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My Nightmare ~Hug the Ghost~  作者: 燕尾あんす
Hug the Ghost
33/39

比翼の鳥~前編~

# misery,s side


呼ぶ、というにはあまりにも言葉通り

友に呼びかけるように気軽なミザリーの声に呼応したのは


雨が降り出してからの時間、分厚い雲の中で落ちる時をひたすらに待っていた雷


〈ガシャァンッッ!!〉


巨大かつ分厚いガラスが割れるかのような轟音を響かせミザリーの身体へと直撃した


帯電するようにジワジワとその身体へと電力を流し込んでいく


【なに?…落雷を呼んだ?そんなことしたら身体がバラバラに…】


ナベリウス、そしてベイカーもミザリーの様子を注視していた


「(大丈夫だよな…本来なら落雷の電力量なんてまともに受けたらヤバいんだ。)」


本来ならミザリーはフェンリルの魔力を電力に変換しそれを適正量供給することで駆動している


あくまで〈変換〉というプロセスを挟むことで成り立っているということだ


それが今回電力の供給を膨大な電力、落雷による直接供給という方法に頼らざるを得なかった


無論そんなことはいまだかつてない


全身が機械であるミザリーの身体が落雷を浴びる、ということの危険度も相まって


一か八かの賭け


「(アリス先生の…フェンリルのサポートがあれば落雷を上手くコントロールしてくれる…大丈夫なはず…?)」


だがすぐにベイカーは異変を感じた


『ぐぅっ…!この…』


ミザリーが胸を抑えて歯を食いしばり倒れまいと突き立てた剣にしがみついている


「ミザッ!?どうしたんだよ、大丈夫なのか?」


【アハハハハッ!やっぱり無理なんだ、おかしいと思った!君の中、残りカスしかないだろ?】


「…なにを言って?」


ベイカーは不安げな表情を浮かべる


【確かに感じる、君にフェンリルは感じるよ?でもそこに居たってだけだ。】


『黙っててもらえる?今忙しいのよ…』


〈バチ…ッ〉


ミザリーに吸収されまいと拒むように雷が爆ぜる


しかし完全に失敗というわけでもないのか不思議と雷はミザリーの周りに纏うように蠢いている


「(まさか!リョフにアリス先生を…フェンリルを奪われてたのか。そうだ…ミザなら…心配かけまいと隠す…だろうな。くそっ何でもっと早く気づかなかった)」


【残念だね、君たちはおしまい。僕はガゼルリアと一つになって世界を壊す、それでいこう…?】


『イマイチな…ストーリーね…そんなのは…お断りよッ!!』


〈バシュゥッ!〉


ミザリーが纏っていた落雷が雨水を蒸発させながら消えた


そして


ミザリーは身体の調子を確かめるように両の手を動かし、剣を握り直し


ナベリウスを睨んだ


『間抜けな幽霊退治のが熱いわよ、多分』


雨天のほの暗い夜の中

だが先程よりも明らかにミザリーの髪色は明るくなり


睨むその両の瞳も同様に翠色が少し鮮明に光っていた


「大丈夫なのか!ミザ?」


『なんか…悪いもん食った感じ、でも行けるわ』


表現ではあるもののミザリーは口元を拭った

どうやら完全ではなくとも落雷からの電力供給は成功したということだ



「元気になったのなら今のうちに逃げたほうがいい…これが最後勧告よ」


ガゼルリアの言葉にミザリーが首を傾げる


『あんた…やっぱり…』


「…無駄に命を落とす必要はないってことよ」



【すごい、なんとかしたね!でも気付いてないなら教えてあげるよ、私に実体はない。つまり君の攻撃なんてそもそも当たらない、そんな情けかけても意味ないよ。落雷で魔力を補ったみたいだけどその程度で…】


〈バチィッ!!〉


今度は落雷ではない、電気が爆ぜる音

そして踏み込んで来たミザリーは一瞬でナベリウスの眼前に迫る


『…っふっ!』


思い切り剣を振るう


〈ガシャンッ〉


と赤い結晶に阻まれるが触れた部分から赤い炎が立ち上る


先程まではなんなく結晶に防がれていたミザリーの攻撃だが


スカーレッドを振るい始め変化が訪れた


【なに?さっきより熱量が…いや炎の質か?】


〈ガシャ…〉


徐々に押し込まれるミザリーのスカーレッド

明らかな手応えがそこにあった


【…そっか?魔力を落雷から吸収したから本来の、竜の炎の力が使えてるのか?】



と判断するやいなや

ゆらりゆらりと移動しミザリーから距離をとり


今度は防御ではなく攻撃用に結晶を発生させる


「(違う…ミザが落雷から吸収できたのはあくまでも電力、じゃぁなんでスカーレッドは力を発揮した?…多分あの炎は結晶を、っていうか魔力を燃やして弱体化させてるんだ)」


