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My Nightmare ~Hug the Ghost~  作者: 燕尾あんす
形の違う石
16/39

魔を祀りし

# misery,s side


『ハイトエイドが今回の件に関わってるってこと?』


思わず再び耳にすることになったかつての敵

反逆の左大臣ハイトエイド・ベルラインの名にミザリーは眉をしかめた


「いや、多分関わってるってことではない、だよね?レオ」


「ええ、憶測に過ぎないけど面識があった事は確かだと思うわ。そう聞いたわけではないけど、あれだけの黒箱を人づてに渡すのは考えづらい。直接会合し、ガゼルリアの思想に賛同の意を示すつもりで渡したのか、公国を転覆させるための駒とするためなのか図り兼ねる所ね」


『なる…ほど、どちみちハイトエイドはハイゼン武国の後は公国にもトドメを刺す気でいた。それにガゼルリアを駒として利用してたかもってことね』


「ただ、【魔女】を手にしたハイトエイドからすれば護国の戦力が必要かどうかは疑問だよね」


「単純に戦力としてではなく、政治的な役割のために傘下に入れようとしたのかもしれないけど、だとすると相当大きな絵を描いていたみたいね。ハイトエイドは…」


『てことはよ、今回の件より前から護国は公国への敵意というか、そういうのは考えてたってこと?』


「そうなるよなぁ、勘弁してくれよ。ラビに困難ばっか押し寄せんのは」


ベイカーが弟分の苦労を憂うように大きなため息をつく


『ま、気持ちは分かるわね。なら尚更とっとと片付けてあげんのが私らの役目ってことよ』


「そういうことになるわね。あと2日も走ればドライセン護国最南の町に着く、ひとまずはそこまで頑張りましょう」


『了解…お願いね』


とミザリーが跨る馬の首に手をやると

応えるように馬がいなないた


速度をやや上げながら3人は北上を続けた



_______________


# another side


同時刻、ルグリッド公国の王室


ミザリーらを見送り数時間が経過して尚、ルベリオとイグダーツは王室から動かずにいた


国王となったばかりのルベリオ、聡明と言えど若さゆえの経験不足は否めない


補佐であるイグダーツが居れど事が事だけに

状況を正確に整理し、対策を弄するのにもそれなりの時間がかかる


目の前には書面が所狭しと並んでいる


「ふぅ…武国への情報共有のための書類は差し当たりこれで良しですね。3人は今どのあたりでしょうか…」


「まだまだ時間的には件の森林帯にもたどり着いてはいないでしょう。森林帯についてもその先はしばらく特筆することも無い地帯なので問題もないと思いたいですな」


どこかソワソワしているルベリオをたしなめるように落ち着いた声で応えるイグダーツ


ルベリオにとっては祖父のような存在

公国内の重鎮、未だ座したばかりの国王との僅かな隔たりやわだかまりを溶かす橋渡しでもある


「一番近い町は…ルースルー?ですか…ん?」


手近な地図を眺めていたルベリオがミザリーらが次に行き着くであろう町を探し当てる


しかし、その地図のルースルーという町に付箋が貼られており【懸念材料有】と書かれているのを見つけた


「イグダーツ…これは、なんのことですか?」


「それですか…20年ほど前の事にはなるのですがハーディンが着任前、他国の情報を再整理している際に公国との交易商人から聞いた話ですと、そのルースルーと言う町は突然作られたそうです。初めは集落のような仮住まいのていでしたが徐々に家々が立ち並び町と成した。そしてその中に悪魔を崇拝する一族が居たそうです」


「悪魔を崇拝…その一族はどういうルーツで崇拝していたんでしょうか?」


基本的には忌むべき、嫌悪対象であるはずの悪魔を崇拝する


ミザリーに力を貸すフェンリル

とは言ってもその実体が母アリスと同調しているからではあるものの


ミザリーに剣を与えたというヨルムンガンド


例外こそあれど、平凡な国民であればそのような思想にたどり着くことも無さそうな文化である


「そこまでは調べきれませんでした、多少不躾ではあるかもしれませんが現地に人を秘密裏に向かわせたりして調査をして見たのですが、やはり常識的な文化でないと自覚があるのか馴染みでないものに容易く情報は漏らさないように徹底されているのかも知れません。」


