オトメゴコロ
「……落ち着いたか?」
「ぐす、ぐす……うん」
あれからかなりの時間が経ったが、何とか山崎をなだめることに成功した。
今は、高校から少し行ったところの公園にいる。
流石にあのまま靴箱の前に留まるわけにはいかなかったからだ。
冴えない男子生徒と、その正面で泣きじゃくっている美少女……周りが見たら、どう思うかって話だ。
……おまわりさん違うんです。僕は何もやってない。
「それで?お前、何で泣いたんだよ」
「……ウミは、オトメゴコロが分かってない」
「……お前にそんなことを言われる日が来るとは思わなかったよ」
そもそも、意味を分かっているかどうかも怪しいんだが……。
しかし確かに山崎の言うように、俺は人の気持ちを汲み取るのが苦手だ。
自分では気付かない内に誰かを傷付けていたことを後から知ったというような経験は、一度や二度の話じゃない。
だからなるべく人との関わりは避けながら生きてきた。
けれども―――
山崎に関して言えば、少し深入りしすぎてしまったのかもしれない。
「……山崎。俺とお前は、この機会に少し距離を置くべきだと思う」
「……やっぱり、何も分かってない」
「分かってないからこそだ。……だって俺は元々、そういう生き方をしてきたんだから」
改善案は1つではないのだ。
そもそも、人には向き不向きというものがあるのだから。
人の気持ちを汲み取るのが苦手……ならば、そもそも人と関わりを持たなければいい。
安全かつ、最適な答え。
例えそれで、大切なものを一つ失うことになっても……。
「……乃愛、ウミのそういうところ、好きだよ」
「……人の気持ちを考えずにものを言うところが?」
「そこじゃない……そこじゃなくて、乃愛の事をちゃんと考えてくれるところ」
「……は?」
山崎の予想外な発言に、俺は首を傾げた。
「乃愛は、普通の人とは違うから……皆、乃愛の言うことなんてまともに相手にしないか、面白がるだけで終わる」
「……ああ、知ってるよ」
山崎と接点を持ったのも、彼女がクラスで一人だけ浮いていたからだ。
……何というか、考え方が少し違っていたり、行動原理が分からなかったりするのだ。
日本は特に集団意識が高いから……周りとは違う人間というのは、差別の対象になり得る。
「でもウミだけは違う。ウミだけは、乃愛の話を真剣に聞いてくれる。乃愛の目を見てくれる。……乃愛を一人の人間として見てくれる」
「……流石に言いすぎじゃないか?」
いくら差別されているとはいえ、流石に人間扱いはされているはずだ。
しかし山崎の意見は違うのか、大袈裟に頭を横に振った。
「皆、乃愛の事を妖精みたいだって言う」
「……それは多分、褒め言葉だ」
恐らく、容姿のことを差しているんだろう。
確かに山崎は可愛いからな。それこそ、妖精と表現できるほどに。
しかし乃愛はその事を理解していないのか、微妙な表情をしている。
……あなたがクラスメートに距離を置かれているのは、その事も原因に含まれていると思うんですけどね。
「……とにかく。乃愛にとってウミは特別で、代わりなんていない。つまり、乃愛はウミのことが――」
「……?」
山崎が何かを言おうとして……止めた。
元々、思ったことは何でも口にするタイプだと思っていたから、それだけに疑問を持った。
「……やっぱり、この続きはまだ言わないでとっておく。乃愛の勝利が確定するその時まで」
「勝利って……何のだ?」
俺は疑問に思って尋ねたが、山崎は答えずに視線を逸らした。
……知らなくても良いということだろうか。
「……まあ、何かを決断できたんなら良かったよ」
「うん。……でもウミ、覚悟しておいて」
「え?」
「……今からは、本気で行くから」
……やっぱり、俺に人の気持ちを読みとることは出来ないらしい。
何のことだかさっぱりだった。
しかし―――
山崎が、今までに見たこともないほど嬉しそうな表情をしていたのだけは分かった。
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