と推測の通り


燃え上がった炎は結晶の表面からその熱によってダメージを与え弱らせているようだ


「(…実体がない、さっきガゼルリアがナベリウスをすり抜けてたからそうじゃないかとは思ってた。倒せるのか…そんな実体のない悪魔なんて、でももしかしたらあの炎なら…)」


ベイカーに1つの疑問が生まれた


「(スカーレッド…なんでアニマは…クロジアさんはミザにあの剣を残したんだ…?)」


ミザリーがアニマと化したクロジアと戦闘を行い、その果てにその剣を手にしたことはミザリーから聞いた


だが状況的にミザリーがアニマに押されていたことは事実であり、それは剣を奪われても尚変わらない


それなのにアニマはミザリーから剣を奪い返す事無くその場を去った


そして


「(奪った魔器…それを本来の持ち主でないミザが使って力を使える…?)」


かつてミザリーは別の魔器

ヨルムンガンドという大蛇の悪魔から与えられた「ノルニル」そしてその中に埋め込まれていた「マッドローズ」を振るっていた


だがそれはあくまでミザリーに対して友好的かつ【魔女の檻】の復活を良しとせず平和を望んだ者からの譲渡


つまり


「(意志だ…ヨルムンガンドの意思を受け取ったから使えた。じゃぁアニマが…クロジアさんもミザに何か意志を託したかったんじゃ…)」


考えすぎか、とも思ったがベイカーはそう思いたかった


クロジアとガゼルリア

二人の復讐の理由を知った


クロジアが悪魔になったことをひた隠してまでガゼルリアのサポートをしていること


クロジアに危機が及ばぬように気遣うガゼルリアや


目の当たりにしたガゼルリアの感情、涙


「(このままじゃナベリウスはガゼルリアの身体を奪う…魔女の檻がハイトエイドの身体を使ってたってミザが言ってたから多分同じように……?)」


バッとベイカーは空を漂うナベリウスに目を向けると


「なぁ!ナベリウス?竜の魔人はまだ北に居るのか!?」


『…ビー?』


突然ナベリウスに声を掛けたベイカーにミザリーは視線を戻した


【…なに?竜の魔人も関係してるの?】


ふわふわと揺れるとナベリウスは北の方角をちらと見た


【竜の魔人なら…近づいてはいるね?それでもまだ北のほうで留まってるけどなに?】


「…っ!(留まって?!来ないのか…?それなら…)」


【状況がまだよく分からないなぁ…おや?リョフの他に…何かいる…なんだ?】


『…リディ…!』


恐らく周囲の気配を察知する際

可能な範囲を全て把握するのだろう


アニマの動向を確認する際、公国にいるリョフの反応まで拾ったのだ


そして、対峙しているリーダの反応も


対峙しているリョフ以外知る由もないが一度倒れたリーダが白い騎士のような魔人になり、立ち上がったタイミングであった


【また立ち上がったの?悪魔?…まぁでもリョフに勝てる悪魔なんて人間界に、いや魔界にだってそうはいないんだよ。僕にだって届きうる鬼神なんだから】


「(生きてるのかリーダ!ミザの姉ちゃんだもんな…そっか……でもリョフはナベリウスに届く…?…待てよ…)」


今度は背後を振り返る


「ミザ!!ここを任せていいか!」


『ん……?』


二人の視線が合った


真っ直ぐミザリーを見るベイカーの目は普段と変わらない


『いいよ。そんかわし、そっちは任せたわよ』


ミザリーはベイカーの目を見て悟った


普段と変わらない、やる時はやる


そして今がそうだと


「ああ!任せとけ!ミザリー!」


『こちらこそよ、ベイカー』


2人は知らない

真に無意識なことではあるが、ミザリーもベイカーもここぞと言う時


ミザ、ビー、というあだ名ではなく名前を呼ぶことを


〈バチャッ!〉


とベイカーは水溜まりを蹴り走り出した


そんな幼なじみの背後に

赤い結晶が形成されナベリウスが結晶でベイカーを襲おうとしていた


だが


〈ドゥオンッ!!〉


と結晶が大きく固まり始める前に

ミザリーは大型拳銃 マリーゴールドでそれを破壊する


ミザリーに悟られまいと小さい結晶で奇襲したのが仇となり、その企みは撃ち壊された


無論、それに気付いているはずだがベイカーは背後を気にする素振りを見せない


