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「へぇ、アレンは、そんなに授業が難しかったか?」


白を基調とした、天井の高いカフェテリアで、フリッツとランチととりながら、カミーユはため息を吐いた。


「うん。ついていくのがやっとだよ。ていうか、フリッツだってずっとイバロアにいたのに、何でこの国の難しい言葉が分かるの?」


(考えてみれば、ここは国中からのエリートが集まっている王立学園だ。そうでなくても、カミーユは、9歳でこの国を離れて以来、まともな教育を受けていないのだ。前世のゲームでは、もちろん王立学園の授業なんて出てこなかったから、完全に甘くみていた。)


「まぁ、俺は書物を漁るのが、趣味みたいなもんだからな。正直、授業だけじゃ物足りないくらいだ。」


そう言って、フリッツは実に爽やかに笑った。


「フリッツに相談した、僕がバカだったよ。」


アレンが、多少恨みがましい視線をフリッツに向ける。


「わかったよ。俺が、放課後図書館で勉強みてやるから。」


「えっ、別に悪いからいい――あっ」


フリッツは、カミーユがスプーンで掬ったプリンを、パクッと口に入れた。


「授業料はこれで許してやるよ。」


「フリッツってば…」


(何だか、フリッツはすごく楽しそう。きっと王立学園で勉強できるのが嬉しいのね。とにかく、しばらくは恋愛ゲームどころか、勉強づけの毎日になりそう…。)


カミーユは、重い足取りで午後の授業へ向かうと、教室の中から男子生徒の騒がしい声がする。


「おい、お前、珍しい髪色だな。」


「この国の貴族じゃないな。どこの馬の骨だ?」


「高そうな時計してるな。見せてみろよ。」


(やだ、入学式早々いじめみたいな…)


男子生徒の輪の中にいたのは、この国では珍しい銀髪の、少し小柄な男の子だった。長め前髪と、眼鏡のせいで顔はよく見えなかった。

抵抗らしい抵抗はせず、されるがままになっている。


「おい、この時計、イバロアの国旗が描かれてるぜ。」


「あぁ、あの貧しい国の出身かぁ。」


「はっ、ダッセェ!」


「ルイス殿下の恩情なければ、あんな弱小国とっくに滅んでたんだぜ。」


輪の中の一人が、男の子の時計を取り上げて、ひょいっと手を上げた。


「っ、返してくれっ」


「おっと」


時計を手にした男が、別の仲間に投げる。

(…前世でも、今世でも、イジメは存在するのね。本当に嫌だ。)


「ちょっと!」


アレンは、気づいたら男たちの輪の中に入っていた。


「なんだお前?!」


「どこの家の者だ? 名を名乗れよ。」


「僕は、アレン・バーデンだ。彼と同じイバロアの出身だ。早く時計を彼に返せ。」


「はっ、あんな弱小国の留学生がこの教室に二人もいるなんてな。」


「全く目障りだ、なんだお前、手袋何かして!」


「あっ、やめっ…」


スッと手袋を抜き取られ、巻いた包帯がさらされる。ルビーの指輪は見えないが、宝石のシルエットは、うっすらと浮かび上がってしまっている。


(ヤ、ヤバ…王家の紋章が掘られた指輪が見つかったら、ややこしいことに…)


「おい、お前ら何してる!」


(あーっ!)


カミーユは、心の中で叫んだ。


(彼は、公爵家の次男、イーリス・カーター。ルイス王子と同じ魔法大学に在籍していて、この学園の教師も兼任している。艶やかなロングの黒髪と、紫色の瞳が印象的な、大人の男性の色気溢れるの攻略対象の一人だ。ちなみに前世のゲームでは、イーリス様を攻略するのは、ルイス王子の次に難易度が高い。)


「授業を始めるから、全員、席につけ。」


そう言いながら、イーリス様は、時計を元の男の子に手渡し、アレンの左手に手袋をはめてくれた。


◇◇◇


ゲーム通りのバリトンボイスが美しい、イーリス先生の授業の後、先ほどの男の子がアレンの前にやって来た。


「ごめん、僕のせいで、君まで嫌な目に合わせてしまって…。」


男の子の声は、変声期が終わっていないようで、少し高い。


「ううん。僕こそ、何にも助けにならなくて。」


アレンは慌てて首を横に振る。


(とはいえ、さっきは、頭に血が昇って、つい飛び込んでしまったけど、あのまま誰も来なかった場合に思い至ると、目の前が真っ暗になる。)


「僕は、パドン・イラータというんだ。失礼だけど、アレン君、イバロアでカフェを開いてなかった?」


少し自信なさそうに、パドン君が尋ねる。


「えっ、どうしてそれを?」


(イバロアでも、あんなに小さな田舎の町のことをどうして…)


「やっぱり! 僕は、都の近くに住んでいたんだけど、君の紅茶が美味しいって評判を聞いて、店に飲みに行ったんだよ。」


「うそっ、都からわざわざ? 嬉しい!」


「うわぁ、僕こそ嬉しいな。こんなところで、イバロアに縁のある人会えるなんて。」


パドン君の声は、すっかり明るくなった。


「僕でよかったら、友達になってくれる?」


そう言って、ニコッと、はにかんで笑うパドン君に、カミーユも嬉しい気持ちになった。

(この国からしばらく離れていたし、貴族としての教育も中途半端にしか受けていなくて、しかも男性の成りをした自分に、フリッツ以外の友達ができるなんて思わなかった。)


「もちろんだよ、よろしくね、パドン君。」


周囲のクラスメイトの嘲笑を余所に、カミーユとパドンは、ほんわかと友情の握手を交わした。

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