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My Nightmare ~Hug the Ghost~  作者: 燕尾あんす
Hug the Ghost
32/39

Tears Avenge

リーダが白い騎士のような悪魔へと変貌する数十分前


# misery,s side


〈ドッドッ〉


駆けてきた勢いそのままにルースルーの中に飛び込んだミザリーとベイカー


遠巻きながら見えていた赤い光の柱へ

近づくと異様な禍々しさがはっきり感じられる


『これって…何が行われてるの?』


村の中もやはり異様な雰囲気

ミザリーは馬から降りると村から出るように手振りで示す


ベイカーも倣って馬から降り、村の外へと二頭を見送った


「分からない…でもガゼルリアは多分…広場のあった方だ、行ってみよう。」


『うん…』


〈ポツリ〉


ふと見下ろした地面に雨が一粒


先程から空は曇天

もう空も耐え切れずに雫を落とし始めていた


『(迷うな…二人を止めなきゃ…)』


ミザリーはゆっくり息を吐いた

心を整えるように


そして


〈ジャッ!〉


湿り気のある土を踏みしめ広場へと走り出す

ベイカーもそれに次ぐ


「(ガゼルリアはここにいるはず、でもクロジアさんは…いるのか?)」


ミザリーもベイカーも自身の納得できる答えが持てている訳では無い


それでもここまで来た


『…っ!』


広場へと向かう道

そこに数人、ローブを被った人達が見えた


しかし、足音が聞こえていないわけではないだろうにその視線は広場の赤い光の柱から動くことがない


『なに…?』


その人物達は二人が横を通り過ぎてもやはり動くこともない、妨害する気もなさそうだ


「多分ガゼルリアの関係者…でも僕らに関心示さないってことはもしかして」


もう事は終えている


不穏な可能性を大きなものとさせた


その後も同様に何度かローブの人物とすれ違ったがやはり何か動きを見せる訳でもなく


二人は程なく広場へと辿り着いた


目前に赤い光の柱がそびえ立つ

その根元には方陣のような模様

中心に車椅子の人物とその周りに十数人ほどの人が横たわっている


だがそのいずれも動かない

ただ不思議なことに死んでいると言うよりは眠っているような印象を受ける


『そんな…間に合わなかった…?』


ミザリーが横たわる人に近づこうとその赤い柱へと駆け寄る


「ミザ、注意して!」


〈バチィ!!〉


伸ばしたミザリーの手が赤い光に触れた途端に大きく弾かれた


『なっ!』


余りの勢いに体勢が崩れる

拒絶されているのだと察するに易い


ベイカーも近寄り人々を注視し情報を探す


「僅かだけど腹部が動いている…息してる、眠ってるのか?待てよ…それがなにかは分からないけどこの柱が防御反応を示すってことはまだ何かは完遂はしてないんだ!」


『まだ生きてるってこと?』



「そうよ、まだね…」


不意に静かな声が聞こえてきた


その方向に視線を向けると

1人の女性が赤い柱の陰に立っていた


見覚えのあるローブ、フードを下ろし片目にはモノクルを鈍く光らせている

ミザリーは顔を見るのは初めてだが、すぐにその人物がそうだと気づいた


『ガゼルリア・テンパラント…ね』


〈ポツリ〉


空から落ちた雫がガゼルリアのモノクルに当たり弾けた


「こんばんは、あなたがハイトエイド卿を破った…金色の狼ね?」


落ち着きのある声

佇まいの清廉さは状況が状況でなければ美しいとさえ思えるが、すぐ傍らに赤い光の柱と倒れた人々


言い得ぬ印象を二人に与えた


「金色の狼…邪魔しにきたの?でももう手遅れよ」


『まだこの人達は生きてるんでしょう!それなら…』


「彼らはゆっくり、ゆっくりと生気を吸い上げられている最中よ。くしくも意識が残ってる分、悲しみや絶望を、後悔を抱きながらね」


グッと拳を握りしめるミザリー

眉間に皺が寄る


『事情は…クロジアさんから聞いたわ…』


ピクリとガゼルリアが反応する


「クロジアに…会ってたのね、でも私の事情を理解しろとは言わないわ。ただ、そっとしておいて欲しいだけ」


『ほんとにこれしか方法はなかったの?』


「ないのよ、目には目をと同じ苦しみを与える事しか、弟妹に報いる方法は…ないの」


『っ…』


