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My Nightmare ~Hug the Ghost~  作者: 燕尾あんす
Ignition of Anima
24/39

連鎖

# another side


「くそっ…逃げられた…」


炎に巻かれたクロジア

周囲を手当たり次第に探し回ったが影も形も見えない


ベイカーは息を切らし元の宿屋へと戻ってくると、同じように反対方向へ向かったリーダを待った


「…ミザ…無事なのかよ…」


ベイカーの頭の中にあるのは幼なじみの安否


クロジアの言葉を信じるならば、ミザリーは身動きの取れる状態ではないということ


しかも正確な位置も分からぬままでだ


嫌な予感に埋め尽くされそうな頭を軽く揺する


そこにリーダが戻ってきた


「ダメね…見失った。そっちも手応えはなさそうね」


ふぅと息を吐くリーダ

冷静さを保っているように見えるが剣を握る指が忙しなく動いている


気がかりなのが隠せずにいるのだ


「でも手がかりはある。彼はガゼルリアに会うつもりでいるはずよ、あの口ぶりからしてなんの用もなくここまで来たとは思えない。」


「そうか!それなら王城に行けば…」



目と目を合わせると2人は迷わず王城へ向かって歩き始めた


本来ならば門兵の連絡を待つ流れだが、のっぴきならない状態だ


足早に踏み出した2人は賑やかな街並みの中に滑り込んだ


黙々と数分も歩いたころ


すれ違う人々を躱しながら進んでいると前のリーダがピクリと止まった


そして視線を道の端に移すと、背を向けて歩くローブの人物がいた


「リーダ?…どうしたの?」


ベイカーは問うも視線をリーダに倣うと同じようにフードの人物に気づいた


「あれって…?」


「あのローブ…見覚えが」


記憶をなぞりはじめた2人が同時に答えに行きあたる


森林帯で見たものと同じだと


そしてそのローブの人物こそ

目下の目的


「ガゼルリアか!」


ベイカーが声を発すると

極わずかな動作でそのローブの人物が振り向いた


そしてすぐに前を向き直すと足を早め人混みに紛れようとしている


「何度も逃げられてたまるか!」


ベイカーとリーダが地面を蹴った

ここで逃せば足取りが途絶えるかもしれない


ミザリーの身を案じる今

時間をこれ以上食う訳にはいかない


ベイカーは瞬きさえしないほどの集中力でそのローブの後ろ姿を捉え続ける


すれ違う人達を躱し、時にはかき分け

捕らえようと猛進するがなかなか距離が詰まらない


「ベイカー、挟み込むわよ。あなたはそのまま追って」


「分かった!」


すっとリーダが後ろに下がったと思うと

脇の小道へと滑り込む


そのわずか後


〈ガタッ〉


と少し物音が聞こえてきたが

もはや意に介さない


もう十数分、走り続けている

幾つも角を曲がりこの王都内で振り切るつもりなのか


地の利を活かされ細かく路地を縫われている


だが、少しずつ様子が変わってきた

徐々にすれ違う人が減っていき


周りの家屋も住居というよりは

倉庫や物置小屋といったものに変わっていった


そして、その数分後


とうとう突き当たりに追い詰めていた


思いがけず得たチャンスを掴んだと

ベイカーは思ったが


〈ガンッ〉


とトタンを踏む音と

同時に飛び降りてきたリーダの姿に


「(そうか、屋根を走ったのか。それでガゼルリアの行き先を少しずつコントロールしてたんだな)」


という結論に思い当たった


必死で追うベイカーは気づいていなかったが

リーダはあえて屋根を走る際、物音を立て自らの存在を気づかせ、少しずつ誘導した


その結果が今の状況だ


さすが数多の戦場を経験しただけはある


歴が違うなとベイカーは驚かされた


「アナタが…ガゼルリア・テンパラントで間違いないかしら…?」


リーダが、万が一にも逃さないと

プレッシャーをかけつつも冷静に尋ねる


「…」


少しの沈黙のあと


ローブの人物はフードを下ろした


そこには灰色のような髪色をした

凛々しい女性の顔があった


左目にはどこか仰々しい片眼鏡

モノクルをつけ、レンズ越しの目は

不思議な揺らぎを見せている


両目の端から頬にかけて火傷のような跡がかすか見えた


「…ええ。私がガゼルリア・テンパラント。貴方は、その髪色からするに公国の遊撃隊長リーダ・バーンスタイン、あぁ元、でしたか?」


息切れの様子も見せず堂々とした佇まい

若いながらに重職に就いているという点ではリーダと似ているかもしれない


ベイカーは一言を発した時点での印象をそう受け取った


「それはお会いできて良かった、先程門兵に国王への謁見を求め公国からの書状をお渡ししたところですが貴方は…どこかへお急ぎで?」


「…ハンブルク・ドライセンに?違うでしょう?本当に用があるのは私、違う?」



「話が早くて助かるわ、私たちも急ぎの用事があってね。」


少し様子がおかしい

リーダは勿論、ベイカーも気付いたそれは

公僕であるはずのガゼルリア


礼儀正しくはあるがどこかフランクな話し方であり、身振り素振りもどこか違和感を感じる


「急ぎの用事ね…そういえば金髪の娘はいないんですか?」


その問いが示すのは


「ミザリーのこと?そう、じゃぁ森林帯であったローブの人物はあなただと?そう認めるのね」


でなければ、他に3人でいる瞬間をガゼルリアが知るはずはない


森林帯で出会い、マモンに飲まれて以降は

ミザリーの髪色は金色とは言いきれない色であった事もある


「まぁ…特に隠す必要もないということです。あなた達が知りたいのはそれともう1つ、護国が公国に対して敵意を持っているかどうか。と言うよりはハンブルク・ドライセンに謁見を求めたのはそれを判断するためではありませんか?」


