武人 リョフ・テンマ
# Lida side
〈ギィィンッ!!〉
一つの剣戟の音が響くころには次の剣戟が鳴り響く
矢継ぎ早に繰り出される攻防の音と瞬間的に地面を蹴る音だけが王門前の広場を騒然とさせていた
ルグリッド公国にとっての危機
純然たる武の魔人 リョフ・テンマによる襲撃
迎え撃つはリーダ・バーンスタイン
一度は敗れ、地に伏せたが
自身の中に押し込めていた悪魔の力を呼び起こし満身創痍ながらもリョフと互角に切り結んでいる
【何故貴様がそこまでの力を持っているのかは知らんが!大したものだ!】
剣戟の音を縫うようにリョフが呼びかける声は先程と比べどこか楽しそうにさえ思える
「今ここで終わる訳には行かない!そう決めただけよ!」
白銀の騎士、リーダの髪色のような色の悪魔
その意志を守るための姿は悪魔とは思えぬほど清廉な魂を体現しているようにリョフの剣を弾き続ける
【極界にさえ届くかも知れん器か…だが惜しいな】
〈ギンッッ!!〉
一拍置くためかリョフが力強くリーダを弾き飛ばす
体勢こそ崩したが、それも受け切り距離を置いた
ジワリと
リョフとリーダの間の地面に何滴もの血が鮮やかに滲んでいる
それは今も絶えずリーダの腹部から外殻の隙間を縫い流れ続けているものだ
【すでに致命傷だろう、人間として限界を超えすぎた自覚がないとは思わんが?】
「…」
言葉を返せなかった
自身がすでに満身創痍の極地にいる事など分かっている
この一瞬にも意識が絶えてもおかしくはない
紙一枚にも満たぬ薄氷の上を歩かなければならない状態
理知的に考えるならば、悪魔と化してもなお
リョフには届かない、勝てないと理解している
それでもまだ立つのは強い気持ち
誰かの為に、頭に浮かぶ妹のために他ならない
【おかしなものだな、人間というものは…あのガゼルリアという者もそうだが】
「この国を…狙ったこと…?」
【違うな、奴の目的はドライセン護国王への復讐だ。家族を贄にされた恨み、ということらしい】
「復讐…?そう、悪魔には…そんな気持ち分からないでしょう」
復讐、リーダはその言葉から様々な予測を立てた
護国、護国王が復讐の対象ならばルグリッド公国を狙った意図は?
なぜリョフのみの単独進撃なのか?
ガゼルリアは今どこに?
疑問は浮かび続ける
その疑問を読み取ったのか
リョフは剣を地面に突き立てた
【人だ悪魔だのに関わらず理解しがたい思考をしているのだ。まぁ余所見をしながら戦うのは本意ではあるまい、答えをやろう。
そもそも我の目的はこの国の侵略ではない。足止めだ】
「…足止め?」
【ガゼルリアはどこだかの村で護国王とその周辺の者を贄に儀式を決行している。だが、それを前に貴様やフェンリルの娘といった不安要素が現れた。だから邪魔をされぬよう、我がここに出向き公国からの出兵を防ぐという算段となった。まぁフェンリルの娘がここにいないのは誤算ではあったがな】
「村…ルースルー…じゃあガゼルリアはそこに…だとしたら貴方には本来別の役割がある、ということ?」
【そういうことだ、我は武究の魔。強者を喰らい更なる力を得ることを望み続けるもの…それを知ってか知らずか奴は我に取引を持ちかけた】
「取引?」
【我の半身の魔力、それを渡す代わりに一つ望みを聞いてくれ、とな】
「案外優しいのかしら?人の望みを聞いてくれるなんてね」
【我の望みに繋がる部分があっただけだ。ここに馳せ参じたのも、それを邪魔されたくないと我も思ったからに過ぎん】
ミザリーやベイカーと共有できず、情報が不足していたリーダ
リョフの言葉から少しずつ、パズルのピースが嵌るように絵図が見え始めた
「それなら貴方の本当の目的は?ガゼルリアと何を…」
きっとそれが最後のピースだとリーダは本能的に感じている
【我の目的は「ナベリウス」と呼ばれる悪魔を殺し、更なる力を得ることだ】
「…ナベリウス?それは…?」
【先程話しただろう、ガゼルリアが儀式を行い、降臨させる悪魔がそれだ】
「…話が見えないわね、ガゼルリアが呼び出した悪魔を殺させるために貴方に協力させている?」
【そこが奴の理解できんところだ、「ナベリウス」という悪魔は幽魔、実体を持たぬがゆえ我とは本来相性が悪い、しかし…】
リョフが、思わしげに空を見上げた
【ガゼルリアはナベリウスを降臨させたのち、己の身体を明け渡すことでナベリウスを実体化させる】
「実体化…待って?…じゃぁガゼルリアは…」
【ナベリウスもろとも殺してくれ、と。それが奴の望みだ】
疑問の答えは、新たな疑問をリーダに芽生えさせた
何故そんなことをリョフに?