強い意志、だがミザリーはこの返答を予想通りだと受け止められていた


16年前からの憎悪

長い時間、ガゼルリアも考えに考え抜いたのだろう

そして、迷ったことも躊躇いも、どれだけあったかは定かではないが遂に実行するに至ったのだ


本当に彼女にとってはそれしかなかったと図り知るに容易い


『そう…じゃぁ説得なんてのは野暮ね。』


〈ジャキッ〉


手早い動作で大型拳銃 マリーゴールドを抜くとその銃口をガゼルリアへと向ける


「止めようとするのも野暮よ……一つ聞いても?」


『…なに?』


「クロジアは…どうしたの?」


「クロジアさんとはジャンベルタンで会ったっきりだよ…ガゼルリアさんと会うほんの少し前だ」


代わりにベイカーが答えた


「そう…ジャンベルタンに居たならすれ違いになっただけね」


その言葉からほんの少しの安堵の気持ちが見えた気がした


『気になるの?』


「彼は…クロジアは私に協力してくれているだけ、ルースルーの動向の報告と過去に行われた儀式の調査をして貰ってただけ。今回の件には関係ないわ」


『(ほんとに、アニマのことは…儀式の結果のことは知らないのね)』


クロジアを気にかけるガゼルリア

そして、自身に起きた悲劇を秘密にしたままガゼルリアに協力するクロジア


その二人の気持ちがお互いのためだと思うと胸が苦しくなる


「それと命乞いする訳じゃないけど私を殺しても儀式は止まらない。一度発動した儀式の止め方なんて私にも分からない」


『じゃぁアンタは一旦ほっとくわ!』


ミザリーは銃口を赤い光の柱に向ける


〈ドゥオンッ!!〉


間髪いれず、中の人を射線から外し発砲するとやはり貫通こそはできないが極小規模の爆発を起こした


「ダメだ!マリーゴールドじゃ破れない…」


ベイカーは周囲を、中の様子を更に注視するが解決策はいまだ見えない


「(力ずくって言ってもミザの魔力の残量は少ない…下手に使ってミザまで動けなくなったら本当に終わりだ)」


〈ポタ…ポタ〉


足元に落ちる雨粒の間隔が短くなってきている


粒も大きくなってきたのか、徐々に落ちる間隔が短くなりまるでカウントダウンのように耳に響く


〈ゴロゴロ…〉


頭上の雲の中から不気味な音が聞こえる


不意に、赤い光の柱が更に鈍い輝きを放ち始める

生きているかのような胎動がそれを知らせるように


『まさか…?』


「予定より早い…そうね。昂っているのかしら、フェンリルが此処にいるのですものね」


「フェンリルがなにか関係あるのか?」


「彼は魔女〈ナラ・ガーベラ〉と同列の高位の悪魔、同列の魔女を倒したフェンリルになにか思う所はあるんじゃないかしら」


『(空気が重い…』


ミザリーはベイカーのほうを向くと


『ビー!アンタは逃げて!こいつは…ヤバい感じ』


「そんな程度の覚悟ならそもそも此処に居やしないって!うわっ!」


威圧感だろうか、まだ予兆でしかないはずのその存在感がベイカーの膝を崩す


そして


胎動していた赤い光の柱がら更に激しくうねると


ヒビから光が零れるように外へ外へと幾筋もの赤い光が放たれた


「降りて…ナベリウス…」



〈ピシャァッン!!〉


落雷の轟音が響き渡ると、赤い光の柱がふっと幕を引いたかのように消えた


『…え?』


ミザリーの目に映ったのは


いや、映らなかったのが問題だった


広場に居たはずのハンブルク・ドライセン国王

そしてそれを取り囲むようにうずくまっていた十数人のルースルーの村人が


たった一人も残さず消えていたのだ


「嘘だろ…どこに…?」


ベイカーも辺りを見渡すが、やはりそこには静まりかえった静寂があるだけ


落雷の一瞬の間に消えてしまったのだ


『…誰も…いない…』


ミザリーの両腕が落胆からガクリと落ちた


「いるわよ」


細かく降り始めた雨の中

ガゼルリア・テンパラントが人差し指を立て空に掲げた


見上げた雨空


分厚い雲の下


淡く赤く光る踊り子がベールを翻すように揺らめいている


それはまるで歓喜の踊りのような

悲哀を嘆く舞のような


目に飛び込んできたのが現実かどうか疑いたくなるような光景に見えた


「(なんだこれ、プレッシャーはさっきまでとは全然違う。感じない…にも感じないのに)」


ベイカーはその赤い踊り子のような光から目が離せない


「(あれは一体なんなんだ…見てるだけで吐きそうだ)」


