表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
My Nightmare ~Hug the Ghost~  作者: 燕尾あんす
魔門
7/39

姉妹

# misery,s side


時刻は夕刻

街並みや山並みを白く照らしていた太陽はゆっくりと一日の仕事を終え水平線へと落ち始め


〈カッカッカッ〉


と数多の蹄の音を重ね響かせながらミザリーらは北上している最中だった


それぞれが馬に跨り、ミザリーは悠々と

レオは真っ直ぐに姿勢よく

ベイカーはどこか馬に遠慮がちに揺られていた


イグダーツが用意してくれた馬たちはどれも健脚で旅路は順調そのもの


すでに王都からは、数十kmも経ている


『さすがに国境までってなると遠いわね!どんぐらいかかるの?』


もちろん先頭に位置しているミザリーが振り向いてレオやベイカーに問うた


「国境の場所は地図で見ただけだし馬での目安が僕にはわかんないな…どうなの?」


ベイカーがほぼ並走しているレオへと問いかける


「目的地は完全な国境というわけではなくて、国境への要所となる山の麓よ。問題なく進めれば明日の夕刻には着けるはず」


「ってことはそろそろ手頃な場所で野営の準備でも始めた方がいいかな…直に暗くなり始めちゃう」


「あと数キロ先に、寝泊まりできる程度の小屋があるわ。そこで夜明けまで過ごしましょう…」


レオが言葉の終わりを霞ませる


と同時に


三頭の馬が嘶き歩を緩め、前進を躊躇う素振りを見せた


『順調に行けば…ね』


ミザリーがそして続いてレオが馬から降り、なだめるようにそれぞれの馬の首を撫でる


「え?な、なに?」


ベイカーもつられて馬を降りると前方に視線をやった


〈ポゥ…〉


と赤い光の線が図形を描くように光っている


3人は知っている、それが悪魔が現れる前兆だと


「うわぁ…マジかよ…」


間もなく


〈ギィヤァァァッッ!〉


と断末のような声をあげながら、人型の爬虫類のような悪魔が現れた


それも1匹ではない


『ひぃふぅ…んーー…3匹ね』


人差し指で軽やかに悪魔の数を数えるミザリーだが


ふっと視界の隅

地面を動いた影に気付く


〈バサッ〉


と翼をなびかせているのは鳥型の悪魔


「…4匹ね」


レオが訂正する


「まだ目的地までは先なのに…これも例の件の一部かな?」


「報告では10匹以上はゆうに出現している…これはたまたまね」


「マジかよ…まぁでも」


とベイカーのセリフを遮るように空から

鳥型の悪魔がミザリーに向かって急降下し始めた


同時に爬虫類の悪魔の1匹もレオの背後から飛びかかる


だが


〈ゴシャッ!!〉


と急降下してきた鳥型の悪魔

その頭部をミザリーの振り上げた右脚が迎え打った


人並み外れた反射と動体視力、そして運動能力を誇るミザリーには容易いこと


並びに地上最硬の呼び声高いウルベイル鋼で造られた身体は、下級悪魔相手ならばただの蹴りでさえも重撃と成す


「ミザとレオの前に出たのが運のつきだな…」


『3』


三つ編みを揺らしターンするように蹴りの勢いでクルッと回ったミザリーの視界


レオが剣を地面に突き立てていた


その背後には身体に縦の線が1本入った


つまり、剣で両断されている悪魔が

両断されたことにも気づいてないままレオへの攻撃を続けようとしていた


しかし、もう終わったその生命でそれは叶わない


腕を振り上げた拍子に身体は中心からズレ始め、死を悟ったその悪魔の身体は固まり弾けた


「…2」


短く数字を数えながらレオは残る2匹の内の1匹へと視線を


同じくミザリーも違う1匹へと視線と


〈チャッ!〉


大型拳銃、ミザリー専用6連装リボルバー

【マリーゴールド】を向ける


ミザリーが引鉄を引き

レオを剣を振り上げるのがほぼ同時


〈ドゥオオンッ!〉


と着弾したものとやはり両断された悪魔は断末魔をあげる暇もなく


図らずも同タイミングで弾けて消えた


『0…ま、引き際を理解してくれてて助かるわ』


「恐ろしいカウントダウンするなぁ…にしても…」


ベイカーは悪魔に襲われたというのに

微かな悲鳴や恐れもなく、淡々と対処した2人の女性を交互に見る


「婆ちゃんがよく言ってたっけな…女は強いって」


