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王宮に来てから一週間が過ぎた。


ルイス殿下からは、毎日、朝・昼・晩と就寝前にお茶を入れるように言われていたけれど、王子は、既に、外交を主とした政務が忙しいようで、4日前の朝に一度顔を合わせただけだった。それも、朝食には手を付けず、ルビー色の紅茶をそれはそれは嬉しそうに、ゆっくりと時間を掛けて味わっていくから、何だかここにきた日の夜に感じた恐怖が嘘だったのように、拍子抜けしてしまった。


「お嬢様。」


カミーユに与えられた部屋の、大きな扉を侍女マリーがノックする。


「マリー、ありがとう。入って。」


テーブルに踏み台を乗せて、本棚を掃除していたアレンが、羽はたきを持って振り替える。


「まぁ、お嬢様! お掃除なら私がやりますから。」


「いいのよ。他にやることもないし、こんな広い部屋一人で掃除するなんて大変でしょう。それより、どうかした? おっと…」


「お嬢様!」


少しフラついただけなのに、マリーに激しく促されて、カミーユは渋々、テーブルを降りた。


「お嬢様に、お手紙が届いております。」


「手紙?」


受け取った手紙の宛名は、アイリーンからだったが、筆跡が明らかにフリッツのものだった。


『アレンへ


王宮での暮らしはどうだ?

まず、親父さんは無事だから安心してくれ。

急ぎで一つ、アレンに頼みたい事がある。アイリーン嬢と俺を、王立学園へ入学させてもらえるよう、ルイス殿下に、進言してはもらえないだろうか?

無理は承知でお願いしている。だが、アイリーン嬢は、最近、そろそろルイス殿下から、入学の推薦状が届くはずなのに、と何の根拠もない訳の分からないことをブツブツ言っている。

最初は、世迷言と思っていたが、アイリーン嬢が、今にも屋敷を飛び出して、直談判に王城へ乗り込む勢いだったから、何とか俺が宥めて、今こうして手紙を書いている。

確かに、アイリーン嬢の魔力は目をみはるものがあるから、その力を正しく活かせれば、国のためにもなるだろう。

俺は、お前を王宮から逃がすために王立学園へ入学したい。細かい事情は分からないが、まだ、アレンがイバロア国に来て間もないころ、親父さんに聞いていたんだ。エヴァグリーン国に居たら、アレン、お前の命が危険だと。王城に近い学園なら、俺も動きやすい。

俺にとってお前は、侯爵令嬢のカミーユ・オッセンじゃない。幼いころからの大切な親友、アレン・バーデンだ。どんな状況でも、必ず助けるから待っていてくれ。』


読み終えると、ボウッと青い炎で手紙は跡形もなく消えた。


「フリッツ…」


「お嬢様…これは一体…」


フリッツの魔法で上がった炎に、マリーは目を丸くした。


「マリー、手紙のことは絶対殿下には言わないで。」


「…かしこまりました。」


マリーは、カミーユの緊張した空気を察して、それ以上は何も聞かなかった。


「マリー、殿下のお戻りはいつ?」


「明日の朝と聞いております。」


「そう…」


それにしてもおかしい。ゲームのシナリオだと、例のハナリンダの森で怪我したルイス王子を、優れた治癒魔法で手当てしたアイリーンは、すぐさま、王立学園の入学の推薦状を、ルイス王子から送られるはずなのに。


(まさか殿下は、忙しすぎて、うっかり忘れているのかしら…)


隠しキャラの攻略対象、フリッツはともかく、ヒロインのアイリーンが王立学園に入学しなければ、乙女ゲームのストーリーは進まない。


(このまま、アイリーンが王立学園に入学しなければ、二人の仲は深まらないのでは…?)


カミーユの頭を、ふと淡い期待がよぎる。


(いや…そんなはずはない。既に二人はシナリオ通りに出逢ってしまった。こうなった以上は、アイリーンに、ルイス王子の心を掴んでもらって、婚約を解消された私は、罪を犯す前に、父さんとこの国を出て平穏に暮らす。それが最善の策だ。

前世では、突然父さんを残して逝ってしまったから、今世では、親孝行もたくさんしてあげたい。フリッツまで巻き込んでしまって申し訳ないと思ったが、魔力が低いカミーユでは、再び王宮から逃亡するのは難しいだろう。)


大きく息を吐いて、カミーユは明日朝一番に、ルイス王子のところに行く決心をした。


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