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12話:長い一日の始まり

 早見さんが俺の家に来たあの日から数日が経過した。


 今日は学校が休みの土曜日。 そして今日は早見さんが髪を染める日でもある。


 俺はとある都心の駅前で早見さんと待ち合わせをしていた。 この駅から歩いて数分の所に綾子が働いている美容室がある。


(うーん、もうそろそろかな)


 俺はスマホを取り出して今現在の時刻を確認してみると、もうすぐ13時半になりそうだった。 今日の待ち合わせ時間は13時半だったので、早見さんももうそろそろ来るはずだろう。


「おはよう」

「うん……? あ、あぁ、おはよう」


 俺はそう思ってスマホを閉じようとしたその時、ちょうど俺の後ろから声をかけられた。 それは早見さんの声だった。


「待たせちゃった?」

「いや俺もさっき来たばかりだよ」

「そう、それなら良かった」


 今日の早見さんの恰好はショートパンツとシンプルなシャツにスニーカーを履いたカジュアルコーデだ。 初めて早見さんの私服姿を見たので、俺は少しどぎまぎとしてしまった。


(やっぱり早見さんって……)


 うん、初対面でヤクザキックを飛ばされた時にも思ったけど、やっぱり早見さんの足はスラっとしていて綺麗だな。 だからこういう足を見せる服装は凄い似合ってるなと俺は思った。


(まぁそんな事を本人に言ったらただのセクハラでしかないから絶対に言わないけどさ)


「でも今日はごめんね」

「いや、全然大丈夫だから」


 昨日、早見さんから「髪を染めたら最初に名瀬君から感想を聞きたい」という連絡が来たので、俺も綾子の美容室まで行く事になった。 まぁ要は早見さんから呼び出しを食らったわけだ。


 でもここまで早見さんの相談に乗ってきたわけだし、こうなったら最後まで見届けたいなと思っていたので、早見さんのそのお願いに対して俺は二つ返事で了解した。


「じゃあ行こうか」

「うんわかった」


 早見さんと無事に合流出来たので、俺達は綾子の働いている美容室へと向かって行った。 美容室に行くまでの間、早見さんは嬉しそうに笑っていた。


「ふふ、楽しみだなぁ」

「そっか、それなら良かった。 そういえば早見さんの家族は髪を染める事については何か言ってこなかったの?」

「うーん、今日出かける時に、どんな風に帰ってくるのか楽しみだねってお母さんに言われたくらいかな」

「へぇそうなんだ、きっと良いお母さんなんだろうな。 ……あれ? そういや例の弟からは何も言われなかったのか?」


 早見さんとの会話にしょっちゅう登場してくる例の“クソ生意気な弟”は早見さんが髪を染める事について何て言ったんだろう?


「え? あ、あー……アイツには何も言ってないよ。 どうせ私が髪染めてくるなんて言っても、馬鹿にしてくるだけだろうしさ。 本当に最近のアイツは輪をかけて生意気になってきてるわ……」

「そ、そうなんだ。 あ、今更すぎるけど、そういや早見さんの弟って何歳くらいなの?」

「私の2つ下で今は14歳の中学生よ。 私達の高校の近くの中学校に通ってるから、もしかしたら名瀬君も登下校中とかにアイツと遭遇してるかもね」

「そ、遭遇って……あ、あはは……」


 早見さんはうんざりとした顔をしながらそう言ってきた。


「まぁでも早見さんの家はなんだか賑やかそうだなぁ。 あはは、楽しそうな家族だな」

「い、いやいや、私の家なんて全然だよ! それを言うなら名瀬君の家の方が……あっ……」

「う、うん? どうしたの?」


 早見さんが途中で喋るのを止めたので、俺は何事かと思って早見さんの顔を見た。 すると早見さんは何だか申し訳なさそうな顔をしていた。


「い、いやごめんなさい。 ちょっとデリカシー無い事を聞きそうになっちゃって……」

「え? ……あ、あぁ、そういうことか」


 その申し訳なさそうな表情と今の発言で、早見さんが何を言おうとしたのかは大体察しがついた。


「別に聞いてくれていいけど? 逆に気を遣われる方がしんどいしさ」

「え? あ、そ、そう……? じゃあ、えぇっと……前に名瀬君の家に行った時に聞くのはデリカシー無いと思ったから聞かなかったんだけどさ……名瀬君の家って、お父さんは……その……?」

「あぁ、父親はいないよ。 俺が小学生に上がる前にはもう離婚しちゃったから、今の家は俺と綾子で二人暮らしだよ」

「そ、そうなんだ……そ、その……ごめんなさい……」


 早見さんは申し訳なさそうな顔をしながら深々と頭を下げてきた。


「い、いや全然大丈夫だから! 逆に気を使わせちゃってごめん。 それに俺の家は母子家庭って言っても“明るい母子家庭”だからさ。 綾子と二人で毎日楽しく暮らしてるから本当に気にしなくていいよ」


 早見さんは本当に申し訳なさそうな顔をしていたので、俺は早見さんに向かって笑いながらそう喋りかけてあげた。


「そ、そっか……うん、そうだよね。 名瀬君と綾子さん、とても仲良しで羨ましいよ。 何だか親子っていうよりも友達みたいな感じでいいよね」

「……あはは、そっか。 うん、それだけ仲が良さそうに見えたなら良かったよ」

「……? う、うん」


 俺がそう言うと、早見さんは少しだけ不思議そうな顔をしながら俺の事を見てきた。


(……はは、今の早見さんの言葉を綾子に聞かせたかったな)


 俺はそんな事を思いながら目的地まで一緒に歩いて行った。

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