いやなんで口止めのお願いをされてる立場の俺が、こんな下手に出なければいけないのかよくわからないけど……


「……うん、わかった、じゃあそれで。 ご飯を1回奢るからそれで口止めしてもらうって事でお願い」

「あ、あぁ。 うん、ありがとう」


 早見さんは俺の提案に同意してくれた。 あぁ良かった……これで何とか俺の指が折られずに済んだ。


「じゃあ詳しい話はまた今度ということで……」

「え? ちょっと待ってよ、どこ行くの?」

「え? 教室に帰ろうかと思ったんだけど」


 もうこんな空間にいてられるかと思って俺はそそくさと屋上を後にしようとして立ち上がった。 色々とあったせいで眠気なんてずっと前にぶっ飛んだし。


「まだ昼休みは残ってるんだから、もう少しゆっくりしていきなさいよ」

「え゛っ゛!?」


 それは普通に恐ろしい提案だった。 おかげでまた早見さんに対して変な態度をとってしまった……


「何その態度は?」

「……すいませんでした」


 立ち上がったままだった俺は、早見さんにそう謝りながらまた正座を組みなおした。


「でも、ゆっくりしていけって……こんな所で何をすればいいんだ?」

「だ、だからその……アナタには私の恥部を全部見られたわけだし……責任を取って私の愚痴に付き合ってよ」

「あ、あぁ……まぁ愚痴の相手くらいなら全然付き合うけど」

「そう、ありがとうね……」


 そう言うと早見さんはぎこちない笑顔を俺に向けてから、正座をしている俺の隣にちょこんと体育座りをした。 そしてそこから少しの間、早見さんは何も言わずに屋上の外をぼーっと眺めていた。


(まぁ、そうだよな……)


 さっきまで早見さんは色々とあったわけだしまだ辛いよな……よし、愚痴くらいには付き合ってあげるか。


「そ、その、早見さんさ……」

「……あーあ……アタシの初恋……終わっちゃったなぁ……」

「え!? あ、えぇっと……そ、そっか。 そ、それはその……えぇっと……大変だったな」

「……ふふ、名瀬君って慰めるの下手くそだね」

「しょ、しょうがないだろっ! 慰めるなんて一度もした事ないんだから!」


 そう言って少しだけ早見さんは笑ってくれた。 我慢してる雰囲気は感じ取れたけど、でもいつもの早見さんの雰囲気に少しずつ戻っていってる気はした。


「それにしても……黒木って篠原さんの事が好きだったんだな」

「っ!? そ、そうなのよ! あんの泥棒猫め……!」

「ど、泥棒猫って……」


 そう言うと早瀬さんの目つきはまたどす黒い感じになっていた。


「数ヶ月前に転校してきたばっかりなのに……なんでユウ君あの女に惚れちゃうのよ……!」

「あ、あぁ……そ、そうだな?」

「それに私とユウ君は10年以上もの仲なのよ? ユウ君とは他の誰よりも仲が良いっていう自負もあるわ。 それなのに……それなのに何で私じゃないの!?」

「え、ちょ、ちょっと待っ……ぐ、ぐぇっ!?」

「ねぇ! 私に教えてよ!! 篠原さんの一体何処がいいのよ!?」

「ま、待っで……ぐ、ぐるじ……!」


 早見さんは俺の胸倉を掴みながらそう叫んできた。 あまりにも苦しすぎて俺は早見さんの腕を全力でタップした。


「あ、ご、ごめんなさい……」

「ごほっ……ごほっ……」


 なんとか早見さんから解放された。 俺は咳をしながら、頭の中に篠原さんの顔を思い浮かべてみる。


 早見さんが今言っていた泥棒猫というのは篠原灯(しのはら あかり)という女子だ。 篠原さんは半年くらい前に転校してきた女子生徒で、俺達と同じく高校二年生だ。


 黒髪ロングのサラサラヘアで胸が大き……あぁいや、モデル体型でとても美人な女子だった。 でも、容姿端麗なんだけど、その代わりに性格にちょっとクセのある子だった。


 なんというかその……篠原さんはあまり表情を表に出さない子だった。 それに話しかけてもあまり返答が返ってこないので、ちょっと怖いというか……近寄りがたいオーラが出ていた。


 だから転校してきた当初は色々な生徒に話しかけられていたんだけど、今ではそんなクールすぎる篠原さんと話してる生徒は数えられる程度しかいない。 ちなみに今でも篠原さんと話してる生徒の中には、当然だけど世話焼きな主人公気質の黒木も入っている。


 とりあえず俺が知ってる篠原さんについての話はそんなところだ。 いや正直……俺も篠原さんはちょっとクールすぎるから話しかけた事が無いので、篠原さんの性格まではわからないんだ。


 でも性格はわからなくても見た目がメチャクチャ美人なため、男子からの人気はかなり高い。 もしも学校でミスコンを開催したとしたら二位に圧倒的大差をつけて一位を取る姿が容易に想像出来る。


「それで? 篠原さんのどこが良いと思うの? 男子としての意見を教えてよ!」

「え、えぇっと……顔?」

「ぐ……ぐぎぎ……」

「あと胸が大き――」

「あ゛ぁ゛ん゛! ?」

「いや待って! 怖い怖いって!!」


 本当の事を言っただけなのにドチャクソキレられた。 いや本当の事を言うべきでは無かったか……でも嘘をつくのもあれだしなぁ……


「何よ……! 結局……顔と胸なんじゃない……そんなの……どう足掻いても勝ち目ないじゃん……」


 そういって早見さんはしゅんとしてしまった。


「い、いやその……早見さんも十分可愛いでしょ。 ただ、篠原さんとはジャンルが違うというかその」

「お世辞なんて別に要らないわよ。 アナタにそんな事言われても嬉しくないし」


 一応本心で言ったつもりではあるのだけど、早見さんには通じなかったようだ。 でも二人の可愛さのジャンルが違うというのは客観的に見ても事実だった。


 篠原さんはミステリアスで綺麗系な美人女子に対して、早見さんは優しさと愛嬌のある可愛い系の女子だったから。 だからどちらも男子からは人気が高いのだけど……まぁそう言ったところで早見さんは喜ばないだろうからそれは伝えないでおいとく。

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