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My Nightmare ~Hug the Ghost~  作者: 燕尾あんす
Hug the Ghost
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Hug the Ghost

# another side


分厚い雲がかかった空の下

先程まで雨が降るか否かの話題しかなかった静かな町 ルースルー


今現在、妙な喧騒の真っ只中にあった


突如姿を現したのは護国兵なのか

20人ほどの黒いローブを羽織った兵士が何やら忙しなく動き始めている


指示を出しているのは、ローブを羽織った女性

その隙間から見えるは立場を与えられた者のみが着る護国紋章の付いた軍服


そして左目を覆うモノクルが不思議な神秘ささえ感じさせる


ガゼルリア・テンパラント


口数も少なく指示を終えると

ルースルーの町の中央の広場に立ち、黙した


頭の中に、浮かぶのはかつての憧憬

昨日のように、つい先程のように浮かぶ愛しい日々



_______________


あの日も、そうだ

16年前のあの日

なんて事ない、なんて事ない一日のはずだった


ルースルーはあの日、昼間だというのにやけに暗かった


見渡す限りの雲はほの暗く分厚く、陽の光をおおいに遮っていた


どこか気が滅入りそうな天気の中でも

私の2人の弟妹はやけにはしゃいでいた


テンパラント家は、私を含め子供だけ

両親は魔女狩りに巻き込まれ20年前に亡くなっており


別の村にいた私たちは、周りの大人達の勧めるがままにこのルースルーへと流れ着いていた


何も知らない子供の私はそれ以外の選択を持てなかったし、それが最善だとも思っていた


両親を失ってからは私がしっかりしなければと奮い立ち、自分なりに精一杯やっていた


6つになる弟と妹は双子だ

テシルとセシル

2人とも活発で目を離せばすぐに泥だらけになって笑っているような遊び盛り


それでも私を手伝うことを面倒くさがったりすることなく聞き分けも良かった


同じような境遇で、前の村からの馴染みのクロジアがいたことにも大いに救われた


2人の弟妹とよく遊んでくれ

自分も人見知りのくせに、周りの大人達とどこか馴染めずにいた私との間に入り、橋渡ししてくれたりもした


あの日も、クロジアとテシル、セシルは3人でコソコソと何かをしていた


忙しなく走り回り、なにをしているのかと問えば笑顔を浮かべるだけで誤魔化していた


また何かのイタズラかと呆れていた


でもその日は弟妹だけじゃなく、他の村人達もどこかおかしかった


やけに上の空の人がいたり、忙しなく動き回っている人がいたり準備だ、なんだと妙な雰囲気


夕方から夜にかけ暗くなり始めると

王都から村に誰か訪れたようで、村長の家の周りには一部の村人が集まっていて近寄り難くなっていた


私達の家は村の中でも端の方、小さなあばら家だったし気にしないようにするのは簡単だった


隣にあるやはり小さなあばら家にはクロジアが住んでいたが晩御飯はいつも私の家で4人で食べていた


晩御飯の最中も、3人はどこかニヤニヤと

イタズラっぽい顔を浮かべていた


いつなにかのイタズラをされるのかと私も少しソワソワしていた気がする


そんな頃、外からポツリポツリと雨粒が落ちる音が聞こえ始めてきた


それはすぐに大粒の雨になりザーッと音が幕のように夜に広がり始める


時折、遠くの空から雷が唸る音も届いて、これは明日は相当ぬかるむ

弟妹達がまた泥だらけになるな、と洗濯を覚悟しながら眠りについた


その深夜だった


私は激しい雨音で目を覚ました

耳に届いてくるその音は落雷の音を挟んでいた


嫌な気分

雨のおかげでだいぶ気温は低くなっているはずだが寝汗をかいていた


そしてすぐに気づいた

家の扉が開け放たれ外の風で揺れている


そのせいで雨音や雷の音を近く感じ目を覚ましたのかと2人の弟妹たちの寝床に目線をやったとき


そこにはめくれた布団があるだけだと気づいた


嫌な気分が悪寒に変わった瞬間を良く覚えている


私は雨に打ち付けられるのも構わず外に飛び出した


痛い程の勢いだった気もするがあの時はそれどころじゃなかった


すぐに見回した村の風景は異様だった

深夜であり、更には豪雨

そんな中、ローブを羽織った人影が村の中央へと向かっていくのが見えた


雨合羽の代わりかも知れないが不気味な光景に映った


隣のクロジアの家の扉の前に急ぎノックをし

あまりの有事のため、返事も待たずに扉を開けたが中には誰もいなかった


ここに、クロジアの家に居て欲しかった

それが私の考えうる最善の状況だった


だがクロジアまで居ないということが更なる焦りを生む


嫌な予感、悪寒、焦燥


