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My Nightmare ~Hug the Ghost~  作者: 燕尾あんす
魔門
12/39

マモン

# another side


「フッ!!」


〈ヒュンッッ!!〉


レオの細く風を切る剣戟と


『ッッ!!』


ミザリーが駆ける速度をそのまま乗せた蹴りが同時に


突然会合することとなったリョフに向かう


どちらも並大抵の凡人や凡百の悪魔などでは反応もやっとであろう高速の一撃


しかし


〈ギィィンッッ!!〉

〈ゴッッッ!!〉


鈍い二色の音を響かせ

剣戟は鞘に収まったままの太刀で、蹴撃は掲げた腕で容易く防がれる


だけならば良いが


直後太刀と腕に力を込め外側に弾かれると

その力に二人はバランスを崩し


そこに追撃


リョフは身体を旋回させながら太刀での打撃を二人に浴びせた



〈ドシャッ…ズシャァ…〉


二人はまたも容易く地面に叩きつけられた



「…強い…っ」


焦りを見せたのはベイカーだ


二人の強さを知っているからこその焦り


【魔女の檻】さえ倒したミザリー

そして剣士として公国最強の実力を持つレオ


言ってしまえば公国の最大戦力たる2人がこうも容易く地に伏せられることなど想像だにしていなかった


だとしても


二人のように戦える訳では無い

戦闘の補助ができるように爆弾などの小道具などの用意はしているものの


それが通用するレベルの悪魔ではないと

ベイカーは察している


だからこそ、隙や動きのくせなどがないか

観察に神経を張り巡らせていたのだが


「(だめだ…癖も隙もない、あの太刀を抜かずとも剣術の実力は想像がつく。レオの剣術やミザリーのゼロレンジコンバット(ゼロ距離戦闘)を同水準…下手したら上回るレベルで持ってるんだ。)」


