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My Nightmare ~Hug the Ghost~  作者: 燕尾あんす
Hug the Ghost
30/39

愚者賢者

# another side


ポツリ


一粒の水滴が空から落ちた


地にぶつかった瞬間細かく散り、すぐに土に吸い込まれる


「雨か…偶然かな、それとも…」


ガゼルリアはポツリ呟いた


魔を祀る町 ルースルー


突如現れたガゼルリアの率いる

20人程のローブを被った集団


ルースルーにたどり着くやいなや、それぞれが確固たる意思によって動く様は機械のように無機質な印象さえあった


町の真ん中にある広場は

それも集団によって、普段から置かれていた雑多な物々を排除され20メートル四方ほどのスペースを確保されている


異質なのはその地面

やはり集団によって大きな円とその中に複雑に引かれた線

怪しげな紋様が曇天の下で不気味に佇む


間もなくその円の中心にローブの一人によって、車椅子の老人が一人押されてきた


車椅子の本来の介助の意図とはそぐわない

両手足は鎖によって車椅子に縛りつけられ言葉を奪うように口には猿ぐつわを噛まされている


ローブの人物はそのまま車椅子を円の中心に置くと、ガゼルリアへと合図のように頷き離れていった


代わるように、ガゼルリアが車椅子へと近づく


見下ろす目は冷ややかなまま

車椅子の老人の猿ぐつわを外した


「ご機嫌はいかがでしょうか?ハンブルク国王」


尋ねられた老人 ハンブルク国王は

少し息を整えると


「なにを…するつもりだ…それにこやつらは…貴様の私兵か、ガゼルリアッ」


「なにをするつもり…まさかそこまでもうろくした訳ではないでしょう?」


冷ややかな目は、やや眉間に皺を寄せ睨むような眼光に変わる


「それに彼らに見覚えがあるはずもない、彼らは私の私兵なとではない…」


ガッとハンブルク国王の襟元掴むと身を屈め顔を寄せた


「貴方が物のように消費した人々!その残された家族達だ!」


「…な、なにを…」


バッと突き放すように襟から手を離すと

ガゼルリアは曇天を見上げた


「16年前、貴方は魔に魅入られ欲し悪魔を呼び出すための儀式を決行した。妄信的な悪魔信者の…こいつらと」


ハンブルク国王を円の中心に置いてから、次々とローブの人物が村人を縛り広場に連れて来はじめていた


ガゼルリアの話通りならば、その18年前に国王ハンブルク・ドライセンと共に儀式を決行したという人々なのだろう


国王を囲むように配置されていく

どれも両手足を縛られ、猿ぐつわを噛まされ身の自由を奪われている


「貴方達が魔に魅入られる、どうでもいい。魔を欲する、それもどうでもいい。でも…なぜ?なぜそのための犠牲を自分達で払わなかった?」


しんとした空気の中

息遣いだけが微かに聞こえる


「なぜ!私の弟妹が!犠牲にならなければいけなかった!答えろ!!ハンブルク・ドライセン!」


真っ直ぐ睨む眼光は先程の冷ややかさとは打って代わり熱を孕む槍のよう


「お、お主の…弟妹…?そ、そんなのは知らぬ…本当だ!贄は、こやつらが用意したっ、私が選んだ訳では無い」


「まだ6つの子供達を…なんの罪もない人々を自分勝手に贄にしてあまつさえ言い訳とは…そんなものでどうなる、誰が報われる?自らの罪を受け止めもせず…よくのうのうと生きていられる」