「だから懸念という事で収まっているんですね。でも今回の事になにか関連があるという訳では無いでしょうし、今後また調査することを頭に入れておきましょう」


「ええ、その交易商人もそれ以来姿を見せていないようですし只の気の所為という可能性もありますから今は目の前の事に尽力致しましょう」


「…んん」


不意にルベリオの顔が曇る

単なる予感ではない、共に旅をした経験からなる予感


「いかがなされました?」


「いや、なんでもないはずなんですけど…そういう所に限ってなにか起こってしまうんじゃないかって思って…」


「杞憂で…あればいいですな…」




_______________


2日後


# misery,s side


北上を始め、2日の時が経った

2度の睡眠や幾度かの休息を必要最低限に抑え、荒れた道を避けたルートのおかげで馬のコンディションも良い


予定よりはやや早く3人はルースルーへと辿り着こうとしていた


何度か悪魔と遭遇したものの、少数の悪魔などは最早問題にならない


僅かな足止めに徒労することもなく3人の体調も問題なかった


『…ふむ』


ふとミザリーが背後についているベイカーを見やった


「ん?なに?」


『別に、えらい体力ついてきたんじゃない?』


とミザリーが言ったように、この3人の中では最もシンプルに人間のベイカー


そもそも怪我が治ったばかりのはずであるがそれでもここまで小言の1つもなく追従して来ていることに感心したのだ


「そうかな…?でも確かに疲れにくくはなってきてんのかも」


「本当にね、骨折あがりでハンドベルからずっと移動しっぱなし。それなりに大変な数日だったのにまだ余力がありそうね」


言われて気づいたようにレオも相槌を打つ


王都 戴冠式での騒動の後の移動

森林帯での件、マモンの腹の中に呑まれて再びの移動


実は常識から外れた数日を過ごしている


「なんか…慣れちゃったんかな。」


「その気があればきっと良い兵士になるわ。」


公国最強の剣士であったレオに言われるとベイカーもつい綻んでしまう


自身が気付かぬうちに成長しているのだと実感した


『ビーが豆粒の頃から鍛えたかいがあったわ』


「だとしたらミザも豆粒の時期だったはずだけどね」


幼い頃からベイカーを引き連れて探検、冒険に勤しんでいたミザリーはさもそうであろうという顔をしている


『そうこう言ってたらなんか見えてきたわよ、あれは…町?』


「良く見えるな君…言われてみればそうかも」


流石に距離がありすぎて明確に判断できないがベイカーも視力は良い方である


少しずつその形が町を形成していることが分かってきた


レオの方に視線をやると器用に手綱を操りながら地図を広げている


「間違いないわね、あれがルースルー。ドライセン護国最南の町よ。」


『どんな町?』


「位置的には公国から護国へ向かうには必ず通る町ではあるけどそこまで栄えている訳では無いわ。ただ…」


レオが広げた地図は、ルベリオが広げていたものと同じくルースルーに懸念点ありという記述が記されているものだ


無論レオもそれを軽視はしなかった


『ただ?』


「わっ!なんだあれ!?」


ベイカーがレオの返答を待たずに声をあげた


レオとミザリーも視線をルースルーへと向けると


なにやら大きな土煙があがっている

それだけなら強風がもたらすということもあろうが、3人の目にはその強風をもたらしていると思わしきモノが目に入った


それは鳥と人が混じったような悪魔

一見3mほどの人型ではあるが顔はまさしく鳥の様相かつ掲げた両手の先が巨大な翼のようになっている異形の悪魔


翼を広げれば5~6mはゆうにありそうだが

体は鋭い爪や茶色い体毛こそあるが人の形をしていることもありアンバランスだ


金切り声のような声をあげながら羽ばたくとアンバランスさが気色の悪さを際立たせる


だがその羽ばたきは意外と力強いようで突風を周囲に叩きつけているのが見える


『初めましての悪魔ね…印象には残りやすそうなビジュアルしてるわ。』


「なんか夢に出てきそうな気がするんだけど…」


『なら記憶に残る前に退治するのが吉ね』



ミザリーが懐から大型拳銃、マリーゴールドを取り出し構える


『っと!…下がってね』


構えはしたものの跨る馬に気を使い、サッと飛び降りると改めて構え直す


そして


〈ドゥオンッッ!!〉


独特な重い発砲音を鳴らし、鳥人の悪魔へと銃弾を放つ


僅かな時の後その銃弾は悪魔の胸元辺りに着弾し、極小規模の爆発を起こした


「よし!効いてるっ!」


マリーゴールドの造り手としてどこか誇らしげにベイカーが様子を伺う、が


〈いやぁ!…さ…がぁ!〉


途絶え途絶えに悲鳴が聞こえてくる


『っ!間に合わなかった!?』


ミザリーが駆け出し2人も後に続く


数十秒の後、町の入口に到達し周りを見回す



様子がおかしい



マリーゴールドの銃撃に悶える悪魔が地を這っている


その周囲に町の人々が悪魔を囲むように並んでいるのだがその内の数人は怪我をし、今もなお出血が止まらぬ様子の人さえいる


鳥人の悪魔による被害だという事は容易く想像がついた


しかし、町人がそんな状態においても鋭く睨みをきかせている


何故か


その視線の先にはミザリーらがいた


そして、驚くべき言葉が発せられた


「お前らか!クアトル様を撃ったのは…!?」

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