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My Nightmare ~Hug the Ghost~  作者: 燕尾あんす
Ignition of Anima
23/39

王都 ジャンベルタン ~切っ先~

# another side


ドライセン護国王都 ジャンベルタン

王城、その王門前にローブを被った人物

暗めのフードの中にキラリとモノクルが光る


王門に常駐している兵士達の敬礼を背に王城を後にしたところだった


ガゼルリア・テンパラント


ドライセン護国の若き軍務大臣という立ち位置にありながらもその内燃する怒りを自国へと向ける復讐心をその身に宿す


馬に跨ると、ローブの懐に手を伸ばす


掌に乗る5センチ四方ほどの黒い箱

2つの黒箱だ


不気味な鈍い黒

じっと見つめていれば生きているように揺れる妖しい色


いっとき、その黒箱を見つめると

ガゼルリアは懐へと戻した


そして何かを探すように空を見回す


「(…来ない…なにかあった?…いや、今は気にして居られない。決意のときだ)」


静かに呼吸と合わせるように瞳を閉じる


そしてスっと片手をあげると

周囲で人影がひとつふたつ


いや、数え切れぬ程の影が密やかに動き出した


それら全ての影の動きが静まったとき


ガゼルリアは再び歩き出した


「もうすぐ…全てが終わるからね…そうしたら…もう一度会えるよ」




_______________


# children story


『ぷぁあっ…ただいまっー!』


夕暮れがかった空

突然聞こえてきた忙しない足音は

家の扉をくぐり抜けながら帰宅を告げた


着ていた上着を脱ぎ

あちこちに付いていた葉っぱを取り除きながら幼い少女 ミザリーは椅子に身体を投げた


「おかえり、ミザ…あらあら、またそんな葉っぱまみれになっちゃって」


家の地下にある作業場から階段を上がってきた母 アリスは


存分にはしゃいできたであろう娘の姿を見るとつい微笑んだ


「あら、髪にも付いてるわよ」


身を屈め、ミザリーの頭にまで付いていた葉っぱを摘むと茎を持ってそれをくるくる回した


「今日はなにしてたの?」


『今日はなんかね、草っぱの山に飛び込んで遊んでたの』


「なんで?」


無垢な好奇心と冒険心を持つ娘についつい頬が緩むが疑問は疑問だ


7つになった女の子の遊びとしてはやや野性味が強い気がするのも無理は無い


『やんなきゃ行けない気がしたの、女としては』


幼ながらに女を語っているものの

そもそもの女性に対する解釈が違う


だが本人もそれは分かっているようで


『またじゃじゃ馬とかお転婆って言われちゃうなー』


活発すぎる余り、村の同世代の男の子よりも派手に遊ぶミザリーはそう言われる事も多かった


そう言われることに感じるものは多少あれど、それでも自分を抑えることはしなかった


「ベイカーも一緒?」


いつものようにミザリーの遊び相手になっている

一見付き合わされているミザリーの幼なじみ


2年ほどの付き合いではあるが、共に遊ぶ時間は既に、村のどの子供よりも長い


『ビーと!アイツは一緒に飛び込んでくれるからなかなかガッツがあるわね』


ふむふむ、と顎に手をやり今日遊んだ時間を思い出しているのだろうか


「あらあら、ミザはベイカーのことホントに好きねぇ。にんまりしちゃうわ」


ポンポンと、ミザリーの頭を撫でながら

言葉のとおりにんまりするアリス


『ビーは好き、なぜならアイツは根性あるから』


「根性ありきなのね、まぁでも…」


根性、度胸、その辺りは間違いないだろう

アリスはベイカーの頬に残った傷跡を思い出した


ミザリーもすんなりと認めてはいるが

幼いゆえにそこまで好きという言葉に意味はないのかもしれない


それが大事な意味を持つのはきっと

しばらく後のことだろう


そんな未来を想像しアリスは顔が緩むのを止められない


『にんまりお化けがいる…』


そんなアリスをミザリーは不思議そうに眺めていた


_______________



# baker's side


一日だ

ミザリーと別れてから一日が過ぎた

一時間おきに吹く指笛も欠かさず吹いてはいるが、ミザリーが追いついて来る気配はない


冷静さを保とうとはしていても

頭の片隅で嫌な想像は止まらない


「〔やっぱり、離れるべきじゃなかった〕」


馬に揺られながら、ベイカーは何度も後悔した


敵性かどうか不確かな状態

言ってしまえば三人の置かれていた状況的に、敵地のど真ん中におり尚その核である王都へ向かっているのだ


敵性のものであるかどうかの確認は確かに必要であり、そのために足を止めるのも得策ではない


レオと共に先行しつつ、不確かな状況を僅かでも鮮明にする


選択に間違いはないと言えるがそれは頭の中の話だ


ベイカー、そしてレオもミザリーのことが気に掛かっていた


しかし、それでも進み続けたレオとベイカーの視界には王都 ジャンベルタンの姿が見え始めていた


「あれが王都か…レオ、こっからの流れは?」


やや、スピードを落としたレオの横につき

ベイカーが尋ねる


「王城に行き、ハンブルク・ドライセンへの謁見を申し出るわ。国王からの書状を預かっているから無理なく会えるとは思う、そこに恐らくガゼルリア・テンパラントも同席するはず」


