表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/55

11

馬車が、王宮に着いた頃には、すっかりと日が暮れていた。久しぶりにみる、魔法でライトアップされた王城は、幻想的だった。


「抱き上げて、部屋まで運ぼうか?」


クタクタになったカミーユを見下ろして、悪びれもせず王子が微笑んだ。


「け、けっこうです!」


結局、ルイス殿下は、馬車が密室なのをいいことに、衣服で隠れていない、カミーユのあらゆる(ところ)に、キスを落とした。まるで、腕の中に戻ったお姫様の存在を、文字通り噛み締めるかのように。

(ルイス王子が、こんなにキス魔だったなんて、知らなかった。ゲームでもそんな設定なかった気がするけど…大体、氷の王子様はどこへいったのよ! とにかくこのままじゃ身が持たない。)

カミーユは心臓を押さえながら、やっとのことで立ち上がる。


「では、行こうか。アレン(・・・)


馬車のステップを降りる時、優雅に差し出された王子様の手を、カミーユは勢いよく振り払う。それを見た出迎えの従者たちは、驚いて動揺していたが、気付かないふりをした。

(半年後には、ここを…彼の元を去るんだから、気を強く持たなきゃ。)


カミーユは、大きく深呼吸すると、大股で男のように、壮麗な王城へと歩き出した。


◇◇◇


案内された部屋は、使用人の部屋とは思えないほど広かった。家具や調度品は一流で、天井にはシャンデリアまで輝いている。


「殿下、こんな豪華な部屋には住めません。」


「君は将来、僕の妃になるんだ。表向きは使用人として接するが、ここで暮らしてもらう。」


「そんな…」


部屋を見回すと、家具はかつてオッセン家で使用していた、カミーユの使い慣れたものに似ていた。既に焚きしめられた花の香は、幼い頃に大好きだったものだ。カミーユの胸に、忘れていた懐かしさが、じわじわと温かく込み上げる。


「お嬢様…!…なのですね?」


(マリー!)

かつて一番親しかった乳母の、マリーが扉の奥からやって来る。思わず、駆け寄りそうになるのをグッと堪えて、王子に疑いの眼差しを向ける。


「君のことを伝えたのは、彼女だけだよ。何かと力になってくれるだろう。」


ルイス王子は、ため息をついた。


「お嬢様!!」


「マ、マリー…会いたかったわ…」


マリーに、思いっきり抱き締められると、自然と涙が溢れた。


「は、これは妬けるな。」


ルイス王子は、そう言いながらも、腕を組んで穏やかに微笑んだ。


ほどなくして、ドアがノックされる。


「殿下、イバロア国からの使者がおいでです。」


(…! イバロアは今まで私が身を隠していた国…使者が来たということは、もう国が堕ちたということだろうか。)


「その者の相手は、父上だけでよいであろう。」


急に、王子の声が冷たく無機質になった。


「ぜひにも、ルイス殿下にご挨拶がしたいと…昨日からお待ちですが―――」


「既に、戦後処理は宰相に引き継いである。」


王子は、不機嫌に早口になった。


「それが、他国からも多数、殿下にお目通りしたいと望んでいる者も殺到しておりまして…」


(きっと各国の使者たちは、影ながら、既にこの国の実権を握っている、ルイス王子に直接会いたいに違いないわ。今後、少しでも良い条件で交渉ごとを進めるために。私が口を出せる立場ではないけれど…。ふいに、イバロアの喫茶店で出逢ったお客さん達の笑顔が脳裏に浮かぶ。)


「殿下、どうかお逢いになって下さい。私からもお願いいたします。」


真っ直ぐに王子を見て頭を下げると、王子は少し驚いたように目を見開いた。


「なぜ、君がそんなことを頼む?」


王子は、こちらの意図を見透かすように、目を細めた。


「あ、あの…」


(どうしよう、上手い言葉が見つからない。父さんと、イバロアにいたことは秘密にしたいし…。)


「…そうだな。イバロアは、君が世話になったようだから、たっぷりと礼をしなくてはいけない。」


「えっ」


(なぜ、私がイバロア国にいた事を知って…?!)


王子が浮かべた冷笑に、カミーユの背筋がゾクリとする。


「夕食は一緒に取れない。就寝前に私の部屋に紅茶を頼む。」


唖然とするカミーユの頬に、王子はもう一度キスを落として、部屋を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