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(ルイス王子視点)


今日は、カミーユと過ごす月に一度の休日だ。

今まで、カミーユに贈ったルビーの指輪で彼女を探すため、国土を広げる必要があったから、国策を動かすために、あらゆる政務に手を出してきた。出し過ぎたと言ってもいい。とにかく、7年間必死だった。けれど、それもようやく一段落した。引き留める宰相や大臣以下を説得するのには骨が折れたが、父である国王陛下に、本分の学生に戻りたいと直談判して、しぶしぶ了承を得てからは、政務の引き継ぎも比較的スムーズに行うことができた。

不覚にも、王立学園は一年で卒業してしまったから、その上の魔法大学の研究生として学校に戻る訳だが、校舎も王立学園に隣接しているから、これからはちょくちょくカミーユにも会いにいけるだろう。

ちょうど、もうすぐ、アレンからカミーユに戻る、約束の6ヶ月を過ぎる。晴れて公認カップルとしてイチャイチャ…いや、仲睦まじい姿を学園の皆にも披露できるだろう。特に、あのフリッツとかいうフローリア邸の小間使いには、思い知らせてやらねばならない。カミーユは、いずれこの国の妃になる身分。他ならぬ王太子である、私の婚約者なのだと。


「殿下、カミーユお嬢様がいらっしゃいました。」


扉が開かれると同時に、制服姿のアレンが現れる。カミーユの、この凛とした少年のような姿も悪くない、が、もうすぐ見納めか。


「よく来たね。私の隣においで、カミーユ。」


「はい、殿下。」


(今日はやけに素直だ。いつもは、恥ずかしがって距離を取りたがるのに…)

カミーユは、体温が感じられるほど、ピッタリと私に寄り添ってソファに座った。

(何気ないことだが、実際、カミーユとの距離が近くなったようで嬉しい。思わず頬が緩む。)


「殿下、少し…屈んでいただけますか?」


「ん?」


言われた通り、彼女を覗き込むように背中を屈めた。

(アレンの黒い瞳も、カミーユの意思の強そうな印象そのままで、私を惹き付けて止まない。)

思わず見とれていると、次の瞬間、柔らかいものが唇に触れた。


「…っ」


(まさか、彼女から、キスをしてくれるなんて。)

愛しい(ひと)からの、不意打ちのキスで、自分でも、みるみる顔に熱が上るのが分かった。思わず片手で顔を覆う。


「殿下! お顔が真っ赤です。お熱でも――――あっ。」


額に、手を当てようとする彼女の手を取って、そのまま身体ごと引き寄せる。


「んっ」


元の姿に戻った、カミーユの薔薇の唇に、何度も何度も口付ける。途中抵抗するように胸を叩かれたが、その仕草さえも可愛くて、ただ、愛おしい。


「…っ…殿下、もうっ、嫌ですっ」


抗議するように、潤んだルビーの瞳は、やはり私の心を捉えて離さない。


「ごめん。まさか君からキスしてくれるなんて思わなかったから。嬉しくてつい…ね。」


距離を取ろうとする、カミーユの両手を掴んで、それを阻止する。


「ドレスルームで、支度をして参ります。」


そう言って、ふいっと顔を逸らすカミーユの頬に、ちゅ、と口付けると、彼女はビクッと肩を震わせた。

(何て可愛いんだろう…いつも可愛いが、今日は特に可愛い…)


「あぁ、行っておいで。そう、来月両陛下に挨拶する時のドレスも用意したから、それも試着してみて。きっと君に似合う。」


「…わかりました。ありがとうございます、殿下。」


彼女の顔が一瞬曇ったように見えたのは気のせいだったか。


◇◇◇


(カミーユ視点)


ドレスルームの中央には、ビロード生地のマゼンタ色のドレスが用意されていた。デザインはシンプルながらも、銀糸と細かいダイヤで施された薔薇をモチーフにした刺繍が美しい。


「まぁ、素敵っ。色合いも雰囲気もお嬢様にピッタリですわ!」


カミーユよりも先に、感嘆の声を上げたのは侍女マリーだった。


「本当に素敵なドレス…」


(着ることもないだろうけど…)


「早速、試着して殿下にお見せしましょう!」


「え?」


マリーは、はりきって腕まくりしている。

(どうしよう…でも、殿下が私のために用意して下さったドレス…一度は着てみたい。それが、カミーユの本心だった。今日は、ルイス王子と二人きりで過ごす最後の休日。最後くらい、自分の中のカミーユの好きにさせてあげたかった。

だから、さっきも、自分から殿下に寄り添ってキスしてみたんだけど、まさかあんな返り討ちにあうとは…殿下がキス魔なことをすっかり忘れてたわ…)

先ほどの展開が、急に蘇ったカミーユは、また頬を真っ赤に染めた。

マリーは、その間もテキパキと、カミーユの支度を整える。


「さっ、お嬢様できましたよ。」


マリーは最後に、ルイス王子から先日プレゼントされた、紫サファイアのネックレスをセットした。


「マリー、これはちょっと…」


紫は、王族の宝飾品の色だ。いくら王子の婚約者といっても、易々と身に付けていい代物ではない。


「お二人の時なら、良いのではありませんか? では早速、殿下を呼んで参りますっ。」


(きっと、宝石は、何かの手違いで

この石になってしまったんだわ。これは、未来の王妃がつけるべきもの。よい機会だから、このまま殿下にお返ししよう。)


カミーユは、大きな鏡に映った、王太子妃として申し分ないほど、完璧に着飾った自分の姿をみつめて、ほうっ、とため息を吐いた。


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