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ちびっこ錬金術師は愛される  作者: あろえ
第一章

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50/99

50話:アーニャのポーション3

 エリスとアーニャが錬金術ギルドで言い合っている頃、ジルは二つ目の冷蔵庫を確認していた。


 二人暮らしにもかかわらず、二つの冷蔵庫を使用するアーニャの家。ここには、牛乳瓶がスポポポポッと納められており、瓶に入った蜂蜜がドーーーンッ! と保存されている。


 アーニャとルーナの偏食は、凄まじい。


 この世界は自然豊かなこともあり、天然のハチミツは比較的安価な値段で販売し、重宝されている。砂糖のようなピュアな甘さではないものの、甘味が大好きな女性に人気だった。


 なお、初めてのお泊り会をしたルーナは、夜更かしの影響で眠ったまま。起こすのも悪いと思い、ジルは一人でキッチンにいる。


「フレンチトーストしか作れないなー。僕は好きだけどね」


 朝から鼻唄を口ずさみながら、ジルは二つの冷蔵庫から牛乳と卵とハチミツを取り出す。


 机に持っていき、コンコンッと角で卵にヒビを入れ、ボウルにパカッと割って入れる。牛乳とハチミツも一緒に入れた後、泡立て器でシャカシャカシャカッと軽快なリズムで混ぜ合わせたら、棚に置いてある食パンをカットし、作ったばかりの甘い卵液に漬け込む。


「朝から味噌汁とごはんの組み合わせもいいけど、甘いパンもいいよねー。生クリームをホイップしたり、フルーツをいっぱい飾ったりするの」


 料理の妄想で幸せそうな顔をして、ジルはジッと食パンを見つめていた。


 食パンの外側から卵液がジワジワと染み込んでいくところを見守ることが、ジルにとっては至福のひととき。


 いつ裏面にひっくり返せば、食パンの奥まで染み込むのか。染み込んだ食パンを持ち上げたとき、どれほどズッシリとした食パンに変わるのか。今すぐ食パンを切って、断面図を見てみたい!


 普通の人なら、染み込ませるなんて面倒、などと思い、冷蔵庫に閉まって放置するところを、ジルはジッと見つめるのだ。料理マニアだというのは、伊達じゃない。


 十分経っても、二十分経っても、三十分経っても……ジルはずっと見つめ続ける。


 ***


 一時間経っても見つめ続け、卵液がしっかり染み込んだところをそっと持ち上げた後、「食パンさんのお腹、たっぷたぷー♪」などと言い、嬉しそうにフライパンで焼いていく。


 ジューッといい音がすると共に、ハチミツと卵のあま~い香りが拡散。爽やかな柑橘系の香りも含まれるのは、蜜蜂がオレンジの花から作られている影響だ。どこか爽やかな甘い香りが広がるキッチンは、春を独り占めしているような気持ちにさせてくれる。


 これは、蜜蜂とオレンジの樹の魔力が合わさったことで、香りが強くなったものと考えられている。受粉したオレンジの樹にも影響するため、この世界のオレンジは、糖度が高くて甘い。フレンチトーストに生クリームと甘いオレンジを乗せれば、贅沢な朝食になるのだが……残念ながら、今日は用意できそうになかった。


 エリスお姉ちゃんに言って買ってもらおうかなーと思いながら、焼きあがったフレンチトーストを皿に盛り付けていると、強盗事件でも起こしたような二人組が現れる。


 ポーションケースを大事そうに抱えて運ぶエリスと、周囲を必要以上に警戒するアーニャだ。


 誰かに盗まれてはいけない。転んでポーションを無駄にできない。誰かにエリクサーの存在がバレてはいけない。そんな思いが溢れ、二人は警戒していた。ハッキリ言って、街中で破壊神と呼ばれるアーニャに挑もうとする者はいない。


「エリスお姉ちゃん、アーニャお姉ちゃん、おかえりー! 遅かったね」


「ちょ、ちょっとギルドが混んでたの。ね? アーニャさん」


「そ、そうね。錬金術ギルドは、忙しそうにしていたわ」


 どっちがエリクサー(微小)を持ち運ぶかで言い合いして遅くなったなどと、素直に言えない二人である。


 当然、破壊神アーニャと担当者エリスの言い合いなど、近年の錬金術ギルドで起こった大事件、第一位であり、物々しい空気になっていたが。


 大きな声で騒ぎ始めるアーニャとエリスに、錬金術ギルドは戦々恐々していた。一歩も譲らないエリスを引っ張り出し、錬金術ギルドが総出で説得。最終的には、エリスの教育ができていなかったと、ギルドマスターがアーニャに頭を下げ、事なきを得ていた。


 混乱状態のアーニャは、今度やったら許さないわよ! と謎にキレたことで、天災でも起こるのかと思われる恐怖が場を包み込むほど、大事件だったのである。


 ちなみに、マジックポーチに入れて持ってくれば安全なのに、エリクサーに動揺する二人は気づいていなかった。


「ポーションはどうだったの?」


 ポーションと聞いただけで、ドッキーンッ! と心臓が飛び出そうなくらい、アーニャとエリスは慌てる。世界で一番安全な場所、アーニャの家に戻ってきても、二人の緊張は解けない。


「ど、どど、どうってことないわよ! わ、私が作ったのよ。良いに決まってるじゃない。あ、後でルーナに飲んでもらうわ。ね、エリス?」


「そ、そうなの。まずは朝食を食べて落ち着かないと頭が働かないから、先に朝ごはんにしよ」


 初めて見る二人の怪しい姿に、ジルは首を傾げる。


「いいこと言うわね、エリス。やっぱり朝は甘いものと牛乳よ。さっ、ルーナの部屋へ行きましょう。私も運ぶのを手伝うわ」


 エリスにエリクサー(微小)を持たせているアーニャは、自分の両手を塞ぎ、逃げる作戦に出る。


「待ってください。私がパンと牛乳を運びますから、ポーションをお願いします」


 しかし、エリスはそんなことお見通しである。一刻も早くエリクサーを運ぶという大任から離れたいのだ。


「な、なに言ってるのよ! ちゃんと責任持って、ルーナの元まで運びなさい。ギルドマスターに言いつけるわよ」


「ずるいです! 上司に直接言いつけるなんて、卑怯すぎますよ。私がクビになったら、どうしてくれるんですか」


「なるわけないじゃない。私の担当をするくらいなら、普通は錬金術ギルドを辞めるに決まってるもの。絶対にクビにならないわ」


「よくそんな他人事みたいに言えますね。自分で言ってて悲しくならないんですか?」


「言わせたのはエリスでしょ! もう悲しくて悲しくてルーナに会いたくなったから、先に行くわね」


「ま、待ってください! ポーションの安全確保を強く希望します!」


 結局、敵のいない家を二人は警戒しながら、ルーナの部屋へ向かうのだった。


「ええ……。フレンチトースト、運んでくれないんだ。せめて、牛乳くらい持ってってほしかったなー」


 手伝ってくれると思ったジルは、ちょっと悲しかった。

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