現在地も分からない状態で強敵との戦闘

焦りが徐々に積み重なり、冷や汗が頬を伝う



【悪くはないがまだ足りないな…出し渋っているな、主らは。いや、主らも、か】


余裕、その立ち姿はそう告げている


何度も何度も弾かれ、いなされ

それでも立ち向かっている2人だが


現状を打破するには至らない、いたずらに消耗するに留まる


『いい加減フラストレーション溜まるわ…ビー!』


「な、なんだ?」


張り詰めた緊張感の中不意に名を呼ばれベイカーが視線をミザリーに移す


『どうするべき?』


「え…」


この状態でなにもできない、無力さえ感じているベイカーにあえて尋ねた


いや、あえてではない


尋ねられた意味をベイカーも気づいている


「そうね、何か策を…私たちには考える暇も隙もないの」


レオもミザリーに倣い、ベイカーに任せた

認めているのだ、ベイカーを


思いがけぬ難敵に思考に割く時間がないというのも確かではあるが


「…」


ルーヴスに、ルベリオの遊撃隊に自身がいる意味を


「…(そうだ、1人じゃない!突破口をっ!)」


目に力を込める


「ミザ!フェンリルだ!レオ!合わせてくれ!」


言葉にも力を、自身の意見を求めた

求めてくれたミザリーが迷わないように


〈キィンッッ!!〉


ミザリーが指を強く弾いた

微かに反響しつつ金属音が響くと


ミザリーの背中に金色の光が漂い、その光が編み込まれるように形を成す


淡く光り、揺れる度に電気が爆ぜる音がパチパチと鳴る


その姿に


【なに…貴様、フェンリルだと…〈世界を駆ける狼〉か…何かあると思ってはいたがよもや魔狼とはな…】


『アンタも知り合いな訳?…生憎だけど、アンタが知ってんのとは…別物よ!』


〈ジャッ!〉


ミザリーの立っていた位置の空気が爆ぜる

そしてそこにもう姿はない


瞬きの刹那、ミザリーの姿はリョフの背後にある


先程までとは比べようもない速度

だがそれに信じ難くもリョフは反応している


ミザリーの蹴りに対して鞘で防ごうとしている


だが


急激に速度をあげたミザリーへの対応が

その一点にリョフの意識を集中させた


そこに


〈ビュンッ!!〉


リョフが気づいたのは風を切る音


ミザリーの攻撃を防御するために鞘を掲げた腕


そのすぐ傍から鳴る風切り音


レオが迫っていた


【囮かっ!】


気づいた時には遅い


〈ゴッ!!〉


と蹴りを防いだ鈍い音に紛れ、レオの剣はリョフの脇を捉えた


【…ふん…どういう訳か人の形。生身ではあるまいがフェンリルの力を持っている、それだけでもないな。マスクの貴様も何か持っているか】


浅い

浅いとはいえ、ようやくの一撃


「(いくらレオでもミザのフェンリルの速度についていくのは厳しい…でも、いきなしの一発目で一撃与えられたのはデカい、流石だな)」


【なるほど、面白くはあるな。興味がわいてきた褒美に…教えてやろうか】


『弱点とかだと嬉しいわね?』


【そうともとれるな…我は〔武〕のみだ。】


『…ん?』


【そのままの意味だ。悪魔としての我の力は純然たる武しか持たないということだ、我が身のみで極みまで登り詰めた…火を噴く、雷を放つ、空を飛ぶなどということとは無縁。】


『格闘全振りって訳…そういうの嫌いじゃないけど聞いたところで有利にはなりそうもないわね』


【気づくべきだと諭したのだ、主らが触れているのはその極みの片鱗にさえ満たないということを】


確かに言うに疑いを持てぬほどのプレッシャー

そしてこの僅かな戦闘時間だけで計り知れないほどの力を感じ取れる


同時に発言からの気づきをベイカーは得ていた


「(多分嘘は言ってない、そういうタイプじゃなさそうだ。他に能力はない…なら…ならこいつは何処から来たんだ)」


チラリとリョフが来た道を見やる


この洞窟は人間界のものとは思えない

だとすると森林帯でローブの人物が黒い箱を取り出したことが関係している


飛ばされた、移動させられたと考えるしかない


そしてリョフは武以外の能力を持たず

「出番」などと言っていた口ぶりからしてローブの人物と関わりがあるのは推測できる


協力関係にあるとするなら、リョフがこの洞窟と人間界を行き来する術はあるはず


ならば


「(向こうだ…出口があるとすればリョフが来た方向がきっと)」


ベイカーはそう考えた


「(リョフは強い、こんなのが人間界に来たなら公国にとって脅威となるのは目に見えてる。ここで倒しておくっていう案もなくはないけど…あのローブの人物と関係がある以上、そっちの動向も放ってはおけない。)」


そのとき


〈ザッ!!〉


とベイカーの横にレオが後ずさってきた


「ベイカー、どう考えてる?」


多少呼吸が乱れてはいるが、それでも疲労を感じるほどではないのは流石と言うべきか


「退くべきだ、ローブのやつの動きが知れない今、ラビや王都が気にかかる」


状況が状況だけにベイカーは要点のみを告げる


こくりとレオは頷いた、恐らく対峙しているからこその感覚もある


「そうね、どうやってミザリーに?」


というのも


フェンリル化を果たしたミザリーは高速で動き回っているため、意志の疎通をするというタイミングが掴めないのだ


『フンッ!!』


高速で駆けながら幾度目かの蹴りをリョフへと見舞う


無論防がれはしたが、なにも水滴岩を穿つというつもりではない


【無駄だっ!…ぬ?】


ヒットアンドアウェイをミザリーの戦術と思っていたのだろう


一撃を放てば距離をとる

そうリョフは思い込んでいた


だが、ミザリーは蹴りを見舞った直後

光る三つ編みのその先端を手のような形状に変え殴りつけた


ミザリーの意志を受け取り自在に動くその三つ編みは第三の腕のようなのものでありながら、身体のようにその動作に影響を及ぼす関節などもない


つまり、リョフの想定外の角度からの一撃


〈ゴッッ!!〉


とうとう重撃がその脇腹に届いた


【グッ……!フンッ!!狼の尾か】


致命傷には程遠いがようやくの一撃


鞘で三つ編みを振り払い、逆にリョフが距離をとるためにバックステップを踏む


『調子出てきたってとこかしら…ん?』


ズシャァと地面を削りながらようやくの静止

そのタイミングでミザリーがちらとベイカーを一瞥した


『…んん?』


と訝しがるのも無理はないというほどに

ベイカーはミザリーへ、というよりはその目に視線を合わせている


「(アイコンタクトだ、言葉を発すればリョフに気づかれ退路を絶たれる可能性がある。虚をついてリョフの来た方へフェンリルのパワーと速度で一気に僕らを運んで貰うしかない!それをこのアイコンタクトでミザに伝えるんだ!10年以上の付き合いがある僕らならきっと!)」


