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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

百合が好きすぎるお嬢様とそのメイドのお話

作者: 笹 塔五郎

 百合ヶ峰学園――そこは、いわゆるお嬢様学校と呼ばれる場所であった。

 蝶よ花よと育てられてきた箱入り娘達が、大人になるための学び場。

 その理事長室に、二階島瑠璃にかいじまるりの姿はあった。

 長い金髪。学園指定の制服に身を包んだ彼女は、同性でも思わず振り返ってしまうほどの美貌がある。


「ふぅ……」


 そんな彼女が、儚げな表情でため息を着いた。


「お嬢様……」


 すぐ傍に立つメイド服姿の女性――夕見寧子ゆうみねいこが、心配するように呟く。


「今日も尊い百合を見てしまったわ。さっきあそこの庭園で話していた二人、幼馴染同士ですのよ。手を繋いで二人でお花を見ながら何を話していたのかしら。ああ、絶対に後でキスしようね? って話していたに決まってますわ。誰も見てないからここでもいいよ……って。ふふっ、わたくしが見ていますのに」

「頭は大丈夫ですか?」


 主に言動の心配をしていた。


「わたくしの頭はキレッキレですわ。今日も百合のオーラを庭園から感じて、思わず身を乗り出しながら双眼鏡で見てしまうくらいには」

「その行動が大丈夫ではないのですが」

「なかなかキレのある突っ込みですわね」

「褒められても嬉しくはありません」


 寧子の言葉に、瑠璃は小さくため息を吐く。

 瑠璃は――この学園の理事長の娘という立場にある。

 そして、今年になって学園に入学したばかりだ。親のコネではなく、しっかりと入試を受けて合格を果たした。

 理由は、『百合に対して真摯でありたいから』である。

 そう……彼女は百合が好きだ。

 花の百合ではなく、女の子同士の恋愛を特に好む。

 それは二次元や三次元にかかわらず、むしろ二次元については漫画やアニメなどを見すぎて常日頃から夜更かしをしている。

 お嬢様学校に百合を見るためだけに入学した、結構やばい奴なのだ。


「寧子、あなたはまだ百合に対する理解が浅いようですわね」

「理解したいとは思っておりませんが」

「そこ! そういうところ! ありとあらゆる物に対して見る前から『理解したいと思わない』ですって!? どうしてそこで歩み寄ろうという姿勢を見せられないの――おっと、わたくしとしたことが。とはいえ強要することはいけないことですわね。わたくしの趣味にあなたが口出しをするのはNG……それで手を打ちましょう」

「最後のところが言いたいだけですよね? それに、いくらお嬢様学校だからと言って、そんな簡単に百合が見つかるものなのですか?」

「先ほども言ったでしょう。あそこの庭園で百合を見た、と」

「……お嬢様の妄想だったのでは?」

「妄想などではありませんわ。女の子二人……秘密の花園……何も起きないはずがないですもの。あっ、そう言っている間にキスをしているかもしれませんわ。観察の続きをしませんと」

「お嬢様、生徒のことを覗き見するのは観察とは言いません。犯罪です」

「オープンの場で見ることに何が問題があって? わたくしはあくまで庭園の方を見ているだけですわ――あっ、ちょっとお待ちなさいっ!」

「……?」


 瑠璃は興奮した様子で双眼鏡を覗く。

 先ほど、庭園で見かけた二人はベンチに腰掛けて見つめ合っていた。

 ――これは、間違いない。


「あれはキス! 間違いなくキスしますわ!」

「お嬢様!」

「あー! 手を取り合っていますわ! 向かい合っての恋人繋ぎ! あと少し! もうちょいでキスしますわ、あれは絶対します! 寧子、見てみなさい!」

「双眼鏡がありませんが」

「それならこっちに来なさい! 片方貸してあげるから、隣り合ってみましょう!」

「……別に見たいとは思っておりません」

「いいえ! あなたは見るべきですわ。女の子二人の尊さを理解するために! さあ、こちらに!」


 瑠璃の言葉に従うように、寧子も近づいて双眼鏡を覗く。

 お互いの顔がピタリとつく距離で、瑠璃は説明するように話し始めた。


「見てみなさい。どう見ても恋する乙女の顔ですわ、二人とも」

「二人とも友人同士にしか見えません」

「ふふっ、これだから素人は……。あれは友人同士にしか見えないけれど、心の中ではお互いに好き合っている顔ですわ」


『こいつやばいな』、という顔で寧子は瑠璃の方をちらりと見るが、瑠璃は全く気にする様子はない。


「あと少し……そのまま真っ直ぐ! 何を躊躇しているのかしら。どちらかが一歩踏み出せばキスするというのに……!」

「あれは談笑をしているだけでキスはしないと思います」

「いーえ! あれはお互いに告白をしようと悩んでいる状態ですわ。おそらくは……」

「実はね……」

「うん」

「ごめん、やっぱり何でもない」

「そ、そっか。じゃあ、そろそろ帰る?」

「あ、うん――やっぱり待って」

「こんな感じですわね! くそっ、じれってーですわね!」

「一人で演技するのはやめていただけませんか?」

「なら一緒に演技してもよろしくてよ?」

「そういう意味ではございま――」

「あーっ!」


『めっちゃうるさいな』、という顔で寧子は瑠璃の方を見たが、瑠璃はやはり気にする様子はない。


「……二人で手を繋いで行ってしまいましたわ」

「ほら、何も起きなかったではありませんか」

「……いえ、わたくしも一つ気づいたことがあるのです」


 何やら悟りきった顔で、瑠璃は寧子の方を見る。


「やはり女の子同士のキスは……限られた空間で二人きりですべきだ、と。ふふっ、わたくしも良いことに気づきましたわ」

「何を仰っているのかよく分かりません」

「女の子同士の秘密のキスは二人同士の秘密であるべきであって、わたくしのように双眼鏡で覗いている者がいるかもしれない。そんな者にも見せることのない尊いものであり気高いものであり、わたくしは見たかったのですけれど二人の気持ちを尊重したい……そういうことですわ」

「説明されて分かりにくくなったのは初めてです。お嬢様、確か成績は学年トップでしたよね?」

「一夜漬けという言葉を知っていて?」

「お嬢様、勉強だけはしっかりしてください」

「ええ、先ほど学びましたわ。百合の形は人それぞれ……」

「ダメだこれ」


 翌日、瑠璃は庭園の方で見た二人に「お楽しみだったようね」という声をかけた。

 当たり前のように首を傾げられた。そんなことは気にせず、今日も瑠璃は双眼鏡を持つ。


「女の子二人いれば実質百合ですわね。だから、あそこにいる二人も実質百合!」

「そうなると、ここも百合ということになってしまいますが」

「わたくしは見る専ですわ。生まれ変わったら観葉植物が将来の夢でしてよ?」

「お嬢様……」


 百合好きお嬢様の観察は続く。

百合を書こうとしたら百合を観察するお嬢様ができたので、一応百合ジャンルとして置いておきます。

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― 新着の感想 ―
お嬢様×メイドも百合では定番でしてよ!
[良い点] アタイ知ってる、程なく自分が百合に巻き込まれるって。アタイは詳しいんだ!
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