何故自身を殺めさせようというのか?
【なぜ呼び出してまで、殺すのか。自身を贄のようにしてまでナベリウスを呼び出したいのかは分からんが、奴がお膳立てしてまでナベリウスとの戦いの場を設けるというのであれば利用せん選択はない…それに】
「それに…なに?」
【その取引を持ちかけてきた時、奴の、ガゼルリアの瞳に…何かを感じた。強固な意志を、果たすためには全てを懸ける覚悟を、それに突き動かされたという部分はあるがな…む?】
何かの気配か、リョフはちらと北へ目を向けた
そして
〈ズッ〉
と突き立てた太刀を引き抜き、ビュッと振る
【現れたか…さぁこちらは終幕とさせてもらおうか、どうやら時間がないようだ】
リョフが感じた何か
図らずもリーダも同様に感じていた
「(何かに見られているような気配を感じる…これがナベリウス?ルースルーにいてもここまで気配を感じさせるなんて…でも)」
ポタリ
と未だに自身の腹部から零れる滴を見下ろす
あとどのくらいもつのか?
「(いや、今は考えるのを辞めよう。私はこの剣で、この思いで!リョフを倒す!)」
〈ジャッッ!!〉
二つの足音が
地を蹴る音が重なった
〈ガギッ!!〉
ほぼ同時に重なった剣と太刀が火花を散らす
お互いに両の手で押し合う
ごく僅かにリーダが押されてはいるが、それでも決して引けは取らない
軋む鋼の音に紛れて落ちる血を顧みることもない気迫はリョフを昂らせた
瞬間、リョフは太刀を握る手を片方離した
ほんの僅かな隙
それを逃さずリーダが力を込め押し込む
だが、視界の片隅
リョフが離した片手が手刀の形をとっているのが見えた
「(まずいっ!)」
リョフの膂力ならば、片腕でもリーダの剣戟を凌げる
そしてその膂力ならば手刀とて軽視できない
一撃となることは想像に易い
思考は一瞬にも満たず
〈ドッ!!〉
しかしその一瞬にも満たぬ刹那に
リョフの手刀がリーダの鎖骨辺りにめり込む
「つっ…!!」
大抵の者ならばその手刀に怯み、剣に込める力を入れ続けることさえ難しいだろう
だがリーダは怯むどころか片手を離したことを好機とし
痛みに耐えながらも更に力を込め
【貴様…!】
受けた太刀もろとも、リョフに一撃を叩き込んだ
「…退かないっ!」
リョフの身体にとうとう一撃を入れたリーダ
これが反撃への口火になればと更に押し込もうと地を踏む
【この域にまでよくぞ人が昇華したな!】
リョフも受けて立つと言わんばかりに再び両手で太刀を握る
リョフの身体に押し込んでいたリーダの剣が徐々に押し返されていく
「人だから…ここまでになれたのよ!」
【なんだと…?】
「人を捨てて悪魔になろうとしたって…私は結局何者でもなかった!でも人としての気持ちが、人を守りたい気持ちが今の私を作って…光らせてくれているっ!」
〈ガチィィッッ!!〉
リーダの剣とリョフの太刀が交わる部分から音が鳴った
【まさかっ!】
その音はリョフの太刀〈グレイプニル〉の刀身にヒビが入る音
その時、武人があるがゆえにリュフに隙が生まれた
太刀を使う事がリョフにとっての〔力〕を大きく担う部分
想定外、太刀にヒビを入れられたことによりリーダの剣との接点をズラすために力を込める方向をごく僅か下に向けた
太刀の破損を防ぐために練磨の武人としてそれは正確な判断だったが
「(見える…力の方向が逸れた…!)」
ガッと更に、更に
ここで決めるしかないとリーダは全てを出し切るつもりで力を込めた
〈ブシュッ!〉
腹部から血が吹き出るのを感じた