ということらしいが


ミザリーはミザリーで眉間にシワを寄せ、アイコンタクトというよりはシンプルに睨み返してきている


『…なによ?』


つまり、ベイカーの意図は伝わっていないのである


「なんか…ダメそうだけど?」


「そんなバカなっ!ミザッ!!」


もはや声を出しているのでアイコンタクトとは呼べないが、さらにベイカーは目に力を込め不自然なほどの瞬きを繰り返す


『だからなによ!?』


不機嫌を表しているのか光る三つ編みで地面をはたく


「ああ、もう!レオ、説明するから少しリョフを抑えてくれる?ミザ!こっち来てくれ!」


「了解したわ…」


即座にレオはリョフへと駆け出し、呼ばれたミザリーも同時にベイカーの元へとたどり着く


『んで何よ?』


バチバチと漂う静電気に耐えながらベイカーは耳打ちした


「一旦引こう、今ミザ達が足止めされてる間に公国に何か仕掛けられたりしたら本末転倒だ。」


『引くって何処によ?』


「多分リョフが来た方向に出口がある、はず。そこまで一気に僕とレオを運んで欲しいんだ」


『出口ねぇ…ヘイ!』


とミザリーはリョフへと声をかけた


「…!?」


驚いたのは交戦中のレオだ

剣戟を途中で引き、バックステップで距離をとった


【…なんだ?】


『ここはどこなの?』


【何も知らずに飲み込まれたか…まぁいい。ここは、マモンと呼ばれる悪魔の腹の中だ】


まさかの返答

それは、まさか単純に質問に答えてくれるとはいうまさかでもあった


『…ってことはここは私らが元いた場所のままってこと?』


【そうでもない、マモンは魔界と人間界を自由に行き来できる稀な力を持つ悪魔だ。そして魔界と人間界の狭間で普段は眠っている】


「まさか、ここは…」


ベイカーが、3人が知ったのは

人間界と魔界の狭間に自分たちがいるという事実だった


【おおかた、マモンを呼ぶブラックボックスの展開に呑まれてここにたどり着いたのだろうが、マモンの腹は我のねぐらだ。】


『ずいぶん変わったとこに住んでんのね?花の一つも咲いてやしないなんて…それにあのローブ被った奴の手下かなんか?』


【手下という表現は違うな、我は目的のために奴の計画とやらに乗っているに過ぎない。人間界などにも興味はない】


リョフの口から出る情報を拾い上げ

ベイカーは頭の中で推論を組み上げ始めた


「(そうか…だからか。リョフからはプレッシャーこそあれど悪意を感じない、人間界に対して何かしようっていう魂胆がないからだ。あくまで目的のためにローブの人物に手を貸しているってだけでリョフ自身は人間の敵ではないってことか)」


