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早朝からルイス王子の寝所の大きなベットで押し倒されている…。


しかも彼は、私がぶっかけたバラ水のお陰で、首筋から肩の辺りまで芳香を放ちながら滴る液が、何ともセクシー…いや、ここまでくるとエロスという言葉では足りない。むしろ朝の逆光も相俟って、彼の全てが神々しくみえる…。ルイス様には悪いが、今となっては本当にバラ水をぶっかけてよかった。

前世でこんな素敵なスチルをもらったら、自分は身悶えてどれほど喜んだだことろうか…けれど今、ここは現実の世界だ。あまりに刺激が強すぎて、ルイス王子を直視できるのは、3秒が限界だ。


「カミーユ。なぜ、急にフローラル邸の者と一緒に王立学園に入りたいと?」


王子は穏やかな声だったが、あくまで瞳の奥はするどい。


「なぜって…アイリーン様の高度な治癒魔は殿下がご存知の通りですし…」


(もしかしたら、アイリーンに関しては、私が進言するまでもなくゲームのシナリオ通り、既にルイス殿下は入学の推薦状の準備をしていたかもしれないけど。)


「治癒魔法?」


王子は首を傾げる。


「え? ハナリンダの森でアイリーン様から、治癒魔法で手当てを受けられたでしょう?」


「手当て? なぜ私が?」


「え? 鷹狩りで落馬して怪我をされたんじゃあ…」


王子はきょとんとした表情になった。


「鷹狩り? 誰のことを言っている? 仮にそうだとしても、私がそんなマヌケなことをするように見えるか?」


王子は半眼になって、ふっと息を吐いた。


「…? では、どうして殿下は、あの日あの場所にいたのですか?」


◇◇◇


(ルイス王子視点。)


アレンの曇りのない瞳が、じっとこちらに向けられる。

あの日あの場所にいたのは、当然、

カミーユのルビーの指輪によって彼女の居場所が分かったからだ。ハナリンダの森は、彼女いるだろうフローリア邸へ向かう最短ルートだった。

まさか、突然嵐に襲われるとは思わなかった。アイリーン嬢とは偶然そこで遭遇しただけだ。


(ルビーの指輪でカミーユの居場所が特定できることは、当分、秘密にしておきたい。)


もう一度、愛しい彼女の額にキスをしてから、ゆっくりと身を起こして、ベットサイドに腰かけた。


「殿下?」


彼女は拘束が解かれて、ホッとしたようだが、すぐに怪訝そうな顔になった。


「殿下、何か隠して――――」


こういう鋭いところは、さすがは私の未来の妃といったところだろうか。


「君からキスしてくれたら、入学を許そう。」


どさくさに紛れて、彼女の台詞に食い気味に被せる。

別に、カミーユの王立学園の入学はこちらも願うところだ。国の最高峰の教育はもちろん、あそこには将来、国の中枢を担うであろう人物がたくさんいる。国の妃になる彼女に、そこで人脈を広げてもらうのは必要なことだ。

ただ、欲を言えば、もう少しカミーユをすぐ側に置いて、彼女の時間を一人占めしたかった。王立学園に入学したら、そのまま学生寮に入ってしまう。まだ、最愛の(ひと)と再会して間もないというのに…。それに、一緒に入学する者に、フローリア邸でいかにも親しげだったフリッツ・オーベルの名が出たのも気にくわない。

彼女の真意を知りたくて、カミーユをジッと見つめると、カミーユは頬を赤く染めた。ダメだ…何て可愛いんだろう。


「い、今、キス…と仰りましたか?」


「そう、今ここで。」


彼女を自らの太腿の上に乗せて、横抱きにする。


「ぁ…で、でも…キスしたらカミーユの姿に戻ってしまいます。」


胸に手を押し当てて逃れようとする彼女の腰をグイッと引き寄せる。


「二人きりだから問題ないだろう?」


(もう待ちきれない…こちらから奪ってしまおうか。)


「わっ、分かりましたから!」


次の瞬間、やわらかな彼女の唇が触れた。それは一瞬だったのだけれど…。


「…。」


「殿下? お顔が赤いです…お熱でも…?」


腕の中の、煌めくルビーの瞳が心配そうにこちらを見つめている。

自分でも信じられないくらい顔に、熱が集まっているのが分かって、思わず片手で口許を覆う。


「あの、殿下?」


「…約束だ。入学は許す。カミーユ、朝食を一緒にとろう。」


(恋とは何と不思議なものだ。カミーユのキス一つでこんなにも心が満たされる。彼女が側にいるだけで、足りないものなど何もない。一週間前までの、空虚な味気ない世界は、彼女の存在によって嘘のように一変してしまった。)


「殿下! 入学の許可をありがとうございます。ただ今は、給仕係のアレンなので、朝食はご遠慮します。」


せっかく6年ぶりに会えたのに、彼女のこの距離感が歯がゆい。

カミーユに戻った彼女の、艶やかな紅色の髪を、一束掬って口づけた。


「アレンの姿も悪くないが、私はやはり、君の紅色が好きだな。」


ルイス王子が手元のベルを、チリン、と鳴らすと扉の向こうから、侍女のマリーが姿を現す。


「カミーユ。向こうの部屋に、ドレスが仕立ててあるから支度をしておいで。」


「さ、お嬢様、こちらへ。」


「マ、マリー」


侍女のマリーは、戸惑うカミーユを隣の部屋へ素早く先導する。

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