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My Nightmare ~Hug the Ghost~  作者: 燕尾あんす
Hug the Ghost
31/39

温もり

# another side


ガゼルリアが魔を祀る町ルースルーにてナベリウス降臨の儀式を決行した


その同刻


ルースルーから立ち上る赤い光の柱は

ドライセン護国王都内、王城の頂きに佇むクロジアの目にも遠巻きながら映っていた


「決行したか…後は…」


見下ろした王都の町の中にもルースルーから立ち上る赤い光の柱に気づいたもの達はいるようだ


口々に何か何かと騒ぎ立てながらそれを一目見ようとする民で道が埋まり始めていく


未だに所在不明となったドライセン護国国王 ハンブルク・ドライセンの捜索に躍起になっていた兵士達もそれに気づき始めた


二十四時間の捜索も虚しく、王都外へと手を伸ばそうかと思索していたであろう時にこの事態だ


まさかとは思っていても、なんの手がかりもない今ルースルーへと足を向けると考えうるだろう


クロジアのその読みは、喧騒の中から聞こえてきた


「部隊を編成し至急向かわせろ!」


という声が当たっていると暗喩した



「…でもすまない。僕はそれを邪魔させてもらう…いや、違うな」


〈ヴォン〉


赤い魔法陣のようなものが足元に浮かび、

そして一瞬の間に黒いモヤに包まれたクロジアは竜人の悪魔の姿に、【アニマ】へと変貌した


【ガゼルの邪魔はさせない。王都の軍を

ルースルーには…向かわせない】


右手に剥き出しの刃のような剣を掲げた


ミザリーに奪われたはずだが、どうやら魔力で形成できるということなのかも知れない


その剣が火柱のような巨大な炎を纏う


その様に気付いた町民が悲鳴をあげ、兵士もすぐに気付き慌ててアニマの方へと駆け寄ってくる


【…】


〈ブォアッ!!〉


剣が振り下ろされると凄まじい火柱が城門へと激突する


100mほども離れているはずだがその距離も意に介さず、その炎は城門を砕いた


〈ドシャァッ〉


と崩れた瓦礫が城門を塞ぐ

積み上げられた瓦礫の下からはいく筋かの血が流れている


下敷きになった物がいたのだ


城門が砕け塞がれたのを目視で確認するとアニマは別の城門の方角に視線を移し


王城の頂きから飛び降りた


全ての城門を砕き、王都から外への出入りを妨害するためだ


【(ルースルーに兵士が調査や応援に行けば巻き添えになってしまうかもしれない。それはガゼルの望む所ではない…ここで僕がそれを防ぐ、そのための犠牲の罪は僕が背負う)】