『ほんと、さすがに強いわねリディ』


ミザリーの声掛けにふっと首を横に振る


「もうミザリーには敵わないわ…悪魔と化すことができなくなった私ではね」


「え?そうなの?」


悪魔と化すとはその言葉通り

レオは幼き頃ハイトエイドに〈黒箱〉と呼ばれるものを埋め込まれ、適応したことにより


【四つ脚】の異名を持つ悪魔へと変化することができていた


それができなくなったということ


「ええ、ハイトエイドが居なくなったことが原因なのか、酷使しすぎたことが原因なのかは分からないけど…自分の中に魔力を感じられなくなった…気がする」


『それでもそんな強けりゃどうってことないでしょ?』


「足を引っ張りはしないわ、安心して」


「おっとと…どうどう」


一瞬の戦闘に動揺した馬達をベイカーがなだめる


『あら、マリー使うんじゃなかったわね。騒がしちゃってごめんね』


ミザリーも自身の乗っていた馬の手綱をベイカーから受け取りなだめる


「もうすぐ小屋だからもうちょい頑張ってね」


との言葉通り


3人は馬に乗り直し、ほどなくして

小屋へとたどり着いた


夕刻の灯火のような橙の陽を受けながら

小屋の前の木々に馬をくくりつけ


古びた古屋の扉を開けた


〈ギィ〉


と軋みこそすれど、中は思いのほか老朽化は進んではいないようだ


小屋の中心の囲炉裏


使えそうだが薪の備蓄は小屋の中には見当たらない


「よし、薪を集めてくるよ。2人は休んでてよ」


ベイカーが忙しなく外に飛び出そうとする


『なら私も行くわよ』


「3人で集めたほうが早いわね」


とミザリーもレオも続こうとするが


「いや!僕1人で平気さ、ミザもレオもなんかさ…姉妹水入らずで話したいこともあるだろっ」


〈バタンッ〉


と言うだけ言ってベイカーは飛び出していった


残されたミザリーとレオは視線を合わすとベイカーの気遣いにフッと笑った


『なんの気遣いなのかしら…まぁそういや改まって話したこともなかったわね』


〈ザッ〉


身を投げ出すように手近な床へと腰を落とすミザリー


次いでレオも向かいあうように腰を下ろすと

後頭部に手を回し、覆面を外す


獅子の覆面を外すと長い銀髪がふわっと揺れながら銀のベールをたゆたわせる


「…改まって私に家族がいる…なんて、少しくすぐったい気がするわ」


『うーん…まぁ分かんなくはないわね、でも私は話に聞いてたから、割とすんなり受け入れられてる感じ』


伸びをしながらリラックスしているようなミザリー


「あなたは…私を…許せるの?」


しん、とかすかな沈黙

だが空気を悪くするものでは無い


レオの、いやリーダの発言は

過去に自身が犯した罪による自責


そこからくる不安


だが


『許すも許さないもないわよ』


「…え?」


ポカンとした顔で告げたミザリー

にポカンとした顔を返すリーダ


『リディが自分を許せないって思ってることくらい分かるわ、なら私が責めることじゃない。ただ見届けるだけよ、妹としてね』


妹という言葉に少し照れくさいのか

少し顔を伏せるミザリー


しかし、その言葉にリーダも

思わず拳を握りしめる


「そう…なら家族に見られていると思って生きるわ。あなたと…アリスに」


『大袈裟ね、っと?』


ミザリーが外から聞こえてくる音に気づく


「おーい!ミザッー、開けてくれよー」


『はいはい、やかましいわねビーのやつ』


ゆったりと身体を起こし、小屋の扉を開けると両手いっぱいに薪を抱えたベイカーが立っていた


「なんとか暗くなるまえに間に合った」


少し息切れをしている所を見ると慌てて拾い集めてきたようだ


『あんがと、助かるわ』


「悪かったわね、手伝えば良かった」


んっ、とリーダが覆面を外していることに気づく


「あれ?外していいの?」


「ええ、人目がある訳じゃないしもう王都からはそもそも離れているしね」


「それもそっか、待ってて火をつけるよ」


薪を囲炉裏に並べ、火付けに持ってきた枯れ草を置く


火打ち石を何度かぶつけ合うと

火花が枯れ草へ移りそして薪へと火となり纏われていく


ふー、と息を吹き当て続けると

火は安定し始める


「ふぅ、これでよしと」


囲炉裏に火が灯り、小屋の中にもじんわりと温かみが広がっていく


