本意
「……恋愛促進カードについて、少し良いお話をしに来ました」
「……もう一回聞くぞ。お前、何処でその情報を手に入れた?」
……毎度のことなのだが、こいつは予想外の方法で抜け道を見つけたりしてくる。
だからある程度の個人情報開示については黙認していた。
……いや、それもおかしいんだけどね。
しかし、今回の件に関しては話が変わってくる。
何故なら、現時点でこのカードの存在を知っているのは、俺を含めて三人しかいないはずだからだ。
残りの二人というのが、校長と如月だ。
まさか、校長が情報を流すとは思えないし……如月のことは、疑いたくはない。
「あ、ご心配なく!先輩の知人が情報を漏らしたわけではありませんから」
まるで俺の思考を先読みしたかのように、天野が答えた。
それを聞いて俺は、正直少しほっとした。
―――しかしだ。
「……だったら尚更分からないな。お前にこの件について知るための手段は無いはずだが?」
そもそも、持ち主である俺ですら存在を知ったのは今日なのだ。
クラスどころか、学年すら違う天野がこのカードの存在を知る方法は、皆無と言ってもいいだろう。
……しかし、現に天野は突き止めているわけだしな。
一体どうしてだ……?
「まあ……先輩が思っているよりも、私の人脈が広かったということですかね~」
「……どういうことだ?」
「つまり~……先輩以外にも、カードの存在を知らされていた人がいるということです!―――って、そういう事は先輩にも知らされているはずですよ?」
「……あ」
言われてみて、なんとなくだが思い出した。
確か、成績優秀者である人物が、国内で数名手に入れたんだっけか……。
「……いや、それはお前、人脈どころの話じゃないだろ」
「ふっふーん!私の人脈は、海よりも広いのです!」
得意げに言う天野に、思わず海を思い浮かべてしまった。
こいつ、態度も海レベルででかいからな。
「はぁ……で?そのカードの存在を知ったお前は、俺にどんな話をしに来たんだ?……なんかちらっと、良い話だって聞こえたんだが」
「はいっ、それはモチのロン!先輩にとっても、私にとっても利益しか生まれない……いわゆる、ウィンウィンな関係ってやつです!」
天野は、やたらと食い気味に言ってきた。
彼女がそこまで言うとは……。
実はこれ、かなり珍しいことだったりする。
天野桜という人間は、これでもかってくらい現実主義者なのだ。
決して感情論ではものを言わない。
とにかく、自分の利益になることだけを考えて生きている。
もしかしたら、天野が今こうやってあざとい感じで俺に話し掛けてきているのも、実は演技だったりするかもしれない。
そう思うくらいには、彼女は自分を出さない人間だ。
……まあ、俺がそう言い切れるのは、天野のあの時の表情を見たからなのだが。
……とにかく、そんな天野がここまで興奮しているのは、珍しいことなのだ。
それほどこのカードが希少価値だと言うことか……。
「……で、俺に何をして欲しいんだ?」
とにかく、そこが話の主旨だろう。
カードの主導権は俺にあるのだから、俺が何かしらのアクションを起こさなければ、天野は動けないはずだ。
……まあ、とはいえ少しくらいの事ならしてやるつもりではいる。
特に、このカードに深い思い入れがあるわけでもないからな。
流石に、カードを下さいとかだったら少し考えるが。
「あはっ、先輩は物分かりがよくて助かります!」
「……お前な、俺は一応先輩なんだぞ?」
あまりにも扱いが雑すぎる気がする。
……まあ、いつものことだから別に良いのだが。
それで俺は、軽い気持ちで天野の提案を待っていた。
「それじゃ~あ~……先輩、私の彼氏になってください!」
「うーん!ムリ!」
思いの外、一番無理なやつだった。
「あー待って待って!別に本気でカレカノやれって言ってるんじゃないんですよ!!」
「……ええ?」
意味が分からん。
本気じゃない恋人って一体何だよ……。
「つまりですねぇ……大雑把に言えば、恋人のふりをするってことです」
「……ああ、なるほどそういうことか」
そこまで言われれば、流石に彼女の狙いが分かった。
「……確かに、このカードは恋愛目的でないと使えないもんな」
そして、その条件さえ達してしまえば、この世の全てを手に入れられると言っても大袈裟ではないからな。
……正直ここまで来てしまうと、このカードの不正対策はがばがばな気がする。
「言ってしまえばこのカードは富ですからねぇ。そんなのもう、利用したもん勝ちじゃないですか!」
そう言う天野は、めちゃくちゃいい笑顔をしていた。
……相変わらず、腹黒いやつだなぁ。
「……うーん。でもまぁ、悪い考えではないんだよなぁ。このまま腐らせるくらいなら……」
受け取った時点で、所有権は俺にあるわけだしな。
どう使おうが、それは俺の勝手だろう。
それに、欲しいものが……ないわけでも、ないのだ。
「……まあ、取り敢えず明日まで待っといてくれ」
「……?何でですか?」
「ああ……明日、如月と一緒にこのカードを使ってみようって約束をしてるんだよ。取り敢えずそこで使い勝手を見てだな……」
「はっっっや!!」
「おお!?な、何だよ急に!」
何故だかいきなり大声を上げる天野。
早い……?一体何が……?
「何でもないです!!……先輩も、隅に置けませんよね」
「……はあ?」
よく分からない事を言う天野。
……やはり、こいつの事を完全に理解するのは難しそうだ。
少し時間が出来たので投稿しました。
不定期ですが、これからもよろしくお願いします。