見切られている、どうやら相当頭が切れる人物であると判断できる


そして見切られている、ということはそれさえ想定して動いている可能性さえ見えてくる


つまり、ガゼルリアの掌で踊らされているということだ


「…では質問を変えようかしら」


とは言えリーダも頭が切れる

このやり取りでさえも情報の奪い合いと言っても過言ではない


そして、その点で言えば公国側は不利であり現在防戦一方の状態にあると言っていい


そこから盛り返すためには言葉の一つ一つを選び、掬いとる必要がある


「護国ではなく、あなたの目的はなに?」


リーダの問いにガゼルリアの眉がかすか動く

それをリーダは見逃さない


ほんの微かな動きだが、それだけでも今回の騒動の背景にあるのが護国ではなくガゼルリア個人の動きである、という可能性の偏りを感じることができた


「私の?なぜそう思うの?」


「もし、今回の一件ドライセン護国とルグリッド公国の国境付近の森林帯。

そこでの悪魔の騒動が仮に護国全体の動きだったとすると、

おそらく森林帯での件は準備段階でしかなく、公然と敵対関係を表立たせるつもりはないと考えるのが自然。でなければ直接公国領土内に悪魔を使役すれば良いのだから。そして準備段階だとすれば、今現在ここに現れた公国の使者である私達を放っておけない…のに、あなたは私達から逃げた。」


リーダの推測はベイカーを感心させた


確かにその通りだ

悪魔を意図的に出現させられるのにあえて公国領土内ではなく、お互いの国境間に出現させるということは


言ってしまえば公国にとっては勿論

護国にとっても危険、同じ立場であると暗に訴えれる状況


準備という言葉が適切でなくとも

少なくとも前段階であることは理解出来る


おそらく公国の挙動から目が離せないはずのそんな状況で、軍務大臣であるガゼルリアが公国使者のリーダらから逃げるということが妙な違和感を感じさせたのだ


「でもこれが護国ではなくあなた自身の目的であるからあなたは私達から逃げた。あなたの行動が私達によって邪魔されることを恐れた、森林帯のように。」


おそらく的を得ているであろうリーダのその推測はガゼルリアにしばしの沈黙をもたらした


「へぇ…流石はハイトエイド卿の懐刀と言ったところかしら。でも少し違うかしら」


ハイトエイド、やはりその名を知っていたガゼルリア


悪魔を呼び出す黒箱を使役するからには

繋がりがあるであろうとされていた予感が現実のものとなった


「あなた達に邪魔されるのを恐れて逃げていた訳じゃないの。もっと単純な話よ」


「…単純?」


「ええ、もうすぐ望みが叶う。それを前に浮き足立つのは無理のない話じゃなくて?」


スっとガゼルリアが懐に手を伸ばすと

小さな黒い箱を取りだした


悪魔を呼び出す黒箱だ


それを静かに地面に落とすと

黒い魔方陣が浮き出し


巨大な鎌をもった悪魔が現れた


無表情な山羊のような体躯は3mほどもあり、同様に山羊の下半身で器用に二足で立っている


赤黒い目がリーダとベイカーを代わる代わる見つめ、空きっぱなしの口から涎を垂らしている


「そういうわけで失礼するわ。」


「待ちなさっ…」


〈ヒュンッッ!!〉


とリーダの言葉を遮るように大鎌が眼前を走る


すんでの所で躱したが、ガゼルリアとの間に割り込まれてしまった


「ああ、最後に一つ教えてあげる。間もなく…彼がルグリッド公国へ向けて単騎での進軍を始めるわ。」


「…彼?」


「ええ、あなた達はもう会ったはずよ。リョフ・テンマに。」


ぶわっとベイカーに、冷や汗が

おそらくリーダも同様の危機感を抱いたはずだ


それほどまでにリョフという悪魔の強烈な存在感は忘れ難いものだった


そのリョフが公国へ向かっているということの重大さが思考を早め脳を埋めつくし始める


「…っ!」


ほんの僅かな動揺の隙をつかれた


気づけば2人の視界には山羊の悪魔のみ

ガゼルリアの姿は無い


周囲を見回す2人の耳にガゼルリアの声が届いてくる


「さようなら…良い前座になったわ、2人とも」


しんとした空気の中、ガゼルリアに逃げられたことを悟るも


悔しがる暇は無い


〈ヒュオンッッ!!〉


再び大鎌を振るう悪魔


滑らかな動きでそれを躱すとリーダは剣を構えた


「邪魔よ…今すぐ消えなさい…」


そして大鎌を振るう音よりも、遥かに細く風を割く音が鳴った


リーダの立ち位置はわずかしか変わらず


そのまま後ろを振り向くと

剣を鞘にしまいながらベイカーの元へと歩き出すリーダ


「行きましょう、あまりに時間がない」


「う、うん。そうだね、急ごう」


とベイカーも踵を返し、足早に歩き出した背後で


山羊の悪魔は身体に1本の長い縦線を刻んでいた


それは身動ぎによりズレ始め、悪魔が斬られていたことに気づいたのは自身の身体が固まり弾けたときになってだった


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