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ついに、ルイーザ島の修学旅行のハイライト、打ち上げパーティーの当日がやってきた。夜の12:00に、前世の父ことリードン元執事と待ち合わせて、フリッツの転移魔法で国外へと逃亡する。

アレンは、昨夜から緊張でなかなか寝付けないでいたが、フリッツはいつもと変わらない様子で、朝食後に呑気にあくびまでしている。

(また随分と余裕みたいね…)


「フリッツ、父さんと連絡は?」


心配になって、アレンが小声でフリッツに話しかける。


「うん、大丈夫だ。親父がここまで連れてくる。」


「親父って、ロイドおじさんだよね、それなら安心だね。」


イバロアにいた時、お世話になった、アイリーン邸の魔法使い、ロイド・オーベルはかつて王宮で勤めたことがあるほどの、高度な魔法の使い手だったらしい。


「…アレン、何度も聞いて悪いが、本当にいいんだな?」


「え? どうして?」


「いや…正直、俺はゲームの世界のことはよく分からんが、昨日のルイス殿下の様子を見る限り、お前に、とても極刑を言い渡すようにはみえなかったんだが。」


「…フリッツは、実際にシナリオの場面を見てないからだよ。」


アレンは暗く俯いた。


「シナリオねぇ…」


フリッツは、困ったように後頭部を掻いて、ため息を吐いた。


「とにかく、私は、今世では父さんと喫茶店を開いて、幸せになると決めたの。絶対、悪役令嬢にはならない! フリッツが協力してくれないなら自力ででも―――」


「おい、声がデカいぞアレン、何も協力しないとは言ってないだろう。わかったよ。俺は、お前の選んだ道を全力で応援してやるから。」


アレンを宥めるように、フリッツが

ポンッと頭を叩く。


「ごめん、本当にありがとう、フリッツ…そうだ、これ!」


アレンは、昨夜、ルイーザ島のセリマ女王から貰った、魔力増強の夜光貝のブレスレットをフリッツの腕に結びつけた。


「おい、これはお前が貰ったものだろ?」


「大した魔力のない、私がしてても意味ないから。フリッツにもらって欲しいの。」


「アレン…」


「こんな危険に巻き込んで、本当にごめんなさい。」


(いくら魔力が高いからといっても、まだ一介の王立学園の生徒に過ぎないフリッツが、王太子の目を欺いて、婚約者の侯爵令嬢を国外逃亡させようとしているのだ。どれほどの重圧を背負わせているのか…)

すると、俯いたアレンの頬をフリッツがつねった。


「…ッた! な、何するの?!」


「もう決めたなら、笑って前を向けって! 俺は、新しい店で、またお前の紅茶が飲みたい。それでチャラにしてやるよ。」


ニッと笑った、フリッツの笑顔が眩しい。


「お、おい、泣くなよ。」


フリッツが居てくれて本当によかった。感謝で自然と涙がこぼれる。

(もう迷わない。新しい場所で、アレン・バーデンとして必ず幸せになろう…)


◇◇◇


ルイーザ島での打ち上げパーティーは、会場の規模の違いを除けば、エヴァグリーン国での舞踏会にひけをとらないほど豪華だった。

今年は、ルイス王子が出席したことも大きいかもしれない。

だが、肝心のルイス王子は、セリマ女王とルイーザの王女たちとダンスを踊った後は、次々に群がる女性たちに辟易したようで、早々に会場を後にしてしまった。

アレンはアレンで、昨日の晩餐の席で、セリマ女王から称賛を受けたことによって、急に人気がうなぎのぼりになり、今は、多くの生徒たちに囲まれている。


(11時45分…そろそろ会場を出なきゃ…)


「ちょっと、風に当たってくるね!」


アレンは、人の波を掻き分けて、やっとのことで大広間を抜け出した。

外は、風一つない不気味なくらい静かな新月の夜だった。

フリッツとの待ち合わせは、ルイーザ島の古代遺跡の一つ、トーラス神殿。ここから10分歩けば到着できる。アレンは、衛兵の目を掻い潜って、息を殺して必死で向かった。


到着した神殿の前には、半年ぶりに再会した父の姿があった。


「美羽…!」


「父さん! 会いたかった…!!」


父は笑顔だったが、少し痩せたようにもみえる。


「アレンも神殿の中央に立ってくれ、早く。」


フリッツは、銀色のローブを身に纏い、宝玉のついた杖を握っている。緊張のせいか、顔つきがいつもより引き締まって、大人っぽくみえる。


「準備はいいか?」


「うん、フリッツお願い。」


神殿の中央に立ち、父さんと手を握り合う。

フリッツが杖を天に翳すと、白い大理石の床に魔方陣があらわれた。それは、フリッツの詠唱が進むに連れてクルクルと、光を放ちながら周りはじめる。


(すごい…)


この世界で、こんな本格的な魔法、はじめてみる…。

下からの強い風圧に思わず、父さんと肩を寄せ合った瞬間だった。


「何をしている?」


低く、無機質な声だった。あまり声量は感じないのに、不思議と耳に重く響いた。


「ルイス殿下…」


暗闇で光る、宝石のような碧い瞳が、恐ろしいくらい美しかった。

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