いち
『 れべる : 55/60
ちから : 85
たいりょく: 104
わざ : 46
はやさ : 40
ちりょく : 25
せいしん : 30 』
うーむ。
『 れべる : 56/60
ちから : 85
たいりょく: 105
わざ : 49
はやさ : 40
ちりょく : 26
せいしん : 30 』
いやなんつーか、切りのいい数字ってあるじゃん? なんかこう、なるべく半端にしたくない気持ち、あるじゃん?
だからこう、とりあえず最低限、遺跡を通れる分は確保してだな。そんで、やっぱ俺といえば体力なわけよ。まずそこを調整してさ。んで、技も半端だったしさ。これで次はぴったり計算が合うって寸法よ。
なにはともあれ。
いよいよか。
◇
「ノノ、なんか食いたいモンあるか?」
「……もち」
アージ・デッソ中央広場の噴水は外縁の補修がまだ済んでいないものの、構造部に被害は無かったようで今もなみなみと清水をたたえている。
そろそろ弁を閉める時期だ。この光景ともしばらくお別れだな。
先日までは平時の喧騒が嘘のように閑散としていたが、やはり商売人は強い。急遽拵えたような荒く組まれた屋台がまたずらずらと並んでいる。人の往来もすっかり元どおりだ。
「これ好きだよなぁ」
「カボチャすき」
ごろっと大ぶりの鳥串を一本たいらげ、次にノノが手にしているのはカボチャ餅串。むっちんむっちん齧っている。
同じくガンズーもむちむち。
遠くの空を渡り鳥が飛んでいる。冬から逃げるためだ。あるいは今まさに、冬と戦っている。
彼らはどこへ向かうのだろう。きっと南だ。海を渡るのかもしれない。内海を越えて南へ。聞くところでは、砂漠の外縁に連なるように小さな国がいくつもあるのだという。
ガンズーたちが勝てば、海が渡れるようになる。カルドゥメクトリ山脈も通れるようになる。世界がひらく。
でも、
「すぐ帰ってくるさ。あっという間だ」
「ん」
「あんなババァ、一発ひっぱたいたらきゃーんだぜ」
「きゃーん?」
「おう。ついでに蒲焼にでもしてやって、ノノにも食わせてやるか」
「おいしくなさそう」
「わはは。そうだな」
「お魚がいい」
「そうだな、また釣りやるか。そうだ、戻ってきたら海のほうも行ってみるか?」
「マグロ?」
「マグロ釣れるくらい遠くは、もうちょっと大きくなってからな」
「ん」
もっちんもっちん。
しばらくふたりで、のんびり餅を食べた。
あ、そうだそうだ。かまくら。雪の積もるころにゃ帰ってきてないとな。でっけぇやつ作らないと。
もち米とかあるのかな。そのうち外から輸入とかできるようになるのだろうか。つっても、近くの国に無かったら難しいか。やっぱこの餅みたいにデンプン練る方向で考えよう。作り方とか教えてもらえねぇもんか。
「屋台飯も意外と職人気質ですからねぇ。そう簡単じゃないでしょ」
隣のベンチにいつのまにか、男が座っている。髪を全て後ろに撫でつけた、細身の男。
揚げ腸詰めの串を齧っていた。
「ノノ、帰りに市場でも寄ってくか」
「サボテン」
「サボテンはもう無いかもしれねぇなー。梨とかうまいんじゃねぇか今」
「無視せんでくださいよ」
「憩いの時間を邪魔すんじゃねぇよぶっ殺すぞ」
「おぉ怖ぇ。すんませんね。こっちも仕事でして」
「魔物の犬になったバカがなんの用だ」
ジェイキンは半笑いで「手厳しいなぁもう」なんて笑っていた。マジでさっさと失せねぇとぶん殴るぞ。二秒前。一。
「伝言です」
「あぁ?」
「さっさと来ないと、また遊びに行っちゃうわよ。なーんて余裕そうに言ってましたがね、目ぇ笑ってないから怖いでやんの」
「黙って脱皮してろって言っとけ」
爆笑すると共に彼は立ち上がる。ごく普通に振る舞っているが、周囲の通行人はそこに人がいると気付いているようには見えない。
そのまま立ち去ろうとしたが、ふと、肩越しにこちらを振り向いて言った。
「あ、そうそう。ザンブルムスのことはね、俺、ちょっとおたくには感謝してるんですよ。なんだかんだ、嫌いじゃなかったんでね。あの人」
「……それがなんの因果でそっちにいるんだ」
「これはこれでツイてると思ってますよ。俺はとにかく、てめぇの身が可愛いだけですんで」
そんな言葉を残し、ジェイキンは雑踏の中に姿を消した。
まったく、邪魔しやがって。
「ガンズー」
残念ながら、なかなかのんびりとはさせてもらえない。
ノノと揃って声のほうを向いた。
銀髪の勇者が佇んでいる。腰には新調した剣を下げ、身体もすっかり回復したようだ。
「梨」
ガンズーの服を引っ張って、不服そうにノノが唇を尖らせる。
そうとも。もうあと少し、この時間。
のんびり梨でも食うさ。ノノと一緒にな。
