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10話:早見さんと綾子①

 翌日の放課後。


 俺は校門の前で早見さんと待ち合わせてから合流し、そのまま俺の住んでるアパートへと向かっている所だった。


「お母さん大丈夫そうなの?」

「あぁ、まぁいつもの事だから」


 案の定、昨夜の綾子はかなり酔っぱらって帰宅した。 そのおかげで今朝の綾子は完全に二日酔いでダウンしてずっと布団に包まっていた。 まぁ飲み会に行った次の日の綾子はいつもそんな感じだから俺は気にしてないのだけど。


 一応それでも綾子には「放課後に友達を連れてくるから」と伝えてはいるから、多分大丈夫だとは思う……いや多分でしかないのだけど。


「着いたぞ」

「ほ、本当に近いわねっ!」


 学校を出てからまだ10分くらいしか経っていないけど、目的地のアパートに到着した。


「これ朝に寝坊とかしても絶対に間に合うわね、普通に羨ましいわ」

「まぁその代わり周りには何も無いからな。 コンビニもだいぶ先だし」


 俺達はそのまま喋りながらアパートの中に入って行った。 そして住んでる号室の扉を開けた。 果たして綾子の容態はどうなっているんだろうか?


「ただいま」

「お邪魔します」


 俺達は玄関で靴を脱いで、そのまま大部屋に入っていった。 すると……


「いらっしゃい、こんにちは」

「あ、えっと、こ、こんにちは……」


 そこには顔のフルメイク&ヘアメイクを完璧な状態にした外面仕様の名瀬綾子がそこにいた。 休みにも関わらず綾子の一番の特徴とも言える明るい金髪ヘアはしっかりと編み込んでオシャレにしていて、その姿はかなりの本気を出しているように見えた。 まぁでも綾子の後ろに空になったウコンエキスのドリンク瓶が4~5本転がってるのが見えてしまってるのだけど……


「改めてどうも始めまして。 太一の母親の名瀬綾子です、よろしくね」

「あ、は、はい。 こちらこそはじめまして。 名瀬君の同級生の早見沙紀です。 よ、よろしくおねがいします」


 そういって早見さんは綾子に向かって深々とお辞儀をした。


「ふふ、いいよいいよ、そんなに仰々しい態度を取らなくてさ。 もっとフランクに接してくれた方が嬉しいな。 名前も気軽に綾子って呼んでくれて構わないからね」

「は、はい、その、わ、わかりました」


 早見さんはそう言いながら綾子の顔をまじまじと見つめていた。


(な、名瀬君!)

(うん、どうした?)

(こ、この人本当にお母さんなの?)

(あぁ、実の母親だぞ)

(い、いやいや! 若過ぎでしょ! どうみても20代にしか見えないって!!)


「ふふ、こう見えても経産婦だぞ♪」

「なっ!? も、もしかして聞こえてましたか……?」

「いや聞こえて無かったよ? でもよく姉弟に間違われるからね、何となく喋ってる内容は想像つくよ」

「あ、そ、そうなんですね、あ、あはは」


 そう言いながら早見さんはまだ信じられないと言った感じでとりあえず笑ってごまかしていた。


「い、いやでも綾子さん本当にとても綺麗ですしお若いですね……! つ、ついつい見惚れちゃいました」

「あら、そんな事言ってくれるなんて嬉しいわ。 でも女子高生の子からそんな言葉を貰うなんて私もまだまだイケるわね」

「いやお世辞だよ」

「うるさいわね太一は全く……ふふ」


 そう言いながらも綾子は嬉しそうに笑っていた。 女子高生に若いと言われてとても喜んでいるようだ。


「それで? 私に相談事があるって聞いたけど、詳しく教えて貰ってもいいかな?」

「あ、はい! 実はその……」


 早見さんはまだ少し緊張しながらも綾子に向けて話し始めた。


◇◇◇◇


「なるほど、それで沙紀ちゃんはどんな髪色に染ようかを悩んでいるってことなのね。 いいなぁ、私もそのファミレスに呼んで欲しかったわ。 なんだか面白そうな女子会をしてたのね太一は!」

「綾子飲み会行ってたし、そもそも俺女子じゃねぇよ」

「あ、あはは……」


 早見さんの話を聞き終えた綾子はそんな事を言いながら羨ましそうに笑っていた。


「でも確かに私も初めて髪を染める時はドキドキしたっけなぁ」

「あ、そうなんですか。 そういえば綾子さんの髪色も凄いですね。 何歳くらいから髪染めてたんですか?」

「私も今の沙紀ちゃんと同じくらいの時かな? まぁここまで明るくしたのはもっと先だけどね」


 綾子はそう言いながら自分の髪の毛を弄っていた。


「それで? 私に聞きたい事ってのはつまり?」

「あ、はい。 結局どういうのにしたいか私と名瀬君だけだと全然決めきれなくて……それで綾子さんに意見を聞きたいと思いまして。 綾子さんって美容師さんなんですよね?」