【本来、我は来たるべき時のためにここで待つ予定だった。そこに主らが送り込まれてきた、状況は分からんが退屈しのぎに相手しろということだろう】


『そりゃどうも、ご丁寧に教えてくれるもんね』


【武とはそういうものだ。力に差異はあれど、以外に不平等な要素などはなくて然るべきだ】


『フェアプレー精神は大いに結構だけど…』


〈バチッ!〉


不意にミザリーの周囲の静電気が爆ぜ出す


『あんまり舐めてると…足下掬うだけじゃ済まないわよ』


〈キンッ!〉


ミザリーがフェンリル化から更に一度指を弾く


先程森林帯で見せたヴェルトグロスだ


溢れ出す翠色の魔力で自身の両腕の外装を分離拡張、巨大化させる


「あれはさっきの…レオ、少し距離を取ろう。巻き込まれるかもしれない」


ベイカーがレオへと注意を促す


周囲が静電気で満ち始めたことに何か察したのかレオは素直に頷き距離をとった


【ほう…雷神とでも言うべきか、並々ならぬ】


リョフが腰を落とし、構えのようなものを初めて見せる


『いい加減このキモい洞窟には飽きてきたとこだしお暇させて貰うわよ。』


【…この魔力…妙な淀みがあるな…】


ミザリーが右腕を引き、構えをとると

翠色の電気が集まり始める


『悪いけどぶっ飛ばすわよ!!』


超帯電している右腕がリョフに対して打ち込まれる


振りかぶったモーションさえ見えない

ベイカーが目視出来たのはリョフに右腕が当たるその瞬間


〈ドゥゴシャーンッッ!!〉


洞窟の中に落雷のような轟音が響き、反響に反響を重ね耳を劈く


地面が抉れ、途端に大きく揺れ始めた


「うわっ!そ、そうか、この洞窟も悪魔だから」


体勢を崩しベイカーが尻もちをついた


直接の的ではないといえ、強烈な電力がぶつけられたのだ


「なんて力…ベイカー、立てる?」


レオは流石の体幹で耐えており、ベイカーへと手を伸ばす


「あ、ありがとう…もしかしてリョフをワンチャン倒せちゃったりは…」



レオの手を借り立ち上がったベイカーが淡い期待を抱きミザリーらの方へと視線を向ける


『…なにこの手応え…』


恐らく全力で拳を振り切ったミザリー

それは未だ辺りを漂う静電気や帯電し抉れた地面を見ても間違いない

しかし当の本人には疑問が浮かんでいた


「どうしたんだよミザ?…リョフは?」


『なんか…妙なのよ、当たったと思うんだけど…』


上手く説明できない何かがあるのかと

ベイカーがリョフが立っていた位置を見る


【………面白いな、その力】


聞こえてきた声はリョフのものだ


そして、見えたその姿にはダメージが見て取れない


しかし一撃を放つ前からすると変わった点が一つ


太刀を抜いていた


会合から今に至るまでの戦闘中、抜くことのなかった太刀を抜いていたのだ


赤みがかかった銀色の刀身が妖しく煌めく太刀

どこか禍々しい雰囲気を帯びたそれは何故か帯電していた



「まさか、あの太刀で防いだってのか?…あれを…」


【…明確には違う。これは魔剣グレイプニル、魔力を吸うという異質な性質を持つ魔界の太刀だ。つまり、先刻の一撃、確かに豪烈ではあったがその実質は魔力によるもの…こちらにぶつかってくる魔力を全て吸収したということだ】


『魔力を吸う…バカ厄介なもん持ってるわね…』


理解と同時にヴェルトグロスを解く

吸収されると分かって無駄な攻撃を続けるのは愚策だ


【それでも微か吸収しきれず帯電するはめにはなったがな…だが、ここまでだ】


〈キンッ〉


流れるように太刀を鞘に収めるリョフ


『は?』


【抜くつもりのなかった太刀を使わせられた。賞賛に値する、そして汝らにも興味が湧いた…行け、我が来た方に元きた場所へ戻る出口がある。】


『…どういうつもり?』


【奴がどういうつもりで主らを送り込んできたかは知らんが殺せという指示があったわけではない、おおかた切羽詰まった末の行動だろう。】


『だから見逃すってこと?』


【それも違う、我は…来るべきのために万全であるべき。そして主らも今が終着点ではない。ということだ】


『…ふん、お互い全力で戦う機会を次にお預けってことね』


【主らに関しては伸び代というものを予感してのものではあるがな】


どうやら、強者との戦いを求むがゆえの行動らしい

一見した性格から鑑みるに他意はなさそうだ


「ミザ、行こう。一度ラビの様子を見たいし」


ベイカーが促す

レオも同意を表すように頷く


『…アンタみたいなのは嫌いじゃないけど、次会ったとき人に危害を及ぼす存在なら容赦しない。』


そう言うとミザリーは足早に門のあるという方向へ歩き出した


ベイカーも慌ててそれに続く


だがレオは少し立ち止まるとリョフを振り返るとこう言った


「貴方とミザリーは戦わせない、次に敵として出会ったなら…貴方は私が殺す」


真っ直ぐリョフを見据え、そして踵を返しミザリーらの後を追った


【あれがフェンリルか…まだ全力ではないだろうに、しかし魔狼と…魔獣か…。楽しめそうだ】


チラと握った太刀に目をやる


【来たるべき決戦に向けて、多少目が冴えてきたな。…面白いが、予期せぬ存在か…これは想定の内か?ガゼルリア】


再びの沈黙の中、リョフ・テンマは静かにマモンの奥へと消えていった


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