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My Nightmare ~Hug the Ghost~  作者: 燕尾あんす
Again
3/39

birthday

# another side


遡ること半年前


ルグリッド公国は

左大臣であるハイトエイド・ベルラインの反逆により

国王であるハーディン・ウェイヤードを失い


その首都であるソーデラルはもちろん、国内の随所、そして隣接する四大国の一つハイゼン武国にまで甚大な被害を被った


ハイゼン武国に眠る【魔女の檻】を手にするために証として国王ハーディンを落とし、それが眠る武国の王都にまで手を伸ばした


だが、それは阻止された


ハーディンの実子であり、自らもその陰謀の飛び火により命を落とした少女


ミザリー・リードウェイにより


そして、そのミザリーの母 アリス・リードウェイがもう一人の娘と呼ぶ


彼女の運命も、また動こうとしていた



ルグリッド公国


その王城の内の地下の一室


現在は、というよりは前国王ハーディンが王として着任以降は全く使われていなかったものだが


その王城内にも捕虜や謀反者を投じて置くための獄があった


その存在自体を良きとしない前国王が手も触れず触れさせず放置されていた前時代の遺物とさえも呼べるもの


数十年ぶりに、一人の女性が投獄されていた


それが


リーダ・バーンスタイン


アリス・リードウェイがミザリーと並び娘と呼ぶものである


しかし、ハイトエイドの陰謀や古き悪しき習慣などの重ね重ねが彼女の運命をねじ曲げてしまった


結果としてハイトエイドにより洗脳じみた待遇を受け

彼の持つ黒箱ブラックボックス悪魔の力を結晶化したものを埋め込まれる実験体とされ、奇しくも適合してしまった彼女は【四つ脚】という悪魔としてその陰謀に加担してしまった


複数回に渡るミザリーとの戦いの末

その誤解を、わだかまりを解いたのだが


彼女の犯した罪が消える訳では無い

許されるものではない


それはなによりも彼女がそう感じていた


ゆえに、自らが投獄を望んだ


薄暗い牢獄の片隅で座し微動だにせず

与えられた食事にも手をつけず、ただ細々と呼吸で生を繋いでいる



「(…あの二人は…ミザリーはハンドベルに着いたころかしら…)」


リーダがふと思い浮かべたのはミザリーのことだった


自身に残されていたただ一つの…



〈フワッ〉


不意にぼんやりと光が目の前で灯った気がした


誰か来た、というわけではない


ならば?


リーダは瞑りっぱなしだった目を薄く開いた


そこには淡く暖かく光る

まるで幻のような儚さを持った懐かしい姿がいた


アリス・リードウェイ


ずっと心にいたその人だった


「…アリス…?」


薄く消え入りそうな声がかすか零れた


「リディ…ごめんなさい」


答えるようにアリスは言った


幼い頃、呼んでくれたあだ名を再び呼んでくれた


「あなたにも…辛い思いをさせてしまった。あなたに…罪を犯させてしまった」


震えているその声は涙を堪えているような、後悔の念に溢れていた


「そんなことは…あなたのせいじゃない、信じられなかった私の弱さ。それより…本当に…?あなたなの…?」


そんなアリスの声よりも震え掠れる声

目の前の光景に心が、波打つ


「ええ…本物よ。ミザが【魔女の檻】を倒したことで膨大な魔力を得た、そのおかげでこういう幻影じみたものをあなたの元まで届かせられたの」


「そう…。私は…あなたになんて詫びれば、どうやって贖えば…」


俯き、自らの過去を悔いた

信じることが出来ず、何もかも悪い方向へと選び進んでしまった日々を


母と慕ったアリスさえ、愚かにも恨んでしまった事を


〈カチャンッ〉


不意に響いた金属音


〈カラカラカラ…〉


落ちたそれは震えていたが、間もなく静まりそこに座した


髪飾りだ


幼少の頃、アリスから貰った

リーダ・バーンスタインが持つ唯一の【宝物】と言えるもの


度重なる戦闘の影響で、微かな傷が数え切れぬほど刻まれている


静かにそれを拾いあげたアリスは

その傷だらけの髪飾りを見つめ、悟った


リーダが歩んできた道を

苦しく傷んできたこれまでを


スッと目を閉じ、そして開くと

アリスはリーダの頭上に手を伸ばし付け直した


その髪飾りからは無数の傷が消えていた



「あなたが私に詫びることこそないわ…贖うことも…私に向けてすることじゃない。それも分かってるからあなたは此処にいるんでしょ?」


髪飾りをつけ終わった手は

そのままリーダの頬に添えられた


「…このまま死んで償えるものじゃない。それは…きっと逃げているだけ」


リーダの言葉にアリスは微笑んだ


「じゃぁ、決まってるわ。きっとミザは今でも世話が焼ける妹よ、それに弟くんまでいるんだから…リディ」


一瞬の沈黙


2人は見つめあった

柔らかく、優しく、母娘らしく


「あの子達をお願い、リディ。」


リーダは熱を感じた

知れず頬を伝い始めた涙に

そして頬から伝わるアリスの手の温もりに


「…うん。分かった…」


リーダの返事にアリスの顔が綻ぶ


両の手でリーダの頬を挟み、揺らす


「頼もしいわねぇお願いね、お姉ちゃん」


アリスがどんどん淡くなっていく

どうやらお別れなのだと2人は悟った


が、そこに悲しみはなかった


「愛してる、リディ。忘れないであなたも私の娘よ」


どんどん薄まっていくアリスの幻影は

じっとリーダを見つめ目を離さなかった



リーダも同様だ


しかし、溢れる涙がそれさえぼやかしていく


でも、それでも良かった


涙を落とすために瞼を落とし

再び瞼をあげたときアリスは消えていた


再びの一人の沈黙に包まれた中

リーダは、決意した


「ここから…今から…私は、生きる。見ていて、アリス…」


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