「えぇ、そうよ。 まぁ私も意見程度ならいくらでも言えるけど……あれでも太一の学校って校則とか大丈夫なの? 私が学生の頃はそういうのだいぶ厳しかったけど」

「いや俺達の通ってる学校はそんなに校則が厳しく無いんだ。 生徒の自主性を重んじるとか校則に書いてあったし、割と明るい髪色にしてても怒られてる生徒はいないな」

「へぇ、そりゃあいい高校だね。 じゃあ私も何か沙紀ちゃんに意見を言っていこうか?」

「はい、お願いします!」


 早見さんはそう言って元気よく頷いた。 綾子はそんな早見さんの顔をじっと見つめた。


「うーん、でもその前にさ、沙紀ちゃんの希望とかが知りたいな」

「希望ですか?」

「うん、そう。 今は染めるって言ってもさ、全体をワンカラーで染めるだけじゃなくて、例えば毛先だけ染めたりとか、前髪だけ染めるってのも流行ってるわね。 あとはインナーカラーをしてみたいんならエクステを付けて楽しむって方法もあるわ。 まぁそこら辺はお金との相談になると思うけど」

「あぁ、言われてみたら確かに染めるって言っても色々な種類があるのか」

「うん。 だからさ、どんな感じの自分になりたいかを先に考えといた方が良いかもね。 もしワンポイントだけ染めてみるんだったら、個性的な髪色をチョイスしてみてもオシャレに見えて良いわよ?」

「な、なるほど……!」

「あ、でも私みたいな明るすぎる色にしたい場合はブリーチしないといけないからね。 だからこういう明るい髪色は初体験にはちょっと……いやだいぶハードルは高いかもしれないわ」

「た、確かに、ブリーチはまだやってみる勇気は出ないかもです……」


 早見さんは綾子の話を聞きながら悩みだしていた。


「そんなわけで、沙紀ちゃんはどんな感じにしてみたいとかあったりするかな?」

「う、うーん。 でもせっかくの初体験だから全体染めをしてみたいんです。 それで、綾子さんに聞いてみたいんですけど、私ってどんな髪色が似合うと思います?」

「どんなかぁ……ふむふむ……」

「あ、あの、え、えぇっと」


 綾子はそう言いながら早見さんの顔をまじまじと見つめた。 早見さんは少し恥ずかしそうだった。


「うん正直何でも似合いそうな気はするかな! 沙紀ちゃんみたいな今時の子は何色でも可愛くなると思うよ」

「あ、ありがとうございます、お世辞でも嬉しいです」

「う、うん? いやお世辞を言ったつもりはないんだけどね」


 綾子は本心でそう言ったつもりのようだけど、早見さんはお世辞として受け取ったようだ。 やっぱり前々から思ってたけど、早見さんは自己評価が低いようだ。


「……あ、そういやさ、最近の流行りのカラーとかってあるのか?」

「流行り? そうねぇ……」


 そんな二人のやりとりを見ていると、俺はふと疑問に思ったので綾子に流行りのカラーについて尋ねてみた。


「うーん、まぁ王道だけどブラウンかベージュかアッシュ系カラーが全体的に人気かな。 あとは人気のイン〇タグラマーとかティッ〇トッカーの子と同じヘアカラーにしたいって子も多いわね。 あとは最近だと推しのアニメキャラとか推しアイドルをイメージしたヘアカラーを注文するお客様も増えてきたかな」

「へぇ、推しのカラーなんてのもあるんですね!」

「うん、それで推しのライブに行くんだ! って子もいるのよ。 そういう子達の話を聞いてると凄い楽しそうで羨ましいなって思うわ」

「羨ましい?」


 俺はそう尋ねてみると、綾子は通り目をしながら昔を思い出しているようだった。


「うん、だってさ、今は誰でも好きなようにオシャレを楽しめる時代になったんだよ? そういうのが好きな人達には本当に良い時代になったと思うよ。 私が子供の頃なんてさ、他の人と違うメイクとかヘアスタイルなんてしてたら、周りの大人達は誰も認めてくれなかったからね。 そんな変な事するなって周りの外圧が凄かったんだからさ」

「そ、そうだったんですか?」

「えぇそうよ。 私だって昔は少し金髪にしただけなのに不良娘だって周りから揶揄されたんだから。 いやまぁ普通にヤンチャしてたけどさ」

「してんじゃねぇかよ!」

「あ、あはは……」


 そんな俺と綾子のやり取りを見て、早見さんは苦笑いをしていた。


「まぁ、そんな私のヤンチャ話は置いといて。 せっかく沙紀ちゃんは良い時代に生まれたんだしさ、似合うかどうかを誰かに決めてもらうんじゃなくて……沙紀ちゃん自身の好きな髪色を直感で選んでみてもいいんじゃないかな?」

「わ、私の好きな?」

「うん、そうだよ」


 綾子は早見さんに向けてそう言いながら優しく微笑んであげた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 上手く早見さん自身の考えを引き出そうと誘導してますね どう見られるかじゃなくどうなりたいか これですね
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