だがそれが逆にリーダに力を与えた
「(こんなにも…こんなにも守りたいものが出来た、何も持ってないと思っていた私の両手が大切なものを守るために剣を握っている)」
【…やってみるがいい!確かに貴様は人であり悪魔である。そしてそれ故にこれ程までの強さを得た…ならば押し通してみよ!その思いの強さも究極、勝つことでしか測れないものだろう!】
傷を負いながらも力を込められる
不思議な感覚だとリーダは思っていた
悪魔にはそれぞれの力がある
各々が持つ魔力の特色、特質と言うべきもの
リョフが自身の身体能力の練磨を特質としていたり、火を操る悪魔、氷を操る悪魔などそれぞれいるように
リーダが成った白騎士の悪魔にも特質があった
自身の流した血が、高純度の魔力へと変化し自身に瞬間的に還元されるという特質
つまり、ダメージを負いながらも善戦しているという訳でなく
傷を負っているからこそリョフに迫れるほどの力を発揮できているのだ
その根幹には「我が身がどうなろうと守る」
というリーダの強い意志、それがあってこその特質
【…!なるほどな…我と似て非なる性質を持っているのか。しかし、いうならば攻めの力のみ、治癒や防御に回せん諸刃の力!】
〈ガギィッッ〉
交わる剣と太刀の接点から火花が苛烈に爆ぜる
【決意が力を呼んだか!不退転の意志がそれを生んだか!示してみよ、一欠片でもこの戦いから目を逸らさぬものが勝つ!】
「(強い……!この一撃で果たせなかったら…もう剣を触れるかどうか……でも!まだ私は償えていない!ここで死ねない…!)」
その時
何故か不意に、本当に不意に思い出した
幼い頃、頭を撫でてくれたアリスの微笑み
ベイカーから聞いた話
ミザリーの中にあったフェンリルが暴走した理由
悪魔になってしまったリーダを悲しく思い、救えなかった己を悔いての2度の暴走
時を経て、先程グレイプニルの封を破るほどの怒りで現れたフェンリル
それは娘であるリーダを傷つけられたことへの怒り
そして見届けてくれると言ってくれたミザリーの横顔
嬉しかった
「貴方を…倒すことが正しいかどうかは分からない!でもそんなことはどうでもいい!」
オーラのような白い光がリーダから溢れ出す
【行くぞ…!我の全身全霊で尋常に!!】
リョフからも黒い光が溢れ出し
白い光と黒い光が対称的にぶつかり、まるで二色の蝶のような形を成す
その美しい光とは似ても似つかぬプレッシャーが広場を軋ませ始める
「それでも!ミザリーからアリスを奪わせない!!…折れ…ろぉっ!!」
〈ビシッ!!〉
目に見えてリョフの太刀グレイプニルの刀身
そのヒビが広がる
あと一押しで太刀を折れる
だがリーダは気付いていた
自分にできるのはそこまでだと
太刀を折ることはできてもリョフを倒すことは叶わない
それを理解していても尚
せめて、アリスをミザリーの元へと帰す
その一心が
「ミザリーの…私の妹のためにっ!!」
〈ガギィンッッ!!!〉
広場に沈黙が一瞬広がった
リーダの振り切った剣はグレイプニルを折り、リョフの身体さえ袈裟に斬った
しかしその剣撃はリョフを屠るのには
あまりにも浅い
太刀を折ることのみに力を込めた一撃
〈ヒュンッ…ヒュンッ〉
と折れた太刀の刀身が空を切り、そして地に刺さった
同時にリーダの悪魔化が解ける
完全な全力は、リーダをかろうじて立たせていた気持ちの糸を全て断ち切った
「がっ…」
口元の血にむせながらリーダが倒れそうに前のめる
それを
リョフが支えた
【見事だ…強いな、人というものは】
