再び、魔を祀る町へ
# misery,s side
ようやくベイカーと再会を果たしたミザリーだが、その魔力は底を尽きかけかろうじての生命を繋いでいるといったところ
ベイカーもそれはもちろん承知だ
「話の前にちょっと待ってね、これでどれだけ持つか…」
『うん、ちょっとまとめてるわ…』
ベイカーはミザリーの背中側にまわると
「脱がすよミザ」
『相変わらずデリカシーが死んでるわね』
と言いつつもなにをするかは分かっているため背中を丸め服をたくし上げる
機械の身体のミザリー
内部を点検、修理するためのハッチのようなものが背中側についているのだ
皮膚と遜色ない外見、肌触りの樹脂で覆われ肌色の塗料で精密に造られているため
一見生身と差異はないがそれでもネジで止められている部分
そこを外せば機械部品や配線が整然と並べられた内部が顕になる
ベイカーはミザリーの心臓に当たる部分
ブラックボックスの付近に電気部品をあてがうとそこに固定した
ミザリーのブラックボックスは
かつてハイトエイドやガゼルリアの使う黒箱と同じ呼び名ではあるが恐らく根本は違う
ハイトエイド達の黒箱は
母たる魔と呼ばれる〈魔女〉の能力で悪魔を具現化し、悪魔として再発現させたり、人に取り込ませることで悪魔に身体を乗っ取らせることが可能となるもの
人を傷つけ、殺め傲慢な思想のための黒箱
だがミザリーのブラックボックスは
フェンリルと同一である母アリス・リードウェイの意志を色濃く反映されており
人間にとっての心臓の役割を持ち、魔力を電力に変質させミザリーに適切に供給するもの
母が子を生かすためのブラックボックス
「…ふぅ」
ベイカーが取り付けたのはバッテリーだ
流石にフェンリルのブラックボックスのように電力供給はできないがそれでも多少は賄えるはず
背中のハッチを再び閉じ、たくしあげていた服を直す
「これでもうちょっとは動けると思うけど…それでもホントにちょっとだからね」
『分かってるって…じゃぁ話すわよ?』
「うん、なにか分かった?」
少し息を整えるとミザリーは改めてベイカーにクロジアとの話を反芻するように語り出した
そして数分の間ベイカーは
ミザリーの話を黙って聞いた
「…そんな…事が…」
ミザリーから伝えられたガゼルリアとクロジアの過去、そして悲劇をベイカーは容易く受け止め切れない
ミザリーの浮かない顔の理由が身体の不調だけではないと感じた
「じゃぁ…ガゼルリアの目的は公国じゃなくて、護国だけなのか…?だとすると、ミザ。実は護国の王様が行方不明になってんだ」
『それもガゼルリアの仕業ってこと?』
「リーダは可能性の話としてたけど、ミザから聞いた話で補完するとそう見た方が良いかもな。ただ、護国にはクロジアさんも居たんだ。どっちの仕業かは図りかねるな」
『それでリディは?今どこ?』
「そうだ!緊急事態でさ、公国にリョフが進軍してる、それを迎撃するために戻ったんだ」
『リョフ…なら、私達も戻んなきゃ…』
スっとミザリーが立ち上がった
バッテリーが多少の助けになったのか起き上がり、立ち上がるまではとてもスムーズになったが髪色まではまだ戻らない
『ふぅ…』
とミザリーは息を一つ、そして馬から降りるときに落としていた剣に気付くとそれを拾い上げる
アニマから奪ったものだ
形こそ変えたものの、握っているだけでクロジアの心の叫びが聞こえてくる気がした
『急ぎましょ、リディにだけ苦労かけらんないわ』
駆け寄ってくれた馬を撫でるとミザリーは軽やかに飛び乗った
だがベイカーはまだ考え込んでいる
『ビー?』
「あ、ああ!行こう」
ミザリーの呼び掛けに慌てて荷物を抱え馬に跨る
「ちょっと険しくなるけど東側の山を越えたほうが近い、そっちから戻ろう」
『わかった、先導して』
ベイカーは手綱を握り、馬を駆り始める
ミザリーもそれに続く
『ねぇビーは…どう思った?』
「うん…言葉にするの難しいね、でもなんか変な気持ちなんだ。」
ベイカーも言葉を選ぶように、馬に揺られながら空を仰いだ
夜も深けた空には月が浮かんではいるが
雲に覆われたり、顔を出したり
「多分、僕がクロジアさんの立場なら同じ選択をするかもしれない。二人を否定こそ出来ないけど、それが正解とも思えないって考えは僕が当事者じゃないからだ。」
『…私もそう思う』
「でもさ、もし僕が同じ立場でも一つだけ違う点がある。」
『え?』
『ミザがいるだろ。そうなったら多分ミザも迷って、悩んで…でもそれでもミザは僕を止めるし、逆の立場でも、僕もミザを止める』
『…まぁアンタならそういうと思った』
「でもあの二人は…それをしない。ガゼルリアを止められるのはクロジアさんだと思うし、クロジアさんが悪魔になり人を傷つけるのを止められるのもきっとガゼルリアしかいない…のにな」
『そうね…でもリョフが公国に行ってる。…じゃぁガゼルリアとクロジアはどこに?』
ミザリーの問いにベイカーは顎に手をやった
「それが気になるんだ、そもそも護国が狙いならリョフを公国に向かわせる必要はない。ましてや、公国にガゼルリアが出向く理由も見えない…」
『それに…護国の王様をさらってるんでしょ?引き連れて遠出するってのも違うんじゃない?』
「そうだ…」
グッと手綱を握ると馬の速度を落とし、そして緩やかに停止させた
『っと…ビー?』
ミザリーも倣って馬を止める
「…まさか…?でも…」
『どうしたの?』
ベイカーが顔を上げた
真剣な面持ちは自身の思考に対しての猜疑心か
「リョフを公国に向かわせたのは…足止めだ。森林帯で、ガゼルリアを追随してきたミザやリーダの力を危険視した…ガゼルリアの邪魔をしないように遠ざけるつもりだ!」
『じゃぁ…肝心のガゼルリアは…』
「ルースルーだ!…ミザの話から推測するとしてガゼルリアは護国王 ハンブルク・ドライセンと魔を祀るルースルーを恨んでいる。そこでなにかやるつもりだ!」
『っ!私達は…』
「っ…」
ベイカーは頭の中に思考を走らせる
公国にはリョフ・テンマが向かっている
その力はミザリーとリーダの二人がかりでも劣勢を強いられた
その相手をリーダ一人に任せるのは辛いものがある
だが
「(そんなことはリーダが一番分かってる!それでもリーダは迷わず公国に向かった、リョフを食い止めると決意を立てたんだ)」
『…ビー!』
「え?」
『ルースルーへ行く、そうでしょ?』
ミザリーの目に迷いは見えない
恐らく、ベイカーと同じようにリーダの身を案じたであろう
その末に決めた
リーダを信じる、信じているがゆえに
「ミザ…うん、行こう!もう一度ルースルーに!何をするかは分からないけど放っておけないことだけは分かる」
2人は馬を操り踵を返す
そして再びルースルーへと向かうため走り出す
魔を祀る町 ルースルー
そこできっとなにかが起こる
哀しき過去が種火になり、憎しみの業火に変わる
そんな予感を二人はどこかで感じていた