「目的は復讐か…?だ、だがそれで家族が戻っくる訳では無い!考え直せ…我らも罪を甘んじて受け入れる…だから」


〈トッ〉


静かにガゼルリアは小さなナイフをハンブルク国王の太ももに突き立てた


「かっ!…ぐぅぅ…」


苦悶の表情を浮かべながら自らの脚に突き立ったナイフを見つめる国王


「意思のない上っ面の謝罪など…不快なだけ。貴方がたの償いの方法は用意してあります…ただ後悔と命乞いの念でも浮かべながらその時を待ってくれれば結構。」


「な…まさか…まさかガゼルリアッ!!」


「やっと気づきましたか?見覚えがあるでしょう、この地に描かれた方陣。16年前貴方達も描いたもの、わざわざ城に潜り込んで機密資料までたどり着くのには苦労しました」


国王の顔が出血だけの理由ではない

どんどん青ざめて、気温が高いわけでもないのに汗が浮かんでいる


「…我らを贄にするつもりか…」


その言葉に国王の周囲に集められたルースルーの村人達も声を出せないものの身動ぎで抵抗を始める


「騒がないで頂きたい…もし騒ぐなら、贄になるのを待つ必要もない。殺していい、と皆には伝えています」


感情の籠らない声

だが自身の置かれている状況が絶望的だと周囲の村人は悟った


騒ぎ立てるものは無いが、涙ぐずる音が抵抗した所で結果は変わらない

そんな諦めを感じさせた


「ああ、心配しないでください。18年前の儀式に関わらなかったルースルーの村人は避難させました。貴方達のように心無い訳ではありませんからね」



ポツリ


少しずつ、足元に落ちる水滴の数が増え始めてきた


間もなく雨が本格的に降り出すかもしれない



「さて…始めましょう。これ以上貴方達が生きているのに…耐えられない。」


ガゼルリアが手を上げ合図をする


ローブの集団が方陣の中から出て距離をとる



ガゼルリアも同様に方陣の外に出ると

懐から黒箱を取り出した


それを少し見つめた後


〈ヒュッ〉


と国王の車椅子目掛けて投げた


狙い通り車椅子の足元にそれは落下した



そして目を閉じ、空を

曇天を仰ぐとガゼルリアは何かを唱え始めた


【夜が明けても朝は来ず、命の終に生は芽吹かず…賢者は世を憂い祈れど、愚者が疎む】


〈ズァ…〉


途端に不気味な空気が広場に広がり

方陣の中に描かれた紋様が蠢き始める


【愚者の祈りは賢者を殺し、屍のさまの賢者の祈りは魔を欲す。染まりてなお賢者は自らを清廉と呼び、愚者へと剣を振り下ろす】


「かっ…ぅあ…」


詠唱が進むにつれ、方陣の中の村人が苦しみもがき始める


方陣の紋様が生き物のように村人に這い上がり身体を侵食しているようだ


苦痛の叫びは猿ぐつわに殺され

ただただもがくしかできない


【やがて世界は賢者と愚者の境目を見失い、夜ごと魂を喰らいあう…世に頂きはなく、戴く冠は愚者の手に渡らぬようにと月に代わる。されどなお月に手を伸ばす愚者は神の怒りに触れ、黒き鉄槌で地に墜ちる。】


異質な紋様はもはや地を離れ、激しく贄となる村人を蝕み始めた


生を奪っているのか、黒い紋様は少しずつ赤黒く変色し鈍く光り始めている



【その姿を…愚者が神と呼ぶ、自らを殺めど拝みを止めぬ…哀れな亡者の眼前に降りよ。愚者を、賢者を、森羅万象さえ貫く魔の月よ】



遂にハンブルク国王にまで紋様は侵食を始めた

同時にその足元の黒箱から一層黒いモヤが吹き出す


「ひ…よせ…よせガゼルリア、こんな事をしてもお前の家族は帰っても喜びもせんっ…だからっ…」


身を這い登る紋様に怯えが隠せず

懸命に訴えかけるが


「貴様が…家族を語るな…」




【ナベリウス】



その言葉がそうだ

その名がこの儀式によって呼び起こされる悪魔


言葉に反応するように、紋様が、モヤが暴れるように蠢きを加速する


もはや悲鳴をあげること叶わず

その命を捧げる以外の選択を奪われ


描かれた円を包むように

中心のハンブルク・ドライセンと十数人の生贄を黒いモヤが半円になるように覆った


「これで…悲願が…叶う」


その半円を見つめながらガゼルリアは胸に手を当てた





________________


同刻


# misery,s side


『もう見えてくる頃よね!』


他に目もくれず、ルースルーへも猛進するミザリーとベイカー


曇天が広がる空模様に嫌な予感を覚えつつも着実に迅速にルースルーに近づいていた


「もう少ししたら見えてくる、でもルースルーに着いたら何が起こるか分かんない。いや…もう何か起こってるかもしれない。本当にいけんだな?」


ベイカーが気にしているのはミザリーの魔力の残量

再会を果たした際、ミザリーの様子からすると魔力残量は限りなくゼロに近いもの


それをバッテリーで多少の電力を補ったものの


そんなものは申し訳程度にしかならない電力量


今まだ動けているのが不思議なくらいだ


『ん…物足んない感じはするわよ、全力では動けないだろうしダルい感じはしてる。でも不思議ともう少しは動けそう、これもアンタが言ってた周囲にも電気があるからってこと?』


ミザリーからアニマとの対峙の際、周囲から電力を幾ばくか集められた話は聞いている


それでも賄いきれるようなものではないとベイカーは理屈で、そう思っていた


「クロジアさんとの戦闘でキッカケを掴んで自然と集められるようになったのかも知んないけど…分かってるんだろ?多分…ガゼルリアやまたクロジアさんと戦うことになる、ガゼルリアは悪魔を使役するしクロジアさんは悪魔化できるんだ」


『分かってる!アンタこそ分かってんでしょ?』


「引く気はないってんだろ!っ、ミザ!ルースルーが見えた!」


ベイカーの言うように2人の視線の先

ルースルーが目に入った


曇天の元だからだろうか

先日訪れたときより、異様な空気を感じる


『…ねぇ!ビー!一個だけ聞かせて!』


「いいよ!」


『あの二人は…間違ってる?』


「いいや!間違ってない!でもそれは根本の話だ!家族を思ってる、愛してるから事を起こそうとした…理由になった。」


『…』


「でも想像してみたんだ!仮に僕が殺されてミザがそいつを復讐のために殺そうとしていたらって」


『どう思った?』


「嫌だった!だから止めなきゃいけないって思った!上手く言葉に出来ないけど、ミザに人は殺させたくない!」


『想像力豊かなことね…』


「だろ!」


『ええ、同感よ!言葉を選ぶのは後でいい…今はあの二人を止める!』


不思議な感覚をミザリーは感じていた

根本的な解決ができたわけではない


それでもベイカーが自身と同じ感覚を持っているということがミザリーの背中を押した


いつものように


『(ひとまず…気持ちはこれでいい、後は身体が持ってくれれば!)』


「…ッ、ミザッ!!」


ミザリーとベイカーの視線の先のルースルー


曇天の下


赤い柱のような光が突如立ち登った

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