ベイカーも腰を落ち着け自分の荷物の鞄を手元に引き寄せる


「リーダも何か食べる?干し肉とかパンとかしかないけど」


鞄の中から、食料を包んだ革袋を取り出すとリーダに差し出す


「大丈夫、私も持参している分があるわ。」


「そっか、ミザは身体の調子どう?」


パンを取りだしちぎって口に運びながら、今度はミザリーを気にかける


『全然へーき、しいていうなら…』


「ん?」


『なんか剣が欲しいわね、悪魔に素手で触んのも気分がいいもんじゃないし』


「うーん、つっても並の武器じゃミザの腕力に耐えれるかって問題もあるしなぁ」


『リディのは…なんか特別な剣?』


ちらとリーダの傍らにある剣を一瞥し問う


半年前対峙した際にも使用していた剣

独特な装飾を施された直剣


酷使されているであろうにも関わらず刃こぼれの様子もない


「これも魔器と言えるのかも知れない。元はなんの変哲もない直剣だった、でも魔力に触れ続けながら悪魔を倒していく内にいつの間にかこうなっていたわ」


『へぇ、細身な剣の割に頑丈なのはそういうことなのね。私も適当に見繕って使い続けてたら馴染んだりして』


「以前使っていたのは魔器だったからね、代わりの魔器なんて簡単に見っかるもんじゃないか…」


リーダとベイカーが思索にふける


『またあのデカい蛇さんに貰いに行こうかしら』


「壊れたらまた次くれるってもんじゃないだろ…あっ、そうだ。リーダに聞きたいことがあったんだ」


流れで思い出したようにベイカーがリーダを見る


「なにかしら?」


「あの蛇もそうだったし、ミザもそうだけど〈世界を〉なんたらっていう悪魔って…どういう存在なの?」


ベイカーが疑問を抱いたのは

ミザリーに剣を与えた〈世界に潜る蛇〉ヨルムンガンド

〈世界を這う蜘蛛〉ベイガン

リーダに与えられた〈世界を穿つ魔兵〉

そして、ミザリーの中の〈世界を駆ける狼〉フェンリル


どうやらそれらが〈極界の悪魔〉と呼ばれているということ


それだけの情報でしかない


それらがどういう存在なのか、知る術がないため考えてこなかったが

ハイトエイドの元で行動していたリーダならば何か知っているのではないか


ベイカーはそう思ったのだ


『確かに謎いわね…なんか知ってる?』


「私も詳しく聞いたわけではないけど…悪魔にも四十四の種族がいるの、その種族それぞれの頂点に立つ強力な悪魔の長のことを〈極界〉と呼ぶ。らしいわ」


「よ、四十四!?あんなのがそんなにいんのかよ…」


「それらのいずれも並の悪魔とは一線を画する魔力を持ち、魔界を区分する44の世界を統べている…ということらしいわ」


途方もない話に思わず顔をしかめるベイカー


「蛇に蜘蛛、リーダのは魔兵だっけか。それにミザの狼、なんか色んな形で人間界に存在してるんだね」


「ええ、2人の見た蛇はどういう経緯かは分からないけど人間界に昔から居たのかもしれない。蜘蛛と魔兵は…ハイトエイドが、というより魔女が人間界に出現させたもの」


『そういえばあのおじいちゃんが人を悪魔にしたりしてたのよね…黒箱とかいうのが』


「黒箱は悪魔の魔力の結晶、魔女は悪魔を結晶化することが出来、それを人に埋め込むことで悪魔化することができたの」


リーダが話す度にミザリーの眉間に皺がよる

ややこしい話になってくるとそうなる


『でも極界の悪魔って強いんでしょ?よく結晶にできたもんよね。あのおじいちゃん』


「ホントだ、っていうかハイトエイドの〈魔女の檻〉は極界の悪魔とはまた違うんだね」



「あれはまた別次元の存在よ、〈魔女の檻〉は全ての悪魔を産み落としたもの。母なる存在だったと」


うん?とベイカーが首を傾げる


「でも、ミザのフェンリルは一度封じたって話だし。今回もミザにやっつけられたんだから…不思議な話だよね」


全ての悪魔の母たる存在というからには序列的には最上位であると思われる〈魔女〉

産み落とした44の極界の悪魔の1つであるフェンリルがそれを凌駕したというのが疑問である、というのがベイカーの見解


「それは多分…純度の違いね。〈魔女の檻〉は封じられていた魔力がハイトエイドに適合し始めて、その依代となりはしたけどその力を完全に発揮するには時間が足りなかったのかもしれない。対してミザリーは、フェンリルが母であるアリスであったから同調が瞬間的に完全に行われた。という差かもしれないわね」