歩き出したアニマ


道の先には兵士が集まり始め

それぞれが武器を持ち、アニマへと敵意を向けている

周りの民たちに避難を促しながらも、兵士たちの視線は外れることはない


【(テシル、セシル…もう少しだけ力を貸してくれ。もう少しで終わる…そしたら、また会えるよ)】



敵性のもの、そして王の不在に焦りを感じてか

兵士が揃うやいなや、一つの塊となってアニマへも向かって進撃を始めた


アニマの身の丈が2m程度という、サイズの不利が一見乏しそうなことが突撃への見切りの速さだったのかも知れない


しかし


〈ゴォオッ〉


立ち昇る炎を纏ったアニマから迸るプレッシャーはそれを間違いだと遅れながら兵士に知らしめた


だが進撃の足は止められない

渦中へと走る兵士達は、アニマの振り下ろした剣


焔が兵士を迎え撃つように被さると

燃え盛る轟音に紛れ悲鳴がこだまする


それを見つめるアニマの、

クロジアの視線はどれだけの苦しみを抱えたか計り知れぬほど静かで冷たかった




________________


# Lida side


静かだった


ルグリッド公国 王城前広場


そこに静かに佇んでいたのはリョフ・テンマ


公国への単騎進軍のために現れた魔人

先程まで相対し剣を交わしていたリーダ・バーンスタイン


やはり単独での迎撃を敢行しようとした彼女は広場の中心にいた


自らの身体から流れた血溜まりに身を伏せたまま



【なんだ…?】


勝利と言って間違いない状態だが先程から自身の太刀に違和感を覚えていた


その違和感がついに鞘にヒビを入れるほどの衝撃となった


〈魔吸の太刀 グレイプニル〉


武のみの魔人 リョフ・テンマ

魔力変換や特殊な力を持たず、ただ己の身体能力に特化した魔人


他の悪魔との戦闘で魔力を奪い

ひたすらにそれを昇華し武の探求を唯一の目的とし補助する類の意味合いで携行していたグレイプニル


抜き身で接触すれば、魔力を吸収し蓄える

魔界の神器 魔器と呼ばれる一振り


【魔女】と呼ばれる悪魔との戦いに敗れ、魔力を奪われ半分ほどの魔力と空になったグレイプニルのみでマモンへと封印された過去を持つが


先日のミザリーとの戦闘において、やはりその魔力をグレイプニルで奪った


つまり、この異常の原因はミザリーの魔力


〈フェンリル〉



【内から何か…しかし何故…】


落ち着いた様相ではあるが

鞘から静電気が滲み爆ぜる今の状況はリョフにも飲み込めていない様子だ


その時、静電気の鳴る音に紛れぬほどはっきりと声が聞こえた


『ワタシの…カゾク…ムスメにッ…』



ピクリ


その声がリーダの耳に入ると微かに指が動いた


『私の娘に何をする!!』


〈バチィッ!!〉


叫びのような声と電気の爆ぜる音が一層強く広場に響く


ゆっくり

ゆっくりリーダは顔を上げると


そこにはリョフの太刀


グレイプニルの鞘を割り、

金色の雷が狼の姿を形作って現れていた


【フェンリルだと…!なぜ…ここにっ!】


顕現と同時に苛烈な雷を放つフェンリル


その圧がリョフを弾き飛ばす


疑問を抱いたのはリョフだけではない

リーダもだった


「アリス…?なんで……核が、フェンリルのコアがここにある?…でもミザリーは…」


グレイプニルに魔力こそ吸収されたがアリスの、フェンリルのコアまでは奪われていない


そう言っていた


つまり嘘だったのだ


だが同時にその理由も検討がつく


「(心配かけまいと……そうか…だから、別行動を取ってまで不審な悪魔を単独で追った…)」


アリスのコアが無いと知れば、リーダにもベイカーにも心配や不安を覚えさせる


リョフという危険な悪魔に向かう理由も与えてしまう


単独行動を強行したのも心配かけずに悪魔を倒し魔力を奪い自身の不調を補うため


「(…バカな子…でも、可愛い妹だわ)」


渾身の、その文言に偽りなしの全身全霊

全ての力を込めリーダは立ち上がった


身体から流れる血はいまだにジワリと生暖かく、獅子の覆面のたてがみは赤く染まっている


『リディ…!…』


金色の狼はリーダの元へと駆け寄ろうと迫る


しかし


【好きにはさせんっ!!】


リョフが太刀を握る手に力を込めると

グレイプニルが紫色に光始め、フェンリルを再びその刀身に吸い込みだす


「アリス……母さんッ!!」


リーダが手を伸ばすが


魔吸の太刀の力には速さ及ばず

フェンリルは、アリスは再びグレイプニルの太刀の刀身へと舞い戻った


だがそれでも、微かに

ほんの微かにリーダの指先はフェンリルの光に触れていた


「…」


不思議な、優しくも暖かい

心地良い温もりが指先に灯った気がした


己の為すべきことが決意が改めて心から湧き上がる


〈ポタリ〉


と血の滴を落としながらリーダは獅子の覆面に手をやると


〈バッ!〉


とその覆面を剥ぎ取り投げた


覆面の中でも滲む血の色にも覆えぬ端正な顔立ちは、その目に宝石のような赤色を湛え