その攻撃をミザリーが許さないと信じているからだ


『あいつは今カッコつけようとしてんの…手出すんじゃないわよ』


【…まぁいいよ、あんな人間一人逃しても後でどうとでもなる。まぁそもそも、人間がどれだけいてもなんの意味もないけど】


『あんたに理解してもらおうなんて猫ちゃんのヒゲ先ほども期待してないけど、やっぱ分かっちゃいないわね』


【うん?理解する必要があるならしてあげるよ】



『…私たちは、人って言うのは欠片なのよ。1人じゃなにも形作れないし、宝石みたいに光れやしない』


【アハハハハッ、ならやっぱり不完全な存在だ。尚更なんの意味もないね?】


ミザリーはナベリウスにではなくガゼルリアをずっと見つめ


そしてガゼルリアもそれに気づき見つめ返しながらミザリーの言葉を聞いていた



『でもね、一人一人は少しずつ色んな色に光ってんの、そんな光を持ち寄って、寄り添って互いに無いもの埋めあって周りの人達と色を混ぜながらそれぞれの形で世界を作ってくの。』


ピクリ、とガゼルリアが微か動いた


『私は…3年前、故郷を人の悪意で焼かれたわ。悪魔に襲われて、たくさんの顔馴染みを傷つけられてさっき居たビーも、唯一の家族のおばあちゃんを失ったし私は命を落とした』


ゆっくりとガゼルリアが顔を上げた


【命を落とした?変なこと言ってるね?君はそこにいる、それって生きてるってことじゃないのかな?】


『…あんたも変だと思ってる?ガゼルリア』


「どういう…こと?死んだ…?」


ミザリーは、剣をぬかるんだ地面に突き立てると上着を脱いだ


上着を脱ぐとノースリーブ

元々肘からは見えていたが上着を脱ぐと肩から鈍色の鋼の両腕が露わになるため一気に印象が変わる


『腕だけじゃないわよ、私は身体全部が機械仕掛け。技師の母さんが造ってくれたもの』


「そんなことが…ありえるの…」


『説明すんのは難しいから簡単に言わせて貰うわ。私は悪魔から母さんを庇って死んだ、でもそんな私を母さんは自分を生贄にして引き戻して機械の身体を与えた』


「…っ!」


ガゼルリアの瞳がかすか震える

目の前に立つ少女に、自分よりも10ほども若い彼女の人生の凄惨さが想像に易い


『そんときは、私の為に命を投げ出したなら母さんを殺したのは私だって思った。その悪魔の襲撃だって、原因は私にあって…結果的に私のせいでみんなは…ビーのおばあちゃんだって死んでしまった。私はそこでくすんで、真っ暗な中に取り残されそうになった』


【そりゃスゴい!こうやって顕現したばかりの僕と比べたら君のほうが余程恐ろしい悪魔じゃないか!アハハハハッ】



『でもみんなが…また私を光らせてくれた。ここにいなくたって記憶が、思い出が私の中で光ってくれる、あんたの中にだってあるはずよ』


「思い出なら…ある。でもその思い出があるから苦しいの、それこそ貴方にも分かるんじゃないの…?」


『それでも、苦しくても思い合って私は生きていく。そう決めた』


バッとガゼルリアが顔を上げた


「もう此処にいないのに思い合うなんてできない!形のない思いが形を失ったあの子達にどうやったら届くっていうの!」


『形がないからよ…「思い」っていう形のないものだからこそ、生きていなくても此処にいなくても…届くんだって、受け止めてくれるんだって信じられるのよ。できることはそれしかないかもしれない、でもそれだけは絶対に止めない』


〈バチャッ〉


ガゼルリアが再び膝を折り顔を両手で覆い涙を隠した


「どうして…そんなふうに強くいられるの…私とあなたで何が違う…?」


『何も違わない、でもアナタは気付いてないっていうかきっと目を逸らしてんのよ。…私にビーがいたみたいにアンタにもアンタを思ってくれてる人がいる。分かってるんでしょ?』


「…クロのこと…?」


不意に気が緩んだのか、零したのはクロジアのあだ名のようだ


『ああ、やっぱ幼なじみはあだ名があるもんよね…多分だけどちゃんと話したこと、ないんじゃない?』


「…なにを話せばいいのか分からなかった…クロだってテシルやセシルを家族のように大切にしてくれて、2人もクロにはよく懐いていたし、困った時はすぐクロの所へ飛び込んでた…でも、クロは優しすぎるから…復讐なんてものをその心に宿らせたくなかった」