力が入らない
リーダは再び身体を動かそうと試みるが上手くいかない
「(太刀を破壊できていない…?折っただけでは…ダメなの……?それなら…それなら立たなきゃ…)」
正真正銘の全身全霊
そもそもが満身創痍であったその代償はリーダの身体から一切の自由を奪った
「…まだ…私は…」
あまりの悔しさに涙が溢れた
頬を伝うと血が混じり、己の無力が不甲斐ない
しかしそうではなかった
【なにを悔やむ、貴様は我を越えた…我がそれを認めよう】
スッとリョフが折れた太刀を掲げると
〈パキィーンッッ!〉
とその刀身が粉々に砕けた
そして
〈パチッ…バチバチバチッッ!!〉
せきを切ったように雷が飛び出し、それは金色に光り狼を形作った
フェンリルが、アリスが解放されたのだ
それを見てリョフがリーダを支える手を離すとリーダは再び倒れ込みそうになったが
今度はフェンリルがそれを支えた
『リディ…こんなに傷ついて…ミザのために…頑張ってくれたね。』
スッとリーダを近くの石壁に寄りかからせた
「うん…姉だもの、ミザリーの…」
雷が形作っている狼の姿ではあるもののその瞳は愛しいものを見るように優しかった
【フェンリル…と言っても異質な個体のようだな…そもそもがグレイプニルに封じられるものではなかったはず】
『…娘にこれ以上手は出させない。』
バチッ
と周囲が静電気を巻き上げるように光り始める
【もう我にその気はない、その人間に敗北を認めたのだ。】
『随分物分りがいいのね…信じていいのかしら?』
【我にとって敗北は恥ではない、強者を認めず、そして敗北を認められず糧にできんことこそ愚だ。】
『そう…』
その言葉を信じ、フェンリルがリーダに向き直る
『ひどい怪我…待ってて』
と近寄ろうとするフェンリルをリーダは首を横に振り制した
「行ってあげて…ミザリーが居ないの…きっと母さんが必要…」
リーダはミザリーの動向を知らない
ベイカーと合流できたことさえ解らないのだ
それでもフェンリルさえ解放すれば、きっと大丈夫だと信じてリョフと戦った
だからあくまで妹の安否を願った
『…大丈夫…ミザは生きてる、また会えるよ。貴方さえ無事なら…』
フェンリルは、アリスは二の足を踏んでいる
ミザリーの元へ駆けつけねばならないのは勿論だが
それでも目の前のリーダの重傷を看過して行くことは出来ない
腹部からはもう出血していなかった
出血が止まった訳ではない
もう、流す血がないのだ
それもリーダは理解していた
感覚はなくとも、いつからか血の一滴も跳ねなくなっていたことから悟っていた
「私なら大丈夫…だからお願い、行って…ミザリーの所に」
リーダはその身体に残った力を
出し尽くしたその身体から真に最後の力を振り絞って
微笑んだ
『リディ…!でも…』
アリスは気付いている、それが強がりだと
だからこそ余計に放って置けるはずなどない
しかし、ミザリーなしでフェンリルに傷を癒す術がない
【…行け、フェンリル】
おもむろにリョフがリーダの前に立った
『貴方…なにを?』
【貴様の中に不純な魔力を感じる。おおかた、いつだか取り込んだ邪悪な魔力が強大過ぎて濾過し切れていないのだろう。】
リョフが言ったのは
〈魔女の檻〉の魔力の事だった
ハイトエイドと同化した〈ナラ・ガーベラ〉を撃破した際、得た魔力
しかし、その魔力を自身のものにするにも長い時間をかけての濾過が必要になる
【その不純な魔力が足枷になったがためにグレイプニルに捕らえられた、といった所だろう。マモンが不純な魔力を纏っていたことも相まって枷になったか】