◇
『ノノちゃん。ガンズーへ。
パウラだよ。
お母さんにお願いして、おてがみの書きかたを教えてもらいました。
ちゃんとひとりで書いたんだよ。すごいでしょ。
しゅうどう院のみんなにも書いたから、手が疲れました。
ノノちゃんがくれたブローチ、とっても大切にしてるよ。
つけるのもったいないなって思ってたけど、お母さんが、つけないほうがもったいないよって言うので、ずっとつけてます。
村のみんなに自慢しちゃった。
ガンズーがさいごに競争って言ってたから、勝ちたいです。
なので、ヴィスクさんとエウレーナさんにお願いして、いっぱい練習してます。剣ってすっごく重い。ガンズーってやっぱり凄かったんだね。
お母さんはちょっと困った顔をするけど、でも、がんばります。
いつかぜったい、みんなに会いに行くからね。わたしが先だからね。
だから待っててね。
みんなの絵を描いたから、送ります。パウラ』
手紙と併せて封されていたのは、少し大きめの一枚紙。
大きく奔放に描かれた三人の子供。
そしてその後ろに、ひと際めだつ巨大に雄大に描かれた巨人。
子供たちを包むように手を広げ、笑顔をしている。
というわけでガンズーは、泣きながら額縁を買ってきて、泣き止まないままそれを家の壁に飾った。
ノノも――対抗心でも湧いたのか――絵を描いたので、やはり隣に飾る。
だから家には今、子供を守る巨人の絵と、なにかが縦横無尽に走ったなにかの絵が飾られている。
◇
釣り竿は六本。適当な間隔を開けて並んでいた。
「ノノちゃん引いてる! 引いてる引いてる! ガンズー早よタモ!」
「いやいやいらねぇよタモ。小せぇって。なんでそんな張り切ってんだセノアは」
「……むー」
「ホントだ小さーい。これくらいじゃもうノノちゃん満足しないねー」
「今日はノノばっか大当たりだもんな」
「ねぇ、二本も持たされたら困るよ。僕に当たりが来たらどうするの」
「ここまでボウズのクセになに言ってんのさ」
「おや。そうこう言ううちに今度は私です」
「その藻がどうかしたか」
ノノを含めた勇者パーティの釣り大会は、もはやその子の独走状態だった。痺れを切らしたミークがアージェ川の水面に向けて短剣を構えだしたので止める。
最終的にトルムが川の中からアノリティを釣り上げ、そのアノリティがどでかいマスを抱えていたため彼の優勝かと思われたが、反則行為ということで無効になった。
とまれ釣果は上々。焚火を囲んで齧る新鮮な川魚。
そしてやはり、気心の知れた仲間との食事は楽しかった。
セノアの膝に座った――座らされた――ノノがアノリティと魚の取り合いをしている。トルムに叩かれた機械の手がきゅーんと鳴いた。
どうやらレイスンが気を利かせてくれたらしい。ほどほどの時間になると、彼らは席を立ち始めた。
「じゃあ、また明日」
「おう」
ふたりでのんびりと風呂に入った。本当にこの家はいい。すっかり慣れた、だからこそ最高の風呂。
これだけはノノの父カゼフに感謝しなければ。あー暖まる。
ぐっすり眠った。これでもかというほど眠った。
ただ、もぞもぞこちらへ上ってくる気配もあったので、そのときはしっかり毛布をかけ直してやった。
そうしてふたりで眠った。
◇
『ガンズー。それから、ノノへ。
お元気ですか。ぼくは元気です。
この前、タンバールモースへやってきた修道院のみんなに会えました。
久しぶりでとてもうれしくて、でも、急にいなくなってしまってごめんなさいと言うと、みんながやさしくて、ぼくは泣いてしまいそうでした。
だから、ふたりのことも気になって、手紙を書きました。
あれから、すごく大変だったって聞いて心配しました。
でもガンズーや、勇者のひとたちや、街のみんなでがんばって、心配いらないと言っていました。きっとそうだと思います。
ぼくは今、父上のところでいろんな勉強をしています。母上もやさしくしてくれます。弟も一緒に暮らしてます。
新しい先生が来て、コーデッサさんでした。ビックリしたけど、いろんなことを教えてくれて楽しいです。ま術も少しできるようになりました。
それと、バシェットさんの話もちょっとだけ聞けました。
ときどきシーブスさんが来て、父上はあまりうれしくなさそうだけど、ぼくに稽古をつけてくれます。すごく大変だけど、がんばります。
それと、もっとときどき、一緒にシーブスさんの友だちの騎士さまが来て、シーブスさんは友だちじゃないって言うけど、ま術とか剣のコツをこっそり教えてくれるので、きっといい人だと思うけど、名前を教えてくれません。
父上を手伝うのと、騎士になるのと、どっちもやるのは大変だけど、でもぼくは他にもやりたいことができました。