『まだ遅くはない、ビーもそう思ってるから走り出したのよ』



ハッとミザリーが何かを感じると同時に

ナベリウスがガゼルリアの背後から覆い被さった


「っ!?」


赤いベールに包まれガゼルリアは身動きを取れずにもがき始める


【お話はオシマイ、僕を無視するなんてひどいじゃないか…お姉ちゃん…】


〈ジャキッ!〉


マリーゴールドを再びナベリウスへと構える


『ホントに空気が読めないわね!離れなさい!』


【ええ?空気が読めないのは邪魔してる君の方だろ?話を進めるために…身体を貰うよ?お姉ちゃん…】


〈ゾゾ…〉


ガゼルリアを包みこんだ赤いヴェールが脈動するようにどんどんその赤さを鮮烈なものにしていく


ガゼルリアはまるで水中にいるようにもがいているが抜け出せる気配はなく、声を発しているようでもその声は外に届かない


ミザリーは剣撃や銃撃ではガゼルリアも無事では済まないと察し身動きが取れない


『(撃てない…!)』


徐々に赤いヴェールが輝き、異様な気配が周囲にまで広がっていく


『…っ!』


その時、もがくように赤いヴェールの中からガゼルリアが手を伸ばしてきたのを見た


『ガゼルリアッ!』


その手を掴もうとミザリーも手を伸ばしたが



一瞬



赤い光が破裂するように広がった


振りしきる雨の中ルースルーを照らした赤い光は幻想的でさえあり


ミザリーは息を呑んだ


そんな夢の中のような光景

ガゼルリアが立っていた場所に何かが居た


何かではなくナベリウスがガゼルリアの身体を奪ったのだと、理解していても眼前にいるものが先程まで対峙していた存在とは異なるものだと思ってしまった


鮮烈な赤が形作っているのは

先程までと同じような人の形

しなやかな体躯は、人々が想像する天使のような神秘さを感じさせ


ヴェールや翼を赤い光ではためかせるその姿は妖しくも美しいと思わせた


『…っ!』


そんなものに、そんなものだと思ったものに一瞬でも見蕩れた己にミザリーは気づいた


そして同時にガゼルリアが取り込まれることを防げなかったことを悔いた



『アンタは…どっちなの?』


答えは分かっている

分かっていても一縷の望みをその問いに乗せた


【私は、ナベリウス。でも意志は、目的はガゼルリアのものを色濃く反映し至高の域に達した存在】


『ああ、そう。』


不気味だ


さっきまでの妙な無邪気さが失せ、静かな口調で言葉を返すナベリウス


『一個だけ聞いときたいんだけど、あんたからガゼルリアを引き剥がしたりはできる感じ?』


【私がそれを望めば叶うかもしれない、しかし私の中のガゼルリアにはもはや思考という行動が取れない。ただ、その復讐心を根底に持ち、何かを望む資格さえないと思ったまま眠っている】


柔和な物言いとさえ思えるが、淡々と話す様はどこか無機質にも見える


感情が見えない、ガゼルリアの感情が


『(それなら尚更私には何も出来ない…)』


ミザリーは己の役どころを理解した

今は、今は待つしかない


『(クロジアさんが何処にいるかは分かんないけど…今私にできることは一個ね)』


〈バチャッ〉


今や地面には水溜まりに侵されてない場所などない

そんな地面を踏みしめ、ミザリーはナベリウスへと再び剣を構えた


【まだ戦うつもり?】


『アンタが消え失せるまではそのつもりよ、でも今はちょっと付き合ってもらうわ。』


〈バチャッ!!〉


水溜まりが爆ぜる


が思い切り踏み出したつもりのミザリーの身体が静止した


『なっ!?』


正確には制止させられたと、気づいたのは自身の身体の数カ所に纏わりついた紅い結晶が見えてからだった


さっきまでよりも明らかに結晶の発生が早い


そして結晶という見た目の繊細さからは考えられないほどに頑強


脱出を試みるが身体はビクリとも動かない


『動けっ…!?』


途端にミザリーの身体が投げ出され水溜まりを滑る


結晶によって投げられたのだ


体勢を立て直し、顔にかかった泥を振るうミザリーを見下ろすナベリウスの目は明らかな優位を確信しているようだ


『どうにも…骨が折れそうね』


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