『…これがナベリウス…?』


ベイカー同様、ミザリーもいざ対峙した感覚が想像していたものと違うことに若干の躊躇いを感じた


広場の上空を無邪気な子供のように飛び回り踊る〈ナベリウス〉という悪魔




【ソウダヨ】



ミザリーとベイカーに酷く歪んだノイズのような声が直接脳に届く


『(ぐっ…!?』


「痛ってぇ…っ」


不快な感覚、脳内を虫が這うような気味悪さ


ベイカーには痛みさえ伴う声


【ボクガナベリウス…ワタシガナベリウス、命ヲチョウダイ。キンイロノ狼?】


幼子のような口調で揺れながら

目に該当するものが見られる訳では無いがどこを見ても目が合っているかのような、見られているような


『アンタなんかにやるには惜しいわ、アンタこそ…ルースルーの人の命を返しなさい!』


〈ジャキッ!〉


マリーゴールドの照準をナベリウスへと合わせるミザリー


ベイカーも手製の爆弾をいつでも使えるように身構えた


【ナンデ??この人間達は罪無い人間を生贄にして悪魔を呼んだンダヨ、そんな人間に生きる価値を与えて生かす…?】


『さっき生まれたばっかにしては事情に詳しいみたいね』


【アハハハハ。それはソウサ、オレは此処で一番強い怒り憎しみ悲しみの感情に呼び起こされたんだ、その感情の底にある記憶を鍵としてるから開かれた時点で繋がったんだよ】


ふわりふわりと漂いながらナベリウスは


ガゼルリアの背後に肩を抱くように包んだ


繋がった、というのはガゼルリアの記憶を読み取ったと同義だろう


この儀式を行った主であるガゼルリアの悲劇の過去を


【デモ解らないなあ、復讐を理由とするならこの人達を犠牲にワタシを呼んだ時点でそれは果たしたことになる。つまりボクはもう用済みだ、この後はどうなる?】


確かにナベリウスの言う通りである

それにはベイカーも同様の疑問を抱いていた


「(その通りだ、ここまできたらもう復讐という目的は果たしたことになる。その後、このナベリウスという悪魔をどうする気なんだ?)」


【ソレにボクだけじゃないなぁ…ずっと東の方にもなにかいる。コレもこの復讐に関係あることなのかな?】


『東ってぇと…リョフのことね』


【ぁあ!世界を裂く魔将か!あんな傑物まで従えてるとは…世界でも壊すのかぃ?タノシソウだ】


ナベリウスはグルグルとガゼルリアの周りを飛びながら愉快そうに手を叩いている


『あっちにはリディがいる…アンタはここで落とす。それだけよ!』


【リディ?リディ?私は見えるよ、向こうのことも、でもオカシイね?】


不思議そうに赤い踊り子が首を傾げる


【リョフ・テンマの前には誰もいない、イナイヨ】


「(まだ戦いは始まってないのか…?)」


ベイカーが思索する

リーダにはタスクが多い


王都に戻り、ルベリオに状況の説明

そしてそこから対策や王都にいる国民の避難


まだ戦闘が始まってないことも無論想像の範疇である


しかし


【生きてるモノはってことだよ、ウン、死体なら転がってるよ】


『…っ!』

「リーダ…」


ミザリーとベイカーの顔が歪む

リーダが死んだ


二人は心が重くなる感覚を覚えた


これはその敗北から連なり起こる悲劇にではなく

リーダ・バーンスタインがこの世界から欠けるという事への悲嘆


「…そんな訳あるかよ!リーダと約束してんだ!ミザを必ず連れて帰るって…それなのにっ」


【ソンナノ知らないよ、第一リョフ・テンマに人が敵うわけないよ、ムダ、無謀、無意味…】


〈ドゥオンッ!!〉


〈ガシャンッ!〉


遮るマリーゴールドの発砲音

それに次いで聞こえたのは、赤い硝子のような結晶がナベリウスへの着弾を拒み、その銃弾を防いだ音だった


【ワァ驚いた…でもコレも無意味だったね】


俯いたまま、ナベリウスへ銃口を向けたミザリー


『黙れ…』


【あ、怒った?怖いなぁ】


飄々と身を翻すとガゼルリアの背後に隠れるように移動した


【さぁ…次はどうするの?僕を呼び起こしたんだからもっとしたいことがあるんだろう?】


ガゼルリアの瞳は、

目的完遂による達成感や喜びは見えずモノクルに覆われていても、その瞳はどこか哀しそうに見えた


「好きにしたらいい…」


糸が切れたように無気力に

ポツリと呟いたガゼルリアにベイカーが叫んだ


「なんだよそれ!こいつが大人しくするとでも思ってるのか!こんな危険な悪魔を…」


