表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちびっこ錬金術師は愛される  作者: あろえ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/99

13話:アーニャさんはオムライスが好き

 ワーワーとアーニャが叫び終えると、ゼエゼエと大きく息を乱した。そこで、ようやくエリスが話の軌道を修正する。


「エリクサーをもらったことは事実ですし、私やジルにできることがあれば、遠慮なく言ってくださいね」


「別にいいって言ってるじゃない。いつもと同じように妹のルーナの面倒を見てくれたら、それで構わないわよ。私は気にしてないんだから」


「もう、遠慮しなくてもいいんですよ。弟の命を助けてもらった以上、こっちが気になるんですから」


 エリスは不満気ではあるが、アーニャは遠慮しているわけではなかった。


 元々この街の出身ではないアーニャが、心を許して接することができるのは、エリスしかいない。妹とも仲良くしてくれているエリスに、それ以上のことを求める気などなく、今の関係を続けてほしいと思っていた。


「あっ、そうだ。アーニャさんさえよければ、ルーナちゃんの元へジルも一緒に連れて行ってもいいですか?」


「却下ね。動けないルーナがいる家に、男を連れていくのは論外よ」


 子供とはいえ、ジルは男。ましてや、アーニャの心に愛の乱れ撃ちを叩き込んだ男の子を、妹の前に連れ込むわけにはいかない。絶対に、拒否である。


 だが、エリスも折れる気などない。アーニャの担当を二年も続けてきたエリスは、弱点を知っている。


 周囲を確認して、耳うちをするように、そーっとアーニャの耳元にエリスは顔を近づけた。


「ここだけの話なんですけど、うちのジル、おいし~いオムライスを作れるんですよね。ルーナちゃんとも、元気になったら連れていく約束をしてたんですけど、ダメですか?」


 普通、おいしいオムライスを作れるから、という理由で男を連れ込むことはない。それは当然のことだろう、なんでやねん! と、突っ込んで終わりである。……普通であれば。


 そう、アーニャは普通ではないのだ。エリスに耳うちをされたいま、アーニャは驚愕の表情を浮かべている!


(なんですって! おいしいオムライスを作れるなんて、もう連れ込むしかないじゃない!)


 なーんて思ってしまうほど、アーニャはオムライスが好き。大切な妹と同じくらい、オムライスが好き! 一日一食はオムライスを食べないと落ち着かないほど、オムライスが大好きっ!!


「……そ、そう。ルーナと約束してたのなら、仕方ないわね。ま、まあ、ついでにうちのキッチンくらいは使わせてあげてもいいわ。私も鬼じゃないから」


 前言撤回することに必死なアーニャ。オムライスを作ってもらうことに必死なアーニャ。早くもオムライスが食べたくて仕方がない、それがアーニャなのである!


「じゃあ、ジルと伺いますね。たまには、オムライス以外にも食べた方がいいと思いますけど」


「うるさいわね。オムライスの良さがわかってない人は、だいたいそういうのよ。そんなことより、エリスの弟のオムライス、流派はどこ?」


「えっ? オムライスに流派とかあるんですか?」


「あるに決まってるじゃない。そんなことも知らなかったわけ? 仕方ないわね、どんな感じのオムライスだったか、詳しく話してみなさい。まずは具材からよ」


 グイグイと圧をかけるように、アーニャは顔を近づけていく。


「鶏肉とタマネギ……でしたけど」


「はいはいはい、なるほどね。嫌いじゃないわ。オーソドックスな具材であり、シンプルに攻めるパターンよ。変化をつけてベーコンやハムを使ったり、ニンジンやピーマンを入れたりしないのは、それだけ腕に自信があるからかしら」


「多分、そこまで深くは考えていないと思います」


 冷静なエリスのツッコミなど、頭がオムライスのことで頭がいっぱいのアーニャには通用しない。


「ベーコンを入れるなら、マッシュルームは必然よね。肉から溢れ出る油をキノコが吸い取り、ケチャップの酸味と合うんだから。そこにまろやかな卵が合わさることで、三位一体となるの。それで、卵はどうだったの? 多い派? 少ない派?」


「えっと、私は詳しくないですけど、卵を三つ使ってて、半熟で……」


「た、た、卵が半熟ですってー! 王城で出る最高級のオムライスパターンじゃないの! ふわふわの卵がチキンライスを包み込み、トロトロの卵がゆっくりと流れ落ちる、オムライスの大革命! 見た目以上に繊細で作ることが困難であり、この街では食べられないと思っていたのにッ!!」


 オムライスの話になると急激に早口になるのは、アーニャがオムライスオタクだからである。目をキラキラと輝かせる姿は、エリスが二年間付き合ってきたなかで、一番嬉しそうだった。


「こうしてはいられないわ。今日の予定は全てキャンセルしなさい。今すぐ家に戻って、オムライスを食べるわ」


「ちょ、ちょっと待ってください。ジルはまだポーション作りの試験中で……」


「なに言ってんのよ! あんなの空気中のマナを集束させて、物質変換させるだけじゃない! 誰にでもできるわよ!」


 試験中に大きな声で模範回答を言ってしまうアーニャ! だが、ジルの部屋は離れていて聞こえていない! そして、動揺するエリスも気づいていない!


 なお、仕事中にアーニャの担当であるエリスが抜け出すことは黙認されている。錬金術ギルドは、アーニャに怒りを向けられたくないのだ。なぜなら、アーニャは破壊神だから。


「アーニャさんは元々冒険者で、魔法が得意だから簡単に作れただけですよ。それに、昼ごはんを食べたんじゃないんですか?」


「はあ? オムライスは別腹に決まってるじゃない」


「甘いものみたいに言わないでください!」


 この後、アーニャの猛プッシュに圧倒されたエリスは、ジルを呼びに行くことになった。試験初日、まさかの命の恩人による妨害であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

2023.7月より新作『女神の使徒に選ばれた私の自由気ままな異世界旅行とのんびりスローライフ』を始めました! ぜひチェックしてみてください!

 

https://ncode.syosetu.com/n3708ii/

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