初めての……
教室に戻ると、クラスの視線が一斉に俺に集まった。
それはそうだろう。
唐突に校長先生に呼び出しを食らった生徒……興味を示して当然だ。
「海人、何だったの!?」
真っ先に尋ねてきたのは如月だった。
……というより、このクラスで俺みたいな勉強ガチ恋勢に関わってくる奴なんて、コイツみたいな物好きだけなのだが……。
「ああ、実は……」
誤魔化してやり過ごす事も出来たが、そうすると後からうるさいだろうと考え、如月には正直に話すことにした。
「―――ということで、恋愛がらみでこのカードを使えばいつでも無料になるらしい」
「へー凄いね。……でも海人、そのカード使うことある?」
「……いや、恐らくない」
如月は、意外にも俺のことをよく理解しているのだ。
一見適当な奴に見えるが……人は見かけによらないということか。
「でもそれじゃ、このカードがほんとーに使えるかどうか分かんないよね……チラ」
「……?何だよ」
何故かこちらをチラチラと見てくる如月は、何かを言いたげな表情をしていた。
「い、いやあのね?もしよかったら……ほんとにもしよかったらでいいんだけど!」
「はよ言えや」
よほど言い出しにくいことなのか、本題を渋る如月。
俺相手にびびることなんてないだろうに……。
しかし、如月は二、三回軽く深呼吸をすると、やがて決心がついたようで顔つきが変わった。
「あのね、海人!あ、あたしとデートしてみない?」
「…………うん?」
……デート?
一体何を言っているんだコイツは。
「……いやデートってお前。それは恋人同士がする事を俺らでしようって言ってるのか……?」
「う……っ!あ、あの、カードの効果を試そうって事で……そう!デートのふりをしようって事!!」
「……ああ、そういうこと」
……良かった。
危うく、もしかしたらコイツは俺のことが好きなのではないかという錯覚に陥ってしまうところだった。
「……うぅ。何でそこで素直になれないかなぁ、あたし」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもない!!」
「ええ……」
何やらブツブツ言っていたから気になって尋ねただけなのだが、何故か怒られてしまう。
……まあ、そのくらい自由な方がお前らしいよ。
……しかしデートか。
そんなもの、俺の中では空想上のものという認識でしかなかったんだけどな。
……と。
そこで俺は、重大な問題があることに気付いてしまう。
「……なあ。俺、デートが一体どんなことをするものなのか知らないんだが」
「あ、だよねぇ。あたしも―――」
「でも如月はそういうの慣れてそうだし、任せてれば大丈夫か」
「え!?……あ。う、うんっ、大丈夫任せて!」
何故か歯切れが悪くなる如月。
……もしかして、慣れているというのは偏見か?
「……あー、すまん。無理だったら別にいいんだが」
「いやいやほんとに大丈夫だから!海人は大船に乗ったつもりでいていいから!!」
「お、おう。……じゃあ、お願いしようかな」
「どんとこい!」
少し不安だったが、ここまで強く主張できるなら大丈夫だろうと考え、俺は如月に全てを一任することにした。
……なんかもう、この時点でデートというものを履き違えているような気がするのはさておき。
俺は、人生で初めてのデートを、一番あり得ない奴とする事になった。
よければブクマと評価をお願いします!