あたしはゴミじゃない!
ご主人はまだ戻ってこない。
お月様が見えるけれど、ここは暗くて寒くて寂しい・・・。
一体ここがどこかなんて・・あたしには分からない。
でも待つの!『ララ、ここにいるんだよ』って言いつけだから。
あたしはちゃんとご主人の言いつけを守って待ってる。
ご主人にほめてもらいたいから・・・。
ララはいつの間にか寝ていました。見慣れない場所での不安はあったものの、ご主人を待ち続けて疲れていたのでしょう。カラスがギャーギャー騒いでいるので、目が覚めました。辺りを見回すと薄らと夜が明けかけていて、目の前にじろじろと自分を見ている黒々としたカラスに囲まれていました。ララの目の前まで一羽のカラスがチョンチョンと進み寄って言いました。
「おい!デカイの、お前は何モンだ?ここは俺たちの縄張りだぞ!」
「え?縄張り?・・・それはごめんなさい。だけどあたし、ご主人にここにいるんだよって言われてるのよ。」
縄張りと言われてララはその場でパッと立ち上がりました。起き上がってみて改めて周りを見回すと、そこはゴミの収集場のようでした。ララはゴミ収集場の街灯にリードでつながれていました。カラスが続けて言いました。
「はあ?ご主人?お前って・・・もしかして犬なの?・・・ふうーん、いちを首輪をしているけど、犬には見えなかったぞ。」
「失礼ね、これでもドッグショーで優勝したこともあるのよ!サラサラの毛並みが自慢なんだから。」
カラス達はララの言葉を聞いてゲラゲラと笑い出しました。
「サラサラの毛並み!?どこがだよ~。お前の毛並みなんかモコモコ、ボサボサじゃないか!」
そう言われて自分を見てみると、サラサラだった毛並みがあちこち毛玉だらけ、伸びに伸びた体毛もボサボサ・・・。トリミングもしばらくされていなくてすっかり様相が変わってしまっています。カーーーっと恥ずかしくなり慌てて目を伏せました。
追い打ちをかけるようにカラスが言いました。
「お前・・・、どうせ捨てられたんだろう。こんな所につながれたまま置いていかれるなんてさ、おかしいじゃないか。ここはゴミ置き場だぞ。」
「そうだよな、・・ってことはコイツもゴミってことだよな。オレら食べてもいいんだよな。」
もう一羽のカラスがピョンピョン寄ってきてそう言いました。
「あたしはゴミなんかじゃない!!バカにしないで!」
自分のことをゴミ扱いされて怒りました。しかしカラス達はおかまいなしに言い続けます。
「だけどこいつよく見るとあんまり美味しそうじゃないな~。はははは、まあでも弱ってきたら一気に食べてやろうぜ。腹の足しにはなるだろう。」
ララは食べてやるという言葉にぎょっとしました。
「ささ、もうじき人間がゴミ出しにやってくる時間だ。邪魔にされて追っぱわれないように隠れるぞ。食える物が沢山あればいいけどな。」
カラス達はそう言うと一斉にどこかへ飛んで行ってしまいました。
ララはほっとしました。
太陽が昇るとゴミ袋を持った人が次々に、ゴミ収集場へ集まって来ました。みんな持ってきたゴミ袋を指定の場所に置く度に、ララをジロジロ見ました。
「あの汚いのはなあに?犬なのかしら・・・?」
「なんでこんな場所に繋がれているの?やだ捨て犬?」
「まあ・・・随分大きいのね。襲って来たりしないかしらねえ?」
「ゴミをあさったり、荒らしたりしないかしら。」
口々にララの事を怪訝そうな顔をしながら話しています。ララは不安気に人々の顔を見ました。『ご主人・・早く迎えに来て下さい!』ララは怖くて体をぎゅっと構えながら耐えていました。