リョフと相対したのがマモンという悪魔の腹の中
そして、マモンは元々ハイトエイドからガゼルリアに渡されたものであることから〈魔女の檻〉の眷属であることは確かだ
その腹の中での戦闘の際、フェンリルの中に残存していた〈魔女の檻〉の魔力と共振というべきか影響を与えた
それがグレイプニルがフェンリルを捕らえられた要になってしまったということらしい
【つまり、その状態でその娘に魔力を与えても回復する見込みよりも不純な魔力により悪影響を及ぼす可能性のほうが高い。そうだろう?】
『…っ!』
その通りだとアリスは認識していた
しかしそれしか方法を思いついていない
【だから行けと言ったのだ。この娘には…我の魔力を与える】
リョフの思わぬ発言にリーダも、アリスも
その意図を読めなかった
【我の魔力は穢れたものではない、自己強化するのみの純然たるものでこの娘と同質の魔力でもある。
これは、褒美というわけではない。気まぐれと思っておけ。
ただ見返りを求めてはいるがな】
「…見返り…なに?」
【言っただろう、我は強者を喰らいただ武を極める魔人だ。
つまり、生きながらえよ。そしてまた相対そうぞ。それが我が望みだ】
純粋な闘志
対峙してから、ここまでの対話で
リョフ・テンマという魔人が嘘偽りのない発言しかしていないとリーダは感じていた
強大ではあっても凶悪ではないと
〈バッ〉
とリョフはリーダへと手を翳した
すぐに黒い魔力が漂うように、リーダへと流れ込み始めた
「…返事も待たずに契約完了ってこと?」
【ここで終わる訳にはいかない…貴様がそう言ったのだろう。それは我も同じだ】
魔力が流れ込み始めると、少しずつ呼吸が楽になっていくのをリーダは感じた
そして数十秒ほどの後、リョフは手を下ろした
【我と貴様の魔力の性質中、身体を活性化させ強化する。貴様の中の悪魔がこれにより治癒されれば、人の肉体も死からは逃れよう】
「あなたは…これからどうするの?」
【ナベリウスに…今の我は届かん。力を蓄える時間が必要だ、それまでは魔界で爪を研ぐとしよう。】
「そう…なら最後に教えて。
ガゼルリアは…なぜ貴方にナベリウスもろとも自身を殺せと願ったの?」
リーダに背を向けるリョフ
【我には難解な理由だが、貴様らには分かるのかも知れん。】
〈フゥオン〉
リョフの足元に黒い陣が形成される
【復讐の対象以外に、不必要な犠牲を生み出さぬ為。だそうだ】
〈ブワァッ〉
と陣から黒いもやが溢れ出しリョフの身体を包んだ
【名を聞いておこう…】
ちらと顔をリーダに向けリョフが尋ねる
「リーダ・バーンスタイン……いつか、この借りは返すわ」
【借りなどではない、我の気まぐれだ。
ではさらばだ、リーダ・バーンスタイン。…貴様の思いは強かった。】
もやが一瞬で陣に吸い込まれると
もうそこにリョフ・テンマの姿はなかった
「…アリス、私はもう大丈夫、だから行って」
『…わかった。少しの間辛抱していて…すぐに戻ってくるから』
フェンリルはそっと自身の頬をリーダの頬に寄せた
『待っててね、リディ…』
〈バチッ…バチバチ…〉
頬を寄せ合い、立ち上がりリーダに背を向けた
名残惜しそうに一瞬リーダを振り返ったフェンリル
それでも、それがリーダの望みでもあると、雷さながらの勢いで北へと空を駆けていった
「…後は任せたわよ、ミザリー…」
一瞬で空を駆けていったフェンリルを見送ると、リーダはそっと目を閉じた