「公国と争う気があるのかって話だね。森でガゼルリアが居たのを認めるかどうかは怪しいけど…」


「それでも私たちが目の前に現れたことで何らかの動きは見せるはず、それが個の動きか国の動きかは判断が難しいものでは無いと思うわ…」


徐々に明らかになっていく

ドライセン護国の王都


ドライセン護国は分厚い城壁に囲まれ

東西、そして今ベイカー達が向かっている南にそれぞれ堅固な門がある様式


その中に王都の街並みがあり、北に更に壁に囲まれた王城がある


堅固な門が三方にあるとは言ったが

緊急事態でもない現状 門は開かれたまま


さすがに門兵はいるものの

普段の街並みと変わりはなさそうだ


近づく度に賑やかな声が耳に届いてくる


「街は、変わりなさそうだね」


「民にまではどちらにしろ際まで情報はおりてこないでしょう…馬を降りましょう」


南門が近づき、すっと2人は馬を降りた


そしてレオは顎に手をやり、獅子の覆面を捲りあげ外した


サラリと腰まで届きそうな長い銀髪

切れ長の目には赤茶の瞳が光る

白日の元で見るのはベイカーは初めてということもあり


ついジッと見つめてしまう


血の繋がりこそないものの、顔立ちの端正さはやはりミザリーにどことなく似ている


その前髪を逆に撫で上げ止めているヘアピンはアリスからの贈り物だと、アリスの造形の癖を知っているベイカーは気づいた


「外していいの?」


スっと軽く顔を揺らし髪を整えたリーダ


「ええ、護国は私も初めてだし顔が割れてないはずだから。それに…これ被ってたら怪しいでしょ?」


「ああ、やっぱ自覚はあったんだ。」


「さすがにね。行きましょう、ミザリーのことも気にかかるし」


お互いに思ってはいても、口には出せなかった不安


それをあえて口にしてくれたリーダに

ベイカーは些細な気遣いを感じた


同じ気持ちだと、伝えてくれたのだ


「…リーダ、うんそうだね。行こう」


2人は馬を綱で引きながら南門へと進んで行った


2人が視界に入った時からこちらを注視していた門兵の1人が声をかけてくる


「他国の方々か?」


その問に会釈ののちリーダが応えた


「ルグリッド公国から国王ルベリオ・ウェイヤードの命で書状を預かり参りました。突然の訪問で不躾ではありますが、ハンブルク国王への謁見を賜りたく。」


スっと懐から公国の印のある便箋を取り出すと、門兵に差し出す


それを受け取った門兵は差出人のルベリオの名と押印された判を確認すると


「遠方より恐縮です、すぐに国王にお伝えして参りますが少しお時間を頂くやも知れません。門を入ってすぐに宿屋がありますのでそちらでお待ち頂けますか?」


「かしこまりました、お願い致します。」


スっと一礼するとリーダはそのまま南門をくぐるために再び歩き出した


つられてベイカーも一礼し後を追う


門をくぐると、活気良い街の喧騒は肌で感じれるほどに賑わいを見せている


何気ない1日であるはずだが、皆が皆忙しなく歩き商店や宿屋も人の出入りも多い


一見の様子だけを見れば国と国との争いなどの気配は毛頭感じられない


だからと言ってその内面全てが見える訳では無い


杞憂ならそれでよいが杞憂でなければ

2人は敵地の真っ只中にいるということ


それを分かっているリーダの目は静かに、淡々と街の様子を伺っている


ベイカーも同様だ

得れるものは些細な情報かもしれないがそれでも、瞬間の時間も無駄に出来ない


目と耳に意識を集中させ僅かでも情報を拾い集めようとしている


とは言え、あまりに張り詰めていると

今度は逆に怪しまれかねない


無為に立ち止まったりするでもない2人は

一先ず門兵の言っていた宿屋にたどり着いた


リーダが宿屋に馬を預けられるよう手配しに中に入った


ベイカーは2頭の馬の手綱を握りリーダが出てくるのを待っていた


その時だった


〈ジャッ〉


と砂を踏む音に耳を取られ

そちらに視線をやったベイカー


振り向いたそこに立っていたのは

ルースルーの青年 クロジアだった


「あれ?クロジアさん…?なんでここに…」


ベイカーが驚きつつも知った顔に少し歩み寄る