風のままに広がった長い銀色の髪も

やはり血に幾多滲みながらも美しく揺れた


「その力は…温もりは…ミザリーの、私の妹のものよ…返してもらう!」


【厄介なフェンリルだ…それに妙な事情がありそうだが、見て見ぬふりできる状態ではなかろう】


リョフは太刀先をリーダの足元に向けた


【その出血量…それに悪魔の力を持っていても人間の身である以上。身体に穴が空いたままであとどれだけもがけると言うのか】


リョフの指摘通り

リーダの身体には先程リョフに突き立てられた太刀の一撃で腹部に穴が空いていた


無論、その際骨は砕かれ内蔵にも甚大な損傷をもたらし出血は止まらず


立っていられる理由など人体の構造上有り得ない重傷を受けている


魔力を宿しているがために人より優れ自己治癒能力があるにはあるがそれも完全な悪魔よりは劣り、それで賄い切れるダメージではなかった


「それでも…やるわ…」


手に力を、込めた

意識してから実際に手に力を込められるまでに明らかなラグがある


自身が満身創痍なことなど分かっている


引く訳にはいかない


それがリーダが今立つ理由


〈ザッ!〉


血でぬかるむ地面を蹴りリーダが仕掛ける


振りかぶる剣撃


【…】


〈ガキィィッ!〉


黙して太刀で受けるリョフ


【…死に体でよくぞここまでの力を!だが!】


更に力を込め押し返すと、リーダはその勢いに耐え切れず弾き飛ばされた


立つ力はもちろん

握力などとうに尽きているはずだ


しかし、リーダがその剣を零すことはない


身体から流れる血が剣に伝っても

柄を覆う血に手が滑りそうでも離さない


「(待ってて…ミザリー、今あなたの元にアリスを…奪い返すから)」


【汝が完全な悪魔なら、結果は違ったかも知れぬな。人間の限界などはとうに超えているだろうが、それでも魔人に相対するには足りなかった。】


〈ジャリ〉


リョフがゆっくりとこちらに近づいてくる


砂が踏みしめられる音を聞きながらリーダはぼんやりと考えていた


「(人間の限界…いつかハイトエイドもそんなことを言っていた。


人の姿に、人間であることに固執することが弱さだと。


人か悪魔か…私は…どちらでもないのかも知れない


アリスを信じられず魔に堕ち悪魔になったつもりだった


でもミザリーと出会い、アリスの真意を知った


そして、ミザリーが妹として接してくれた


ルベリオ殿下もベイカーも


こんな私を信じてくれた)」


指先がまだ温もりを感じていた

先程フェンリルに、アリスに触れた温もりが残っていた


頭の中でなにかが聞こえる

これは、アリスの声だ


『あなたの中にあるのは悪魔じゃない、人を守れる優しい力よ』


「(でも…私はこの力で多くを傷付けた…それにもう力は残ってない)」


『後悔が、あなたの後悔がそれを押し隠しているのよリディ…でももう〈四つ脚〉はいない。その力を悪意で振るうんじゃない、今のあなたなら優しい心で守りたいものを守るために使えるはず、だって』


「(だって…?)」


『あなたはそんなに傷ついてもミザリーの為に立ち上がってくれた…優しいお姉ちゃんだもの、リディ』



声は聞こえなくなった


だが温もりは指先から全身に伝播し身体中を包んだ


こんな時だと言うのに少し嬉しい気持ちになった


妹のために頑張っている

それを母に褒められたら、こんなにも暖かいのだと嬉しいのだと誇らしいのだと感じられた


「(そうだ…私は、もう自分が悪魔か人かなんてどうでもいい。選べるような立場じゃない…それでも、たった一瞬で良い)」


血で霞んでいた目の前がクリアになった

身体中を包む温もりが全ての感覚を研ぎ澄まさせていく


目の前に迫るリョフの太刀が不思議と少しゆっくり迫ってるように見えた


グッと剣を握り更に力を込める


そして


〈ギィィンッ!!〉


とその太刀を打ち弾いた


【なに…!】


思わずその体勢を崩させるほどの反撃にリョフはかすかたじろいだ


それほどまでに予想外の力での剣撃だった


【人を捨てるか…面白いな】


油断を振り払うようにリョフが太刀を振り構え直す


「逆よ…私は、自分が悪魔だろうがなんだろうが構わない。悪魔の力だってあるなら使うわ


でも


それでも、

大切な人の為に戦う瞬間だけは人でありたい!」



リーダが叫んだと同時に突如


〈ブワッ!!〉


白い羽根のような光が湧き上がりリーダを包む


【まさか…!?】


そしてその光がリーダの身体を包み終わったやいなや


〈フワッ〉


と綿毛が飛び散るようにその光はほどけていった


幻想的なその光の中から再び姿を現したリーダは


美しい西洋の甲冑のような外殻を纏い

右手の先に剣のような槍のような武具を備えた


白銀の騎士のような姿へと変貌していた

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