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My Nightmare ~Hug the Ghost~  作者: 燕尾あんす
形の違う石
19/39

褪せる

黒、真っ黒だ

忘れもしない あの日のこと


そんなものの為に

そんなことの為に


何故?

何故、あの子らが痛まなければならない

何故、あの子らが傷つかなければならない

何故、あの子らが死ななければならない


失わなければいけない理由はない

失って納得できる理由など、いや

そんな理由があれど受け止めることなど到底できない


今も尚


頭に浮かぶは怒りの反芻

煮える血がこの身体から尽きるには


どうすればいい


問うな、答えは出ている


眠りの浅さが朝の訪れを感じた


声に出す必要はない

それでも自らの意思を口に出す事は自らにとって必要なこと


身体を起こし、彼女は沈黙を一言で破る


「護国を…壊す…」




_____________



# another side


「ルースルーを通過したころでしょうか?」


「恐らく、早ければ昨日通過しているはずです。気になりますか?」


まだ朝日が昇ったばかりの王室内

ルベリオとイグダーツはすでに目覚め、状況の把握や今後の方針の詰め直しの為に資料や地図を机上に広げていた


「魔を祀る町、というからには何かしら異変があってもおかしくはないんじゃないかなって思って…大丈夫だとは思ってますけど気になりますね」


「…実は少し調べてみたのですが、事実かどうか確認するにはやはり別国というのが難儀で」


「え?なにか分かったんですか?」


僅かに、口にするのを躊躇うように白く伸びた顎髭を触るイグダーツ


「かつてハイトエイドがまとめていた資料文献がいくつか残っていたのが見つかったのはお伝えしていたと思いますが…」


「ええ、でも裏事に関するものではなくてあくまで公的なものだと」


「その通りです、ですが公的な業務な中でハイトエイドの遊撃隊にもルースルーの調査を要請したことがありました。提出された分はもちろん目を通していましたが、こちらは提出分よりもなお克明に状況が記されていました」


「それで、それにはなにが?」


「ルースルーが魔を祀るという文化はどうやら何十年も前から根強く残っていたようで、その背景には独特な出自の民らが関係していたようです」


「独特…というと?」


「魔女狩りから逃れた者たち、それがルースルーの根源になっているということらしいのです。」


「魔女狩りって…それは」


重い言葉の響きが自然とルベリオの声量を落とさせた


「人の中には生まれつき魔力を持っている者が世界中に存在していました。といってもその者らが実害を出すということは極めて稀であり、ごく一般の民らと何の差異もないものとして永らく共存できておりました。


ですがそれがある出来事を機に様変わりし始めたのです」


「悪魔の出現ですね?」


「左様で。世界各地に突如出現しはじめた無数の悪魔は民らに甚大な被害を出し続けました。傷つき、家族を、隣人を、友を失い、疲弊した民達はたまたま魔力を生まれ持った者たちにさえ悪魔と同様の嫌悪感を抱き始め…やがてそれは負の感情を持って加熱し続け、魔女狩りと称して彼らを処刑し始めたのです」


「でもそれでは、魔を祀る理由には…あっ…」


ルベリオが思い当たったのは仇敵のこと


「ハイトエイドと同様に?」


「お察しの通りです。彼らにとって突如として自分達を忌み嫌い殺そうとしてきた人間こそ悪魔のようであり、その場に現れ魔女狩りを行おうとする者を殺した悪魔が奇しくも救いに見えた。」


「そんな…そんな人たちが多くいたということなんですね…」


聡明とはいえ未だ幼いルベリオには難解な感情が身体を巡る


「魔力を宿していることにより悪魔から敵視されづらいということもあるらしく、魔女狩りのみを襲ったということから祀るまでに至った。というのがルースルーの根源だと」


「そんな町をハイトエイドが調査したというのは偶然なのでしょうか?」


「そこは恐らく偶然に違いないかと、ですが1度は配下である遊撃隊に調査させた後、自身自らも再度調査に赴いたことから何かしらハイトエイドにも感じることはあったのかも知れませぬ。」


