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01話:幼馴染の男の子に振られた女の子

 俺が物心がつくようになったくらいの頃に俺の両親が離婚した。 理由は父親の浮気だった。


 父親の顔なんてもう思い出せないけど、当時は母親が毎晩のように泣いてた事だけは今でも覚えている。


 両親が離婚した後、俺は母親に引き取られた。 そしてそこからは本当に色々な事があったし、とても大変な日々を送っていく事になったのだけど……それでも今では落ち着きを取り戻す事が出来た。 今は小さな1Kのアパートに母親と二人で暮らしをしている。


 離婚してから一番大変だったのは母親なはずなのに、それでも母親は子供の俺の事をとても大切に育ててくれた。 俺はそんな母親の事が好きだし、尊敬もしている。 まぁ、恥ずかしいから本人には絶対に言わないけど。


 そしてそんな母親は幼い頃から俺に対して、いつも口癖のようにこう言ってきた。


「もし太一に好きな子が出来たら、その子の事だけは絶対に悲しませちゃ駄目だよ」

「お母さん以外で?」

「そう、お母さん以外でね。 きっと太一にもいつか、私じゃない誰かさんの事を好きになる日が来るよ」

「そんな日が来るのかな?」

「うん、いつの日か絶対にね。 だからもしそんな日が来たら、太一はその子の事だけは悲しませちゃ駄目だからね、お母さんとの約束だよ」


 それはきっと、母親が今まで味わってきた悲しい気持ちを息子の俺にも味わって欲しくないし、味わせる側になっても欲しくないから、そういう事を言っていたのだと思う。


「……うん、わかった」


 そんな母親の口癖に対して、俺はいつもわかったと頷いていた。 もちろん俺は母親の事は好きだけど……でも母親が言ってきた“好きな子”というのは、俺が母親に思っている“好き”とは違う事はなんとなくわかる。


 でも当時の自分は、果たして誰かの事を好きになったり、愛したりする事が出来る日が来るのだろうか……と疑問に思っていた。


 だって本気で愛し合っていたはずの両親は今はもう離れ離れになってしまったわけだし……いや、もしかしたら、その両親の離婚という悲しい光景を見てしまったから、子供の頃の俺は“好き”だとか“愛”というものがとても難しいものだと思っていたのかもしれない。


 だから、俺にも好きな子が出来る日が来るかなんてわからないけど……でも、いつか、もしも誰か好きな子が出来たら、俺は絶対にその子の事を悲しませるような男にはならないと決めていた。


 それが母親との約束だったし、それに俺自身も、父親のような誰かを悲しませる側の人間にはなりたくないと心から思っていたから。


「ふふ、ありがとね、太一」


 そしてこれは……そんな俺が、悲しくて辛くて涙を流しながらも、それでも頑張って前へ進もうと必死に努力していった“誰かさん”を好きになっていくまでの話だ。



◇◇◇◇



 午前中の授業が終わり、ちょうど今はお昼休みに入った所だった。


「それで沙紀? 話したい事って何?」

「ユウ君……あ、あのね……」


 ここは学校の屋上で、その周りには今喋ってる男女の二人組みしかいない。


 今喋っている女子の名前は早見沙紀(はやみ さき)。 高校二年生の女の子で、見た目は綺麗系というよりも可愛らしいタイプの子だった。


 ヘアスタイルは黒髪のセミロングヘアでポニーテールにしており、身長は155センチくらいのスレンダー体型。 趣味は料理と読書であり、部活は料理部に所属している文化系の女の子だ。


 また、性格は温厚でとても優しい性格をしているため、クラスの皆からとても慕われてるマスコット的存在の女の子だった。


 それに対して、今女の子に喋りかけられてる男子の名前は黒木雄二(くろき ゆうじ)。 同じく高校二年生の男子で、二人とも同じクラスの生徒だ。


 見た目は清潔感のある黒髪ショートヘアで、身長は170センチ前半の普通体型。 部活はやってないが生徒会に所属している。


 そんな彼の性格は気さくで明るく、また、困っている人を見かけたらほっておけないという主人公気質な男子生徒だった。


 そして実はこの二人は幼馴染同士なのである。 家がお隣同士かつ、互いの両親がとても仲が良かったため、幼少の頃からこの二人は毎日のように一緒に遊んで過ごしていた……らしい。


