epilogue ~雨に傘を~
# another side
ドライセン護国 王都から100km以上も離れた小さな村
数十人が身を寄せ慎ましく生活しているその村は今、普段からは想像もできない喧騒の中にあった
村に点在する幾つかの家屋は損壊し、村中の長閑さを象徴するように植えられた木々には炎が纏わりついていた
逃げ惑う人々はどこへ逃げればよいかも分からずただ村の外へと進路を定めるしか出来なかった
無論、この村にその原因を
我が物顔で闊歩する悪魔たちを対処する術はない
この村にも多少の有志の警邏隊はおれど、穏やかな日々を重ねてきた年月が多すぎた
とてもではないが十程の襲撃者を撃退する事は彼らには至難を極め、村の人達の避難を補助することが精一杯であった
このままでは村は壊滅を待つ他ないと皆の脳裏に覚悟を決めかけさせたその時
ふわり、と
村の中央の家の屋根に、何かが降り立った
それは人のようにローブを被った竜人の悪魔
厳つい体躯からは想像もつかぬほど柔らかい着地
悪魔も、村の人々も突如現れたその竜人の悪魔に注意を向ける
村にとっては悪魔が、災いがひとつ増えたのだと悲痛に拍車をかけた
しかし
よく注視しているとその竜人の悪魔の背にもうひとつのローブの影を見た
悪魔の外殻に手をかけ、まるで悪魔を駆ってているようにさえ見えるそれは
人間だった
それも若い女性の
不思議な取り合わせのその影に村人たちにはは戸惑いが広がる
だが悪魔たちはそのペアを敵と見なしているようで十の悪魔は一様に、その竜人の悪魔達を取り囲むように集まり始めた
「降りていようか?クロ」
不意に女性の声が聞こえてきた
「いや、問題ない。指示をくれ、ガゼル」
返すよう聞こえてきた声は竜人の悪魔からだった
「外堀から排除しましょう、大丈夫。あなたの速さなら…1匹たりとも逃さない」
言葉を言い終わると同時にその姿が消えた
手品のように一瞬にして視界から消えた竜人の悪魔を探すように悪魔たちは辺りを見回し出す
が
〈ゴシャッ!!〉
次の瞬間には最も外側にいた悪魔の頭を地に叩き伏せ砕く竜人の悪魔
〈ギィヤァ!!〉
その撃破が火蓋を切るように残り9体の悪魔が叫びながら一気に迫りくる
「クロ、火の盾を」
〈カッ!〉
女性の言葉を受け、竜人の悪魔の目に光が灯る
手を掲げると炎が纏われ、その炎は瞬時にして2m程の剣の形を成し
眼前の地面を横一直線の線を引くように削り切る
〈ブワァッ!!〉
その地面の剣戟痕から炎が壁のように燃え立つと悪魔達が一瞬たじろぎ、視界を遮られたことによって再び竜人の悪魔の姿を見失う
「後ろをとって」
またも聞こえてきた女性の声に悪魔達が振り向くと指示通りに竜人の悪魔は背後におり
位置関係的に悪魔たちは炎の壁と、竜人の悪魔に挟まれる形となっていた
「横一線、振るって!」
グッと、剣を握る手に力を込めると竜人の悪魔は一回転しながら思い切り振るった
〈ブゥワァッ!!〉
と剣を振るうことによって生まれた炎の斬撃は怒濤のように悪魔達にぶつかる
その勢いは苛烈に悪魔を焼き燃やしながら背後にあった炎の壁へと9体の悪魔を押し込む
炎に焼かれた部分がボロボロと崩れ始めどんどんとその身体を破壊し
ものの数秒も経つと
全ての悪魔は炎の斬撃と壁によって灰と化していた
竜人の悪魔がこの村に降りたって2分にも満たぬ間の出来事
遠巻きに見ていた村人は瞬きも忘れ見入っていた
そして、その突然の来訪者にこの村は救われたのだと理解した
何故、悪魔が悪魔を倒し人を救ったのかは分からないがそれでも明らかにこの村を救ってくれた
ハッとし感謝の意をと、思った時にはもうその姿は無かった
そのすぐ後
村を見下ろせる高台に2人の姿はあった
しかし、女性の横で並んで村を見下ろしていたのは悪魔ではなく同年代の青年だった
「お疲れ様だったね、クロ」
「軽いもんさ、僕たちならね。」
青年は胸に手を当てて女性に向かって微笑んだ
「優しいことにこの力を使えて良かった。」
「そうね…でもここからよ」
「ああ、始まったばかりだ。テシルとセシルのためにも、彼女らに報いるためにも」
ドライセン護国 ルースルーにおける騒動から数週間が経ち、ガゼルリアとクロジアは2人旅を始めていた
ドライセン護国内を周り、そしてゆくゆくは護国外へも足を向け
悪魔などの理不尽な痛みから人を救い守る
人として生きる旅のために
「ねぇ?クロは…テシルとセシルと意志の疎通はできるの?」
ふと、歩きだしながらガゼルリアが尋ねる
元々が幼なじみという関係ではあったが、復讐を盲目的に目的としていたため、お互いを知る時間が2人には足りていなかった
「いや、会話みたいな事ができるわけじゃないよ。ガゼルと旅を始める前、違うな…ルースルーでベイカー達が気づかせてくれるまでは声が聞こえてきたりもしていたけど、今はなんていうか感覚的なものを感じるだけさ」
「そっか、うん。でもあなたの中に生きてるってだけできっと2人は楽しくやってるんでしょうね」
「お姉ちゃんも近くにいるってことも良いことだと思う」
「そうあるべきだったのよ…私たちは家族だもの」
スっと横並びに歩くクロジアの手にふとガゼルリアの手が触れると
「ああ、もう離れたりやしないよ。」
クロジアはそのガゼルリアの手を握った
「こんな世界でもさ、幸せはあるよな」
「なに?急に?」
「罪を償う、贖わなければいけない僕らにもこのくらいの幸せは許されるかなって思ってさ…全ての雨の後に虹が架からないように、全ての夢が叶うとは限らない。
それでも僕は君の傍にある、全ての雨には僕が傘を差すよ」
「いつの間にかポエムを嗜むようになったの?…うん、でも良いわね。プロポーズっぽい」
「えっ?あっ、いや、これは違うよ…まだね。もっと…気の利いたもっと良い言葉を探しとくから」
頬を紅潮させながらバツが悪そうにクロジアの目が泳ぐ
その反応を笑いながらも
〈グッ〉
とガゼルリアがクロジアの手を握る力を強めた
そしてそれに気づいたクロジアも強く握り返した
もう離れることのないように
もう離すことのないように
お互いがそう願いながら、二人は歩き続けた