〈ピシピシ〉


ベイカーの目前に赤い結晶が刺々しく形成され


〈ジャッ!!〉


と赤い結晶の棘がベイカーへと襲いかかった


「くそっ!!」


思い切り横に飛び込んで、それを回避する


〈ズシャァ!〉


とぬかるむ地面に滑りながら体勢を立て直す


先程までベイカーの立っていた位置に赤い結晶の剣が深深と突きたっていた


【ウルサイナァ…でもソウダヨ?これで終わりなんてないよ…ねぇ、どうするの?】



【オネエチャン】


お姉ちゃん、という言葉だけが

突然クリアに聞こえた


今までのノイズのような音ではなく

まるで本物の子供の、男の子のような声で


「っ…!」


その声にガゼルリアが振り向き、ナベリウスを睨んだ


【言っただろ?お姉ちゃんの記憶が僕の中にあるんだ、こんな声を…君の記憶にあるままの声を出すことなんて容易いんだよ。…お姉ちゃん?】


今度は先程とは違うがやはり鮮明に聞こえる、女の子の声だ


「やめろっ!その声を…その姿で…お前なんかがっ!」


事情を知るミザリーとベイカーにも分かった


ナベリウスが出すその声はガゼルリアの弟妹のものだと


「こいつっ!…」


ベイカーが怒り歯を食いしばる


【なんでさ?ずっと聞きたかっただろう?恋しかっただろう?この声がさ】


「やめろと言っている!」


ガゼルリアが感情も露にナベリウスへ掴みかかる



実体がないのか、ガゼルリアはナベリウスをすり抜けそのまま地面へと倒れ込んでしまった


悔しさが滲み地面に指を突き立て泥を掴んだ


「あの子達を…穢すなっ!」


【それこそおかしなことだよ、だって君は弟妹のために僕を呼び出し復讐を決行したんだ。そして僕はこれから世界を壊したっていい、誰を殺したっていい…そうなった時その結果は君の弟妹を穢すことにはならないのかい?】


その疑問をナベリウスが口にした時


【うん?】


と周囲を見渡すと


ミザリーが視界にいない


そして


『良く舌が回るわね!!!』


背後にその姿があった


【(速いっ)】


ミザリーが振りかぶって突き出してくるのは拳ではない


その手にはマリーゴールドが握られている


大型拳銃を握ったまま引き金に指をかけたまま殴り込んで来ているのだ


〈ドゴォンッ!!〉


通常弾とは違う

発射と同時に爆発を起こす近接用弾丸 エキゾースト


怒りの爆撃がナベリウスに直撃する


巻き起こる爆風に自身の袖さえ焼きながらの一撃


先程の銃撃を防いだ赤い硝子の結晶の発現さえ間に合わないスピード


しかし手応えのなさをミザリーは感じていた



『…っ!』


巻き上げた爆風の中から赤い結晶の棘がミザリーへと突き出てくる


『またっ!』


〈ガシャンッ!!〉



その棘を手で掴み直撃を防ぐが勢いを殺すには至らず、吹き飛ばされるミザリー


〈バチャァッ〉


上手く着地したつもりが、降り続ける雨にいつの間にかできた水溜まりが脚を滑らせる


それでも体勢を手早く立て直すが


【狼ってこんなにヨワイの?これに魔女が負けた?そんなハズないよね】


いつの間にか目前にナベリウスが迫っていた


ミザリーは背にある剣を握る


アニマから奪った剣

パイプのような円柱の鋼にスライド可能な刀身の付いた剣


通常時では1mほどの取り回しの良いダガーのような形状


〈スカーレッド〉と名付けられたその剣を

眼前のナベリウスへと振り下ろす


〈ガシャァン!!〉


やはり赤い硝子の結晶がその振り下ろしを阻む


『さっきから邪魔ね!!』


怯まずグッとさらに力を込めると表面を砕きながらジリジリと迫る


【ワァ…凄い!魔器かな?でもこの気配も知ってるよ】


結晶の盾の裏で危なげもなく揺れるナベリウス


【竜の魔人の気配だ!…でも本体じゃない?あれ?本体…向こうにいるね?】


チラとナベリウスが視線を向けたであろう場所


「(アニマ…!クロジアさんのことだ、あの方向はジャンベルタンだ、まだ王都に残ってたのか)」


ベイカーが推測する


「(協力者って割にはガゼルリアはルースルーへクロジアさんを連れて来ることはしなかった、連絡が取れなかったから…?違う、さっきガゼルリアはクロジアさんはこの件の実行に関わってないと明言してた。…庇ったのか?事が終わってもクロジアさんが罪に問われぬように?…もしかして!)」