「少し用があってね、2人はガゼルにもう会ったのかい?」


クロジアを人見知りそうだと初対面で思っていたベイカーだが、それにしても表情は暗く少し気分が沈んでいるように見える


そんな事を思っていると宿屋の扉が開きリーダが現れた


「ベイカー、西側の小屋を借りれたからそこに…?あなた…」


リーダもクロジアに気がついた


同時にベイカーがあることに気付いた


「クロジアさん…なんで〈2人〉って?リーダと同じように近くに…ミザがいるって思わなかったんですか?」


静かだが感情的、そんなベイカーの声の雰囲気がリーダにも緊張感を持たせる


「…ああ、そうだね。知っていたんだ、三つ編みの子が別行動をとっているって」


どうにもルースルーで会った時とは様子が違う


察したリーダはごく自然な動作の流れで剣を握り備えていた


「どうしてそれを知っているの?後でも付けられてたかしら」


でなければ

ルースルーを出てすぐに別れたクロジアがその数時間後にミザリーと別行動を取ったことなど知り得るはずがない


なにより、最低限な休息のみでここまで来たベイカーとリーダにこうやって追いついて来られるはずがない


「…悪いけど僕もあまり時間がないんだ、あの子に使い魔を堕とされたせいでガゼルの動向がわからない。でも、一つだけ教えてあげられるよ」


「え?…なにを…」


「あの子はここへは来れないんじゃないかな、多分もう動けない」


〈ザッ!!〉


ベイカーが地面を蹴りクロジアに詰め寄るとその襟元を掴んだ


「お前!ミザに…ミザになにかしたのかっ!!」


声は怒りか不安か、震え

襟元を握る手は固く、感情の剥き出しを表しているよう


「邪魔をするなら殺す気だったよ」


静かに、熱のこもらない声で

世間話をするような口調でクロジアは言った


「ふざけるな…っ!」


「ふざけてなんかないさ…でも殺すまでもなく満身創痍だったから手にかけちゃいないけど、今頃鉄クズにでもなってるんじゃな…」


〈ゴッ!!〉


クロジアの言葉を遮るように

ベイカーがその頬を殴りつけた


反応できずかせずかクロジアは尻餅をつく

だがすぐに意に介さずといったような顔で口元を拭うとゆっくり立ち上がった


「くそ…お前…」


ベイカーの怒りは止まらない

しかし、クロジアの反応がいまいち読めない


怒りの矛先が標的を見失っているような感覚に陥る


「どいてベイカー…私が口を割らせる」


佇んでいたリーダが剣を抜きながらクロジアへと詰める


ベイカーが突っ込んだためタイミングを失ったようなものだが


それでもリーダも同様に沸点を遥かに越えていた


表情こそ冷静そうに見えるがその瞳は赤系ということもあり、怒気を孕みまさしく燃えるように揺らいでいた


「ミザは僕の幼なじみだ…あんたも幼なじみがいるなら…殴られた理由はわかるだろ…」


ピクと僅かにクロジアの瞼が動いた


「君たちも幼なじみってことは聞いたよ…でも形が違うんだ、同じようには生きていけない」


意味深な言いようにベイカーは怒りの中ではあるが何かクロジアにも背景があるのだと感じた、が


ベイカーにとって、今はミザリーだ


気づけばリーダもクロジアの近くまで迫っていた


「少し喋り過ぎたね、すまないけど僕は行くよ」


チラと王城の方向に目を向けるとクロジアは立ち去ろうと1歩踏み出した


「そのまま行かせると思う?」


リーダが更に1歩踏み出す


その瞬間


〈ぶわぁっ!〉


と突如炎がクロジアを包むように燃え上がる


「…なっ?」


そして、即座に1歩引いたリーダとベイカーの目には


その渦のような炎の中に

二足で立つ蜥蜴、もとい竜人のような姿の悪魔を見た


それがクロジアだと気づくのに時間はいらなかった


「邪魔をしなければ死なずに済む…君たちは…そうであってくれ」


炎が広がり視界を奪った


「くっ!」


リーダが急ぎ炎を払ったが

そこにはもうクロジアの姿はなかった


あったのは、計り知れぬ感情を刻む様に残った地の燃え跡のみだった


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