「根深いですね、それが今回の件と何か関わりがあるかも分かりませんが一瞥で済ませられない問題ではあるのは確かです…でも護国の国王は把握していないのでしょうか?それとも過去の話だからと今現在の問題として見ていないのか。」


「どちらとも取れますが、その点に関しても気になる所がありまして」


「なんですか?」


「ドライセン護国の国王 ハンブルク・ドライセンですが病に臥しているらしいのです、それを理由に表に出ることがめっきりなくなってしまっているのですが…丁度病の話が聞こえてきた時に表に出るようになったのが件のガゼルリア・テンパラントなのです。」


「気になるタイミングですね…ハンブルク王の安否だけでも調べられませんか?こんな時ではありますが、こんな時だからこそって予感もあります。」


「同感でございます。すぐに秘密裏に間者を送って調べさせましょう。」


イグダーツは席をたつと、一礼し王室を後にした


部屋に一人となったルベリオは

目頭を抑えると一つ息をついた


「みんな…大丈夫かな」


頭に浮かんだのはつい先日見送った3人のことだった



________________


# misery,s side


「ゔふぇっきしょん!!」


思い切ったクシャミをしたベイカー

時は朝方、大きな木の陰にて野宿をしていた一行


突然のクシャミで飛び起きたベイカーが周りを見回すと、レオは既に起き身支度を整えているところであり


ミザリーは未だ横たわってはいたが今のクシャミで夢から醒めたようで


『…ん?なん?』


朝が強くないミザリー

普段は形よく開いている目もうっすらとしか周りを捉えれていない



「ベイカーのくしゃみよ、おはよう2人とも」


『そういう目覚まし機能がついてるとは恐れ入ったわ…おはよう』


寝ぼけてても幼なじみへの皮肉は忘れない


「ん、もしかして寝すぎたかな。」


もそりもそりと身体を動かしながらベイカーが身支度を始める


と言っても身支度するほどの荷物はない

早々に準備を終えると、鞄から干し肉を取り出す


「移動しながら食べるか…もう発とう」


『そうね…風を感じれば目も冴えそう』


「馬は…元気そうだね」


どうやら、周囲の草で食事を済ましているようで三頭とも異変はなさそうだ


ジッとしているのが煩わしそうに蹄を鳴らして出発を待ちわびている


『ん?』


馬に跨った途端、進行方向を見やりミザリーが眉をしかめる


「ん?どした?ミザ」


『んー?なんか聞こえなかった?』


「なんかって…レオ聞こえたかい?」


「特には、どんな音?」


言葉を交わしながらも3人は揃って馬に跨り、疑問を抱きつつも王都へ向かってまずは慣らしのためにゆっくりと歩き出した


『氷とか硝子とかそんな感じのが割れる音?遠くだとは思うけど、なんか聞き覚えあるような』


「うん?近くに民家があるわけじゃないし硝子ってのはどうだろう。っても氷もなぁ」


ベイカーが首をかしげる


「それらしい音がなる物ならあるわ」


レオが答えにいき当たったようだ


『なーに?』


「悪魔が死ぬ時の音よ」


『あぁ…言われてみればぽかったかも』


「てことは悪魔がどこかでやっつけられたってこと?…でも誰に?」


ベイカーがついつい周囲を見回す


『ぽかったってだけでそうとは決まってないわよ』


「まぁそっか、そうだよね。いくらなんでも朝っぱらからねぇ」


ははとベイカーが微笑むと


不意にミザリーとレオがベイカーを振り返る


『ビー…アンタがそういうこというと』


「なんだか胸騒ぎがしてきそう」


予感というか予兆というか、そもそもそれを感じたのはミザリーなのだが


まるでベイカーがフラグを立てたような雰囲気



その中



〈ザンッッ!!!〉



地を割くような音が響いた


これは幻聴や、聞こえた気がするなどといった音量ではなく


確実に3人の耳の中に飛び込んできた音


音からして近い距離だと思ったが違った


前方を注視した3人の40mほど先の位置


恐らくもっと遠くからそこに着地するように何かが飛来し、地面に叩きつけられているのを目にしたからだ