ベイカーの脳は頭の中にある情報を繋ぎ合わせ、一つの仮説を立てた


ずっとベイカーには違和感があったのだ

ガゼルリアの目的、理由、動向、発言がその違和感の理由の答えを仮説として浮かび上がらせた


「ミザッ!!」


思わずベイカーは叫んだ

ミザリーに伝えなければと思ったのだ


『ビー…?』


不意に名を呼ばれたことに注意が逸れ集中が微かに弱まった


赤い結晶の盾がその隙を見逃さず、勢い良くミザリーを押し弾いた


『…ッチッ!』


〈ジャッジャッ!〉


とやむ無くバックステップでベイカーの元へと引くミザリー


『で、なにか分かった?』


すっかり雨に濡れた髪は曇天の下でほぼ黒く褪せていた


「うん、多分計画はまだ途中だ、感情的ではあっても知的、そのはずなのに不自然な終わり方をこれだけの時間をかけてするはずがない。変なこと言うかも知んないけどさ…ガゼルリアは…本当は優しい人なんだと思う」


状況的に見ればそんな悠長な事を言っている場合ではない

この危機にそぐわない発言であるがミザリーは少しの沈黙の後


『うん、分かってる。ていうかさっき分かったわ』


未だ地に伏せ泥にまみれるガゼルリアに視線をやるとゆっくりと身体を起こし始める所だった


「テシルもセシルももう居ない…まやかしで私を揺さぶっても意味なんてない」


【ふぅん?マァそれはいいよ。でも変だな、変だよ。私は強い憎悪と怒りに惹かれ舞い降りた、そして舞い降りたと同時に、より強い感情の主を依代として思考を繋ぐ。】


「…だから?」


【つまりガゼルリア・テンパラント、君の記憶・思考は僕の中にも流れ込んでるわけなんだけどおかしいね?君の思考の中に一部見えない部分がある、それは未来のこと。君は次、なにを考えてるの?】