いつか、ぼくも遺跡に行けるようになりたい。
そのときは、ガンズーにも負けないくらい強くなりたいです。
ぼくもがんばるから、ガンズーもがんばって。
ノノ、きっといつか、ぼくは自分の力で会いにいくね。
また手紙を書きます。アスター』
街のどこかからタンバールモースの方角へ向かって、なにやら遠吠えのようなものが響いたというが、ガンズーは心当たりが無いと言い張った。
◇
西門の前に集まった見送りは、ちょっと尋常じゃない数である。
下手をすればアージ・デッソの住民が片っ端から集まったのではないかというほどひしめいて、人垣をなしている。
アノリティの言うとおりならば、遺跡の深部には、魔王境界を越えることができる手段がある。
辿り着いたならば、そのまま決戦へ向かうことになるだろう。
そんなつもりは全く無いが――これが別れという可能性もある。
だが、そんなことを考えている者はこの場にひとりもいない。
見知った顔にひととおり挨拶をしていると、人波が割れた。のしのしとオーリーのおやっさんが歩いてくる。
押しつけられたのはひと抱えの袋だった。中には日持ちがするよう丁寧に拵えられた保存食がたっぷり。
受け取れば、それきり彼はまた街へと戻っていった。あのオヤジは本当に最後までほんっと、あのオヤジ。
遠くで佇むラダに顔を向けると、ひとつふたつ頷いていた。おうとも、わかってるよ。
「任しといてくださいっす」
「なんも言ってねぇだろ」
「いやだって、ここはあれじゃないっすか。俺がいない間はノノのこととか街のこととか頼む、的な」
「おめーに頼んでもなぁ……」
えー、と顎を突き出したドートンに、「冗談だ」と続けた。
「任せたぞ」
「え、へ、え? う、う、うぉす」
なぜか挙動不審になった彼をほうって視線を回した。向こうでは、ミークがダニエの肩をバシバシ叩いている。
向き直った。ドートンの隣にいる彼女へ。
「頼む」
答えは頷きひとつ。十分だ。
そして、彼女に抱えられた――
「行ってくる」
「いってらっしゃい」
ノノはそれだけ言うかと思ったが、少し考えてから、ぐっと右手を拳にして突き出した。
ガンズーも同じく、拳を出す。こつん。
おうとも。行ってくるぜ。
いってらっしゃいとくれば、その後にはまた聞かなきゃならない言葉がある。
パッと行ってパッと帰って、それを聞かなきゃならないのだ。
歓声に送られ、仲間たちと共に歩きだした。
ちらりと鼻先に冷たい感触。
初雪だ。
冬が来る。生活が厳しくなる季節だ。
でも、楽しいことだってたくさんある。ノノにはかまくらだけじゃない。雪だるまの作り方を教えてやろう。それからソリなんて作るのもいい。スキーなんてどうだ、俺はけっこう上手だぞ。それに、寒いときに温かいモン食うのは最高の楽しみだからな。この街で手に入る食材でおでんとかできねぇかな。ちょっと試してみようか。いつかの猪鍋もいいな。俺が獲ってきてやるぞ。どうだ、やりたいことでいっぱいじゃないか。
そして、冬の次は――春が来るんだぞ、ノノ。
さぁ、積もる前にさっさと済ますぜ!
帰りが待ち遠しいからな!
◇
そうだね。ボクが知る限り、それからあの子たちの戦いはやっぱりまたいろいろと紆余曲折があったりするんだけど――
「――これは、またなんとも」
「ねーねーこれなに超でっかい!」
「飛行機……いや、どっちかっつったら戦闘機かぁ?」
「せんとーき?」
「空飛ぶ馬無し馬車……みてぇなもんかな」
「空飛ぶって、空って、あの空?」
「おう。なぁアノリティ、こいつで爆撃してやりゃいいんじゃねーの」
「武装はございません」
「ありゃ残念」
「いーじゃんいーじゃん。ワクワクしてきた。さっさと動かしてみてよ」
「では」
「わ、わ、ひゅんひゅん言ってる」
「き、緊張しますね」
「僕、空飛ぶなんて初めてだよ」
「みんなそーでしょ」
「あら? なんかプシューンって言わなかった?」
「――ガンズー様」
「あん? どうした? いやちょっと待てなんか嫌な予感がする」
「この機体は搭乗者による魔導操作で稼働します」
「お、おう」
「魔導適正が足りていません」
「え」
「はぁ!? また!?」
「あははははガンズーあははははここまで来てあははははは」
「ミーク様もです」
「え」
――それはまた、別の機会にお話ししたいね。
「ただいま、ノノ」
「おかいり」
〈了〉
お付き合いいただきありがとうございました。
後の祭りの極悪令嬢
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次作になります。お暇があればこちらもよろしくお願いします。