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ちびっこ錬金術師は愛される  作者: あろえ
第一章

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32話:ジェム作り2

「よく切れるから、指を切り落とすんじゃないわよ。一応、私が作ったポーションがポーチにあるし、何かあったら我慢せずに言いなさい」


「うん、大丈夫」


 お姉さんオーラを漂わせながらも、アーニャは焦っていた。


 昔から愛用しているような手さばきで、スラスラスラ~ッと魔石にミスリルナイフを入れるジルは、的確に核だけを抽出しようとする。核を傷つけずに慎重に作業しなければならないこの工程は、神経質になるくらいの集中力が必要であり、アーニャが最も苦手としていた。


 破壊するなら、アーニャは得意なのだが。


 そんなことを知らないジルは、このナイフすご~い、などと切れ味に感動し、早くも作業が終盤にさしかかっている。勝負をしているわけではないけれど、チラチラと横目で見ていたアーニャに、猛烈なプレッシャーが襲いかかってしまう!


 助手に作業で負けるなんて、アーニャのプライドが許さない! 大人の意地というものを見せ付け、今から巻き返しを……。


「できたよ、アーニャお姉ちゃん」


 なんでそんなにも早くできるのよ! と突っ込みたいところを、アーニャはグッと堪える。手元にある削りかけの魔石を見て、圧倒的な敗北感に襲われてしまった。


 しかし、アーニャは思い付く。勝敗をうやむやにする、姑息な方法を!


「なかなかの作業スピードね。うまくできているか、チェックしてあげるわ。その間に、私がゆっくりと削っていた方も練習としてやってみなさい」


「はーい」


 さりげなく魔石を交換したアーニャは、プレッシャーから解放された。わざとゆっくりやってあげてたのよ、というお姉さんっぽさを追加することにも成功。そして、厳しい目付きになりながら、ジルが削った魔石の核を確認する。……核だけに!


(うまいわね。あのスピードでここまで綺麗にできるなんて、脅威的よ。料理ができる分、時間をかければできると思ってたけど、これは嬉しい誤算だわ。私には絶対無理だもん)


 心の中で完全敗北を認めながらも、アーニャは決して声に出さない。少しくらいダメ出しをしてやろうと思うものの……、それすら見つからなかった。


「アーニャお姉ちゃん、できたよ」


「えっ? あ、う、うん。チェ、チェックするわ」


 どういうスピードでナイフを使ってんのよー! と言いたいものの、アーニャはもう一度、グッと堪える。失敗しなければ、作業が早いのはいいことであり、一つの才能になる。無闇に怒鳴りつける必要は、まったくない。自分の助手であれば、なおさらのこと。


 本当は理不尽な怒りをぶつけたいが、相手が子供だと思うと、アーニャの心に自然とブレーキがかかっていた。


 ジルから受け取った核に戸惑いながらも、針の穴に糸を通すような気持ちで、隅々まで厳しくチェック。両目をグググッと最大限まで開き、絶対に傷を見つけてやるー! という執念を燃やした結果……、僅かな傷を発見する。


 本当によく見ないとわからない程度で、品質に影響しないほどの僅かな傷を。


 しかし、心の中は敗北感で満ち溢れ、お姉さんオーラを失ったアーニャにとっては、反撃の狼煙をあげる好機だった。正確に言えば、ここしか責めるポイントがない!


 ほら、よーく見なさいよっ! とジルに突きつけようとした瞬間、嬉しそうな顔をしているジルを見て、アーニャは冷静になって考える。


 作業中も楽しそうに魔石を削り、自分よりも迷いなくナイフを入れていた。一方アーニャは、そんなジルにプレッシャーを感じた状態で、苦手な細かい作業をやっていたのだ。チラチラと何度もよそ見して、集中することができずに……。


 その結果、よーく考えると真犯人が見えてくる。この傷をつけたのは、私じゃない? と。


「うまくできてる?」


「……上出来よ。あんたはこのまま、こっちの魔石で作りなさい」


 自分の威厳を守るために、アーニャは傷のついた核をジルに手渡した。


 情けない自分の行動と、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになり、キリキリと胃が痛むような思いに襲われる……が、これは仕方のないことだと、アーニャは自分に言い聞かせる。


(現役の錬金術師に教えてもらう機会なんて、弟子入りでもしない限り、滅多にないことなのよ。感謝されることはあっても、恨まれる覚えはないわ。しかも、タダで。この子もそれがわかっているから、こんなに嬉しそうな顔で……)


 必死に自分の行動を正当化しようとしても、嬉しそうなジルの顔を見れば、アーニャの良心が傷んでしまう! 【破壊神】という二つ名を持っていようとも、人の心を捨てたわけではない!


 本当にごめんね、あんたの功績を横取りして。お願いだから、これくらいの悪事は許して! と、心の中で謝るほど、アーニャは反省する。


 その結果、申し訳ない気持ちでいっぱいになったアーニャは、いつもより優しく接しようと思うのだった。


「もう少しゆっくりやってもいいのよ? これはEランクの魔石で練習だからいいけど、Cランク以上の魔石になれば、それなりの値段になるの。ミスはできないわ」


 Eランクの魔石が安いと言っても、様々なエネルギー源として使われているため、銅貨五枚、日本円で五百円である。元々Cランクの魔石でジェムを作る予定であり、装備品にも使用されるCランクの魔石は、値段が跳ね上がる。相場は金貨十枚で、およそ十万円。


 そのため、ササッとやって失敗しちゃいましたー! などというのは、絶対に許されない。今後、もしこういう依頼を受けたときに失敗すれば、材料は自腹で負担しなければいけないのだ。子供のジルには……、かなりの痛手になってしまう。


 才能ある助手の未来を守るため、アーニャは真剣な顔でジルと向かい合う。世間の厳しさを、しっかり教えるために。


「大丈夫だよ。ゆっくりやってたから」


 思いっきりが良すぎるわよ! あんた、怖いもの知らずね! どうりで私に怯えないわけだわ! と、妙に納得してしまうアーニャなのであった。

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