ゆらりとナベリウスは幼子をあやす家族のようにガゼルリアの頬を両の手で挟んだ


その様子はベイカーにある確信を与えた


「ミザ…ガゼルリアはナベリウスに何か隠している。強い意志で…自らの思考を読ませないようにしてまで」


『計画は呼び出してそこで終わりじゃないのは間違いないってことね…でもそれって?』


「まだその考えは見えない…っていうか僕の推測に確信を持てるほど」



【マァいいか…ソロソロ肉体を貰おうかな。それで私の完全顕現だ】


ブワッと嫌な気配がナベリウスから吹き出してくる



『っ!ビー、考えるのはアンタに任すわ!私は…』


「ど、どうする気だよ!」


ミザリーはスカーレッドの刀身をスライドさせその形状を2m近くにもなる長剣に変形させると肩に担いだ


『マジで止めるわ!!』


〈バチャッ!〉


いつの間にか辺りに広がった水溜まりごと地面を蹴り、ミザリーがナベリウスへと駆け出す


【懲りないなぁ、まぁ邪魔にすらならないからいいんだけどさぁ】


ナベリウスがミザリーへと呆れたように視線を向けた


『どこに口があんのか分かんないけど減らず口がムカつくわね!』



「来ないでっ!!」



突然ガゼルリアが叫んだ


それはミザリーに向けての叫び


『…は?』


思わずミザリーは水溜まりに滑りながら立ち止まった


完全顕現に向けナベリウスは明らかに何かをしようとしている


それを阻止しようと駆け出したミザリー

にとってその制止は虚をつかれたものになった


【…うん?あの狼は君を助けようしてるんだよ?なぜ止める?】


「…私は力が欲しい、ナベリウスがこの身に降りることで得られるなら。それを邪魔されたくないだけ」


『…』


【へぇそういうことならいいよ、でも君の意識が残るかどうかは保証しない、出来ない、でも力は得られる。】


『そう…』


「ええ、これでいいの…だから」



〈バチャッッ!!〉


再び水溜まりを蹴る音



『多分っ!違う気がするっ!!』



歩みを止めたかに思えたミザリーが猛然と距離を詰めナベリウスへと剣を振り下ろした



〈ガチャァァッ!!〉


やはり赤い結晶に阻まれはしたが

それでも怯まずにミザリーは力を込め続けた


【もう飽きたって…君じゃ私に傷一つ…】


『黙れっつってるでしょ!はなからアンタとお話する気なんて…ないのよ!』



〈ヂッ!〉


更に力を込めると剣と結晶の接触点に火花が起こった


そして瞬く間にその火花は


〈ボワッ〉


と真っ赤な炎に変わった


『ガゼルリア!アンタはきっと…優しいから苦しんでる、弟妹を愛してるからそんな顔してまで仇を討つことに囚われた!』


「…あなたになにが分かる…?この苦しみは

、胸の痛みは…」


グッとミザリーが剣を押し込むごとに剣から湧き上がる炎は赤く大きく


触れた結晶さえ焼き付くさんと轟々と唸っている


【竜の火?魔器だとしてもなぜこれ程の力が…】


燃え盛る剣に押されナベリウスは初めて回避をした

ゆらゆらと上空に舞い上がり、明らかに距離をとる


剣の範囲外に逃したと見るやミザリーもバックステップし、剣を振った


どうやら何かに触れている時のみ炎を発するのか、すぐに剣からの炎は収まった



『分かんないわよ、でもイメージしてみた。誰かの勝手な欲で家族を失ったら、リディやラビを失ったら…あとそこのビーもね』


親指を立て背後のベイカーを示した


「ついでかよ…まったく」


とは言っているもののベイカーは笑ってしまった



『ムカついたし絶対そいつらは許せない、悪魔を呼ぶためなんてくだらない理由を知れば尚更ね』


「なのに私の復讐を否定するの…?当事者でないと怒りという感情を理解してもその熱量までは理解し切れないということかしら」


『かもしれない。でも私は、ビーを知ってる、母さんを知ってる、リディを、ラビを知ってる』


「…」


『思い出があるもの、記憶の中で笑ってるみんながいる。お節介で世話焼きで、心配性で、優しいみんなとの思い出が』


「…だからやるしかなかったのよ」


『だから私はそんなみんなを!復讐の理由にできない』


「そんなことも分かってる!私だって…あの子達を…愛してるし思い出だって沢山ある。復讐の理由になんてしたくなかった…でも」



どれだけ思い出を

幼いがゆえに決して多くはないであろう弟妹との思い出を大切になぞってきただろう


何度も何度も

愛しい日々を懐かしんで惜しんできたたろう


「馬鹿な事だと分かってても…他にどうすればいいのか…分からなかった」


降り続く雨の中

冷静な振る舞いができずに叫ぶガゼルリア


ミザリーもベイカーも


雨中の中であっても、顔を伝う雨が幾ら流れようとガゼルリアが泣いていることが分かった


『愛してんのよ、そんな馬鹿なこと考えちゃうほどにね』



「…っ」


ミザリーの言葉にガゼルリアは俯き顔を両手で覆った


対照的にミザリーは顔を上げた


未だ上空を妖しく漂うナベリウスへと向かって


『で、今一番ムカつくのはあんたよ、ファッキンゴースト…』


【ぁあ…話は終わった?僕もそろそろ君が目障りになってきたよ狼】


『ああそう?でも私は初対面から目障りだと思ってた』


〈ゴロゴロ〉


いつの間にか辺りにはどす黒い雷雲が泳ぎ始め、聞こえる唸りはより一層近くなっていた


『ビー…あれもそうよね?』


ベイカーへと問いかけるミザリーの視線はナベリウスの更に上空の雷雲へと向いていた


「そりゃそうだけど…また無茶する気か?」


『ま、察してちょうだい』


振り返るとベイカーへとぷらぷらと手を振る


「ま、女にゃやんなきゃいけない時があるってやつか」


『んで?どうすりゃいいの?』


「簡単さ、呼べばいい!」


『そんな感じなのね、あれ』


【何を見てるか分かんないけど行かせて貰うよ】


ナベリウスが無邪気な声で叫ぶと


合図のように周囲で赤い結晶が瞬き始め


棘がミザリーを囲むように形成する音が雨を縫うように耳に入る


『カモン』



〈ピシヤァンッッ!!〉


ミザリーが空に向かって手招きをすると、こちらもそれも合図にするように辺りを白くする程の稲光が光った


轟く雷は、ミザリーの誘いに乗るように

その鋼の身体に直撃した

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