世界を裂く魔将
# another side
突如、ローブの人物がかざした黒箱
そこから溢れ出す黒い霧はミザリーら3人の姿を覆えるほどに濃く、密度高く広がった
『なによこれ…目眩しってわけ?』
腕を振り、霧をはらおうとしたミザリーだがなんの意味もなさないことに気づく
煙のようなものではなく、ただそこに留まる霧
同時にローブの人物がこれを機に逃走を図ろうとしていることにも
「目眩しってだけなら良いけど、良くは無いね!」
よく分からないことを言いつつベイカーもミザリーと同じことに気づく
「ミザ!!レオ!!追える!?」
「ダメね、この霧が妙な気配で充満してる。それが邪魔して奴の気配が見えない…」
『同じくよ!手当り次第突っ込むなら出来るけど』
「だめか…そうだ!ミザッ!!上に跳べるか!?」
ベイカーが気づいたのは、その霧は横に範囲は広そうだが縦にはそこまで伸びていないのではないかという予測
『オーライ、リディ!手を貸して!』
言うが早いか、ミザリーはレオの気配へと駆け出す
レオもそれに気づき、腰を落とすと両手を合わせ掬うような形にする
そして
バッ
とレオの視界にミザリーが飛び込んできた
その脚を両手で受け止めると
身体を逸らすように
ミザリーの身体を跳ねあげた
並大抵の膂力ではミザリーを持ち上げるなどはひどく困難なことだが悪魔の力を持つレオになら出来る
自身の跳躍力に合わせてレオの補助もあり
ミザリーの跳躍は狙い通り霧を超えた
『ふっ!…ん?』
瞬間で辺りを見渡したミザリーがあることに気づいた
『どうゆうこと…?』
〈ズシャッ〉
と戸惑いながらも滞空時間を使い果たし
ミザリーがベイカーらのいた場所へ着地する
「ミザ、なんか見えたか!?」
ベイカーや、レオが辛うじて霧の隙間から見えた
どうやら少し霧が薄くなってきているようだ
『アイツの姿は見えなかった…っていうか』
「なにかあった?」
『…元いた場所と違うのよ、ここ』
ミザリー自身も半信半疑の表情
「どうゆうこと?」
ベイカーの理解は、いやレオを含め
自身の目で見たはずのミザリーの理解も追いついていない
『なんていうか…洞窟?みたいなとこにいんのよ、私ら』
「洞窟…木が茂ってたのは確かだけど洞窟とは…」
レオも周囲を見渡しながら状況を把握しようとする
だが身動きをとるのにも躊躇いは生じる
やがて周囲を埋めつくさんとしていた濃い霧は3人が戸惑っているうちにどんどんと薄れていった
そしてようやく視界を取り戻し始め
「へ?」
ベイカーが呆けた声をあげた
レオは冷静ではあるものの、視線を四方に走らせ情報を僅かでも拾おうとしている
『ね?』
と同意を求めたように
森林帯にいたはずの3人はミザリーのいうように大きな洞窟
高さ20m、幅は30mほどだろうか
不思議と暗さを感じないのは
良くみると天井、床、壁に至るまで
洞窟であるならば岩壁や自然物であるはずのものが
気味悪く、薄ら赤い光を放っている
例えるならば得体の知れない生き物の胃袋のような脈打つ肉壁の洞窟
その中にいたのだ
「なんだここ…なんか気味悪いな…」
「…状況はわからないけど注意は必要ね…」
目でわかる情報は現状の解決に至るには足りない
そう気付いたレオは前後
つまり洞窟ならばあるはずの入口と出口
3人が立つ場所は確かに前後に道が続いている
問題はどちらに進むか、ということに思索を始めた
『さっきの奴…見当たんないわね。足音のひとつも聞こえやしない。あいつの仕業?』
「そう考えていいと思う、かざした黒箱の力でここに移動させられたとでも見るべきかしら」
「だとしたら、前後どちらかに進んだところで元の場所に戻れる保証は…」
「ないわね、どうする?ミザリー」
レオが壁の観察をしていたミザリーへと声をかける
『道はあるっぽいから、どっちに進むかってとこね』
壁を注視した結果、やっぱり気味が悪かったのか
眉間にシワをよせミザリーは前後の道を見比べる