「……私……ユウ君の事が好き……なの。 だから……私とお付き合いしてください……!」


 そんなわけで子供の頃から非常に仲の良い幼馴染同士の二人だったのだが……ついに今日、早見さんが黒木に告白をしたのだ。


 早見さんは顔を真っ赤にしながらも本気で黒木に愛の告白を伝えた。


「……ごめん、沙紀」


 しかしその告白は実らなかった。 早見さんは小さく震えていた。


「俺、付き合ってる子がいるんだ。 だから……沙紀とは付き合えない」

「……そっか……うん、わかった。 ……あのさ、ユウ君が付き合ってるのって……篠原さん……だよね?」

「あぁ、知ってたのか?」


 今話に出てきた篠原(しのはら)さんという女子は、つい半年程前に転校してきた美人な女子生徒だ。 さらさらな黒髪ロングヘアのモデル体型で、とても魅惑的に見える女子生徒だった。


「ううん、付き合ってる事までは知らなかったけど……でもなんとなくだけど、そうなのかなって思ってはいたから……」

「そっか。 やっぱり幼馴染のお前には隠し事は出来ないもんだな」

「……あはは、そうだよ。 だって私達は10年以上も一緒にいたんだから。 だから……ユウ君の考えてる事なんてすぐにわかっちゃうんだからね」


 早見さんはまだ震えながらも笑顔で黒木に向かってそう言っていた。 なんというか、とても気概のある女の子なんだと思った。


―― PrrPrr


 そしてその時、黒木のスマホが鳴りだした。 どうやらLIMEのメッセージが届いたようだ。 黒木はスマホを取り出し、その届いたメッセージを確認した。


「……ごめん、沙紀。 俺、もういかなきゃ……」

「篠原さんから……だよね。 うん、早く行ってあげて」

「あぁ、ありがとう。 それじゃあ……」


 そう言って黒木は早見さんを一人残して屋上から出て行こうとした。 でも……出て行く途中で足を止めて、早見さんの方に顔を向けてもう一度喋りかけた。


「沙紀、告白本当にありがとう。 凄い嬉しかったよ。 告白は受け入れられなかったけど……でも俺達はこれからも親友でいような」

「……うん、もちろんだよ、ユウ君」

「あぁ、ありがとう! それじゃあな」


 そう言って今度こそ黒木は屋上から出て行った。 そして屋上には早見さん一人だけになり、そこからしばらくの静寂が訪れていた。


「……はは」


 しばらく経ってから早見さんは突然と小さく笑いだした。 でもそれは決して幸せな気持ちから出る笑いではない。


「……あーあ……こんな事なら、さっさと告白しとけば良かったなぁ……あはは……」


 そんな乾いた笑い声はすぐに消えて、また屋上には静寂が戻った。 でも今度の静寂は長くは続かなかった。


「……ぅぁ……」


 そしてその代わりに……


「……うぅ……うあっ……ぐすっ……うぅ……」


 早見さんは涙を溢しながら小さく……本当に小さく嗚咽を漏らしていた。 出来る限り声を殺しながら泣いているその姿は本当に悲痛な姿だった。


(……ヤベェ……)


 そしてそんな悲しすぎる現場を偶然にも目撃してしまった愚か者が、この屋上にはもう一人だけいた。


(ど、どうすればいいんだ……?)