「なんだあれ?!見える?ミザ」


『…んーなんか猿みたいな悪魔…だったものかしら』


だったもの、というのはその悪魔?がその場で固まり弾けて消えてしまったから


悪魔が消えた事には、なんの問題もない


しかし


「一体、どいつの仕業だよ?」


にわかに緊張感が張り詰める


ミザリーが周囲を睨むように見渡し、レオも馬上で剣の柄を握り締める


『さっきの悪魔、まっぷたつだった』


「ってことはさっきの音は斬られた音だってのか?」


と考えると凄まじい剣戟だと想像しえる


その使い手が見えないということがどことない不気味さ



「…ミザリー、なにか感じる?」


レオが顔を向けずミザリーに尋ねた


『それがさっぱり…もう近くにはいないのかも…と』



〈ザンッッ!!〉



再び聞こえてきた剣戟の音


視界に悪魔の残骸こそ飛び込んでこないが間違いなく何者かがいる


方向は進むべき道からは徐々に逸れているようだ


『…どうする?』


「シンプルに考えれば相手にしてる時間なんてないよ。でも、放っておくには物騒じゃないかな」


ベイカーが更に意見を求めるようにレオを見る


「私達には目的がある、それを第一とするべき…なんだけどなんの顔?ミザリー」


ちらと見たミザリーが顎に手をやり目を細め何かを思索している、もとい


「なに企んでんだよ、ミザ?」


『いーや?あんだけ景気よくぶったぎってるんだから…』


「だから?」


『良い剣とか持ってんじゃない?』


「ぁあ…」


そう言えば、とベイカーは思った

前回の騒動の際も、ずっとノルニルという剣(鈍器)を振るっておりそれを紛失して以来は銃とゼロレンジコンバットによる肉弾戦


言ってしまえば手持ち無沙汰になってしまっていたのが落ち着かないのかも知れない


「つまり、この謎の何者かが持ってるかも知れない剣に興味がある訳かい?君」


『かいつまんで言えばね、それにほっとくのも不気味でしょ?敵か味方かくらいの分別はつけたほうがいいんじゃない?』


「はぁ、言い出したらなぁ…」


困ったような、呆れたような顔でベイカーはレオに視線を向ける


『おかまいなく、私1人でやるわよ。2人は先行ってて』


「1人でって…本気かよ。ミザは今、そんなに魔力が残ってないんだぜ?」


『だからよ』


「だからよ?」


『そいつから魔力もいただくわ、お弁当タイムよ』


「無茶いうなって、そんな状態で戦えるわけないだろ?」


プラプラと手を振って、先へ行けと促すミザリー


『女にはやんなきゃいけないときがあんのよ、良いから行った行った』


ミザリーは馬を降りながら、懐に手を差し込んだ


取り出したのはもちろん、大型拳銃 マリーゴールドだ


「そんなら僕も、レオ…先に行って」


『あんたまで残ったらどうやって合流すんのよ?』


「へ?」


『アンタが指笛鳴らしゃ場所がわかるでしょ?私がそれを探せば合流できる、そゆこと』


「それはそうかもしんないけど…はぁ、分かったよ。行こう、レオ」


観念したのか、ベイカーがレオを促す


「ミザリー、本当に平気なのね?」


『ヤー、すぐに追いつくって、それに放って置かない方がいい。そんな勘がしてんのよ』


覆面で視線こそ分かりづらいが

その目がミザリーを見つめているのは明らかだ


「分かった。先行してるから必ず追いついて、ミザリー」



蹄を鳴らして徐々に距離を開け始めるレオ


そしてそれに追従し、ベイカーの背中も離れていく


「じゃぁまた後でね!定期的に笛鳴らすから聞き逃すなよ、あ。あと」


『ん?』


「気をつけろよ!ミザッ!」


そう言い放つと、2人は速度を上げ少しずつその背中が見えなくなっていった



ミザリーはなんとなしにマリーゴールドを指で回すと、ポツリ呟いた


『わかってるって…ったく』


さて、と目当ての何者かがいる方向へと

ミザリーは馬を走らせ始めた


風を切りながら駆けていくなか

ミザリーの髪は少しずつ色褪せていった


ベイカーやレオが気付くことなく

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