92話:ガーリックバターライスのオムライス
白いホワイトソースがかけられた新しいオムライスを前に、ルーナは嬉しそうな顔を浮かべていた。
黄色い卵に情熱的な赤いケチャップが彩られた、従来のオムライスとは異なる。白と黄色の優しい色合いのオムライスは、見た目で判断しては怪我をすると言わんばかりに、食欲をそそる刺激的な香りを漂わせていた。
卵の下に何が隠されているのか、好奇心を抑えられないルーナはいま、新世界の扉を開く。
黄色い卵の上からスプーンを入れた瞬間、熱々の蒸気が立ち昇り、ルーナの鼻に襲い掛かった。卵の封印が解かれたガーリックの強い香りがグッと広がると共に、バターの香りが後を追いかけてくる。そして、卵の下に赤いチキンライスなど存在しない。バターとニンニクで炒めた、ガーリックバターライスが鎮座していた。
「白銀と黄金のオムライス、料理の世界に新しい風が吹くんだね」
楽しみで仕方がないルーナは、スプーンでオムライスをすくい上げると、口元へ運ぶ。オムライスの蒸気が直接鼻に侵入し、より強いガーリックの香りに、思わずゴクリッとのどを鳴らした後、我慢できずにパクリッと口に入れた。その瞬間、舌が敏感に察知し、衝撃的な味わいが脳に届けられる。
まだ……噛んでもいなかったのに。
満を持して顎を動かすと、ご飯の甘みと卵のまろやかな味わいだけでは中和できない、強いガーリックの風味が口いっぱいに広がる。口内を支配するかのようにガーリックが暴れまわると、後を追うようにバターが駆け付け、キノコの柔らかくて優しい食感と共に、ホワイトソースが滑らかな後味に変えていく。
高ぶり続ける食欲だけは、鎮まることを知らないが。
「いつもと全然違う味なのに、しっかりとオムライスになってる。トマトの酸味がないのに、物足りなさを感じないなんて。ガーリックの味わいと、ミルクのまろやかさが合わさってて、おいしいね」
落ち着いて食べている影響だろうか、上品に一口ずつ食べるルーナは、妙に色っぽい。もっと大袈裟に喜んでくれると思っていたジルは、少しばかり戸惑っていた。
そして、それはアーニャも同じこと。
「いまの私にはわかるわ。これが大人の味ってやつなのね」
じっくりと味わって食べるアーニャは、感傷に浸っている。
弱体化したことを隠し続けてきたのに、二人にアッサリと許されてしまった。そして、優しくされすぎてツライ心に、ガーリックが活力を与えるように染みわたってくるのだ。
元気出せよ、ガーリックは活力が出るぜ、オムライスにそう言われているような気がした。
「ねえねえ、エリスお姉ちゃん。アーニャお姉ちゃんはどうかしたの? 元気がないみたいだよ」
「大丈夫よ。アーニャさんはね、いまオムライスに慰めてもらってるの。そっとしておいてあげて」
「えーっ。そんなことがあるの? 大人になったらわかるのかなー」
わからなくてもいいよ、とエリスは思いつつ、オムライスを口にする。アーニャとルーナに毎日付き合い、夜ごはんがオムライスで固定されたいま、一口食べて安堵した。
よかった、ケチャップのオムライスから解放されて……と。
「ジル、あまり出し惜しみしないで、こういう変わり種のオムライスも作っていって。アーニャさんもルーナちゃんも喜ぶから」
一番喜ぶのは私だけど、という言葉をエリスが付け加えることはない。なぜなら、ここにはオムライス信者が二人もいるのだから。
「エリスさん。もしかして、オムライスに飽きてませんか? 王道のケチャップオムライスを侮辱されているように感じましたが」
しかし、オムライス信者のルーナは過敏に察知する。エリスの心の声を聞いていたかのように、正確に的を射た。
「違うよ。色々な種類のオムライスを食べて、高みを目指したいだけなの」
エリスは自分でも何を言っているのかわからない。言い訳にしては、無理がある。
「なーんだ、エリスさんもオムライスを愛してるんですね。わかりますよ、オムライスで高みを目指す気持ち」
オムライス信者のルーナは共感してしまうが。
「ねえねえ、エリスお姉ちゃん。オムライスの高みって……」
「ジル! 大人になればわかるから!」
「子供にはわからないことが多すぎるよぉ」
一人だけ会話に置いていかれるジルは、少し悲しい気持ちになるのだった。