「ぶっちゃけパッと見、違いはなさそうだ。勘でいいよミザ」
ベイカーがミザリーに一任する
『リディは?』
「任せるわ、確かに判断材料がない今。それしかない」
『じゃあ…あっちね』
ビッとミザリーが片側の道を指差す
その時だった
〈ジャッ…ジャッ〉
と指差した方向から微か音が聞こえてきた
同時
ミザリーとレオ、のみならずベイカーにまで何かを感じさせる存在の気配
「な、なんだ…なにか来てる…?」
「…そのようね」
レオが剣の柄を握り直す
『ビーまでなんか感じてんなら…ヤバそうね』
ミザリーも足首を捻り備える
〈ジャッ…ジャッ〉
足音は徐々に大きく、近づいてくる
そしてその気配も比例して圧へと変わり始めた
先のほの暗い道から
それは少しずつ輪郭を鮮明にしながら姿を表した
それは決して巨大という訳では無い
身の丈は2mほど、人型であり
甲冑のような外殻を身に纏い、多少仰々しくはあるものの華美ではない
紫がかった黒のような外殻が不気味な威圧感を増長させている
東洋の将を彷彿とさせる出で立ちは
系統違えど、【四つ脚】に似ていると感じさせた
『何…こいつ…』
「自己紹介してくれると思う?」
レオに、そしてミザリーにさえ緊張感を覚えさせる魔の将のような悪魔
当然ベイカーにも2人の緊張感は伝わり
その、脳内は最も目まぐるしく回っている
「(なんだこいつ…普通の悪魔とは全然違う…)」
声にも出せない思索
冷や汗を体感し得るプレッシャーは
言葉を発するのさえ難しくさせた
その時
【なかなか珍しい客だ…出番はまだ先だと思っていたが】
悪魔が声を発した
重い声だが耳に突き刺さってくるかのように明瞭に聞き取れる
【ここに招き入れたということは排除か、それとも…】
スッと右手を持ち上げる
黒いもやが掌に浮かんだと思うと
一瞬で剣がその手に握られていた
刀身が身の丈と変わらぬ、細身の剣
鞘に納まっている
剣ではなく、太刀というものだろう
だが伝聞で聞く太刀よりは太い
鞘を握り、柄をこちらに向けた
【味見でもしろということか?】
レオに、ミザリーに順に柄を向けた
『味見…だって、リディ?』
「お断りね、逆でしょう。」
2人が1歩前に踏み出した
『そーね、舐めてんじゃないわよ…味見だなんて、その余裕
ごと喰っちまうわよ!!』
〈ジャッ〉
腰から下げたマリーゴールド
大型拳銃で狙いをすまし、たと同時に発射
〈ドゥオンッ!!〉
同時に
0から100へ、強烈な瞬発力で踏み込むレオ
〈ボンッ!!〉
マリーゴールドの着弾と同時に起こす小規模爆発
だがそれは太刀で受け流すように捌かれた
ダメージは期待できない
が
その瞬間にはレオが視界の下
下方から切り上げるように剣を振るう
受け流した太刀を持つ手とは逆方向からの剣戟
避けられるものではない
はずの剣戟は
〈ガギィッ!!〉
太刀は逆手だが、腕はあると言わんばかりに
手で掴まれた
「っ!!」
予想だにしない一手
高速の一閃の自負があるゆえに手で掴まれる反射を予測しておかなった
そのまま、振りかぶり剣を握ったレオの身体
ごと、こちらに向かってくるミザリー目掛けて投げつけた
『ッ!!っと』
駆ける勢いを止めず、飛んでくるレオを低い体勢で躱す
そのまま突っ込む予定であった
だが避けるために体勢を低くした
その一瞬の間に距離を詰められていた
体勢を戻そうとしたときには
〈ゴッ!!!〉
一蹴
突進の勢いを逆手に強烈な一撃がミザリーを出迎えた
〈ズシャァッ!!〉
と地面を這うように蹴り飛ばされるミザリー
だが投げ飛ばされたレオ
蹴り飛ばされたミザリー
共に瞬間で体勢を立て直すと悪魔に再び視線を刺す
【太刀を抜くまでもないか…】
威風堂々と立ち、その手の太刀は未だに鞘に収まっている
『マジで舐めてるわね…リディ平気?』
「ええ…少し舐めてたわ」
『じゃ、準備運動は散々したし…行くわよ』
2人が再度構える
【久方の合戦だ、そうでなくてはな!
我は〔世界を裂く魔将〕
リョフ・テンマ
来るがいい、獣達よ!】