 それが俺こと名瀬太一(なぜ たいち)だった。 早見さん達と同じく高校二年の男子学生だ。


 今日はあまりにも眠くてどうしようもなかったから、俺は授業が終わったらすぐに屋上に来ていたのだ、もちろん昼寝をするために。


 それで屋上に来てみたんだけど、今日はいつもよりも日差しが強かった。 だから俺は屋上に設置されてる給水タンクの裏で昼寝をしようと思って移動したんだけど……そのタイミングで早見さん達が屋上に入って来てしまった。


(くそっ……こんなことなら早見さん達が来た時にすぐに帰っておけばよかった……)


 給水タンクの裏側は早見さん達には死角になっていたため、俺の存在はバレずに告白が進んでしまったのだ。


「うぅ……うぁ……ひっぐ……」


 昔から人の恋路を邪魔すると馬に蹴られるって偉い人が言っていた。 だから俺は突然始まってしまったその告白を壊さないようにする事で必死だった。 俺は絶対に物音を立てないように、給水タンクに背中を預けて体育座りをしながら、終始空気になるように徹していた。 まぁ様子見をしてた時点で十分馬に蹴られる案件なんだけども……


 でも内容が思っていた以上にハード過ぎて俺にはキャパオーバー過ぎた。 むしろここまで物音を立てずに見守って入れた自分を褒めてあげたいくらいだ。


 そして出来ればもうこれ以上何も起きずに……そのまま早見さんにも屋上から出て行って貰いたいんだけど……


「……ぐすっ……ひっぐ……」


―― スタスタッ


 早見さんの足音が聞こえた。 あぁ、これは早見さんも屋上から出て行ってくれるようだ……いや……あ、あれ?


(ちょい待って!? 足音がこっちに近づいてるんだけど!?)


 スタスタという足音がどんどんとこちらに近づいてくる。 早見さんは給水タンクの方に来てる! な、なんでこっちに向かって来てるんだ!?


(ヤバイヤバイヤバイ!)


 しかも俺には逃げ場が無い。 だって給水タンクの先は屋上のフェンスがあるだけだ。 だからここから屋上を脱出したくても……給水タンクの裏から出ようとしたら絶対に早見さんと出くわす事になる。


 いやこんなのどう足掻いても俺には絶望しか見えないんだけど、それでも俺は息を殺しながら身を潜めるしかなかった。 まぁでもそんな努力も無駄に終わり……


「ぐすっ……ぐすっ……え……?」

「……ど、どうも……」


 そうして俺達は目を合わせる事になった……その瞬間っ!


―― ドンッ!!!


「……っ!?」


 早見さんは体育座りをしていた俺の顔に当たらないギリギリの所に狙って華麗なヤクザキックを放ってきた。 そしてその蹴りが給水タンクに当たり、ドンッ!という恐ろしい打撃音が鳴り響いたのであった。


 ……正直俺の顔面を蹴られるのかと思ってメチャクチャビビった。


 ちなみにその瞬間。 早見さんが俺の正面からヤクザキックをしてくれたおかげで、早見さんの可愛らしいパンツが見えてしまったのだけど……怖すぎてそれどころじゃなかった。


「どこから……見てたのかな……?」

「えぇっと……その……最初から……です」


 そしてこれが俺と早見さんの最初の出会いだった。

ご覧いただきありがとうございました。

もし気に入って頂けたり、面白いと思ったようでしたら、下から評価をして頂けると嬉しいです。

とても励みになりますので、よろしくお願い致します。


また、本作品はMBSラジオ

【寺島惇太と三澤紗千香の小説家になろうnavi-2ndbook-】

の朗読コーナーに選ばれました!(2022年07月度の朗読コーナーにて)


早見沙紀役:徳井青空さん

名瀬太一役:寺島惇太さん


このお二人の声優様に担当して頂きました。

本当に素晴らしい朗読劇でしたので、良かったら皆様にも聞いて頂けたら幸いです。

MBSラジオのアーカイブは全てYouTubeで聞けるようになっておりますので、以下にリンクを貼っておきます。


「寺島惇太と三澤紗千香の小説家になろうnavi-2nd book-」(2022/7/03OA)

→https://www.youtube.com/watch?v=xMwtIhpuMFY


こちらが本作品の朗読コーナーがあるラジオ回となっております。

ここから4週にわたって本作品の朗読劇がありますので、もし気になった方はそのままアーカイブを見て頂ければ嬉しいです!


それでは長くなってしまいましたが、改めてここまで読んで頂き本当にありがとうございました!

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[良い点] テンプレな展開だけど、続きを期待する!
[一言] めちゃくちゃ面白そうな第一話。期待大です!
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