自分が裸足であることにも気づかず村の中央へ向かった


勘でしかない

勘でしかないがそこに居る気がしたのだ


村の中央には広場のようなものがある


普段は大人達が商品などを並べ商いをしたり、憩いの場として使われる広場


呼吸が苦しい

走ると風で流れる雨が口の中に入りむせそうになる


肺に入る空気が冷たく重い

ぬかるみは鉛のように泥を足にまとわりつかせ


ものの数十秒走ればたどり着くはずの広場がやけに遠い


だがそれでも、辿り着いた


ローブの人物が何人か円を描き立っていた


何かを囲むように


円の中心には火が焚かれていた

何か生き物のように、踊るように燃えていた

こんな豪雨の中、なぜ火が燃えることができているのか


あの日は疑問にも思わなかった


その火の周りに更に何かが積まれて居るのが目に入った


豪雨の中暗くて、良く見えなかった


一歩、一歩と近付いた


その時、轟音を響かせ落雷が落ちた


その光は私の目に映る「何か」が「人間」だと教えた


息が無理やり肺に押し込まれたような圧迫感を感じ吐きそうになった


嘔吐感に耐え、もう一歩踏み出した私は


積まれた、動かない人達の傍らに小さな影を見つけた


それが探していた弟妹だとわかったとき

目眩が襲った


堪えきれず、地面に膝をついた


目線が低くなったせいで、多くの人の遺体と視線が合う気がしてまた吐きそうになった


立てなかった


それでも一縷の願いに縋った


あれが、あれが


どうか、どうかテシルとセシルでありませんようにと


生まれて初めて何かに祈った


這いずりながら、泥をかきわけるように近付いた


手が届くほどの距離まで来た時


再びの雷鳴が照らしたのは〈絶望〉だった


間違いなく、間違えようもない私の弟妹


目を閉じた顔は安らかにさえ見え、眠っているのかと頬に手を添えては見たが


伝わって来たのは生きてはいない事を知らせる氷のような冷たさだった


そして二人が寄り添い、大事そうに抱える小さな木箱に気付いた


見覚えがある

昨日から、ずっと2人してそれを持って走り回っていた


かたときも離さず、何が入っているのかと尋ねてもやはりニコニコするだけだった

大切な物でもいれているのだろうと特に追求はしなかった箱


震える手でそれを持ち上げた


簡単な蓋は直ぐに開くことができた


中には紙が一枚入っていた


暗くてよく見えないと思っていたら都合よく雷鳴がまた光った


稲光に照らされ

ガゼルリアの目に映ったのは紙に描かれた自身の姿だった


そしてそれに次いで


〈お姉ちゃんいつもありがとう〉

〈お誕生日おめでとう〉


と見慣れた2人の文字が並んでいた


そうだ


自分さえ忘れていた誕生日を

最近のこの2人の動向はそれを祝うために準備してくれていたと分かった


瞬きの間に雨で滲み始めた

その絵と文字が弟妹の命のように見えた


儚い優しいものが理不尽なものに打たれ消えていく様が


言葉にしがたい感情で心を埋めていく


ずっと堪えていたものが堰を切ったように溢れる


怒りが、憎しみが腹の中から込み上げてきてとうとう吐いた



「儀式は失敗したか…」


雨に紛れ不意に聞こえてきた言葉に振り向くと

ローブの人物達が闇間に消えようとしているところだった


去り際に松明を積まれた遺体に放っていく

なにか燃料が仕込まれているのか雨の中でも燃え盛っている

そして、きっと積まれた遺体にも燃料が撒かれていたのだろう


あっという間に豪と燃え移り始めた


その内の一人の顔が目に入った


こちらを一瞥もせず、積まれた遺体さえ厭わない


弟妹達のことを顧みない


立ち上がって追おうとしたが、上手く力が入らずそのまま地に伏せた


泥の中を這いずる身体を容赦なく雨は打ち続ける


私は叫んでいた

この哀しみを、怒りを乗せて


必ず、必ずこの仇を討つ


何をしても誰が相手でも自分がどうなろうと




_______________


そして現在


「(大丈夫…忘れてないよ。仇は討つからね)」


スっと懐から紙を取り出した


ボロボロになった紙

折りたたまれたそれを開くと中は酷く滲んでいる


もうそれが絵と、誕生を祝う文字だったと知るのはガゼルリアのみ


だがそんな状態でもガゼルリアにとってはこの世の何よりも愛しい一枚


表面をさらと撫でる


この紙に触れているときだけは、かつてを思い出しているときだけは心が安らぐ


だがそれは触れているときだけだ

丁寧にそれを懐に戻す


燃えるような憎悪が立ち上がる

この憎悪という原動力が身を滅ぼすとはわかっている


それでも


「始めるぞ…護国王ハンブルク・ドライセン!そしてルースルーの愚民の命を使って!〈ナベリウス〉を顕現させる!」


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