「ふーむ、それは言われてみれば確かに納得はできるな。でもなんでハイトエイドは〈魔女の檻〉に適合することができたんだろ?」


「それは…ハイトエイドは魔女の血統を持っているということが関係あるのかも」


『ん?』


「ハイトエイドは中世から続く魔女と呼ばれる家系の生き残りなの。ここでいう魔女って言うのは魔力を生まれながらに持っている人のことね、魔力を持っていることで様々な能力を有したと言われていた人達よ」


「その血統だから、適合したってこと?」


「だけではないわ。魔女と呼ばれた人達はその人智を超えた能力を恐れられ迫害を受けた…やがてその恐れは増長され人々はそれらの人を「魔女狩り」と称して惨殺した」


リーダが紡ぐ凄惨な話に顔が強ばり始めるベイカー


「そしてその手はハイトエイドと唯一の肉親であった母に伸びた。ハイトエイドは助けを乞い、すがろうとしたけど狂信的に魔女狩りを行う人の耳には届かず母親は殺されてしまった。次いでハイトエイドにまでその手が伸びようとした時、ハイトエイドを救ったのは…その場にたまたま現れた悪魔だった。周りの人間を目につくまま殺した悪魔は何故かハイトエイドには危害を加えずその場を去った」


「それじゃ…まるで」


『悪魔がハイトエイドを救ったみたいね』


「救いを乞い縋った人に届かなかった声は悪魔に届き、自身を救った…ように見えた。言わばそこから彼の歪みは始まったのでしょうね、〈魔女の檻〉がその歪みに惹かれてしまった。私が知っているのはそんな所ね」


長い話に一息つくと、リーダは囲炉裏の炎をじっと見やった


『そんな事情があったのね…まぁ、それでも私は悔いやしないわ。』


ゴロンと寝っ転がるとミザリーは

すっと目を閉じる


『寝ましょ、私は疲れた』


「移動ばっかで退屈疲れしちゃったんだね、あと一個気になることがあるんだけどさ?」


「なに?」


「リーダの髪が銀色なのはなんでなの?」


ゴロンと転がっていたミザリーもくるんと寝返りを打ちリーダに視線を向ける


『そういえばそうね、母さんは銀色だなんて教えてくれてなかったわ。ま、母さんはそういうトコ抜けてたりするか…』


「ああ、これは…私も生まれながらに魔力を持っているのよ。その影響だろうとハイトエイドに言われたことがあるわ」


『へぇ…じゃぁもしかしてリディも魔女の血統ってやつだったり?』


「魔力を持っているのはそうかもしれないけど魔女の血統かどうかは…確かめる術もないわ。私の母は…アリスだけ…」


「ふむ…でもなんかしっくりくるもんだね」


ベイカーが気づけばミザリーとリーダを代わる代わる眺めている


『なにが?』


「君らが姉妹だってことがさ」


『…』


「…」


ミザとリーダが不意に視線を合わす


『似てる…?』


「顔立ちの系統は似てるんじゃないか?身長も同じような感じだしね。でも…こんなツンツンツンした妹じゃ可愛げは感じづらいか…」


「可愛いわよ」


ベイカーのセリフに被るようにリーダが言う


思いがけずなセリフに思わずぽかんとするベイカーとミザリー


「可愛いわよ…妹」


言ったリーダも気恥しいのか

寝床を整えると背を向けるように潜り込んだ


「良いお姉ちゃんだなぁ…よし、寝よう!」


なんだかホッコリ来たのか

ベイカーもそそくさと寝転がると直ぐに寝息を立て始める


小屋の中に静寂が広がり始める

囲炉裏の焚き火が時おり爆ぜる音に耳を傾けながら


『…なんか調子狂うわね…ま、いいか』


ミザリーは誰にともなく零すと


ゴロンと再び床に身体を投げ出した

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